上 下
21 / 28

21

しおりを挟む

 この1ヶ月間、精神科に先生は着いてきてくれた。でも甘えているようで少し罪悪感がある。

「あの、、先生、」

「どうしたの?稲場さん」

 2人っきりになると自然と先生はタメ口になる。

「俺さ、やっぱり1人で行く?」

 そしてつられて翔太もいつの間にかタメ口になっていた。

「…どうして?」

--どうしてって、、

「迷惑じゃない?」

 自分よりも背の高い先生を見上げて聞く。翔太は消して背が低いわけじゃないが、栗原と並ぶと小さく見える。

「はぁ…」

--ため息!

 好きな人にため息を疲れて、聞いたことに公開した。すぐにいつも通りおちゃらけて訂正しようとする。

「なんちゃ、、」

 〝なんちゃって〟
 言おうと口を開いた時だった。

「迷惑なんかじゃない!」

 栗原は歩いていた足を止めて翔太に言う。
 同じように翔太も足を止めた。

「え、」

「稲場さん、前も言ったよね。君のことが心配なんだ。一緒に治したいんだよ。」

--嬉しい…

 素直にそう思った。先生に迷惑かけるとかそれを考えちゃダメなんだ。先生もそう言ってくれてる。
 ただの患者と先生っていうだけなのに、本当に先生は優しい。

--だからちょっと勘違いしそうになるな

「ありがと、先生。」

 素直に受け取った言葉。病気が治るまでの間だけでも、大事に貰っておこうと思った。

コツコツコツコツ

 廊下に響く2つの足音。2人はエレベーターに向かった。
 精神科は5階にある。いくら翔太が人と近い距離が苦手だからと行って、階段で診察室のある1階から5階まで登るのはきつい。そのため、なるべく人が居ない時を見計らって乗らなきゃいけない。

チーン

 少し待つとエレベーターが来た。しかし今は乗れない。

「お先にどうぞ」

 下を向いて俯いている翔太の代わりに、栗原が他の患者に先に乗るように促す。
 今一緒に待っていたのは翔太と栗原含め5人。余裕でエレベーターに乗れるが、それでも翔太と栗原は乗らなかった。

 スーっとエレベーターが静かに動く。

「先生…ごめん、、次はちゃんと乗るから」

「いいよ。まだ時間はあるからね、ゆっくり行こう。」

 自分のせいで待たせてしまっている。なのに先生は怒るわけでもなく、俺のペースでいいと励ましてくれる。

「せんせ、ありがとう」

 ポンポン

「うん」

 お礼を言うと、ポンポンと頭を撫でられた。

 そしてまた少し待つとエレベーターが来た。チーンっと音を立ててドアが空く。運が良く、次は先生と2人だけだった。

 ポチッ

 先生は俺がちゃんと乗ったことを確認すると、5階のボタンを押す。

--先生と2人っきりでは大丈夫なんだけどな。

 好きな人となら大丈夫とか、自分が乙女すぎる。思わずはぁっと息を吐いてしまう。

「クスッ、今日はどうしたの?」

「え?」

「いや、いつもよりネガティブんだなって思って。」

 わ、先生にはバレてたんだ。恥ずかしい。

「いや、なんでも!!なんでもないです」

「そう?なんでも言ってね。なんったって私は稲葉さんの担当医なんだから。」

 先生が患者に対して献身的なのは知ってる。初めて会った時も話を聞いてくれた。倒れてしまった時も走って助けに来てくれた。
 でもそれは俺が先生の患者だから。先生は俺の〝担当医〟だから優しくしているのだ。それがわかってしまう言葉に胸が痛くなる。

「うん、ありがと」





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...