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しおりを挟むこの1ヶ月間、精神科に先生は着いてきてくれた。でも甘えているようで少し罪悪感がある。
「あの、、先生、」
「どうしたの?稲場さん」
2人っきりになると自然と先生はタメ口になる。
「俺さ、やっぱり1人で行く?」
そしてつられて翔太もいつの間にかタメ口になっていた。
「…どうして?」
--どうしてって、、
「迷惑じゃない?」
自分よりも背の高い先生を見上げて聞く。翔太は消して背が低いわけじゃないが、栗原と並ぶと小さく見える。
「はぁ…」
--ため息!
好きな人にため息を疲れて、聞いたことに公開した。すぐにいつも通りおちゃらけて訂正しようとする。
「なんちゃ、、」
〝なんちゃって〟
言おうと口を開いた時だった。
「迷惑なんかじゃない!」
栗原は歩いていた足を止めて翔太に言う。
同じように翔太も足を止めた。
「え、」
「稲場さん、前も言ったよね。君のことが心配なんだ。一緒に治したいんだよ。」
--嬉しい…
素直にそう思った。先生に迷惑かけるとかそれを考えちゃダメなんだ。先生もそう言ってくれてる。
ただの患者と先生っていうだけなのに、本当に先生は優しい。
--だからちょっと勘違いしそうになるな
「ありがと、先生。」
素直に受け取った言葉。病気が治るまでの間だけでも、大事に貰っておこうと思った。
コツコツコツコツ
廊下に響く2つの足音。2人はエレベーターに向かった。
精神科は5階にある。いくら翔太が人と近い距離が苦手だからと行って、階段で診察室のある1階から5階まで登るのはきつい。そのため、なるべく人が居ない時を見計らって乗らなきゃいけない。
チーン
少し待つとエレベーターが来た。しかし今は乗れない。
「お先にどうぞ」
下を向いて俯いている翔太の代わりに、栗原が他の患者に先に乗るように促す。
今一緒に待っていたのは翔太と栗原含め5人。余裕でエレベーターに乗れるが、それでも翔太と栗原は乗らなかった。
スーっとエレベーターが静かに動く。
「先生…ごめん、、次はちゃんと乗るから」
「いいよ。まだ時間はあるからね、ゆっくり行こう。」
自分のせいで待たせてしまっている。なのに先生は怒るわけでもなく、俺のペースでいいと励ましてくれる。
「せんせ、ありがとう」
ポンポン
「うん」
お礼を言うと、ポンポンと頭を撫でられた。
そしてまた少し待つとエレベーターが来た。チーンっと音を立ててドアが空く。運が良く、次は先生と2人だけだった。
ポチッ
先生は俺がちゃんと乗ったことを確認すると、5階のボタンを押す。
--先生と2人っきりでは大丈夫なんだけどな。
好きな人となら大丈夫とか、自分が乙女すぎる。思わずはぁっと息を吐いてしまう。
「クスッ、今日はどうしたの?」
「え?」
「いや、いつもよりネガティブんだなって思って。」
わ、先生にはバレてたんだ。恥ずかしい。
「いや、なんでも!!なんでもないです」
「そう?なんでも言ってね。なんったって私は稲葉さんの担当医なんだから。」
先生が患者に対して献身的なのは知ってる。初めて会った時も話を聞いてくれた。倒れてしまった時も走って助けに来てくれた。
でもそれは俺が先生の患者だから。先生は俺の〝担当医〟だから優しくしているのだ。それがわかってしまう言葉に胸が痛くなる。
「うん、ありがと」
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