51 / 81
呪いの言葉
しおりを挟む
「許せないのならどうなさいますの? 私をここから追い出す権限はあなたにはないですけど、あなたにお引き取りいただく権限は女主人である私にはあるんですよ」
そう言うとレオーナの振り上げた拳がぶるぶると目に見えて震え、顔は怒りで恐ろしく歪んでいた。
「お前などガイラスに相応しくないわ」
「あなたにどう思われても構いませんわ。ウエールズ侯爵家の女主人を決めるのはガイラス様ですから。あの方の側にいることを許すのもガイラス様だけですわ。だいたい二十年も親交がなく、あの方が醜い死神将軍と噂されていた時は寄りつきもしなかったのでしょう? 今更擦り寄ってこられてもガイラス様もお困りですわ。あなたはあなたでベルモント家の御当主をお迎えになられれば良いじゃありませんか。ノイル様なら大賛成ですわ」
長年、レオーナに婿が来ない、ベルモント侯爵家の当主という旨味を考えても、縁遠いのは彼女の容姿と性格によるものなのは確かだと思う。
彼女は婿を迎えてても、きっと自分が手綱を握って支配したがるだろうから。
「レオーナ様、あなたにはあなたにお似合いの方がきっといらっしゃいますわ。そもそもガイラス様と私はもう大聖堂で誓いをいたしまして、新しい家族となったのですから、あなたが入り込む隙はありません」
その時、
「奥様、ベルモント家の方が到着されました」
と第二執事のサイモンが入ってきて言った。
レオーナが呼び寄せたという使用人達だろう。
「レオーナ様はもうお帰りになるから、そのまま馬車で待機していただいて」
「かしこまりました」
サイモンはまだ若い執事で丁寧に頭を下げた。
レオーナは歪んだ土色になった顔で唇を噛みしめていたが震える声で、
「この私に何をしたのか、お前は身を持って知る事になるわ。落ちぶれた姿でこの屋敷を泣きながら出て行く姿が私には見える」
と呟いた。
何をしたかと言われても、帰って下さいと言っただけなのに。
「レオーナ様、そんな事を口走ってはいけないわ。あなたは今、呪いの言葉を口にしたのですよ」
「それがどうした!」
レオーナの目は血走り、つり上がり、私をひどく憎んでいるような感情を宿していた。
レオーナに魔力などなく、それがただの被害妄想だとは分かっているけど、それは案外バカにしたものではない。病んだ心は闇を呼び、そして穢れを好む者達を呼び寄せる。
それは悪霊だったり、魔の一族だったりするのだ。
その筆頭が侯爵が戦っている死霊王だというのに。
「お前みたいな女をガイラスの妻、このウエールズ侯爵家の女主人となど認めない……お前が泣いて跪いて謝罪しても、私はお前を我が一族に相応しいとは認めない。ガイラスが何と言おうと、お前を排除する!」
レオーナはそう言ってぎりぎりと歯ぎしりをした。
「お姉様、無茶な事を……さあ、帰りましょう」
そこへサンドラ入って来て、レオーナの腕を取った。
「触るな!」
レオーナはサンドラの手をはたき落とし、彼女を睨んだ。
それでもサンドラは優しく微笑み、
「お姉様、私も一緒に家に戻りますから、さぁ」
と言った。
「サンドラ様、あなたは戻らなくてもいいじゃありませんか。また」
いじめられるわよ、という言葉だけは飲み込んだが、それは明らかだった。
「ええ、お姉様を送ったらまたこちらへ戻りますわ。私も責任ある仕事がありますし、そう留守には出来ませんもの」
と言ってサンドラは笑った。
そしてレオーナとサンドラはベルモント家の馬車に乗って帰って行った。
レオーナが素直に帰って行ったのは諦めたわけではなく、私を追い落とす何かしらの算段があるからだろう。ベルモント侯爵家の権力をフル稼働して私をここから追い出し、自分がこの屋敷の女主人になるべく画策があるのかもしれない。
ちょっと面倒くさい。
侯爵が戻ったら、ノイルをベルモント家への婿にと相談してみよう。
