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4.本家からの再出発

201.エプロンドレス

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「やっぱり手伝おうか~?」
「さあさあ、清水きよみずの舞台から飛び降りると思って」
「キョウちゃんなら似合う、キョウちゃんしか着れない」
喉元のどもとすぎれば恥辱ちじょくを忘れる」

「脱~げ~脱~げ~──」
「「「脱~げ、脱~げ、脱~げ、脱~げ、脱~げ……」」」
「──何やってるんだ?」
 ドアの向こうからマキナの声がする。マキナが来てくれた。

「マキナ、ひどいんだよ。制服って恥ずかしいエプロンドレスなんだよ」
「何だ、そんなことか」
 そんなこと? ちょっと聞き捨てならないんだけど?

「いいから、ちょっと入って来て」
「ちょっと失礼?」
 ウエイトレスたちを退けてマキナが更衣室に入ってくる。彼女たちはうらめしそうにのぞいている。

 彼女たちを廊下へ押し戻し容赦ようしゃなくドアを閉める。

「これ見て。背中まる見えだよ」
「そんなことか」
「……スカートもお尻見えちゃう短さだよ?」
「アンダースコートを穿けばいい」

「…………」
「散々、下着を見せておいて恥じ入るほどでもないだろう」
「うっ……」
 それは、そうだけど~。着衣で見えるのとは違うんだって。

「それで脱げ脱げとは何だ?」
「……こんなの着れないって言ったら──」
「着てやればいいじゃないか」
 再び絶句。主人としてボクの擁護を期待したのに……。

「……分かった。着替えるから手伝って」
 マキナとは深い見解の相違がある。

「う~ん。これは一人で着替えられないな」
 着付けを手伝うマキナが嘆息たんそくする。背中部分は交互にひもを通してみ上げないと閉じられない。閉じても背中の上部は開いたままなんだけど。

「でしょ。この制服は拒否きょひしていいよね?」
「手伝ってもらえばいい」
「え~~! こんなのホストの恰好かっこうだよ」
「……ふ~む……それもそうか」
 顎《あご》に手を添えマキナがうなる。

「ね、ね? ダメだよね?」
「そうだな。時給一万では安くてダメだな」
「えっ? 時給の問題?」
「見せるには安すぎるだろう。せめて……」

「せめて?」
「時給二万、だな」
「二万……。五万くらい言ってよ」
「五万……ける二時間の週二、三回で……私の給料を越えるな」

「マキナって、高給取り? お金持ち?」
「……いや、すっからかんだ」
「何でよ。それだけもらってたら」
「高い買いものをしたからな~……」
 そう言いボクをじっと見る。

「……ゴメン。頑張がんばって働く」
 そうだった。ボクはマキナに八千万で買われたんだった。

「まあ、これから妹たちから巻き上げるが……」
「ん、何か言った?」
「何も」
 マキナが何か言ったけど聞こえなかった。

 着付けたエプロンドレスをチェックする。やはりかがむと後ろが見えてしまう。穿いてるのが普通のショーツでよかったよ。

「仕事をすると言うのは身をけずってするものなんだ」
「まあ、分からなくはないけど」
「見られて減るもんじゃなし」
「それは同意しかねます。でも技能もないのに高給を取るには誰かが言ったように〝切売り〟しないとダメなのかも……」
「そうそう」
 腕を組んで訳知り顔でマキナが頷《うなず》いている。そうそうじゃね~よ!


「着替えた? 着替えたよね」
「入っていい? 入るよ」
「はあ~……どうぞ?」
 お姉さんたちがドアの向こうから急かすので、ため息をつき入室を許可する。

「ひやぁ~~っ!」
「て、天使が舞い降りた~」
「生きててよかった~」
 それほど?

「それじゃあ」「撮影さつえいに」「行きましょう!」
「えっ? ちょちょちょ~っと?」
 マキナ助けて~って言う間もなくお姉さんたちにまたしても引きずられて移動する。どこへ行こうって言うの。

 移った先は店内。戻ったとも言う。そこで給仕きゅうじのお盆を持ちポーズを取ったりして撮影される。フロアスタッフの集合写真を店内や店先でもる。
 ちらほら現れてきたお客様が、撮影会にまぎれて公然と撮ってる。また、話題を提供しちゃったよ。

「いい宣材写真も撮れましたね」
「店内のどこかに飾ろう」
「ちょっと待ってください。個人的な写真だと思ってましたけど?」
 聞き捨てならない言葉を聞き問い詰める。

「もちろん、個人半分、宣伝用半分です」
「もちろん?……」
 まさかそこまでたばかられていたとは……。


「──【速報】キョウちゃん(少年K)某所ぼうしょのレストランでメイド姿の撮影会【バイト始めました?】って立ってます」
「──マジか 誰か詳細 ≫ウエイトレスがそろって撮ってるからバイトは確率高い、だって」
「──某所レストランてあそこだよな? ≫キョウちゃんて言えばアソコしかない、ってバレてるけど。さらしが早い」
衆目しゅうもくの前で撮るって言うんだもん」
 三人に引っ張られるとあらがいようがないよ。

「もう、バイトが既定事項に。宣伝効果バツグンです」
「そんな抜群は要らないよ……」
「キョウ、早く着替えて買い物に行くぞ」
「そうだね。人が集まっちゃう前に避難しないと」
「ええ~っ、他のサイズも着てみてよ?」
「SNS見た人が来ますよ。無理です」

 急いで着替えてレストランを退散する。衣装は預かって一人で着れるよう改造だ。あとその資財も買わないと。用事が増えちゃったよ。

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