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冬を迎えて

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 本格的な冬がやって来た。朝方は気温が一桁台を記録するようになり、登校時にマフラーやコートを着ている人も見かけるようになった。秋桜あきなは秋生まれで寒さに強いこともあって、毎年マフラー一つで冬を越す。現に秋桜あきなはまだ防寒具を身に付けていない。霜が降りる頃までは必要ないだろうと踏んでいる。
 それにここ一ヶ月、やたらと走る機会が増えた。特に登校時、公園を突っ切って小道に入り右へ左へとにかく走る。走ると決めたら、自分で決めた通学路なんて最初から無視だ。彼らを撒くためなら多少の徒労は惜しむまい。
 とは言え先方は、朝に限らずあらゆる場面で暗黙のルールに従ってくれている感がある。秋桜あきなを見失ったら先回りして学校の前で待っているといったルール違反はしないのだ。しかも逃げ切ったり、ガン無視に成功したり、言い負かしたり、秋桜あきなが何らかの形で勝った時は最低でも半日現れない。これは先方が大見得切って勝手に取り付けたペナルティだが、墓穴を掘っても忠実に守ってくれている。
 秋桜あきなとしてはこの状況を楽しんでいるわけでは決してないのだが、悪いかというと断言するには躊躇いがある。最近は特にそうだ。最初の一週間は即答で最悪と答えていただろうけど。
 今朝は彼らが現れず、実に穏やかな登校だった。しかし油断は出来ない。このパターンだと、教室で待っていることが一番多く、校舎を徘徊していたり、授業中に気が向いた時に顔を見せたりすることも考えられる。
 パターンごとの対処行動を確認しながら教室のドアを開けた。
 どうやら待ち伏せのパターンでもないらしく、ここにも彼らはいなかった。入口につっ立っていても不自然なので、秋桜あきなは足を止めずに自分の席に歩いていく。カバンを机の上に置いてから改めて教室を見回した。窓の外もチェックする。
「あき? どうしたの?」
「いや……」
 授業中もずっと気を張っていたのだが、〝桜の精〟と名乗る二人組――桜花おうか守桜すおうはいつまでも現れなかった。

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