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3.喜多村本家に居候

119.レイニ様の指導

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 レイニ様の御髪おぐしが盛ったものでは無くなっている。今はボクと同じショートボブくらい。ヅラだったんだw……

「あの……レイニ様はどうしてそのようなお姿に?」
「そなたにむつみごとの指南しなんをするために決まっておろう」

 ベッドそばに小さな丸テーブルとイスがえられている。そこにお二人が並んで座っている。

 レイニ様がいた席にボクをうながす。


「ボク──わたくしも人の妻。一通り……その、経験しておりますが?」
「甘い。婚姻こんいんしてこのかた五年。はらみやすい体位を──」
「レイニ様! となりには、その、子供もおりますのでお声を小さく。お言葉も選んでお願いいたします」

「そ、そうか? いずれ知ることであろう。……まあ、よい」
「それで指南しなん──指導しどうされると言うワケですね?」
「その通りじゃ──」

 まったく、余計なお世話だよ。

「──なんじゃ、不満そうじゃのう?」
「いいえ?」
「ふむ……。五年できわめた性技せいぎすい伝授でんじゅしてやろうとうておるのじゃ」

 ますます、余計なお世話。サザレさんに意見をあおぎたいけど……衝立ついたての向こう側で疏通そつうできない。

床入とこいりでそこまで必要でしょうか? しべのたまごしべの精子をぴゅ~っとかけて、あとはこうだか朱鷺トキだかのつばさの向かうままにまかせるしかないと考えますが?」
「まあ、そなたの言う通りじゃ。じゃが、それでは単なる作業ではないか? 愉悦ゆえつもっことに当たらねば進歩は望めぬ」

「申し訳ありません。おっしゃる意味を図りかねます。わたくしも主人と毎夜、いとなみましたが、気持ちくしています。それ以上は何を望むのか分かりません」

 ミヤビ様をうかがったら苦笑いしてるよ? 視界のすみに何かうつったと思ったらサキちゃんが「早くやれ」ってキューを送ってきてる。

 こっちだって、さっさと終わらせたいよ。

「甘い、甘いぞ。毎夜毎夜、変わりえせぬ作業ではきが来るであろう? 人は変化を求めるものじゃ」
「ええっと、主人とは日々の行違ゆきちがいをめるために必要かと思いましたが? ブフォ」

 かわいたのどうるおそうとテーブルのグラスをあおるといた。お酒じゃん。しかもにがい。

「──何をする。もったいない。それはハノリ様のエキスがたっぷり入ったスペシャル・カクテルじゃぞ?」
「も、申し訳ありません」

 なんてもの飲ませるんだよ。やっぱ、知らないものを飲むとダメだな。

「ささ、ぐいっと飲むが好い。ガツンと来るぞ?」
「は、はあ……。わたくし、お酒を飲む年齢ねんれいたっしておりません。できれば、酒精アルコールの入っていないものでお願いします」
「なんじゃ、つまらんヤツじゃの~。若いと早く飲みたいとか、思わぬのか?」
「若くして飲み始めるとパーになると教えられましたので」
律儀りちぎなヤツじゃ。仕方ない」

 は酒でも無いとやっておれぬわ、なんてつぶやいている。

 レイニ様が手で合図すると水注みずさしとグラスが運びこまれる。

「ふ~──」

 がれた一杯を飲んで一息つく。なんか冷蔵庫にあったにが麦茶ヤツだね。

 今は背に腹で飲んだけど。ボクってば、これ飲むとダメだって言われたんだけど。

「──それで、なんでしたっけ?」
「そうじゃった。祖先のれいなぐさめるために派手ハデにブチかまそうぞ?」
英霊えいれいしのぶには、いささか相応ふさわしくないお考えかと」

 なんだか儀式ぎしきにかまけて、やりたい放題ほうだいしたいだけに思えてきた。

「何をうておる。固めのさかずきもちを食うのも崇祖すうそねんがあればこそぞ? かの高祖こうそがこの地に御座おわし時、ひとりはさびしいと祖神そしんねがい──」

 ま~長くなるので要約ようやくすると「祖先♀がひとりは淋しいと神に願うと男が生まれた」だから「男は女につかえ、よろこばせてなんぼ」って話。

 なんだけど、その神話、って言うか種族の起源きげん捏造ねつぞうです。

 二百年か三百年前くらいは男も居たんだから。

 まあ、その話の根幹こんかんにおられる方は否定しづらいだろうけど。

「──はぁはぁはぁ……。分かったか? 子作りは神聖であり悦楽えつらく極致きょくちであり、きわめることで神の境地きょうち──極致きょくちいたるのじゃ!」

 って息を切らし熱弁し終わると衝立を指さす。

 なんだろう、って目をらすと模様もようだと思ってたものが女男にょなんからみ合う姿をいてると分かった。

 むか~しは、婦夫ふうふまくら元に置いてたまくら屏風びょうぶみたいなものか?

 旧家きゅうかは物持ちが良くて困るよ。ながめてるうちに耽溺たんできしちゃった、とか?

「はあ~~。なんでもいいので始めましょうか?」
「なんでもとは何じゃ!」
「あ~、はいはい」
「はいは一回!」
「はい」

 やっべ。つい、いろいろ口から本音が出ちゃってたよ。
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