妄想日記5<<DISPARITY>>

YAMATO

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Chapter5(奸賊編)

Chapter5-③【Painting the sea】後編

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「なら、もう充分に撮っただろ。」
チカラは追い払う口調で言う。
「ええ、ナツキさんの分は。
あなたの素晴らしい筋肉も記録に残させて欲しいのですが。
その卓越したセンスを是非記録させて下さい。」
男はコンドームから視線を外さない。
「俺は結構だ。
画像がばら蒔かれたら堪らねぇからな。」
胡散臭そうに男を見返す。
「まだご挨拶していませんでしたね。
失礼しました。
私はこういう者です。」
男が名刺を差し出す。

『映像クリエイター　三浦リョウ』と印刷してある。

「私はモデルが不快になる事は一切しません。
それが私のポリシーです。
最近はアイドルグループBDBのMVにも参加していて、クレジットされてます。
車にDVDがあるので、それで確認して下さい。」
微笑みを湛えた三浦が自信ありげに言う。
嘘ではなさそうだ。
「だからと言って、あんたが信用出来るかは別だろ。
兎に角、顔を晒す気はないんだよ。
とっとと、どっか行ってくれないか？」
チカラはゴーグル越しに睨む。

「でしたらマスクを被ったらどうでしょう？」
男は簡単に引き下がらない。
「あなたの様な端正な顔でしたら、ラバーマスクがお似合いです。
薄いラバー生地はあなたの魅力を更に引き立てます。」
矢継ぎ早に、チカラの好きそうな単語を並べた。
「お二人の絡みを映像に残したくないですか？
まだ駆け出しの私ですが、一応プロです。
必ず満足させますよ。」
その誘いに心が動く。
ナツキとの絡みが手元に残る。
それはチカラには願ってもないチャンスであった。
ラバーフェチのカメラマンが撮影すれば、その魅力は最大限に活きるだろう。
数少ないゴムマニアと知り合えたのは何かの縁かもしれない。
独り旅であれば、間違いなく誘いに乗っていた筈だ。
「生憎の空模様です。
食事でもしながら、検討頂けないです？
もしそれでも納得頂けなければ、残念ですが諦めます。
せめて浜辺に降臨した二人のヒーローと食事を共にさせて下さい。」
口説き文句が耳を擽った。

「なあ、どうする？」
気持ちの傾いたチカラはナツキを見る。
「俺はどっちでもいいぜ。」
ナツキはコンビニで買ったおにぎりに噛り付いていた。
口元にはマヨネーズが付いている。
「どうせ奢りなら、ステーキか焼き肉にしようぜ。」
米粒を飛ばしながら、付け足した。
空は真っ黒な雲で覆われている。
生暖かい風が浜を駆け抜けた。
『もう陽射しは無理そうだ。』
思った瞬間、大粒の雨が打ち付けてきた。
三人は迫り出した岩の下に避難する。
腰を曲げた三浦がタオルでカメラを拭く。
チカラは至近距離で観察した。
30代半ばだろうか。
アメリカのビルダーが好みそうな短くカットしたジーンズを穿いている。
股間が大きく膨らみ、圧倒的な存在感だ。
ゲイにはモテるだろう。
だが何かが引っ掛かった。
そう目付きだ。
言葉遣いは丁寧だが、その視線に狡猾な物を感じ取った。

(つづく)

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