上 下
14 / 21

13

しおりを挟む
その日の天気も朝から雨だった。

小雨だから屋根のある商店街を歩く彼は気づかないだろうし、傘なんて持っていないだろうとタカをくくっていた。

だからまたあいあい傘ができると思っていたの。

彼のあの言葉を聞くまでは。

いつもの改札口。

いつものようにトイレで身だしなみを整えて向かうと、彼の後ろ姿があった。

私は嬉しくなっていつものように背後から傘を差し出したのよ。

「入れば?」

私の方に彼が振り向く。

これもいつもと同じ。

だけどそれに続く言葉がいつもと違ったの。

「今日はいいよ」

「!?」

私は断られるなんて予想していなかったから、最初その言葉が信じられなくて彼が冗談を言ったのだと思っていた。

だって傘を持っていないはずでしょ?

小雨と言えど数十分当たると結構濡れる。

雨を避けられる方法がある中で、わざとその選択をしないのはバカとしか言いようがない。

「実はさ」

突然のことで頭が回らない私はただ呆然としていて、そんな私の目の前で彼は鞄の中をごそごそし始めた。

鞄の中を散々あさって出てきたのは、折り畳み用の傘だった。

「これ、昨日買ってきたんだ。これなら鞄の中にずっと入れておけるし、急な雨も心配ないし」

「………」 

言葉が出なかった。

そんなことをしなくても私がいるのに。

私が傘を持っている限り困ることはないのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

*いにしえのコトノハ*3 too late to do

N&N
青春
判断は何でも早いに限る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

*いにしえのコトノハ*4 1/2

N&N
青春
Loveじゃなくて、Likeじゃなくて、

*いにしえのコトノハ*1 Red leaf

N&N
青春
夢が叶う葉―Red leaf

処理中です...