妄想日記5<<DISPARITY>>

YAMATO

文字の大きさ
上 下
49 / 236
Chapter3(立身編)

Chapter3-⑤【涙サプライズ!】前編

しおりを挟む
「人間なんて、呆気ないもんだな。」
タクヤがしんみり言う。
「ああ、そうだな。
今日は悪かったな。
わざわざ見送りなんて、いらねぇのによ。」
ナツキは開いた新幹線のドアから手を出す。
「絶対に南国に行こうな。」
タクヤががっちり手を握った。
「でも、本当に大丈夫なのか?
社員になったら、社長の命令は絶対だろ。」
タクヤが不安げな顔を向けた。
ナツキもそれは分かっている。
これで完全に分が悪くなった。
だがもう失う物は何もない。
「ああ、分かってるさ。
望む所だ!」
手を離した瞬間、ドアが閉まった。
一歩下がったタクヤが手を上げる。
その姿が次第に小さくなっていく。
 
ナツキは霊安室で初めて泣いた。
記憶にある限り、泣いた事はない。
靭帯を切った時も、祖父が死んだ時も泣かなかった。
だが涙が溢れる。
一生分の涙を流した気がした。
「最後のサプライズだ。」
冷たくなった唇に口を寄せる。
通路を走る足跡が聞こえてきた。
両親が到着した様だ。
そっと霊安室を出る。
下を向き、すれ違う夫婦を見なかった。
「早く帰って、荷物を整理しねぇとな。」
ナツキは手の甲で涙を拭った。
 
空いている窓際の自由席に腰掛ける。
流れる風景も頭には入らない。
「セックスの道具か。
俺にはぴったりだな。」
カズユキの言った言葉を繰り返す。
荷物はスーツケースが一つだ。
家にあったゲイに関係の物は全て詰め込んできた。
「お前も、親のびっくりする面は見たくねぇだろう。」
ナツキはアナルを締め付ける。
カズユキが愛用していたトンネルプラグに語り掛けた。
 
あの日、メールが来なければ、今のナツキはいない。
幼い頃から、柔道は生活の全てだった。
ゲームやテレビを見る暇があれば、道場へ行く。
行く事で技を一つ覚えられる。
それは遊園地に行く以上にナツキをワクワクさせた。
オリンピックは確実に近付いている。
その手応えを感じながら大学へ入った。
学生一、日本一、世界一、後は順番に手に入れていくだけだ。
だが大学で柔道が奪われ、全てを失う。
友達もいなく、趣味もない。
どんなに藻掻いても、夢中になる物は見付からなかった。
道場以外の行き場所は知らない。
そんな時に知り合ったカズユキが魔法を使った。
簡単に柔道の代替えを教えてくれたのだ。
何も知らなかったゲイの世界へ導いてくれた。
新たなプレイは刺激的だ。
技の習得以上に胸を高鳴らせてくれた。
トンネルに入り、窓にスキンヘッドが映る。
「ありがとな。
これからはお前の好きなスキンで行くぜ。」
頭を一つ叩くと、握り飯を食らった。
 
「おっ、来たな。
今日から俺の部屋で住み込みだ。
合宿所以上に気合い入れろ。」
レザーのベストを着た神志那が改札で待っていた。
「宜しくお願いします!」
ナツキは直角に腰を曲げる。
「荷物はそれだけか?
おい、持ってやれ。」
隣にいたトモヤに声を掛けた。
「はい。」
トモヤは返事をすると、ナツキの手からスーツケースをもぎ取った。
ジムで見掛けた時は昼行灯の様な印象だったが、今は違う。
髪の毛を七三で固め、紺のスーツを着ている。
黒淵の眼鏡を掛け、如何にも秘書然としていた。
 
 
(つづく)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

消防士の義兄との秘密

熊次郎
BL
翔は5歳年上の義兄の大輔と急接近する。憧れの気持ちが欲望に塗れていく。たくらみが膨れ上がる。

プライド

東雲 乱丸
BL
「俺は屈しない! 」男子高校生が身体とプライドを蹂躙され調教されていく… ある日突然直之は男達に拉致され、強制的に肉体を弄ばれてしまう。 監禁されレイプによる肉体的苦痛と精神的陵辱を受ける続ける直之。 「ヤメてくれー! 」そう叫びながら必死に抵抗するも、肉体と精神の自由を奪われ、徐々に快楽に身を委ねてしまう。そして遂に―― この小説はR-18です。 18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします。 エロのみのポルノ作品です。 過激な生掘り中出しシーン等を含む暴力的な性表現がありますのでご注意下さい。 詳しくはタグを確認頂き、苦手要素が含まれる方はお避け下さい。 この小説はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 また皆様に於かれましては、性感染症防止の観点からもコンドームを着用し、セーファーセックスを心掛けましょう。

水球部顧問の体育教師

熊次郎
BL
スポーツで有名な公明学園高等部。新人体育教師の谷口健太は水球部の顧問だ。水球部の生徒と先輩教師の間で、谷口は違う顔を見せる。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

マッチョ兄貴調教

Shin Shinkawa
BL
ジムでよく会うガタイのいい兄貴をメス堕ちさせて調教していく話です。

泥々の川

フロイライン
恋愛
昭和四十九年大阪 中学三年の友谷袮留は、劣悪な家庭環境の中にありながら前向きに生きていた。 しかし、ろくでなしの父親誠の犠牲となり、ささやかな幸せさえも奪われてしまう。

処理中です...