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その日の天気も朝から雨だった。

小雨だから屋根のある商店街を歩く彼は気づかないだろうし、傘なんて持っていないだろうとタカをくくっていた。

だからまたあいあい傘ができると思っていたの。

彼のあの言葉を聞くまでは。

いつもの改札口。

いつものようにトイレで身だしなみを整えて向かうと、彼の後ろ姿があった。

私は嬉しくなっていつものように背後から傘を差し出したのよ。

「入れば?」

私の方に彼が振り向く。

これもいつもと同じ。

だけどそれに続く言葉がいつもと違ったの。

「今日はいいよ」

「!?」

私は断られるなんて予想していなかったから、最初その言葉が信じられなくて彼が冗談を言ったのだと思っていた。

だって傘を持っていないはずでしょ?

小雨と言えど数十分当たると結構濡れる。

雨を避けられる方法がある中で、わざとその選択をしないのはバカとしか言いようがない。

「実はさ」

突然のことで頭が回らない私はただ呆然としていて、そんな私の目の前で彼は鞄の中をごそごそし始めた。

鞄の中を散々あさって出てきたのは、折り畳み用の傘だった。

「これ、昨日買ってきたんだ。これなら鞄の中にずっと入れておけるし、急な雨も心配ないし」

「………」 

言葉が出なかった。

そんなことをしなくても私がいるのに。

私が傘を持っている限り困ることはないのに。
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