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Chapter10(霹靂編)
Chapter10-③【記憶のカケラ】
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駅を抜け、アーケードへ入る。
横断歩道を渡り、ガソリンスタンド手前の路地を曲がった。
どうやら日焼けの場所は海でなさそうだ。
私道の様な細い道を進むと、大きな川が見えた。
川沿いの道はジョガーやロードランナーが多い。
汗だくのリョウキが景色に馴染んだ。
「このジョギングコースが気に入って、最近越してきたのです。」
確かにここなら、こんな大胆な格好でも不審に思う人は居ない。
閉めてあった部屋はまだ片付いてない荷物が置いてあるのだろう。
グランド脇を進むと、一見しておかしな一角へ出た。
そこだけ許可された如く、男だけの世界だ。
若者から年配者まで、様々な格好で日焼けに興じている。
リョウキと同じ位焼けている男も何人かいた。
厳しい眼差しが後を追ってくる。
ここでは一番黒い者がヒエラルキーの頂点に君臨するのだ。
自分より焼けた男の登場はトップからの陥落を意味する。
道行く黒き者に男達は興味深げな視線を向けた。
「さあ、ここにしましょう。
こちら側が日焼けに向いています。」
川を望む方ではなく、道路を眺める側へシートを敷いた。
川側より人が少なくて、気が楽だ。
遠くでスジ筋の男が立ち上がった。
1/3程しか隠れていない水着から元の肌が覗いている。
その黒さはリョウキと変わらない。
態とらしく伸びをして、こちらを見た。
リョウキの黒さに敵対心を持ったのかもしれない。
「あのー、水着は持ってないけど。」
「大丈夫、ちゃんと用意してあります。
どちらがお好みですか?」
シートの上に二着の水着側に並んだ。
どちらもレディースで、セパレートのビキニとワンピースの競泳用だ。
「他にはないの?」
「出来れば、着て欲しいのです。
どうしても嫌でしたら、無理強いはいませんが…。」
目に見えて落胆した様子に心が痛む。
昨日からの心遣いを仇で返す様で忍びない。
二人だけの時に着る分には問題ない。
しかしこの多くの人前で着るには抵抗がある。
「昔、これを着てくれた人がいました。
ずっと、ずっと、私はその人を求めています。
リヒトさんは彼とイメージが重なったのです。
無理言って、すみません。」
「顔が似ているの?」
「その人はエキゾチックな顔立ちです。
似ているのはそのグラマラスなボディです。」
やっと理解した。
リョウキが望んでいるのはリヒトではない。
好みのウエアを着てくれた思い出の男に似ているだけなのだ。
「だったら競泳用にしようかな。」
「えっ、着てくれるのですか?」
「ビキニはハイレグ過ぎて、恥ずかしいや。」
人の事を言えた立場ではない。
自分もリョウキにソラの代わりを求めていた。
メッシュのマスクは錯覚させる手段でしかない。
ソラが被っていたメッシュのマスクに欲情した。
父の教え通りだ。
それに伴いもう一つの記憶も蘇る。
楽しい食事を思い出してしまった。
筋トレ後にソラと行ったファミレスは記憶から消えていない。
ありふれた料理も凄く美味しかった。
笑って食べる食事は格別なのだ。
もう一人ぼっちの夕飯に戻りたくない。
ソラでなくていい。
例え誰かの代わりでも、一緒にいてくれればそれで良かった。
(つづく)
横断歩道を渡り、ガソリンスタンド手前の路地を曲がった。
どうやら日焼けの場所は海でなさそうだ。
私道の様な細い道を進むと、大きな川が見えた。
川沿いの道はジョガーやロードランナーが多い。
汗だくのリョウキが景色に馴染んだ。
「このジョギングコースが気に入って、最近越してきたのです。」
確かにここなら、こんな大胆な格好でも不審に思う人は居ない。
閉めてあった部屋はまだ片付いてない荷物が置いてあるのだろう。
グランド脇を進むと、一見しておかしな一角へ出た。
そこだけ許可された如く、男だけの世界だ。
若者から年配者まで、様々な格好で日焼けに興じている。
リョウキと同じ位焼けている男も何人かいた。
厳しい眼差しが後を追ってくる。
ここでは一番黒い者がヒエラルキーの頂点に君臨するのだ。
自分より焼けた男の登場はトップからの陥落を意味する。
道行く黒き者に男達は興味深げな視線を向けた。
「さあ、ここにしましょう。
こちら側が日焼けに向いています。」
川を望む方ではなく、道路を眺める側へシートを敷いた。
川側より人が少なくて、気が楽だ。
遠くでスジ筋の男が立ち上がった。
1/3程しか隠れていない水着から元の肌が覗いている。
その黒さはリョウキと変わらない。
態とらしく伸びをして、こちらを見た。
リョウキの黒さに敵対心を持ったのかもしれない。
「あのー、水着は持ってないけど。」
「大丈夫、ちゃんと用意してあります。
どちらがお好みですか?」
シートの上に二着の水着側に並んだ。
どちらもレディースで、セパレートのビキニとワンピースの競泳用だ。
「他にはないの?」
「出来れば、着て欲しいのです。
どうしても嫌でしたら、無理強いはいませんが…。」
目に見えて落胆した様子に心が痛む。
昨日からの心遣いを仇で返す様で忍びない。
二人だけの時に着る分には問題ない。
しかしこの多くの人前で着るには抵抗がある。
「昔、これを着てくれた人がいました。
ずっと、ずっと、私はその人を求めています。
リヒトさんは彼とイメージが重なったのです。
無理言って、すみません。」
「顔が似ているの?」
「その人はエキゾチックな顔立ちです。
似ているのはそのグラマラスなボディです。」
やっと理解した。
リョウキが望んでいるのはリヒトではない。
好みのウエアを着てくれた思い出の男に似ているだけなのだ。
「だったら競泳用にしようかな。」
「えっ、着てくれるのですか?」
「ビキニはハイレグ過ぎて、恥ずかしいや。」
人の事を言えた立場ではない。
自分もリョウキにソラの代わりを求めていた。
メッシュのマスクは錯覚させる手段でしかない。
ソラが被っていたメッシュのマスクに欲情した。
父の教え通りだ。
それに伴いもう一つの記憶も蘇る。
楽しい食事を思い出してしまった。
筋トレ後にソラと行ったファミレスは記憶から消えていない。
ありふれた料理も凄く美味しかった。
笑って食べる食事は格別なのだ。
もう一人ぼっちの夕飯に戻りたくない。
ソラでなくていい。
例え誰かの代わりでも、一緒にいてくれればそれで良かった。
(つづく)
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