40 / 91
第二章
第十一話
しおりを挟む
「よく来てくれたね。みんな疲れてるから、マッサージ中心に頼むよ。腰の痛みを訴えてる生徒もいるから、湿布もよろしくだよ。」
魔冥途は、恭しく教師桃羅の前で跪いている。
魔冥途たちは、ぴったりフィットした薄いピンクのナース服を忙しげに揺らしながら、女子生徒たちにスポーツドリンクを配っている。
「また取られたちゃったよぉ。本当に治してほしいのは、おふくたちなのにぃ。」
悔しそうにジャージの袖を噛む福禄寿。他の神様牛たちも恨めしげに魔冥途を見やっている。
「鬼、いや魔冥途たちはこんなに役立つのに、どうして神様牛って、穀潰しばかりなのかなあ。本当、この世に存在していることも無駄だよね。家庭用ゴミとして捨てられる日が待ち遠しいよ。次の選挙では、それを法律化する政党が勝っちゃうかもね。」
女子生徒たちへの諸々の癒しサービスを終えた魔冥途たちは再び凧に乗り込んで帰って行った。それを呆然と見ていた大悟と楡浬。
「鬼たちって、魔冥途と呼ばれてますわね。その字の当て方は、何か悪いことをする者に対する侮蔑的な表現だと思いますけど、やってることは完全に慈善事業ですわ。そんな相手に悪い字を当てるでしょうか。何か変だと思いませんか。楡浬様。」
「そうねえ。アタシも奇妙に感じるわ。第一、このアタシが馬嫁下女のメイド神になってること自体、天と地がひっくり返ってもあり得ないことなのに。いったいどうしたことかしら。」
「そう言えばその名前、いつからそんな風に呼ばれてるのでしょうか。それに、オレがこんな言葉使いになってること自体おかしいですわ。オレは桃羅の姉というよりは別の存在だったような。それに、あまたの女子の垂涎の的である巨乳が、無用長物に思えて仕方ありませんわ。」
(やっとその疑問に届いたのう。今の大脳では思い出せないのは無理もないのじゃ。だから、考えるのではなく、心の眼を開いて見せよ。そのための訓練はすでにやったはずじゃ。)
(誰ですの?外部に発信する言葉じゃないんだから、自分の脳内ワードで行くぞ。改めて、誰だ?聞き覚えがある声だぞ。)
(聞き覚えじゃと。情けないのう。絶世の美少女である、このババのことをその程度しか覚えていないとは。)
(ババ!?この前にもオレに話しかけてきたクラスメイトの婆さんか。)
(婆さん言うな。『このババ』というのは謙譲語であることぐらい推測するんじゃ。このババは、周りの神からは、『近頃の若い子は』と褒められてるんじゃぞ。)
(それは出来の悪い若者に対する侮蔑の言葉だぞ。)
(余計なツッコミを入れるな。それよりも、もっと大事なことをおぬしは忘れておるだろう。おぬしの命と引き換えに隣にいる神見習いがおるじゃろう。そいつとナニかをするのが目的であり、問題解決の方法じゃなかったのか。)
(ナニか?いかにも猥雑なことを連想されるカタカナだな。)
(バカ言うでない。そういうところは元不健全男子であることの証明じゃな。まだ復帰可能性を残しておる証拠じゃな。あとは自分で考えるんじゃな。)
(ちょっと待ってくれ。そこまで言えるあんたこそ、真の神様だよな。だったら神痛力で何とでもなるんじゃないのか。)
(それがどうしてか、何もできないのじゃ。頭で理解していることを具現化することがなぜかできない。主体的な行動をしようとしても、からだが不自然に変な方向に行ってしまうのじゃ。馬人間どもの言うことも聞きたくないし、反撃もしたいところじゃが、なぜかからだが言うことを聞かないんじゃ。それはほかの神も同じ。ただ、以前にいたところとは違う世界にいると明確に認識しているのはこの通信の中だけじゃ。言いたいことは以上じゃ。)
オヨメ姉と寿老人との脳内通信は切れた。オヨメ姉は顎に手を当ててしばらく思考を巡らしていた。
魔冥途は、恭しく教師桃羅の前で跪いている。
魔冥途たちは、ぴったりフィットした薄いピンクのナース服を忙しげに揺らしながら、女子生徒たちにスポーツドリンクを配っている。
「また取られたちゃったよぉ。本当に治してほしいのは、おふくたちなのにぃ。」
悔しそうにジャージの袖を噛む福禄寿。他の神様牛たちも恨めしげに魔冥途を見やっている。
「鬼、いや魔冥途たちはこんなに役立つのに、どうして神様牛って、穀潰しばかりなのかなあ。本当、この世に存在していることも無駄だよね。家庭用ゴミとして捨てられる日が待ち遠しいよ。次の選挙では、それを法律化する政党が勝っちゃうかもね。」
