15 / 24
3
冬を迎えて
しおりを挟む
本格的な冬がやって来た。朝方は気温が一桁台を記録するようになり、登校時にマフラーやコートを着ている人も見かけるようになった。秋桜は秋生まれで寒さに強いこともあって、毎年マフラー一つで冬を越す。現に秋桜はまだ防寒具を身に付けていない。霜が降りる頃までは必要ないだろうと踏んでいる。
それにここ一ヶ月、やたらと走る機会が増えた。特に登校時、公園を突っ切って小道に入り右へ左へとにかく走る。走ると決めたら、自分で決めた通学路なんて最初から無視だ。彼らを撒くためなら多少の徒労は惜しむまい。
とは言え先方は、朝に限らずあらゆる場面で暗黙のルールに従ってくれている感がある。秋桜を見失ったら先回りして学校の前で待っているといったルール違反はしないのだ。しかも逃げ切ったり、ガン無視に成功したり、言い負かしたり、秋桜が何らかの形で勝った時は最低でも半日現れない。これは先方が大見得切って勝手に取り付けたペナルティだが、墓穴を掘っても忠実に守ってくれている。
秋桜としてはこの状況を楽しんでいるわけでは決してないのだが、悪いかというと断言するには躊躇いがある。最近は特にそうだ。最初の一週間は即答で最悪と答えていただろうけど。
今朝は彼らが現れず、実に穏やかな登校だった。しかし油断は出来ない。このパターンだと、教室で待っていることが一番多く、校舎を徘徊していたり、授業中に気が向いた時に顔を見せたりすることも考えられる。
パターンごとの対処行動を確認しながら教室のドアを開けた。
どうやら待ち伏せのパターンでもないらしく、ここにも彼らはいなかった。入口につっ立っていても不自然なので、秋桜は足を止めずに自分の席に歩いていく。カバンを机の上に置いてから改めて教室を見回した。窓の外もチェックする。
「あき? どうしたの?」
「いや……」
授業中もずっと気を張っていたのだが、〝桜の精〟と名乗る二人組――桜花と守桜はいつまでも現れなかった。
それにここ一ヶ月、やたらと走る機会が増えた。特に登校時、公園を突っ切って小道に入り右へ左へとにかく走る。走ると決めたら、自分で決めた通学路なんて最初から無視だ。彼らを撒くためなら多少の徒労は惜しむまい。
とは言え先方は、朝に限らずあらゆる場面で暗黙のルールに従ってくれている感がある。秋桜を見失ったら先回りして学校の前で待っているといったルール違反はしないのだ。しかも逃げ切ったり、ガン無視に成功したり、言い負かしたり、秋桜が何らかの形で勝った時は最低でも半日現れない。これは先方が大見得切って勝手に取り付けたペナルティだが、墓穴を掘っても忠実に守ってくれている。
秋桜としてはこの状況を楽しんでいるわけでは決してないのだが、悪いかというと断言するには躊躇いがある。最近は特にそうだ。最初の一週間は即答で最悪と答えていただろうけど。
今朝は彼らが現れず、実に穏やかな登校だった。しかし油断は出来ない。このパターンだと、教室で待っていることが一番多く、校舎を徘徊していたり、授業中に気が向いた時に顔を見せたりすることも考えられる。
パターンごとの対処行動を確認しながら教室のドアを開けた。
どうやら待ち伏せのパターンでもないらしく、ここにも彼らはいなかった。入口につっ立っていても不自然なので、秋桜は足を止めずに自分の席に歩いていく。カバンを机の上に置いてから改めて教室を見回した。窓の外もチェックする。
「あき? どうしたの?」
「いや……」
授業中もずっと気を張っていたのだが、〝桜の精〟と名乗る二人組――桜花と守桜はいつまでも現れなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
カーテンコール
碧桜 詞帆
ファンタジー
生者と死者が会うことは決してない。
だからこそ。
声が聞こえた気がする。
そこにいた気がする。
そんな気配に慰められながら、遺された者は今日を生きていく。
主人公レンは、集合墓地を管理する神父イクスのお手伝いを任されていた。
先日幽霊となった少女レーズィは、自分の死が原因で心を病んでしまった父を心配して、どうやら成仏できないでいるらしい。
落ち込んでいるレーズィに、何かしてやれることはないかと探すレンだが――。
※ゲーム用シナリオとして書き上げたものを、小説版に手直ししたものです。
背景・スチル・BGM・SE・キャラの登場退出などに頼って描写していないところも多々あるので、読みにくいかもしれません…。
元々は友人に大学の学祭展示用として頼まれて作ったシナリオです。
1ルート10分程度で終わる、背景やスチルは極力少なく、キャラ絵は5人程度、ルートは3つ、そのうち隠れエンディングに行くのは1つのみ、など友人の希望と制作する方の負担を減らすなどの色々な制約のもと制作しております。
なので、上から順に読んでいっていただけたら作者としては嬉しい限りですが、ルートごとの違いが微々たるもので、何度も同じだったり似た場面が出て、しつこく感じるかもしれません…。
ルート名はユーザーに見えないと思ってかなり遊んで付けてます。読んでもらうのが申し訳ないような仕様ですが、サウンドノベルゲームをプレイしているような気持ちで読んでいただけたら幸いです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる