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第一章

第六部分

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その出来事に、ひとつ補足がある。
「光葉さん!?」
僕の横には音もなく光葉が立っていた。
「わたしなら、まっすぐなトラックで、もっと速く走れるんだけど。」
「そ、そうだね。」
僕が、冷や汗が流れてきたのを感じた時、光葉さんの姿はなかった。

光葉さんについても日常的に、同じようなひどい目に遭わされていた。
ある時、光葉さんとふたりで、夜にふたりで歩いていた。どうして夜に出歩いていたのか、記憶がハッキリしていなんだ。多分、その後にあった出来事にショックを受けたからだろうと思う。
片側二車線の道路を歩いていると、光葉さんがいきなり僕を突き飛ばしたんだ。その直後に車が僕の背中を通り過ぎた。コンマ数秒でもズレてたら、間違いなく僕は車に跳ねられていた。
もうそのあとは腰が抜けて歩けなかった。そこから先は記憶がない。僕はいったいどうやって家に帰ったのだろう。とにかくブルブルという震えが止まらなかったことしか、記憶にないんだ。

課外授業の日の夜、湖線は絵のことがうまくいって上機嫌だった。
「ワタクシは、今日は助けられましたけど、助けたこともありましたわ。」
ふと昔のことを思い出した。
ワタクシはあの時、鰯司さんを運動場に掘られた穴から救ったのですわ。
悪い子たちがイタズラで、落とし穴を開けて、そこをビニールと砂で隠した。鰯司さんがライン引きでそこにカーブする白線をひくという指示でしたわ。
鰯司さんは穴に気づかずに、曲線を引こうとした時、ワタクシがすんでのところで救いましたの。先生は、鰯司さんにケガがなかったか、真剣に問い質していて、まるで怒ってるかのようでしたわね。
鰯司さんが白線を引いてる最中に先生に事情を話したのは正解でした。あのあと、いたずらした子たちはひどく叱られてましたわ。今思い出しても、ワタクシは救世主ですわね。ウフフ。
満足げに右の頬を撫でた湖線。
ここにもうひとつ、鰯司の知らない補足がある。
「湖線め~。わたしなら、鰯司をあんな危険な目に遇わせたりしないのに。」
電柱の影でこぶしを握り締める光葉がいた。
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