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相変わらずボロいアパートの扉を開ける。6畳1Rの部屋がとても広く感じる。
"寂しい"
そう感じられずにはいられない。
先生の綺麗な顔、それを顔を赤らめて見ている女の人。ただそれだけのことに嫉妬してしまう自分。
時間はまだお昼。
今日大学はない。
歩いてる最中に圭介からきた連絡。『3限なし。やったぜー!!』
いつもクールにすましてるくせして、休講なると本当にテンション高いなこいつ。
今日に限って講義が休講になってしまった。
「はぁ…」
今の状況は、一夜限り過ごしたあの人と出会った時によく似ている。部屋にいたくないと直観的に感じ、翔太は無意識に着替え始めた。黒いトレーナーに黒いダウン、下はデニムのパンツ。首は隠していない。ハイネックを着ないのは久しぶりだった。
今日はアクセサリーというなの武器はない。強くなれそうにもないから。
ーーママのところに行こう
どうしても誰かにこのモヤモヤを、寂しさを話したかった。そして先生への想いを聞いてほしかった。本人に言えなくてもいい、誰かに聞いてもらうだけでいい。それだけでこの寂しさがなくなる気がした。
ママに連絡をしなくてはと思い出したのは、ついさっき。靴を履く瞬間に思い出した。今いきなり店に行っても開いていない。前のようにもうすぐで開店、という時間でもない。きっとママは寝てるか仕入れの作業をしているかもしれない。
ーー今すぐ行きたかったんだけどな
あの日からママに連絡はしていない。店にも行っていない。だからいきなり行ってしまったら迷惑をかけてしまう。ただでさえずっと店に行っていなかったのだから。
翔太はポケットからスマホをとりだし、ママの連絡先を探す。話していないトークは、いろいろな公式アカウントの連絡より下に表示されていた。
『ママ、久しぶり。ちょっと早いんだけど、店行ってもいい?』
当然だが既読はすぐにはつかなかった。
連絡がなかったらどっかで時間をつぶせばいいか。そんなことを思いながら、翔太はボロアパートの階段を降りた。
外は相変わらず寒い。最近はハイネックに慣れてしまったからか、首元が寒いし最悪だ。ダウンに首が埋もれるように、翔太は前かがみになりながら歩いた。
家から少し歩いて最寄駅はある。そこから2駅目。ママの店は点在している。
店の最寄りは商業施設がたくさんあった。ショッピングモールに映画館、本屋に商店街。ママからの連絡を待つには最高の暇つぶしになるのだ。
翔太は比較的人の少ない小さい本屋に入った。通路は狭かったが、小さい店だからか人が少なく不便には感じない。ジャンルごとに仕分けされた本棚は、一つ一つが大きいからか何とも言えない威圧感がある。
翔太は一つ一つの本棚をじっくりと見て回った。ミステリー、エッセイ、歴史、ファンタジー。そして医学生のための教本。無意識に立ち止まり、手に取る。
ペラペラと中身を見てみるが、まったくといっていいほど意味が分からなかった。
ーーうわぁ、先生ってこんな難しそうなことしてるのか
たぶん、きっと、難しいであろう内容をみてそう思った。
ピコン
よくわかりもしない医学書を見ていたら音がした。音が鳴ったのはスマホ。そして通知にはママの名前。
翔太は急いでスマホを開き、中を確認した。
『仕入れ中だったわよ。鍵開けとくからおいで』
その言葉とともに送られてきたのは、お酒のスタンプ。
きっとママにはすべてお見通しなんだろうな。ママの変わらない態度にホッとしてついにやけてしまう。
俺は手に持っていた医学書をすぐに本棚に返して、店を出た。早く行きたくて早足だ。
駅から少し歩いて歓楽街に入る。道路には怖そうなお兄さんたちが煙草を吸っていたり、お酒を運んだりしている。相変わらず道には空き缶や吸い殻が落ちていて汚い。
黒を基調としたスタイリッシュな建物。階段を駆け上がり、俺は扉に手をかけた。
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