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呪いの言葉

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「許せないのならどうなさいますの? 私をここから追い出す権限はあなたにはないですけど、あなたにお引き取りいただく権限は女主人である私にはあるんですよ」
 そう言うとレオーナの振り上げた拳がぶるぶると目に見えて震え、顔は怒りで恐ろしく歪んでいた。
「お前などガイラスに相応しくないわ」
「あなたにどう思われても構いませんわ。ウエールズ侯爵家の女主人を決めるのはガイラス様ですから。あの方の側にいることを許すのもガイラス様だけですわ。だいたい二十年も親交がなく、あの方が醜い死神将軍と噂されていた時は寄りつきもしなかったのでしょう? 今更擦り寄ってこられてもガイラス様もお困りですわ。あなたはあなたでベルモント家の御当主をお迎えになられれば良いじゃありませんか。ノイル様なら大賛成ですわ」
 
 長年、レオーナに婿が来ない、ベルモント侯爵家の当主という旨味を考えても、縁遠いのは彼女の容姿と性格によるものなのは確かだと思う。
 彼女は婿を迎えてても、きっと自分が手綱を握って支配したがるだろうから。
「レオーナ様、あなたにはあなたにお似合いの方がきっといらっしゃいますわ。そもそもガイラス様と私はもう大聖堂で誓いをいたしまして、新しい家族となったのですから、あなたが入り込む隙はありません」
 
 その時、
「奥様、ベルモント家の方が到着されました」
 と第二執事のサイモンが入ってきて言った。
 レオーナが呼び寄せたという使用人達だろう。
「レオーナ様はもうお帰りになるから、そのまま馬車で待機していただいて」 
「かしこまりました」
 サイモンはまだ若い執事で丁寧に頭を下げた。

 レオーナは歪んだ土色になった顔で唇を噛みしめていたが震える声で、
「この私に何をしたのか、お前は身を持って知る事になるわ。落ちぶれた姿でこの屋敷を泣きながら出て行く姿が私には見える」
 と呟いた。
 何をしたかと言われても、帰って下さいと言っただけなのに。

「レオーナ様、そんな事を口走ってはいけないわ。あなたは今、呪いの言葉を口にしたのですよ」
「それがどうした!」
 レオーナの目は血走り、つり上がり、私をひどく憎んでいるような感情を宿していた。
 レオーナに魔力などなく、それがただの被害妄想だとは分かっているけど、それは案外バカにしたものではない。病んだ心は闇を呼び、そして穢れを好む者達を呼び寄せる。
 それは悪霊だったり、魔の一族だったりするのだ。
 その筆頭が侯爵が戦っている死霊王だというのに。

「お前みたいな女をガイラスの妻、このウエールズ侯爵家の女主人となど認めない……お前が泣いて跪いて謝罪しても、私はお前を我が一族に相応しいとは認めない。ガイラスが何と言おうと、お前を排除する!」
 レオーナはそう言ってぎりぎりと歯ぎしりをした。

「お姉様、無茶な事を……さあ、帰りましょう」
 そこへサンドラ入って来て、レオーナの腕を取った。
「触るな!」
 レオーナはサンドラの手をはたき落とし、彼女を睨んだ。
 それでもサンドラは優しく微笑み、
「お姉様、私も一緒に家に戻りますから、さぁ」
 と言った。
「サンドラ様、あなたは戻らなくてもいいじゃありませんか。また」
 いじめられるわよ、という言葉だけは飲み込んだが、それは明らかだった。
「ええ、お姉様を送ったらまたこちらへ戻りますわ。私も責任ある仕事がありますし、そう留守には出来ませんもの」
 と言ってサンドラは笑った。

 そしてレオーナとサンドラはベルモント家の馬車に乗って帰って行った。
 レオーナが素直に帰って行ったのは諦めたわけではなく、私を追い落とす何かしらの算段があるからだろう。ベルモント侯爵家の権力をフル稼働して私をここから追い出し、自分がこの屋敷の女主人になるべく画策があるのかもしれない。

 ちょっと面倒くさい。
 侯爵が戻ったら、ノイルをベルモント家への婿にと相談してみよう。
 ノイルは金髪で碧眼でぱっと見は美青年だ。
 働いてないからか、全体的にはだらしない感じはするがお飾りの当主にはいいと思う。
 レオーナが女性の平均的身長をかなりオーバーしノイルよりもゴツい体つきだけど、似合わないこともないし。
 多分。
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