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Chapter7(防砂編)
Chapter7-②【あの教室】後編
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去年の夏だ。
初めて記録会でコウキに勝った。
前キャプテンの佐々木が次期キャプテン選びに悩んでいる事をコウキは察していたの
だ。
人望のヒナタか、タイムのコウキか。
ヒナタが勝った事で、佐々木の気持ちは決まった。
「秋季大会が終われば、俺達は退部する。
ヒナタ、お前に期待してるから、皆を引っ張ってくれ。」
暗にキャプテンの指名だ。
だが秋季大会でコウキはぶっちぎりで優勝した。
「お前、良く努力したな。
次のキャプテンはコウキに任せる。」
祝勝会の席で佐々木が発表した。
照れ臭そうにコウキが頭を掻く。
ヒナタは負けたショック以上に打ちのめされた。
『あの時、態と負けたんだ。
キャプテンになる為に。』
ヒナタには分かった。
以前、キャプテンの肩書きがあれば就職に有利だと、言っていたのを思い出す。
『今度は何を企んでいるんだ?』
その言葉を飲み込む。
そこまで卑屈になりたくない。
コウキを無視するのが精一杯の抵抗だった。
「はい、本日の講義はここまで。
次回は…。」
講師がまだ話しているが、ヒナタはリュックを背負う。
コウキが口を開く前に教室を出た。
階段を飛ばして駆け降りる。
追ってきそうで怖かったのだ。
今度、口を開けば嫌味では済まない。
それだけはしたくない。
『もう俺に構わないでくれ!』
送迎バスの一番後ろに座り、頭を下げる。
ドアが閉まるのをドキドキしながら待つ。
午後は自主休講とし、待ち合わせの駅へ急ぐ。
行ってみたい場所があった。
ヒロシの情報によると、湘南にゲイが集まる海岸があるらしい。
そこへタカユキを連れていくのだ。
五分前に着いたが、陽炎の先にタカユキの姿が見えた。
ジャージ姿が野暮ったい。
「ちぃーす。」
トーンを落として、声を掛ける。
落胆した男を演じた。
「あっ、ども…。」
タカユキの汗が頬を伝う。
「元気がないのは…、もしかして…、あの競パンの所為…?」
おどおどした顔が覗き込む。
「もうその話はいいっすよ。
思い出すと、またテンション下がるから。」
ヒナタは内心舌を出す。
「本当にすいません。
今日はヒナタ君に喜んでもらえる様に、何でもします。
晩御飯も奢るので、好きな物食べて下さい。」
両手を合わすタカユキを見て、気持ちが和む。
「だったら海まで付き合って欲しいっす。」
「そんな事はお安いご用意です。
だったら海鮮丼でも食べましょうか?」
安易な用件を聞いて、タカユキの顔が綻んだ。
『こいつはどこ迄お人好しなんだ?
それとも先を期待しながらも、押し隠しているだけなのか?』
ヒナタは訝る。
コウキの様な計算高い男とは真逆の存在には間違いない。
「海に行くなら特急の方が早いですね。
切符を買ってきます。」
「その前に着替えないと。
その格好で海は合わないっす。
便所行くっすよ。」
楽しい気分でタカユキの腕を引っ張る。
『さあ、このお人好しにどうやってハリガタを突っ込むかだな。』
普段使わない脳ミソをフル稼働させた。
(つづく)
初めて記録会でコウキに勝った。
前キャプテンの佐々木が次期キャプテン選びに悩んでいる事をコウキは察していたの
だ。
人望のヒナタか、タイムのコウキか。
ヒナタが勝った事で、佐々木の気持ちは決まった。
「秋季大会が終われば、俺達は退部する。
ヒナタ、お前に期待してるから、皆を引っ張ってくれ。」
暗にキャプテンの指名だ。
だが秋季大会でコウキはぶっちぎりで優勝した。
「お前、良く努力したな。
次のキャプテンはコウキに任せる。」
祝勝会の席で佐々木が発表した。
照れ臭そうにコウキが頭を掻く。
ヒナタは負けたショック以上に打ちのめされた。
『あの時、態と負けたんだ。
キャプテンになる為に。』
ヒナタには分かった。
以前、キャプテンの肩書きがあれば就職に有利だと、言っていたのを思い出す。
『今度は何を企んでいるんだ?』
その言葉を飲み込む。
そこまで卑屈になりたくない。
コウキを無視するのが精一杯の抵抗だった。
「はい、本日の講義はここまで。
次回は…。」
講師がまだ話しているが、ヒナタはリュックを背負う。
コウキが口を開く前に教室を出た。
階段を飛ばして駆け降りる。
追ってきそうで怖かったのだ。
今度、口を開けば嫌味では済まない。
それだけはしたくない。
『もう俺に構わないでくれ!』
送迎バスの一番後ろに座り、頭を下げる。
ドアが閉まるのをドキドキしながら待つ。
午後は自主休講とし、待ち合わせの駅へ急ぐ。
行ってみたい場所があった。
ヒロシの情報によると、湘南にゲイが集まる海岸があるらしい。
そこへタカユキを連れていくのだ。
五分前に着いたが、陽炎の先にタカユキの姿が見えた。
ジャージ姿が野暮ったい。
「ちぃーす。」
トーンを落として、声を掛ける。
落胆した男を演じた。
「あっ、ども…。」
タカユキの汗が頬を伝う。
「元気がないのは…、もしかして…、あの競パンの所為…?」
おどおどした顔が覗き込む。
「もうその話はいいっすよ。
思い出すと、またテンション下がるから。」
ヒナタは内心舌を出す。
「本当にすいません。
今日はヒナタ君に喜んでもらえる様に、何でもします。
晩御飯も奢るので、好きな物食べて下さい。」
両手を合わすタカユキを見て、気持ちが和む。
「だったら海まで付き合って欲しいっす。」
「そんな事はお安いご用意です。
だったら海鮮丼でも食べましょうか?」
安易な用件を聞いて、タカユキの顔が綻んだ。
『こいつはどこ迄お人好しなんだ?
それとも先を期待しながらも、押し隠しているだけなのか?』
ヒナタは訝る。
コウキの様な計算高い男とは真逆の存在には間違いない。
「海に行くなら特急の方が早いですね。
切符を買ってきます。」
「その前に着替えないと。
その格好で海は合わないっす。
便所行くっすよ。」
楽しい気分でタカユキの腕を引っ張る。
『さあ、このお人好しにどうやってハリガタを突っ込むかだな。』
普段使わない脳ミソをフル稼働させた。
(つづく)
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