7 / 24
1
人間じゃない二人
しおりを挟む
いつも通り授業を受け、いつも通り友達と昼食をとり、いつも通り放課後になった。
昨日と同じ時間を過ごしているうちにだんだんと冷静さを取り戻す。すると今度は、今朝の出来事が本当に現実のことだったか疑問に思い始めた。不可解な点を上げればそれこそキリがない。どちらにしてもこの掃除を終えて家に帰り、家事と宿題をして布団に入って、朝になればもう思い出す事もないだろう。
校舎裏の掃除は清掃範囲の広さに対して落ち葉を集める作業だけなので割とすぐ終わる。それにまだ枯れ葉が落ち切っていない現状なら尚更、そこそこに掃除しておけばいい。先生からもらったビニール袋いっぱいに落ち葉を詰めて、さっき友達が収集場に捨てに行った。ノルマは四十リットル一袋なので、友達が帰って来たら一緒に教室にいる先生に報告しに行って、それで終わりだ。
秋桜は友達を持っている間の手持無沙汰を紛らわすために、集め損ねた落ち葉を壁際に寄せていた。しばらくして背後に落ち葉を踏む音がこちらに近づいてきた。
――ふと、落ち葉の上に桜の花弁が落ちた。
秋桜はまさかと思って背後を振り返る。
「こんにちは。ちゃんとお掃除してて偉いわね」
そのまさかで今朝の二人――桜花と守桜が再び現れた。
あんな別れ方をしたのに彼女は全く気にしていない様子で、にこにこ笑いかけてくる。いや、それよりも――。
「どうやって入ってきたんですか!」
今朝と同じ格好の二人は、立っているだけでも相当に目立つ。普通の服装だったとしても充分に人目を引くであろう容姿を持っているのだ。たとえ人の目を盗んで中学校に入ってきたのだとしても門には監視カメラが付いている。職員か事務員か、誰かが呼び止めに来るはずだ。放課後で生徒がそこら中にいる今、誰にも見つからないでここまで来るなんて不可能だ。けれど事実、彼らは平然と学校の中を歩いている。
「どうやって、って言われても普通に正門から入ったわよ?」
桜花はきょとんとした顔で首を傾げる。埒が明かない。秋桜は彼女の数歩後ろにいる守桜を見た。校舎や体育館を見回していた彼はこちらの視線に気付いて、目を合わせてくれるが、平然とした態度は変わらない。
「別におかしくないだろ? 外来者は正門から入るもんだ」
「そそ。裏門は職員および保護者用です」
眉をひそめながらも、秋桜は内心で唖然としていた。こんなに話が通じないと、次の言葉も出てこない。
すると、ちょうどいいタイミングで友達の姿が見えた。ゴミ出しに行っていた友達二人がやや遠くから手を振っている。
「あきぃー! 先生がもう終わりでいいってー!」
秋桜は友達を見ながら、横目で桜花と守桜をうかがった。彼らを挟む位置に秋桜と友達はいるのだ。こちらを向いている友達に彼らの姿が見えないはずがない。どうしてこの人達を見て何も言わないのか。
当人たちはと言うと、桜花は薄く微笑んだまま、守桜はそっぽを向いたまま、動かない。
「部活あるから私たち先戻るねー! あきー、また明日ー!」
「う、うん……」
秋桜は完全に上の空だが、辛うじて手を振り返す。友達二人は校舎の中へと消えた。
再び三人だけになる。先程とは違い、異様な空気が漂っていた。秋桜は得体の知れない彼らの存在にぞっとする。
「ね? 言ったでしょ。私たちは人間じゃない」
仮面を貼り付けたような微笑みで、桜花は言った。一歩また一歩と近付いてくる彼女に対して、秋桜は無意識に身構える。
昨日と同じ時間を過ごしているうちにだんだんと冷静さを取り戻す。すると今度は、今朝の出来事が本当に現実のことだったか疑問に思い始めた。不可解な点を上げればそれこそキリがない。どちらにしてもこの掃除を終えて家に帰り、家事と宿題をして布団に入って、朝になればもう思い出す事もないだろう。
校舎裏の掃除は清掃範囲の広さに対して落ち葉を集める作業だけなので割とすぐ終わる。それにまだ枯れ葉が落ち切っていない現状なら尚更、そこそこに掃除しておけばいい。先生からもらったビニール袋いっぱいに落ち葉を詰めて、さっき友達が収集場に捨てに行った。ノルマは四十リットル一袋なので、友達が帰って来たら一緒に教室にいる先生に報告しに行って、それで終わりだ。
