＊いにしえのコトノハ＊６ おばあちゃんの勘違い

３

「私はこの足で行けそうにないし、でもせっかく当たったこれを無駄にするのも悪いし」

私の分は実費だったから、これらを手に入れると支払額は無しになる。

しかし積極的に喜べないのは行く相手が誰もいないということよりも、対象がお芝居ということだった。

キヨちゃんが希望するから参加を決めたものの、私はそれほどお芝居に興味がなかった。

「あ、でもヤッちゃんはお芝居はそれほど興味なかったのよね」

私が答える前にキヨちゃんは思い出してくれた。

期待に添えられない結果で申し訳なく思う。

どうにかならないものかとお芝居のチケットを見て、私はあることに気がついた。

「このお芝居をするタマリホールって、ベジタブルランドの近くなのね」

「近くというか、道路を挟んでお向かいさんよ」

「あら、すごく近いのね」

お芝居チケットには近辺の簡略地図が表示されていた。

そこにベジタブルランドの文字を見つけたのだ。

「ヤッちゃん、もしもベジタブルランドの方に興味があるなら、この特急券を持って行ってらっしゃいよ」

「えぇー、１人でベジタブルランドに！？」

ベジタブルランドというのは、若者に人気の有名スポットで、門を真正面から見ると遠くにパンプキン城が見える。

それを背景に写真を撮るのが、ここに訪れた時のお決まりである。

私がここを気にするようになったのは、亡き夫が病床でこのコマーシャルが流れる度に
「もう少し元気だったらここで写真を撮って孫たちに自慢できるのになぁ」
とこぼしていたからだ。

「元気になったら絶対行きましょうね」

と励ましながらの看病もむなしく、夫は逝ってしまった。

それ以降、そのコマーシャルが流れる度、ベジタブルランドという名前を聞く度、私も１度訪れたみたいという気持ちを抱くようになっていた。