神獣からの贈り物

秋月慶太

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オオカミの贈り物

2 君との出会い

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 僕が目を開けたのは、大きな木の下だった。高いビルが立ち並ぶ場所にある、比較的広い公園の、中心にある木のようだった。
 木から少し歩くと、大きな噴水があった。僕は近づいて覗き込んだ。
 当然、自分の身体が写った。少し暗い灰色の毛並み、大きな耳、鋭い目。後ろを向くと大きな尻尾。首には、主からもらった赤い数珠のネックレス。僕は、人間界で言う、オオカミだ。でも普通の狼と違う所がある。尻尾が2つ。
 え、二又の猫ってのは有名だけど、二又のオオカミって聞いたことない?それだけ珍しいってことさ。
 空を見上げる。雲ひとつない晴天だ。でもなかなかに気温が高いし、太陽からの日差しも肌が焼けるようだ。僕には毛があるけど。
 人間は肌に直接光が当たるから、大変そうだ。ほら、目の前を通る人間たちもみんな暑そうじゃないか。なぁ?暑いだろ?
 ……ま、話しかけても人間には聞こえないんだけどね。

 そんなことより、あの子を探さないと。あの、主の鏡で見た女の子。あの子を笑顔にさせないといけないんだ。きっと近くにいるはずだ。
 きょろきょろして周りを見てみる。すると、はるか遠く、噴水を背にして足元から続く道のずーっと先、木が生い茂っている遊歩道に続く道を進んでいる女の子が見えた。さっき主に見せてもらったカバンと同じだ。
 僕は、ぐっと後ろ足に力を入れて走った。ほんとは飛べるんだけど、せっかく人間界に来れたんだ。走りたくなるじゃあないか。
 風をきって走るのは好きだ。全身が喜んでいるみたいだ。

 けっこう距離があると思っていたけれど、走るとあっという間に追いついた。オオカミだから足が早いってのもあるかもだけど。
 女の子は、相変わらずカバンをぎゅっと握りしめて俯きながら歩いていた。
 僕は、女の子に追いつくと、すぐ隣に並んで歩いた。女の子は木々に囲まれた遊歩道をしばらく進み、途中にある木のベンチに座った。
 そこで、女の子は木を見上げていたかと思うと、静かに涙をこぼし始めた。
 僕はびっくりした。会って早々、泣かれるとは思わなかった。
 けれど、女の子の心があまりにも悲しかったから、僕は二又の尻尾で優しく女の子の背中をたたいた。
 女の子は少しびっくりして後ろを振り向いたが、当然僕の姿は見えないから首を傾げただけだった。
 
 地上に降り立った時真上にあった太陽が、少し沈んで涼しくなり始めた頃、ようやく女の子は泣き止んだ。少しだけすっきりした顔をするようになったものの、心は悲しいままだった。

ーーどうしてそんなに泣いていたの?なんで、悲しいの?

 僕は、女の子に問いかけた。でも、女の子には届かない。
 太陽がさらに傾き、空が夕焼けに染まり出すまで、女の子は木を眺めていた。ここは木がたくさん生えていて、それが影を作っていてとても涼しく感じた。時折吹く風も心地良い。
 女の子はゆっくり立つと、来た道を戻り始めた。
 僕は慌てて後を追った。会ったばかりだったが、この子を笑顔にさせてあげたい。主の命令があるから、という理由だけではなくて、自分の心に生まれた意思だった。
まずは、名前を知ることからだ。


ーーねえ、君はなんて名前なの?
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