妄想日記4<<New WORLD>>

YAMATO

文字の大きさ
上 下
106 / 200
Chapter9(Antihero編)

Chapter9-②【風に揺れるTomorrow】

しおりを挟む
「なっ、何を言っとるんだ!
これだけ金と時間を費やした二号を切り捨てるというのか!
それはCM計画自体の頓挫を意味するではないか!」
激怒した片山は立ち上がり、拳でテーブルを叩いた。
「まあ、そんなにカッカなさらないで下さい。
勿論CM計画は続行します。
それが我々リインカの存在意義ですからね。」
子供を諭す物言いをする。
「君の言ってる事はさっばり分からん!」
座った片山はグラスのワインを一気に空けた。
「という事は三号へ移行するのですか?」
アキヤが割って入る。
「その通りです。
流石はアキヤさん、察しがいい。
二号以上の逸材に目星を付けてあります。」
アキヤを褒める事で、鈍い片山に皮肉を込めたメッセージを送った。
 
「では引き続きサキト君に指揮を頼む事にします。
早くサードを片付けて、私を隠遁させて下さい。」
入江はそう言うと立ち上がった。
「しっ、しかし…。」
片山は食い下がる。
『あんなリスクの残る失態を冒しておいて、お咎めなしでは今後の士気が差し障りま
す。』
言い掛けた言葉を飲み込む。
入江の鋭い視線がその先を拒んだからだ。
「片山さんはスパイからの報告を随時サキト君にしてくれればいい。
それだけだ。」
入江はその言葉を残し、部屋から出て言った。
残った片山、サキト、アキヤ、誰も口を開かない。
三者三様の想いが交錯する。
ただ共通しているのは入江の引退が近いという事実だった。
 
『ケンユウはゴールデンウィークどうするんだ?
事務職はカレンダー通りだろ?
羨ましいな。』
隣に座る同僚からメールが届いた。
「出勤するよ。
女性陣が皆休みだから、一人位いないとまずいだろ。
落ち着いたら、代休を取るよ。」
ケンユウは高速で入力すると、最後のエンターキーを音立てて叩く。
『落ち着いたら。』
それはタカユキの死を意味していた。
流石に罪悪感を覚える。
しかし幹部になる為には避けられない試練だった。
『だったらゴールデンウィーク前に旅行へ行かないか?
雪景色の温泉なんて良くないか?』
三分程して返信が届く。
こんな短文に三分も掛かったタカユキを盗み見して、苦笑する。
「ああ、いいよ。
雪なんて暫く見てないし。
このくそ忙しい春節が過ぎたら、日程を調整しよう。」
ケンユウは送信マークをクリックすると、席を立った。
 
トイレの個室に入り、タブレット端末を取り出す。
『サードターゲットから温泉旅行を誘われました。
時期は春先を予定しています。
進めて宜しいでしょうか?』
片山に指示を仰ぐ。
『それは誘き出す手間が省けた。
旅館を手配するから、日程を決めたら連絡を寄越せ。』
ケンユウはタブレットを仕舞うと、取っ手を押して水を流した。
鏡の前で、己に問う。
『お前はタカユキが好きなのか?』
 
オフィスに戻ると、タカユキがパソコンを指差す。
席に座り、パソコンを見る。
新着メールを知らせるポップアップが出ていた。
開いた未読のメールの中にアドレスが記載されている。
クリックすると、草津温泉のホテルのサイトへ飛んだ。
隣に視線を向けると、笑みを堪えたタカユキがウインクしてみせた。
『楽しみだな。
いつにする?』
送信ボタンの上でポインタが揺れる。
屈託のない笑顔がクリックの邪魔をした。
初めて友達と呼べる存在だった。
ケンユウはぎゅっと瞼を閉じる。
『思い出せ!
あの屈辱の日々を!』
心の中で叫ぶ。
 
悲惨な高校生活が蘇る。
クラスメートは皆、見て見ぬ振りをした。
親友だと思っていた奴も助けてはくれなかった。
イジメが自分の身に及ぶからだ。
ケンユウの中でメラメラと復讐の炎が燃え盛る。
ネットの世界に逃げ込んだケンユウは組織と知り合う。
『悪党の成敗。』
勧善懲悪を謳う組織の理念に感銘を受けた。
逃げているだけでは悪党は更に付け上がる。
ケンユウを虐めた主犯格に、組織は意図も簡単に制裁を下した。
干戈を交え、立ち向かう事を組織は教えてくれた。
 
 
(つづく)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ショートドラマ劇場

小木田十(おぎたみつる)
現代文学
さまざまな人生の局面を描いた、ヒューマンドラマのショートショート集です。 / 小木田十(おぎたみつる)フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

【完結】純白のウェディングドレスは二度赤く染まる

春野オカリナ
恋愛
 初夏の日差しが強くなる頃、王都の書店では、ある一冊の本がずらりと並んでいた。  それは、半年前の雪の降る寒い季節に死刑となった一人の囚人の手記を本にまとめたものだった。  囚人の名は『イエニー・フラウ』  彼女は稀代の悪女として知らぬ者のいない程、有名になっていた。  その彼女の手記とあって、本は飛ぶように売れたのだ。  しかし、その内容はとても悪女のものではなかった。  人々は彼女に同情し、彼女が鉄槌を下した夫とその愛人こそが裁きを受けるべきだったと憤りを感じていた。  その手記の内容とは…

彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

《 XX 》 ――性染色体XXの女が絶滅した世界で、唯一の女…― 【本編完結】※人物相関図を追加しました

竹比古
恋愛
 今から一六〇年前、有害宇宙線により発生した新種の癌が人々を襲い、性染色体〈XX〉から成る女は絶滅した。  男だけの世界となった地上で、唯一の女として、自らの出生の謎を探る十六夜司――。  わずか十九歳で日本屈指の大財閥、十六夜グループの総帥となり、幼い頃から主治医として側にいるドクター.刄(レン)と共に、失踪した父、十六夜秀隆の行方を追う。  司は一体、何者なのか。  司の側にいる男、ドクター.刄とは何者なのか。  失踪した十六夜秀隆は何をしていたのか。  柊の口から零れた《イースター》とは何を意味する言葉なのか。  謎ばかりが増え続ける。  そして、全てが明らかになった時……。  ※以前に他サイトで掲載していたものです。  ※一部性描写(必要描写です)があります。苦手な方はご注意ください。  ※表紙画:フリーイラストの加工です。

処理中です...