上 下
24 / 28

23

しおりを挟む
大将は言ってみれば赤の他人だ。

血は繋がっていない。

それなのに今まで文句1つ言うことなく育ててくれたことには感謝しかない。

だからその分、私の提案を否定する言葉は痛かった。

就職した後もずっと、夏はここを手伝うことを考えていたのだ。

戸惑う私に大将は微笑んだ。

「なっちゃんの気持ちは嬉しいよ、ありがとう。でも家を出たら外に向かわなきゃダメだ」

「外?」

「今までは内にこもって安全圏にいたけど、卒業したら自由だ。外に羽ばたいて可能性を見つけに行くんだ」

「可能性って?」

「なっちゃんは将来どうなりたいか、何か夢はある?」

将来・・・は、大将に恩返しがしたい。

だけどそれは夢とは違う。

夢・・・は大将みたいになりたい。

海の家で好きな調理をして、常連のみんなと仲良く過ごしている大将みたいになりたい。

だけどそんなの、夢と言うには少し恥ずかしい。

「今はなくてもいつかこうしたいって思った時に、その道に向かってまっすぐ突き進むんだ。卒業したらそれができるようになるんだよ。後ろに戻っちゃいけない」

「戻っちゃいけないの?」

「過ぎたことをくよくよ悩んでも仕方がない。時は進んでいるんだから。できなかったことを悔やむなら、できることを見つける方がよっぽど良い」

「・・・なんか難しいね」

「そりゃ1人でやるのは難しいさ。だから仲間をいっぱい作るんだ。タイプが異なる人ほど新たな考えも出てくるし、新たな感情も生まれる」

確かに大将には仲間がいっぱいいる。

その仲間のおかげで子育ては問題なかった。

実際はどうだったかわからないけど、私に対して手を上げたり声を荒らげたりしたことはないから、順調だったのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

*いにしえのコトノハ*3 too late to do

N&N
青春
判断は何でも早いに限る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

*いにしえのコトノハ*7 欠けコトバ

N&N
現代文学
本当は・・・ 知ってたんだ。

*いにしえのコトノハ*1 Red leaf

N&N
青春
夢が叶う葉―Red leaf

*いにしえのコトノハ*4 1/2

N&N
青春
Loveじゃなくて、Likeじゃなくて、

処理中です...