twice dice

５．バカと夏風邪

２

学校に向かっている途中、誰かに呼ばれた気がして振り返ってみると、最近よく目にするクスミがいた。

「おはようございます」

「え？あ、おはよう」

クスミから話しかけられたのなんて初めてだ。

クスミ自体誰かに話しかけるのなんて初めてじゃないか？

「あ、あの、あの」

喋り慣れていないからか、クスミは相当テンパっているようだ。

とりあえずこんな所で突っ立ってるのも何だし、オレたちは学校に向かいながら話をすることにした。

しかし何でオレはクスミに用もないのに一緒に登校しているんだ。

「今日は一人ですか？」

歩いている途中で落ち着きを取り戻したのか、クスミが尋ねてきた。

気にしていたのは兄キのことか。

「そうなんだ。兄キ、風邪引いちゃってさ」

「風邪？」

「そうなんだよ。昨日Ｎキャラと…」

オレはそう言いかけて、ハッと口をつぐんだ。

Ｎキャラをペット代わりにしてじゃれていた、なんて言ったらクスミに変に思われてしまう。

「Ｎキャラ？」

「あ、そうそう。クスミに貰ったＮキャラと一緒に留守番してるよ」

オレは何とかうまく話をそらした。

「Ｎキャラ、元気ですか？」

「え？あぁ元気、元気」

ぬいぐるみに元気とかあるのか？

「Ｎキャラから力を充電できるといいですね」

「？あ、あぁ」

何だ、その非現実的な物の考えは。

人間が充電なんかできるわけないだろう。

ましてぬいぐるみからなんて。

しかしそこにツッコミを入れても仕方ないしな。

何だかクスミとの会話は普通じゃなくて疲れるな。

兄キはこの前クスミと普通に話していた気がするんだが、あれは兄キも変なのか、それともオレが変に感じすぎるのか、どっちだ？

「あの、風邪ってひどいんですか？」

「あぁ、兄キ？ちょっと熱が高いけど、家に帰る頃には元気になってると思うよ」

「そうですか。早く良くなるようにって伝えて下さい」

「ん？あぁ、伝えとくよ」

珍しいこともあるもんだな。

兄キが心配されるなんて。

兄キはおちゃらけキャラだから、普段誰かに心配されることなんてないんだよな。

ま、クスミとは最近ちょっと仲良くなるできごとがあったからかもしれないけど。

クスミと会話を交わしているうちに学校に到着した。

教室のドアを開けがてら挨拶すると、オレとクスミの２ショットを見たクラスメイトが驚きの表情を見せた。

無理もない。

クスミと２ショットで登場したら、何も知らないクラスメイトはビックリするよな。

そのビックリした中から代表して、ニックネーム『かまやん』が近づいてきた。

かまやんはクラスの中でよく喋る仲の良い友人だ。

「お、おい一真」

「オッス、かまやん」

「オッス…じゃなくて」

一応オレの挨拶を受けて敬礼ポーズを見せたかまやんは、すぐさま小声で耳打ちした。