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Chapter3(立身編)
Chapter3-⑤【涙サプライズ!】前編
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「人間なんて、呆気ないもんだな。」
タクヤがしんみり言う。
「ああ、そうだな。
今日は悪かったな。
わざわざ見送りなんて、いらねぇのによ。」
ナツキは開いた新幹線のドアから手を出す。
「絶対に南国に行こうな。」
タクヤががっちり手を握った。
「でも、本当に大丈夫なのか?
社員になったら、社長の命令は絶対だろ。」
タクヤが不安げな顔を向けた。
ナツキもそれは分かっている。
これで完全に分が悪くなった。
だがもう失う物は何もない。
「ああ、分かってるさ。
望む所だ!」
手を離した瞬間、ドアが閉まった。
一歩下がったタクヤが手を上げる。
その姿が次第に小さくなっていく。
ナツキは霊安室で初めて泣いた。
記憶にある限り、泣いた事はない。
靭帯を切った時も、祖父が死んだ時も泣かなかった。
だが涙が溢れる。
一生分の涙を流した気がした。
「最後のサプライズだ。」
冷たくなった唇に口を寄せる。
通路を走る足跡が聞こえてきた。
両親が到着した様だ。
そっと霊安室を出る。
下を向き、すれ違う夫婦を見なかった。
「早く帰って、荷物を整理しねぇとな。」
ナツキは手の甲で涙を拭った。
空いている窓際の自由席に腰掛ける。
流れる風景も頭には入らない。
「セックスの道具か。
俺にはぴったりだな。」
カズユキの言った言葉を繰り返す。
荷物はスーツケースが一つだ。
家にあったゲイに関係の物は全て詰め込んできた。
「お前も、親のびっくりする面は見たくねぇだろう。」
ナツキはアナルを締め付ける。
カズユキが愛用していたトンネルプラグに語り掛けた。
あの日、メールが来なければ、今のナツキはいない。
幼い頃から、柔道は生活の全てだった。
ゲームやテレビを見る暇があれば、道場へ行く。
行く事で技を一つ覚えられる。
それは遊園地に行く以上にナツキをワクワクさせた。
オリンピックは確実に近付いている。
その手応えを感じながら大学へ入った。
学生一、日本一、世界一、後は順番に手に入れていくだけだ。
だが大学で柔道が奪われ、全てを失う。
友達もいなく、趣味もない。
どんなに藻掻いても、夢中になる物は見付からなかった。
道場以外の行き場所は知らない。
そんな時に知り合ったカズユキが魔法を使った。
簡単に柔道の代替えを教えてくれたのだ。
何も知らなかったゲイの世界へ導いてくれた。
新たなプレイは刺激的だ。
技の習得以上に胸を高鳴らせてくれた。
トンネルに入り、窓にスキンヘッドが映る。
「ありがとな。
これからはお前の好きなスキンで行くぜ。」
頭を一つ叩くと、握り飯を食らった。
「おっ、来たな。
今日から俺の部屋で住み込みだ。
合宿所以上に気合い入れろ。」
レザーのベストを着た神志那が改札で待っていた。
「宜しくお願いします!」
ナツキは直角に腰を曲げる。
「荷物はそれだけか?
おい、持ってやれ。」
隣にいたトモヤに声を掛けた。
「はい。」
トモヤは返事をすると、ナツキの手からスーツケースをもぎ取った。
ジムで見掛けた時は昼行灯の様な印象だったが、今は違う。
髪の毛を七三で固め、紺のスーツを着ている。
黒淵の眼鏡を掛け、如何にも秘書然としていた。
(つづく)
タクヤがしんみり言う。
「ああ、そうだな。
今日は悪かったな。
わざわざ見送りなんて、いらねぇのによ。」
ナツキは開いた新幹線のドアから手を出す。
「絶対に南国に行こうな。」
タクヤががっちり手を握った。
「でも、本当に大丈夫なのか?
社員になったら、社長の命令は絶対だろ。」
タクヤが不安げな顔を向けた。
ナツキもそれは分かっている。
これで完全に分が悪くなった。
だがもう失う物は何もない。
「ああ、分かってるさ。
望む所だ!」
手を離した瞬間、ドアが閉まった。
一歩下がったタクヤが手を上げる。
その姿が次第に小さくなっていく。
ナツキは霊安室で初めて泣いた。
記憶にある限り、泣いた事はない。
靭帯を切った時も、祖父が死んだ時も泣かなかった。
だが涙が溢れる。
一生分の涙を流した気がした。
「最後のサプライズだ。」
冷たくなった唇に口を寄せる。
通路を走る足跡が聞こえてきた。
両親が到着した様だ。
そっと霊安室を出る。
下を向き、すれ違う夫婦を見なかった。
「早く帰って、荷物を整理しねぇとな。」
ナツキは手の甲で涙を拭った。
空いている窓際の自由席に腰掛ける。
流れる風景も頭には入らない。
「セックスの道具か。
俺にはぴったりだな。」
カズユキの言った言葉を繰り返す。
荷物はスーツケースが一つだ。
家にあったゲイに関係の物は全て詰め込んできた。
「お前も、親のびっくりする面は見たくねぇだろう。」
ナツキはアナルを締め付ける。
カズユキが愛用していたトンネルプラグに語り掛けた。
あの日、メールが来なければ、今のナツキはいない。
幼い頃から、柔道は生活の全てだった。
ゲームやテレビを見る暇があれば、道場へ行く。
行く事で技を一つ覚えられる。
それは遊園地に行く以上にナツキをワクワクさせた。
オリンピックは確実に近付いている。
その手応えを感じながら大学へ入った。
学生一、日本一、世界一、後は順番に手に入れていくだけだ。
だが大学で柔道が奪われ、全てを失う。
友達もいなく、趣味もない。
どんなに藻掻いても、夢中になる物は見付からなかった。
道場以外の行き場所は知らない。
そんな時に知り合ったカズユキが魔法を使った。
簡単に柔道の代替えを教えてくれたのだ。
何も知らなかったゲイの世界へ導いてくれた。
新たなプレイは刺激的だ。
技の習得以上に胸を高鳴らせてくれた。
トンネルに入り、窓にスキンヘッドが映る。
「ありがとな。
これからはお前の好きなスキンで行くぜ。」
頭を一つ叩くと、握り飯を食らった。
「おっ、来たな。
今日から俺の部屋で住み込みだ。
合宿所以上に気合い入れろ。」
レザーのベストを着た神志那が改札で待っていた。
「宜しくお願いします!」
ナツキは直角に腰を曲げる。
「荷物はそれだけか?
おい、持ってやれ。」
隣にいたトモヤに声を掛けた。
「はい。」
トモヤは返事をすると、ナツキの手からスーツケースをもぎ取った。
ジムで見掛けた時は昼行灯の様な印象だったが、今は違う。
髪の毛を七三で固め、紺のスーツを着ている。
黒淵の眼鏡を掛け、如何にも秘書然としていた。
(つづく)
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