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「へっくしゅん」

おれはTシャツを脱いだままでランニング姿だったから、くしゃみが出た。

秋とは言ってもまだ暑い日があるし、今日はきっと走り回るだろうからランニングを着ていた。

しかしこの格好のままだとさすがに寒くなってくる。

立て続けにもう2回くしゃみをした。

「ほら、早く」

普段のひゅうまからは想像できないほどの尖った声が出て、おれは渋々Tシャツを渡した。

Tシャツを受け取るとひゅうまは待ってましたとばかりに自分の席に戻って、机の中のお道具箱から何かを取り出した。

おれは自分の席から遠目にそれを見ていたからすぐにはわからなかったけど、どうやら針と糸のようだった。

「そんなの、学校に持ってきちゃいけないんだぞ」

こんな状況なのに、おれはひゅうまを責めていた。

「うん。でも今役に立ったじゃん」

そう言われてみればそうだ。

おれは針と糸なんてお道具箱に入れていないし、入れていたとしても縫うことはできない。

ひゅうまは針に糸を通しながら口を開いた。

「本当はこれを持ってきたのは最近なんだ」

針に糸を通す作業は難しい。

お母さんがよく言っていた。

針の穴が小さいんだそうだ。

おれには何を言っているのかよくわからなかったけど。

でもひゅうまはそんなこと何でもないかのようにさっと糸を通している。

「この前のぶくんにここでフェルト作品作ってみろって言われたでしょ?」

「この前っていうか、前のドッヂボール大会の次の日のことだろ?かなり前だし」

女子を巻き添えに言い合った時だ。

あれがきっかけで、以降ひゅうまとは口を聞いていなかった。

「あの時は何も言えなかったけど、後で考えたらのぶくんの言う通りだと思ったんだ」

おれの言う通り?

おれ、何て言ったっけ?

半年も前のことだからすぐには思い出せない。

今までの間にゴールデンウィークも夏休みもあったし。

「・・・・・・おれ、何て言ったっけ?」

おれが尋ねると、ひゅうまは目線はゼッケンのまま手を止めずに言った。

「お母さんが作った小物をぼくが作ったと言ってるだけ。ちがうなら目の前で作ってみろ、って」

「あ、あぁ」

言われて思い出した。

あの時は感情的になりすぎて何を言ったか覚えてなかったけど、今思い出した。
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