いっぽ

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第2話

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「しかし三年の夏、彼はベンチ入りを果たしました。補欠でしたが、私は出番が回ってくる事を信じ、練習風景を見ながら必至に応援しました」

「でも彼は大会が近づくにつれて調子を崩し、それを見かねた私は彼に応援の言葉を掛けた上、想いを伝えようと思いました」

「それが何年か前の昨日だったんですね」

「そうです。でも彼はその日の朝、学校に来ませんでした」

「え?何で?」

「彼はその前夜、自転車で帰宅途中事故に遭い、左手を骨折してしまったんです。翌々日には学校へ来ましたが、選手登録は変更されました」

「彼は結局、大会に一度も出る事なく、野球部人生を終えました」

ドクン。

僕の鼓動が高まる。

こんなにドキドキしながら話を聞いたのは一体いつ以来だろう。

僕も彼と同じ、クラブ活動をしていて自転車で帰宅する。

僕はそれに電車も加わるけど、だいたい似たような感じだ。

もしかしたら昨日自転車で帰るのを止めたのは、彼のこんな体験があったからかもしれない。

僕の鼓動はさらに高まった。

「私は泣きました。彼が三年間頑張っていた事を知っていたから」

「彼とは仲が良い方でしたし、遠慮して彼の前では泣きませんでしたが、友達の前で泣いているうちに、彼にもそれは伝わってしまいました」

「それである日、彼がこのハンカチを私に買ってくれたんです」

女性はそう言いながら、ハンカチを広げて見せた。

花柄模様が視界に広がる。

「花柄なのは『花が涙の水分を吸って、成長したら幸せを一つ届けてくれるから』って。ちょっと幼稚っぽいですよね」

「私、笑っちゃって、それ以来涙は出なくなりました」

女性が話しながら笑うから、僕もつられて笑った。
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