妄想日記8<<FLOWERS>>

YAMATO

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Chapter7(空合編)

Chapter7-④【同じ匂いがした】

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「辺鄙な所だな。
カフェが一つしかないのか。
ここでもいいか?」
「ええ…。
いいです。」
言葉を絞り出す。
「高校生か、刺激が強過ぎたか。
何がいい?
買ってやるぞ。」
「なら…、アイスコーヒーを…。
座って待ってろ。」
テーブル席は2つあるが、どちらもおばさん達に占領されていた。
仕方なくカウンター席に座る。
この席に覚えがある。
以前、ヒュウガと並んで座った。
隣の椅子に視線を向ける。
ここに僕を魅了した尻があったのだ。
 
「アイスコーヒー2つお願いします。」
後方から男の声が聞こえてきた。
丁寧な言葉遣いに思わず笑ってしまう。
どうやら粗雑な言い方は地ではなさそうだ。
「ほらっ、奢ってやる。」
「ありがとう…。」
男が並んで座る。
ヒュウガの残像を淫らな尻が覆い隠した。
聞きたい事が山程あって、どれから聞いていいか整理出来ない。
「高校生だろ。
学校は行かなくていいのか?」
男が先に口を開いた。
「今日は試験で半日で終わりです。」
このまま高校生を装う。
「無理しなくてもいいですよ。」
「なっ、何がだ?」
「野郎ぶらなくても。」
「そっか、ばれてたか。
年下だから、野郎ぽいのが好きかと思ってさ。」
綻んだ顔は気持ちを昂らせるに充分だった。
「ジム行くの?」
眩しい笑顔から目線を逸らして聞く。
股間の膨らみを盗み見る。
顔に似合わぬ重量感に憧れを抱いた。
白色の為、目立たないが粘着質に濡れている。
甘い匂いが鼻孔を擽った。
「そこのジムへ行く所なんだ。
スタッフがいないから、派手な格好で出きるって、ネットで見てさ。
ゲイカップルもいちゃつきながら、やってるらしい。」
ロータリーの角にある看板を顎で示す。
「今の時間はスタッフいるよ。
しかもあの手の社交場になってるし。」
リヒトは顎でテーブル席を指した。
「マジ?話が違うな。
態々出向いて来たのに…。」
絵に描いた落胆振りが可笑しい。
「スタッフは5時に帰るから、会社帰りで込み合う7時までが狙い目だよ。
それか深夜跨ぎなら、露出狂の変態が集まるよ。」
誇張して、男の興味を誘う。
「マジか!
やけに詳しいな、会員?」
「まだ辞めてないだけ。
最近、モチベーション下がっちゃったんだ。」
「失恋したとか?」
ズバリと当てられ、視線を戻す。
間近に顔があり、咄嗟に立ち上がってしまう。
「この時間行ってもムダだから、まだいるでしょ?
食い物、買ってくるよ。
腹減っちゃった。」
財布を持ち、背中を向ける。
何に動揺しているのか、自分でも分からなかった。
 
もう一週間、ジムには行っていない。
喪失感が大きかった。
ヒュウガと過ごしたジムへ行く気にはなれない。
思い出が多過ぎ入る。
あそこではヒュウガの匂いを嗅ぎ、呼吸を感じ、筋肉に触れた。
もうどれも得られない。
満点のヒュウガを超える人と、この先出会えるとは思えない。
新しい出会いがあっても、ヒュウガと比べ、物足りなさを覚える筈だ。
自分にとっても、相手にとっても、何一つ得はない。
今は独りでいる事がベストに思えた。
それが誰にも迷惑が掛からない唯一の方法だ。
そして自分も傷付かない。
そう思い、殻に籠っていた。
所が外から桃の甘美な匂いがしてきたのだ。
鼻をクンクン鳴らす。
甘い匂いは懐かしい香りがした。
 
(つづく)
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