女子生徒たちへの諸々の癒しサービスを終えた魔冥途たちは再び凧に乗り込んで帰って行った。それを呆然と見ていた大悟と楡浬。
「鬼たちって、魔冥途と呼ばれてますわね。その字の当て方は、何か悪いことをする者に対する侮蔑的な表現だと思いますけど、やってることは完全に慈善事業ですわ。そんな相手に悪い字を当てるでしょうか。何か変だと思いませんか。楡浬様。」
「そうねえ。アタシも奇妙に感じるわ。第一、このアタシが馬嫁下女のメイド神になってること自体、天と地がひっくり返ってもあり得ないことなのに。いったいどうしたことかしら。」
「そう言えばその名前、いつからそんな風に呼ばれてるのでしょうか。それに、オレがこんな言葉使いになってること自体おかしいですわ。オレは桃羅の姉というよりは別の存在だったような。それに、あまたの女子の垂涎の的である巨乳が、無用長物に思えて仕方ありませんわ。」
(やっとその疑問に届いたのう。今の大脳では思い出せないのは無理もないのじゃ。だから、考えるのではなく、心の眼を開いて見せよ。そのための訓練はすでにやったはずじゃ。)
(誰ですの?外部に発信する言葉じゃないんだから、自分の脳内ワードで行くぞ。改めて、誰だ?聞き覚えがある声だぞ。)
(聞き覚えじゃと。情けないのう。絶世の美少女である、このババのことをその程度しか覚えていないとは。)
(ババ!?この前にもオレに話しかけてきたクラスメイトの婆さんか。)
(婆さん言うな。『このババ』というのは謙譲語であることぐらい推測するんじゃ。このババは、周りの神からは、『近頃の若い子は』と褒められてるんじゃぞ。)
(それは出来の悪い若者に対する侮蔑の言葉だぞ。)
(余計なツッコミを入れるな。それよりも、もっと大事なことをおぬしは忘れておるだろう。おぬしの命と引き換えに隣にいる神見習いがおるじゃろう。そいつとナニかをするのが目的であり、問題解決の方法じゃなかったのか。)
(ナニか?いかにも猥雑なことを連想されるカタカナだな。)
(バカ言うでない。そういうところは元不健全男子であることの証明じゃな。まだ復帰可能性を残しておる証拠じゃな。あとは自分で考えるんじゃな。)
(ちょっと待ってくれ。そこまで言えるあんたこそ、真の神様だよな。だったら神痛力で何とでもなるんじゃないのか。)
(それがどうしてか、何もできないのじゃ。頭で理解していることを具現化することがなぜかできない。主体的な行動をしようとしても、からだが不自然に変な方向に行ってしまうのじゃ。馬人間どもの言うことも聞きたくないし、反撃もしたいところじゃが、なぜかからだが言うことを聞かないんじゃ。それはほかの神も同じ。ただ、以前にいたところとは違う世界にいると明確に認識しているのはこの通信の中だけじゃ。言いたいことは以上じゃ。)
オヨメ姉と寿老人との脳内通信は切れた。オヨメ姉は顎に手を当ててしばらく思考を巡らしていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい
四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』
孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。
しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。
ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、
「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。
この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。
他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。
だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。
更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。
親友以上恋人未満。
これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる