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4.本家からの再出発

178.アヤメの口車

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『これは、いったい誰を確認したのかな~? その人はどこに居るのかな~?』
『それは──』
捏造ねつぞう映像を見せられても答えようがない』

 責任者とかいうヤツはかたくなだ。しかし、交渉は有利に動いていると感じる。アヤメに聞きたいことはたくさんあるが、マキナは口をはさまないでいる。

『このままキャリーバッグを開けてくれないならロックスミスに任せて何時間もかかるし臨検りんけんで足留めされるよ』
『我々は、やましいことなど無い。いくらでも調べるがいい』
『いいのかな~。何時間も身体を曲げてると血行不良で脚を切り落とさないといけなくなる、かも?』
「お、おい」
 不穏ふおんな言葉をとらえてマキナがあせる。それをアヤメが手でせいす。

『荷物を待ってる人は許容きょようするかな~。荷物が傷物にされたらどこに鬱憤うっぷんけ口が向かうかな~?』
『ぐっ……』
 うなった責任者が、航空機につかいを出す。
 その遣いが戻るまでマキナたちは、連中とにらみ合う。
 錠前じょうまえけは、交渉の裏でちまちま解錠かいじょうこころみている。

『分かった。臨検を受け入れる。キャリーバッグも好きにしろ』

 返ってきた遣いの耳打ちを受けて、責任者の態度が軟化なんかする。百八十度のてのひら返しだ。
 責任者は、アゴをしゃくってキャリーを運んだ二人にうながす。二人のうち一人がポケットから鍵を投げて渡す。

『パスは? パスワードを教えろ』
 受け取ったマキナは、鍵をロックスミスに渡して聴く。ロックスミスはすぐさま物理解錠を試みる。

「開きました!」
 受け取ったロックスミスは鍵での解錠をしらせる。

『言え』
 責任者は運び役に告げる。

『1732056489』
『もう一度』
 マキナが再度聴くと責任者がうなずく。

『1732056489』

 運び役が再び答えるとロックスミスがパスを打ち込む。

「通りました。開きます!」
「はあ~~、キョウ。よかった~」
 ゆっくりとフタを開けると屈曲したキョウの姿がある。

「その運び役二人を確保!」
 外務省の役人がすかさず命令をくだす。
 空港警備ガードが、笹たちと代わって二人を押さえる。

「ええっと……木田さん? キョウを連れ帰っていいですか?」
「それは困りましたね~。でも事情聴取はできなさそうですし仕方ありませんね。あとで事情聴取を受けてください」
「ありがとうございます。アヤメ、このあとは、どうすれば良い?」
「キタムラの病院に。あ、壁内なかのね?」
「分かった。みんな撤収てっしゅうする」
 マキナはキョウを抱えて立ち上がると振り返り、ロータリアの航空機を見上げる。

 タラップの上に女性がたたずんでいる。見覚えがある女だ。キョウをさらおうとし新居を蹂躙じゅうりんした張本人。

 確証がなく容疑ようぎに留まっているが、状況は彼女が指図したとしか思えない。
 事件後、調べあげ容姿ようしはイヤというほど目にしている。
 その顔は遠目にも歯噛はがみしているのが分かる。ともすれば、地団駄じだんだを踏みそうなゆがみ具合だ。
 これでしばらくは、不双ふそうには寄り付けないと思いたい。

「キョウちゃん、大丈夫かな~?」

 カエデの言い分はもっともだ。キョウは全身の力が抜けていて抱える力加減が難しい。

「大丈夫大丈夫。今度はもっと薬害に強くするね?」
「アヤメ、お前なぁ……」
 キョウの言う、改造魔人だか変態へんたい仮面だか言うのが分かる気分だとマキナは思う。

 ≪もしかして、マキナが抱いてくれてるの?≫
「そうだよ。良かったね。もう寝てればいいよ?」
 ≪うん。分かった≫
「私にもキョウと話ができるか?」
 マキナがアヤメに聴く。

「うん、できるけど、もう眠れって言った」
「……そうか。なら仕方ない」


 結論から言うと、アンナ王女ならびにロータリア政府専用機は、さしたる違反も見つからず解放され隣国に飛んだ。

 王女は、あらぬ疑いをかけられ通っていた誠臨せいりんに居られなくなり母国に帰る途中で蒼湖おうみに立ちよっただけだとの主張を繰り返した。
 また、キョウの誘拐ゆうかいには関与せず、部下たちが勝手にやったことだと抗弁こうべんする。

 そもそも、王女に嫌疑けんぎをかけられた腹いせにキョウの誘拐ゆうかいをしたのだと実行犯が主張するのでアンナ王女への追及ついきゅうは、やめざるを得なかったという。

 いわゆる、部下が勝手に~の主張とトカゲのシッポ切りで幕を閉じた。なんとも後味の悪い結末だ。

 ほとぼりが冷めたころに、また暗躍あんやくしかねないと言う予感しかしない。しかも、次はもっと狡猾こうかつに、もっと安全な場所から。

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