秋桜は友達を持っている間の手持無沙汰を紛らわすために、集め損ねた落ち葉を壁際に寄せていた。しばらくして背後に落ち葉を踏む音がこちらに近づいてきた。
――ふと、落ち葉の上に桜の花弁が落ちた。
秋桜はまさかと思って背後を振り返る。
「こんにちは。ちゃんとお掃除してて偉いわね」
そのまさかで今朝の二人――桜花と守桜が再び現れた。
あんな別れ方をしたのに彼女は全く気にしていない様子で、にこにこ笑いかけてくる。いや、それよりも――。
「どうやって入ってきたんですか!」
今朝と同じ格好の二人は、立っているだけでも相当に目立つ。普通の服装だったとしても充分に人目を引くであろう容姿を持っているのだ。たとえ人の目を盗んで中学校に入ってきたのだとしても門には監視カメラが付いている。職員か事務員か、誰かが呼び止めに来るはずだ。放課後で生徒がそこら中にいる今、誰にも見つからないでここまで来るなんて不可能だ。けれど事実、彼らは平然と学校の中を歩いている。
「どうやって、って言われても普通に正門から入ったわよ?」
桜花はきょとんとした顔で首を傾げる。埒が明かない。秋桜は彼女の数歩後ろにいる守桜を見た。校舎や体育館を見回していた彼はこちらの視線に気付いて、目を合わせてくれるが、平然とした態度は変わらない。
「別におかしくないだろ? 外来者は正門から入るもんだ」
「そそ。裏門は職員および保護者用です」
眉をひそめながらも、秋桜は内心で唖然としていた。こんなに話が通じないと、次の言葉も出てこない。
すると、ちょうどいいタイミングで友達の姿が見えた。ゴミ出しに行っていた友達二人がやや遠くから手を振っている。
「あきぃー! 先生がもう終わりでいいってー!」
秋桜は友達を見ながら、横目で桜花と守桜をうかがった。彼らを挟む位置に秋桜と友達はいるのだ。こちらを向いている友達に彼らの姿が見えないはずがない。どうしてこの人達を見て何も言わないのか。
当人たちはと言うと、桜花は薄く微笑んだまま、守桜はそっぽを向いたまま、動かない。
「部活あるから私たち先戻るねー! あきー、また明日ー!」
「う、うん……」
秋桜は完全に上の空だが、辛うじて手を振り返す。友達二人は校舎の中へと消えた。
再び三人だけになる。先程とは違い、異様な空気が漂っていた。秋桜は得体の知れない彼らの存在にぞっとする。
「ね? 言ったでしょ。私たちは人間じゃない」
仮面を貼り付けたような微笑みで、桜花は言った。一歩また一歩と近付いてくる彼女に対して、秋桜は無意識に身構える。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
カーテンコール
碧桜 詞帆
ファンタジー
生者と死者が会うことは決してない。
だからこそ。
声が聞こえた気がする。
そこにいた気がする。
そんな気配に慰められながら、遺された者は今日を生きていく。
主人公レンは、集合墓地を管理する神父イクスのお手伝いを任されていた。
先日幽霊となった少女レーズィは、自分の死が原因で心を病んでしまった父を心配して、どうやら成仏できないでいるらしい。
落ち込んでいるレーズィに、何かしてやれることはないかと探すレンだが――。
※ゲーム用シナリオとして書き上げたものを、小説版に手直ししたものです。
背景・スチル・BGM・SE・キャラの登場退出などに頼って描写していないところも多々あるので、読みにくいかもしれません…。
元々は友人に大学の学祭展示用として頼まれて作ったシナリオです。
1ルート10分程度で終わる、背景やスチルは極力少なく、キャラ絵は5人程度、ルートは3つ、そのうち隠れエンディングに行くのは1つのみ、など友人の希望と制作する方の負担を減らすなどの色々な制約のもと制作しております。
なので、上から順に読んでいっていただけたら作者としては嬉しい限りですが、ルートごとの違いが微々たるもので、何度も同じだったり似た場面が出て、しつこく感じるかもしれません…。
ルート名はユーザーに見えないと思ってかなり遊んで付けてます。読んでもらうのが申し訳ないような仕様ですが、サウンドノベルゲームをプレイしているような気持ちで読んでいただけたら幸いです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる