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後輩の幸せが憎たらしい女 4

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「ちょっと、佐々木さん、会議室に出すお茶の準備をしておくように言っていたでしょ?」

「そうよ。全然出来てないじゃない! あなた最近、たるんでない? 結婚が決まったからって遊んでないでよ。お給料もらってるんでしょう。ちゃんとやって!」

「専業主婦になるんですって? いいわね。うらやまし。そうよね。出世しそうな男子社員を捕まえたんだもの。働くなんてばかばかしいわよね」

「青島さんも貧乏くじ引いたんじゃないの? お茶くみ一つ出来ない子と結婚なんて」

 クスクスクスクスと笑う声がする。
 ゲラゲラゲラとも聞こえる。
 裕子はいたたまれなくなって、その場から去った。
 だが笑い声だけがどこまでも追いかけてくる。
 クスクスクスクスと聞こえる。
 ゲラゲラゲラと聞こえる。




「佐々木さん」
「え? あ、はい何でしょう?」
 コピー機の前でぼんやりと考え込んでいた裕子は振り返ったw。
「使いますか? すみません」
 自分の分はすでに必要数だけコピーは終わっていた。
 慌てて出力の終わったコピー用紙を回収しようとしてから、それをばらばらと床にばらまいてしまう。
「す、すみません」
「あなた、大丈夫なの?」
 ばらまいたコピー用紙を一緒に拾ってくれたのは、主任の松原貴美子だった。
 四十半ばで独身、身ぎれいにしているし仕事も出来る。
 しかし女子社員を束ねる立場にある為か、厳しい物の言い方をする。
 品のないセクハラ部長へも厳しくやっつけるので頼もしいが、嫌われれば容赦ないので恐れられている。
「あ、はい、すみません……」
 コピー機の上で用紙を揃えて行こうとした裕子に貴美子は小声で、
「あなた、噂になってるわよ」
 と言い、裕子が目を見張ると続けて、
「西山沙也佳には気をつけてね」
 と言って、きびきびと抱えていた書類をコピー機に設置した。
「どういう……意味でしょうか」
「彼女、あなたが思ってるほど親切な人間じゃないし、ため息ばかりついてても事態はどうにもならないわよ? メソメソしてる暇があったら、行動しなさいよ」
「行動?」
 貴美子は呆れたような、哀れむような顔で裕子を見た。
「私は自分が真実を知りたい派だから、あなたはどうなのかしら? 私の忠告はあなたには大きなお世話かもしれないわ」
 裕子はごくりとつばを飲み込んだ。
「教えて……下さい」
「西山沙也佳の事をほんの少し疑いなさい。一歩引いて、彼女を見なさい。それで信頼に足ると判断するならそれでいいわ。もう少し、彼女の事を客観的に見たらいいと思うの」
 貴美子がそう言っている間にコピー機は仕事を終えていたので、彼女はコピー用紙を集めせかせかと去って行った。
 残された裕子は呆然とした顔で貴美子を見送った。
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