4 / 85
第一章
第四部分
しおりを挟む
「こ、こわい。僕、遅刻したことは悪いことと思ってるけど、湖線さん、光葉さんに何か迷惑なことしたのなら、謝るよ。」
「それが遅刻した人間のセリフですの!」
「校則違反した生徒に、人権はないよ!」
「ひえええ!」
鰯司はからだをダンゴムシのように丸くして、首をすぼめるしかなかった。
1分ほどの沈黙があり、ふたりが何も言わないことを確認して、鰯司は課題であるビルの写生を始めた。
からだが光輝く。それまでの直射日光とはまったく別の優しい光である。
鰯司をじっと見つめていた湖線は、カッと目を見開いた。
「ああ、腕が自然に動きますわ。これならまっすぐな線も軽々と引けますわ!」
光葉もサンバイザーの鍔を左右に動かして、自分の状態を確かめた。
「眩しさを感じない。目が生き返った気分だ。これなら絵に集中できるぞ。スケッチブックに気持ちをぶつけてやる!」
ふたりとも、鉛筆を持っている手がスラスラと稼働して、真っ白だった画用紙を見事な直線美が埋め尽くしていく。やがて、見事なビル街風景画が完成した。鰯司がやってきて、絵が完成したということである。
「鰯司さん。ワタクシ、課題ができましたわ。今日は我が家で、盛大なパーティーで、この慶事をお祝いしますわ!」
「鰯司よ。ついにわたしの絵が完成したよ。腐った沈殿物からレアメタルを発見した気分だよ!」
「「わ~い!」」
湖線と光葉は手を取り合って歓喜に弾んだ。
「「はっ。」」
ふたりは冷静になり、ソッコーで分離した。
「どうして、光葉さんと一緒に喜ぶ必要がありまして?」
「こっちだって、そうだよ。湖線と喜びを分かち合うシュミはないよ。」
お互いに背を向けて、以後は無言劇となった。
ふたりは課題を見事に成し遂げた。教師の採点はふたりとも120点であった。
鰯司は生徒全員が帰宅した後も、現地に残っていた。
「夕日がきれいだなぁ。いや夕日オンリーだね。うう。」
無論、夕暮れの街を楽しんでいるのではない。鰯司は勢いがあったのは最初だけで、絵完成しなかった。結果、絵の評価は零点だった。いつもの光景である。
「それが遅刻した人間のセリフですの!」
「校則違反した生徒に、人権はないよ!」
「ひえええ!」
鰯司はからだをダンゴムシのように丸くして、首をすぼめるしかなかった。
1分ほどの沈黙があり、ふたりが何も言わないことを確認して、鰯司は課題であるビルの写生を始めた。
からだが光輝く。それまでの直射日光とはまったく別の優しい光である。
鰯司をじっと見つめていた湖線は、カッと目を見開いた。
「ああ、腕が自然に動きますわ。これならまっすぐな線も軽々と引けますわ!」
光葉もサンバイザーの鍔を左右に動かして、自分の状態を確かめた。
「眩しさを感じない。目が生き返った気分だ。これなら絵に集中できるぞ。スケッチブックに気持ちをぶつけてやる!」
ふたりとも、鉛筆を持っている手がスラスラと稼働して、真っ白だった画用紙を見事な直線美が埋め尽くしていく。やがて、見事なビル街風景画が完成した。鰯司がやってきて、絵が完成したということである。
「鰯司さん。ワタクシ、課題ができましたわ。今日は我が家で、盛大なパーティーで、この慶事をお祝いしますわ!」
「鰯司よ。ついにわたしの絵が完成したよ。腐った沈殿物からレアメタルを発見した気分だよ!」
「「わ~い!」」
湖線と光葉は手を取り合って歓喜に弾んだ。
「「はっ。」」
ふたりは冷静になり、ソッコーで分離した。
「どうして、光葉さんと一緒に喜ぶ必要がありまして?」
「こっちだって、そうだよ。湖線と喜びを分かち合うシュミはないよ。」
お互いに背を向けて、以後は無言劇となった。
ふたりは課題を見事に成し遂げた。教師の採点はふたりとも120点であった。
鰯司は生徒全員が帰宅した後も、現地に残っていた。
「夕日がきれいだなぁ。いや夕日オンリーだね。うう。」
無論、夕暮れの街を楽しんでいるのではない。鰯司は勢いがあったのは最初だけで、絵完成しなかった。結果、絵の評価は零点だった。いつもの光景である。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです
もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。
この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ
知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ
しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる