201 / 203
4.本家からの再出発
201.エプロンドレス
しおりを挟む「やっぱり手伝おうか~?」
「さあさあ、清水の舞台から飛び降りると思って」
「キョウちゃんなら似合う、キョウちゃんしか着れない」
「喉元すぎれば恥辱を忘れる」
「脱~げ~脱~げ~──」
「「「脱~げ、脱~げ、脱~げ、脱~げ、脱~げ……」」」
「──何やってるんだ?」
ドアの向こうからマキナの声がする。マキナが来てくれた。
「マキナ、酷いんだよ。制服って恥ずかしいエプロンドレスなんだよ」
「何だ、そんなことか」
そんなこと? ちょっと聞き捨てならないんだけど?
「いいから、ちょっと入って来て」
「ちょっと失礼?」
ウエイトレスたちを退けてマキナが更衣室に入ってくる。彼女たちは恨めしそうに覗いている。
彼女たちを廊下へ押し戻し容赦なくドアを閉める。
「これ見て。背中まる見えだよ」
「そんなことか」
「……スカートもお尻見えちゃう短さだよ?」
「アンダースコートを穿けばいい」
「…………」
「散々、下着を見せておいて恥じ入るほどでもないだろう」
「うっ……」
それは、そうだけど~。着衣で見えるのとは違うんだって。
「それで脱げ脱げとは何だ?」
「……こんなの着れないって言ったら──」
「着てやればいいじゃないか」
再び絶句。主人としてボクの擁護を期待したのに……。
「……分かった。着替えるから手伝って」
マキナとは深い見解の相違がある。
「う~ん。これは一人で着替えられないな」
着付けを手伝うマキナが嘆息する。背中部分は交互に紐を通して編み上げないと閉じられない。閉じても背中の上部は開いたままなんだけど。
「でしょ。この制服は拒否していいよね?」
「手伝ってもらえばいい」
「え~~! こんなのホストの恰好だよ」
「……ふ~む……それもそうか」
顎《あご》に手を添えマキナが唸る。
「ね、ね? ダメだよね?」
「そうだな。時給一万では安くてダメだな」
「えっ? 時給の問題?」
「見せるには安すぎるだろう。せめて……」
「せめて?」
「時給二万、だな」
「二万……。五万くらい言ってよ」
「五万……掛ける二時間の週二、三回で……私の給料を越えるな」
「マキナって、高給取り? お金持ち?」
「……いや、すっからかんだ」
「何でよ。それだけ貰ってたら」
「高い買いものをしたからな~……」
そう言いボクをじっと見る。
「……ゴメン。頑張って働く」
そうだった。ボクはマキナに八千万で買われたんだった。
「まあ、これから妹たちから巻き上げるが……」
「ん、何か言った?」
「何も」
マキナが何か言ったけど聞こえなかった。
着付けたエプロンドレスをチェックする。やはり屈むと後ろが見えてしまう。穿いてるのが普通のショーツでよかったよ。
「仕事をすると言うのは身を削ってするものなんだ」
「まあ、分からなくはないけど」
「見られて減るもんじゃなし」
「それは同意しかねます。でも技能もないのに高給を取るには誰かが言ったように〝切売り〟しないとダメなのかも……」
「そうそう」
腕を組んで訳知り顔でマキナが頷《うなず》いている。そうそうじゃね~よ!
「着替えた? 着替えたよね」
「入っていい? 入るよ」
「はあ~……どうぞ?」
お姉さんたちがドアの向こうから急かすので、ため息をつき入室を許可する。
「ひやぁ~~っ!」
「て、天使が舞い降りた~」
「生きててよかった~」
それほど?
「それじゃあ」「撮影に」「行きましょう!」
「えっ? ちょちょちょ~っと?」
マキナ助けて~って言う間もなくお姉さんたちにまたしても引きずられて移動する。どこへ行こうって言うの。
移った先は店内。戻ったとも言う。そこで給仕のお盆を持ちポーズを取ったりして撮影される。フロアスタッフの集合写真を店内や店先でも撮る。
ちらほら現れてきたお客様が、撮影会に紛れて公然と撮ってる。また、話題を提供しちゃったよ。
「いい宣材写真も撮れましたね」
「店内のどこかに飾ろう」
「ちょっと待ってください。個人的な写真だと思ってましたけど?」
聞き捨てならない言葉を聞き問い詰める。
「もちろん、個人半分、宣伝用半分です」
「もちろん?……」
まさかそこまで謀られていたとは……。
「──【速報】キョウちゃん(少年K)某所のレストランでメイド姿の撮影会【バイト始めました?】って立ってます」
「──マジか 誰か詳細 ≫ウエイトレスが揃って撮ってるからバイトは確率高い、だって」
「──某所レストランてあそこだよな? ≫キョウちゃんて言えばアソコしかない、ってバレてるけど。曝しが早い」
「衆目の前で撮るって言うんだもん」
三人に引っ張られると抗いようがないよ。
「もう、バイトが既定事項に。宣伝効果バツグンです」
「そんな抜群は要らないよ……」
「キョウ、早く着替えて買い物に行くぞ」
「そうだね。人が集まっちゃう前に避難しないと」
「ええ~っ、他のサイズも着てみてよ?」
「SNS見た人が来ますよ。無理です」
急いで着替えてレストランを退散する。衣装は預かって一人で着れるよう改造だ。あとその資財も買わないと。用事が増えちゃったよ。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
クラスの仲良かったオタクに調教と豊胸をされて好みの嫁にされたオタクに優しいギャル男
湊戸アサギリ
BL
※メス化、男の娘化、シーメール化要素があります。オタクくんと付き合ったギャル男がメスにされています。手術で豊胸した描写があります。これをBLって呼んでいいのかわからないです
いわゆるオタクに優しいギャル男の話になります。色々ご想像にお任せします。本番はありませんが下ネタ言ってますのでR15です
閲覧ありがとうございます。他の作品もよろしくお願いします
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる