妄想日記5<<DISPARITY>>

Chapter4(利達編)

Chapter4-⑩【嫉妬の権利】後編

「やっぱり、あんたが裏にいたのね。
これで鍵の件も納得いったわ。」
腕を組んだ児玉が見下ろす。
朦朧とする頭を振ると、辺りに血が飛び散った。
「てめぇえ！」
飛び掛かろうとしたが、身動き出来ない。
しかも発した声は言葉にならない。
ナツキはやっと自分の置かれた状況を理解する。
ハーネス姿で椅子に縛られ、口には枷を嵌められていた。
 
「うごぉう！」
「あらっ、何て言ったの？
口が減らないあんたはお喋り出来ない方がお似合いよ。
あんたを喫茶店で見掛けてラッキーだったわ。
用心して、ここへ来れたし。」
児玉の蹴りが鳩尾に入った。
椅子ごと後ろへすっ飛ぶ。
「ぐほっ！」
思いもよらぬ強烈な蹴りに口枷から声が漏れる。
「まだまだ物足りないわ。
あんたが昨日持ってきたゴキブリの数だけ後悔なさい！」
腰の入ったパンチが右頬を捉えた。
椅子が大きく左に傾く。
それを左頬に入ったパンチが元に戻す。
華奢な割りに重いパンチだと感心する。
もう口の中は血の味しかしなかった。
 
「あんたはあたしに白い字を書いてくれたわね。
あたしはあんたに赤い字で書いてあげるわ。
一生消えない赤い字をね。」
児玉はポケットからナイフを出す。
右手を振りかざすと、刃先が出てきた。
「何て書いてあげようかしら？
一生消えないから、素敵なのがいいわね。
ゲス、ブタ、それともストレートにオカマがいいかしら？
自慢の大胸筋にデカデカと書いてあげるわ。」
瞳に狂気が浮かぶ。
 
「いい加減にしたらどうですか？
警察を呼びますよ。」
児玉とナツキが声の方向に視線を向ける。
DVDラックに中嶋が凭れていた。
腕は力なく垂れ下がっている。
「あらっ、あんたまだいたの？
と言ってもその格好じゃ、助けを呼びにも行けないわね。」
開ききった瞳孔に中嶋が映る。
だらりと下がった腕には手錠が食い込んでいた。
「ここには何でも揃っているから、助かっちゃったわ。
へなちょこはそこで黙って見てなさい。
この非常識なオカマがのたうち回って、悶絶する姿をね。
ギャハハ！」
奇っ怪な笑い声が店内に響く。
 
ナツキの左胸に刃先が食い込んだ。
一筋の血が大胸筋から腹筋に沿って、流れて行く。
「さて、何て書こうかしら？」
児玉の視線が血の行方を追う。
「もう止めて下さい。
お金は払います。」
中嶋が足を引きずり、一歩前へ進む。
「それはもう手遅れね。
このむしゃくしゃした気持ちはもう収まらないの。
でもお金はしっかりと貰うけどね。
ギャハハ！」
刃先が更に深く刺さると、血の勢いが増していく。
「そうね、『ひとでなし』ってのはどう？
この非常識なオカマにはぴったりでしょ。」
児玉は背後の中嶋に同意を求めた。
 
 
(つづく)