＊いにしえのコトノハ＊６ おばあちゃんの勘違い

４

「ヤッちゃんはお孫さんがいるじゃないの。６歳未満だったら確か電車の切符はいらなかったはずよ。お孫さんと一緒に行けばいいのよ」

とは言うものの、孫は２人おり、１人は５歳だがもう１人は１０歳だ。

１人しか連れて行かなければもう１人はごねるだろうし、２人連れて行くと結局お金はかかってしまう。

この年で年の離れた２人の面倒を１人で見られるかどうかも自信がなかった。

どうしたものかと悩んでいると、ふと夫の姿が浮かんできた。

写真を撮って孫に自慢したいと言っていたあなた。

あなただったら１人でも行っていたかしら？

病気になってから遠くへ行くことができなくなって、動き回るのが好きだったあなたが日に日に元気を無くしていく様子を近くで見ていた私は、かわいそうで仕方がなかった。

私はまだ元気で病気もしていない。

怪我もしていないし、体力は衰えていない･･････はず。

そんな自由の身でありながらこんなことで悩んでいたら、きっとあなたに怒られちゃうわね。

何かしたいと思っているうちに行動をしなければ、いつできないようになるかわからないもの。

よし、決めた。

夫ができなかったことを私がして、報告しよう。

冥土の土産だわ。

「キヨちゃん、この切符いただいてもいい？」

「いいわよ、是非使って！こっちだけでも無駄にならずに済んで嬉しいわ」

厚かましい依頼にも関わらず、キヨちゃんは快く乗車券を譲ってくれた。

本当はお芝居に行きたかったはずなのに、思わぬ事故で行く機会を失ってしまったキヨちゃん。

ごめんね、この恩を無駄にしないようにありがたく使わせていただくわね。

譲ってくれた乗車券を無くさないように、大事にしまった。