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いつもより長いお辞儀をして、大将はパッと顔を上げた。

「今年はいつもより長かったね」

正直な感想を述べると、大将は苦笑しながらラムネを一口含んだ。

「最後だからね」

「最後?」

「卒業したら県外に行っちゃうからね」

卒業ー常連のアキさんも言っていた言葉だ。

私は今年中学3年生。

学校を卒業したら県外に出る。

とある旅館に住み込みで働かせてもらえることになったのだ。

ずっと海の家で大将が調理する姿を見ているうちに、その世界に興味が湧いた。

調理師免許も何も持っていないから、ここではせいぜいカキ氷しか作らせてはもらえなかったけど、平日の家の炊事担当は自分に任せてもらって、腕をみがいてきた。

私もいずれ人様に調理したものを出して、おいしいと言われるようになりたい。

「私、旅館に行っても夏になったら帰ってきて手伝うよ」

「海の家を?」

「もちろん」

「それはダメだよ」

「え?」

いつも優しい口調の大将が、これだけはキッパリと言った。

「家を出ると決めたら一人前になるまで戻ってきたらダメだ」

今までこんなふうに意見を否定されたことはなかったので、戸惑った。

私は大将に育ててもらって義務教育まで受けさせてもらったけど、それから先は働くつもりでいた。

勉強はそれほど好きでもなかったし、学びたい分野もなかったこと、それに何より育ててもらった恩返しを早くしたかった。
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