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赤い葉は木を登ると簡単に手に入れられた。

しかし高い所まで登りつめ、木の枝に手を伸ばして赤い葉を手に取った時にはもう既に全身がズタボロになっていた。  

木登りは意外に体力を消耗するもので、下りる頃には足に力が入っておらず、あともう少しという所でバランスを崩して体は地面に叩きつけられた。 

「痛ぇー」

静かな公園に情けない声が響き渡る。 

「大丈夫!?」

倒れたオレに駆け寄ってきたカナの目にはうっすら涙が浮かんでいた。

こんな時にも関わらず、オレはカナのこの愛らしい表情に萌えを感じていたんだ。 

痛い思いしていながら馬鹿なやつだな。 

赤い葉がついていた木の下には短い草が生えていてクッションになったからか、幸いにも大怪我はせずに済んだ。

本当は地面に叩きつけられるとわかった瞬間、何かしら防御方法はあったんだろうけど、赤い葉を握っていた左手はこれを守ることに必死で、他の動きを取ることすら忘れていた。 

「ほらよ」 

ビリビリ痺れが続く体を起こし、オレは左手に持っていた赤い葉を差し出した。 

しかしカナは受け取ろうとしない。

「何だよ。欲しかったんだろ?受け取れよ」 

「受け取れないよ」 

ここにきてこの言葉。

赤い葉を拒否するカナにオレは腹が立った。

何だよ、オレがどんな思いでこの葉を取ったと思ってるんだよ。

こんな葉の為にオレはズタボロになってるんだぞ。 

「オレはお前が欲しいって言うから…」 

「そうじゃないの!」

オレはわけがわからなかった。

あれほど欲しいと言った物が今やっと手に入るというのに…。

「じゃあもう勝手にしろよ」 

オレは赤い葉をパッと投げ捨てると、カナに背を向けて足早に去った。

完全に頭に血が上っていた。 

カナが何かを言いたがっていたのはわかっていたのに、それを聞く余裕はオレにはなかった。

家に帰るなり、オレは風呂に入った。

全身を打ちつけた時につけたかすり傷がじわじわとオレを責めるように痛めつける。

何やってんだろうな、オレ。 

ただカナとの時間が減っていく中で関係を気まずくして、一緒に居づらくして…。

若かったんだよな。 

思春期って先のことを考えず暴走しがちだから。

後から考えれば、あの時こうすべきだったって正しい選択が嫌というほど生まれてくるのに…。
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