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3.喜多村本家に居候

93.さらなる嵐の予感

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 肩を落とすサキちゃんと困惑こんわくするボクたちのところに喧騒けんそうを引き連れその人が現れた。

「マサキ、久しいのう。元気に──は、しておるか? そなたのことじゃ」
「は、本日は行幸ぎょうこうたまわり……」

 サキちゃんはじめ皆さん、ひざまづいて迎える。その人は真っ白なスーツ姿で二人の護衛とあと二人連れている。

 年のころは、二十代なかば。マキナと同じくらい。

「これ、そなたもひざまづくのじゃ」

 口上を述べている間、事態のみ込めないボクが棒立ちしてるとサキちゃんにたしなめられる。

「あ~、構わぬ。仰々ぎょうぎょうしいのは好かん」
「は、はあ~」
「そなた、テレビに出ておった……」
「キョウにございます、でん──ミヤビ様」
「そうか、キョウか。やはり実物を見るとたまらぬのう」

 ボクの手を取りソファーへいざなう。このミヤビ様はテレビでボクを見たようだ。

 その時、ビビっときてボクに会いに喜多村家へ来られたらしい。本当ほんとは昨夜のうちに来るつもりだったらしく、それはさすがに回りにいさめられ、今朝になったという。

 並んでソファーに座りボクを見詰めて取った手をで続けられている。視線でサキちゃんに助けを求める。

「そなた、わらわのところに来ぬか?」
「……はぁ」
「このようなをのこはそうは居らん」
「そうですか?」

 来い? この人のところへ? まあ、行くくらいなら別にいいけど。

 てか、そのボクの手をさすりさすり、し続けてるのやめてもらえませんかね~?

 改めてサキちゃんを見る。

「ミヤビ様、あまりにご無体」

 おお、本物モノホンのご無体、いただきました。ミヤビ様、無理を押し付けてきてたの?

「誰も献上けんじょうせよとは、うておらん。そうじゃろ」
「まあ、たしかに。では?」
「マキナと共でよい。夫の一人に加えて貰えばよい」
「ええっと、いったい何のお話ですか?」

 この人のところに行くって、ボクを譲渡じょうとせよってことだったの? 行ったらヤバかったよ。

「そなたをわらわの妻にすると言うておる。マキナとわらわは愛友まぶだちじゃ。彼方あなたも嫌とは言わん」
「サキちゃん、解説して?」
「プッ。面白いのう。そなたが、〝サキちゃん〟か?」

 なんかツボにはまったのか大仰おうぎょうに笑うミヤビ様。物識ものしりのサキちゃんに聴かないと全然、話が分からない。

 聞き間違いじゃなきゃ、さっきはサキちゃんをマサキって呼んでたし。まだ、秘密がありそう。

「おたわむれを。ミヤビ様がそなたを気に入ったので婚姻せぬかと言われておる」
「やっぱり、そんな話だったの? ミヤビ様、ボクも喜多村家に男家とついだのでご遠慮したいです」

 でも、断わったら断わったでサキちゃんに説得される。ボクはどうしたら良いの?

「──そう言えば、外が騒がしいのぅ?」
「はあ。モールに出かけようかと思い、準備しておりました」
「おお、あの商店か? 面白い。わらわも行ってみたかったのじゃ」
「なりません。かようなところは、下賤げせんのものの行くところ。殿でん──ミヤビ様のかれるような場所ではございません」
「よいよい。わらわは、ただのミヤビじゃ」

 下賤の行くところってひどくない。大衆には必要な場所ですよ。

 話しているうち、ユキ様が返ってこられ、うちの護衛や喜多村家の警護がそろって部屋に来る。

 護衛たちは部屋の異様さに戸惑っている。

 もう、幼女たちと教師のクロユリさんは授業どころじゃなく傍観ぼうかんしてる。

「ミヤビ様、ご機嫌うるわしゅうございます」
「おう、ユキ殿。そなたも息災そくさいでなにより。今朝けさは一層、若返ったようじゃ」
「いえいえ、もう墓に片足を突っ込んでおります。新しい男しゅうが加わりましたので、育て上げわたくしの役目も終えとうございますわ」

 義曽祖父ユキ様が、衣装よりあでやかに微笑んでボクを見る。

 ミヤビ様の手はボクのひざにある。手のでくりからひざの撫でくりに発展してる。

 いい加減、居心地が悪いので解放してほしい。

「しかし、まったく、部屋住みでひまなのじゃ。おたあ様が早うみまからんかの──」
「ミヤビ様! お口が過ぎますぞ?」

「すまんすまん、忘れよ。どこぞの姫がどこぞの男子の拉致らち未遂みすいに関与したのしないのと、聖殿せいでんでは対応に苦慮くりょしておった」

 おたあ様も大変じゃと、ミヤビ様が言う。それってボクのこと?

「──そなたら、何をそわそわしておる?」
「ああ、準備が整ったようなので」
「おお、そうか。では行くか。わらわも楽しみじゃ」

 お義父様たちは所在なさげで、ミヤビ様は行く気まんまん。サキちゃんはため息ばかり。

 お買い物は前途多難な気がしてきた。
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