彼氏に性欲処理にされてた受けが幸せになるまで

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16(栗原side)

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(栗原side)

--もうそろそろかな。次の診察が終わったら稲場さんの所へ行こう。

 稲場さんを検査へ送り出してからちょうど1時間位経っている。検査の内容からしてもうそろそろ終わってもいい頃だ。

「加藤さーん」

 看護師に名前を呼ばれ診察室に患者が入ってくる。

「こんにちは、加藤さん。調子はどうですか?」

 〝お手本のお医者さん〟のように優しい笑顔を作り、話しかける。それに加えて普段よりゆっくりで少しだけ大きい声。加藤さんはもうおばあちゃんだ。できるだけゆっくりと話していく。

--まずいな、思ったより時間がかかってる。

 「うんうん」と話を聞きながら、頭の中では時間が押していることに焦る。

「それでねぇ、ここがねぇ--」

「はいはい、それではこちらを処方しておきますね。」

 軽く薬の説明をして加藤さんを診察室から出す。

--それにしてもさっきから連絡用の携帯がうるさいな。

 この時間は〝診察〟にしてたはずなんだけど。

 ピッピッと携帯を操作して履歴を遡る。
 見てみると履歴には、同じ携帯からの連絡が何個も来ている。こんなことは滅多にない。あまりの異様さに1周回って冷静になった栗原は、折り返し連絡しようとした。

 そのとき

ピピピピピピピ

 無機質な電子音が携帯から響いた。

--さっきと同じ番号、、、。何があったんだ

ポチッ

「はい、栗原です。」

「>">\*%^;$$\$"_;#」」\-&」?!!!!」

 あまりの慌てっぷりに言葉になっていない声が聞こえてきた。慎重に言葉を理解していく。

「稲場、、さん、3階東エレベーター、、?」

 聞き取れたのはその部分だけ。

--とりあえず向かうしかない。

 〝エレベーター〟か。きっと精神科に行くところだったんだろう。冷静にそう考えるが、焦るように急いでいた。






--初めて稲場さんを見た時…、

 目の下にできた隈、かすかに震える手、そして首にある絞められた痕。それはまだ新しくて、彼がどんなに助けを求めているのか、誰もがひと目で分かった。 

 いつもなら作り笑いをする。高い技術と少しの愛嬌。それが医者に求められるものだから。だから〝は〝優しいお医者さん〟を演じる。

 でも稲場さんの前ではできなかった。

 あまりにも純粋に真っ直ぐ、助けを求めてきたから。

 一つ一つ丁寧に診察していく。心臓の動き、呼吸、喉。そして首の痕。彼が壊れないように、優しく優しく触る。

--酷いな。かなりの力じゃないか。

 きっと男友達か、知人と喧嘩でもしたのだろう。そして多分引っ込みがつかなくなって、手を出された、のかな。今のところは。

 でもただの喧嘩でここまで怯えるか…?彼は今にも泣き出しそうじゃないか。

 そして聞いてみる。知りたくて。
 いや、検診のため知る必要があった。

「稲場さん、無理にとは言いません。…教えてくださいますか?」

 いつもより優しく、子供に言い聞かせるみたいに。

「--実は…」





 彼が教えてくれたのはとんでもないことだった。上京した時にお世話になった人と付き合ってたけど、二股をかけられていた。都合のいい男として扱われていたけど、好きだから耐えていた。
 そして、妊娠したから一方的に別れられた。

 〝妊娠〟

 言わずとも分かった。彼は男と付き合っていたのだ。その男に別れる際首を絞められたのだろう。

 はその男に怒りを覚えた。

 彼が二股をかけられる理由も、傷つく理由も、何も無いのだ。彼を助けたい。

「それじゃあ、、どうして首の痕をつけられたのか、教えて頂けますか?」

 助けたいと、その一心で何も考えずに聞いてしまった。

 その結果、彼をパニックにし気絶させるまでに至らしてしまった。彼の傷は周りが思っている以上に深かったのだ。

 気絶した彼をベッドに運び治療する。治療と言っても、首に塗り薬を塗って包帯を巻くことしか出来なかったが。
 いつもと同じなのに、医者でありながらどうすることもできない自分が歯痒い。





--どうして。

 1時間以上経ってようやく目が覚めた彼。そしてそんな彼と話をしたこと。
 たまたま寄ったコンビニでおにぎりを持った彼に会ったこと。
 そこで検査の話をしたこと。
 診察したこと。
 挨拶を交わしたこと。

 全てを思い出しながら彼のいる所へ向かう。

--こんなに俺は焦ってるんだ。

 予期せぬ異常事態。

 これは今回だけでなく、いつもでも起こりうること。そう分かってるはずなのに。いつもなら焦らない。冷静に、ただ淡々と自分に仕事を処理していくだけ。

 なのに

 会ったばかりの彼のことになると、どうしても冷静でいられない自分がいた。

 早く彼に会わなければ。彼を助けられるのは自分しかいない。




「うああぁああ、、あぁああ!!!」

エレベーターに近づいていく度に大きくなる声。

「稲場さん!!しっかり!!」

「稲場さん!!!」

 そしてそれに負けじと声を張り、彼を収めようとする声たち。

コツコツ

 足音を鳴らし、地面に丸くなり泣き叫ぶ彼に近寄る。


「稲場さん、遅くなってごめんね。」


 俺が助けるよ。






━━━━━━━━━━━━━

この回でも受けは攻めの名前しれなかったー!!誤算です!!!!次の回で!!翔太は栗原の名前を知ります!(たぶん)

お気に入り数400↑ありがとうございます(;;)
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