＊いにしえのコトノハ＊８ なっちゃん

１４

上からの太陽、下からの熱気で汗だくになりながら私は名方さんの姿を探した。

やはり砂浜には人の姿は見えない。

それでも歩き回って姿を探した。

歩き回っていると、小屋のようなものを発見した。

簡易な机や椅子がある。

海の家だ。

でもまだシーズン前だからか誰もおらず、少し手を加えないとお店として再開するには状態が悪い。

しかし日射しを避けるためには格好の場所だったので、座るところを軽く手ではらって腰を下ろした。

ふぅー、暑い。

６月でこの暑さだったら、本格的な夏になったらどうなってしまうのだろう。

早く空調の効いたあの部屋に戻りたい。

それには名方さんを見つけないと。

汗をぬぐいながらふと小屋の中を見渡すと、何か置いてあることに気づいた。

近づいて見てみると、無造作に脱ぎ捨てられたジャケットだった。

こんな暑い日にジャケットなんて。

薄手だが、長袖のそれは見ているだけで暑い。

せっかく上質そうなジャケットなのに。

脱ぎシワが気になって思わず手に取る。

すると何かがジャケットからこぼれ出た。

ポケットの中に何か入っていたらしい。

足元に散らばったそれは、腕時計と指輪だった。

どちらも見覚えがある。

名方さんのものだった。

入社当時、自己紹介をしていた時の名方さんの指に光っていたもの。

私と一緒に過ごした週末、別れ際に確認していた時間。

それがジャケットと一緒に置いてある。

それは名方さんが海に入ったということを意味していた。