上 下
15 / 29

14

しおりを挟む
オレは前もって下準備していた土鍋に火をかける。

一度火をかけていたから、すぐにぐつぐつと煮始めた。

軽く味を整えて火を止める。

一瞬にして部屋に良い香りが立ち込めた。

「よーし、できたぞ。コブラ、こっちに来い」

オレは土鍋をテーブルに置いて、食事の準備を整えた。

「客用の箸とか常備してないから割り箸とコンビニスプーンで悪いけど、我慢してくれ」

無論、OKだ。

ワッキーならそう即答する。

細かいことにはこだわらない性格がとても清々しい。

一方、コブラは返事をする代わりに、突然用意された食事を見て戸惑っている。

「オレ経験者だからわかるんだけどさー、コブラって日頃ロクなもの食べてないだろ?」

「ロクなものというか・・・一応昼と夜は学食を」

「定食選んでる?」

「いや、丼ものが多いです。お腹に溜まりやすいもの」

「休みの日は?」

「菓子パンやコンビニ弁当です」

「野菜は?」

「ほとんど食べてないです。学食や弁当に付いてるものくらいで」

「そりゃ体調崩すわ」

「・・・ですよね。わかってるんですけど、栄養より量を考えてしまって」

食べ物を前に食べ物の話をしていると、コブラのお腹がぐうと鳴った。

そういえばこいつは朝食すら食べていないのだった。

「何はともあれ先に食べよう。話は食べてからだ」

オレが箸を手にすると、コブラも1つ返事をして割り箸を手に取った。

よほどお腹が空いていたのだろう。

コブラは最初こそ遠慮してお椀に少しよそうに留まったが、その後はおかわりの連続だった。

土鍋の中はおかゆだが、鶏ガラスープで食欲が出るように味付けした。

細かく切り刻んだ野菜も入れている。

野菜を取るには鍋に放り込んで一緒にいろんなものと煮てしまえばOK、という実家暮らしの時に目の当たりにしていた調理方法を参考にしている。

人参が苦手な子どもが、カレーに溶け込んでいる場合は何とか食べられるのと同じで、オレもこの方法のおかげで野菜嫌いは克服できた。

栄養価の高いものを取るのに無理はしたくない。

見た目を気にしないのであれば、画期的なアイデアだ。

「おいしかったです。ごちそうさまでした」

律儀に手を合わせるコブラを見て、オレも慌ててそれにならった。

食べる前にもきちんと手を合わせていたコブラは、親からきちんと躾けられていたのだろう。

実家を離れてもそれが自然に出るくらい身に付いているらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

お父さん!義父を介護しに行ったら押し倒されてしまったけど・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
今年で64歳になる義父が体調を崩したので、実家へ介護に行くことになりました。 「お父さん、大丈夫ですか?」 「自分ではちょっと起きれそうにないんだ」 「じゃあ私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

その女子高生は痴漢されたい

冲田
青春
このお話はフィクションです。痴漢は絶対にダメです! 痴漢に嫌悪感がある方は読まない方がいいです。 あの子も、あの子まで痴漢に遭っているのに、私だけ狙われないなんて悔しい! その女子高生は、今日も痴漢に遭いたくて朝の満員電車に挑みます。

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

処理中です...