ノイルは金髪で碧眼でぱっと見は美青年だ。
働いてないからか、全体的にはだらしない感じはするがお飾りの当主にはいいと思う。
レオーナが女性の平均的身長をかなりオーバーしノイルよりもゴツい体つきだけど、似合わないこともないし。
多分。
そう言うとレオーナの振り上げた拳がぶるぶると目に見えて震え、顔は怒りで恐ろしく歪んでいた。
「お前などガイラスに相応しくないわ」
「あなたにどう思われても構いませんわ。ウエールズ侯爵家の女主人を決めるのはガイラス様ですから。あの方の側にいることを許すのもガイラス様だけですわ。だいたい二十年も親交がなく、あの方が醜い死神将軍と噂されていた時は寄りつきもしなかったのでしょう? 今更擦り寄ってこられてもガイラス様もお困りですわ。あなたはあなたでベルモント家の御当主をお迎えになられれば良いじゃありませんか。ノイル様なら大賛成ですわ」
長年、レオーナに婿が来ない、ベルモント侯爵家の当主という旨味を考えても、縁遠いのは彼女の容姿と性格によるものなのは確かだと思う。
彼女は婿を迎えてても、きっと自分が手綱を握って支配したがるだろうから。
「レオーナ様、あなたにはあなたにお似合いの方がきっといらっしゃいますわ。そもそもガイラス様と私はもう大聖堂で誓いをいたしまして、新しい家族となったのですから、あなたが入り込む隙はありません」
その時、
「奥様、ベルモント家の方が到着されました」
と第二執事のサイモンが入ってきて言った。
レオーナが呼び寄せたという使用人達だろう。
「レオーナ様はもうお帰りになるから、そのまま馬車で待機していただいて」
「かしこまりました」
サイモンはまだ若い執事で丁寧に頭を下げた。
レオーナは歪んだ土色になった顔で唇を噛みしめていたが震える声で、
「この私に何をしたのか、お前は身を持って知る事になるわ。落ちぶれた姿でこの屋敷を泣きながら出て行く姿が私には見える」
と呟いた。
何をしたかと言われても、帰って下さいと言っただけなのに。
「レオーナ様、そんな事を口走ってはいけないわ。あなたは今、呪いの言葉を口にしたのですよ」
「それがどうした!」
レオーナの目は血走り、つり上がり、私をひどく憎んでいるような感情を宿していた。
レオーナに魔力などなく、それがただの被害妄想だとは分かっているけど、それは案外バカにしたものではない。病んだ心は闇を呼び、そして穢れを好む者達を呼び寄せる。
それは悪霊だったり、魔の一族だったりするのだ。
その筆頭が侯爵が戦っている死霊王だというのに。
「お前みたいな女をガイラスの妻、このウエールズ侯爵家の女主人となど認めない……お前が泣いて跪いて謝罪しても、私はお前を我が一族に相応しいとは認めない。ガイラスが何と言おうと、お前を排除する!」
レオーナはそう言ってぎりぎりと歯ぎしりをした。
「お姉様、無茶な事を……さあ、帰りましょう」
そこへサンドラ入って来て、レオーナの腕を取った。
「触るな!」
レオーナはサンドラの手をはたき落とし、彼女を睨んだ。
それでもサンドラは優しく微笑み、
「お姉様、私も一緒に家に戻りますから、さぁ」
と言った。
「サンドラ様、あなたは戻らなくてもいいじゃありませんか。また」
いじめられるわよ、という言葉だけは飲み込んだが、それは明らかだった。
「ええ、お姉様を送ったらまたこちらへ戻りますわ。私も責任ある仕事がありますし、そう留守には出来ませんもの」
と言ってサンドラは笑った。
そしてレオーナとサンドラはベルモント家の馬車に乗って帰って行った。
レオーナが素直に帰って行ったのは諦めたわけではなく、私を追い落とす何かしらの算段があるからだろう。ベルモント侯爵家の権力をフル稼働して私をここから追い出し、自分がこの屋敷の女主人になるべく画策があるのかもしれない。
ちょっと面倒くさい。
侯爵が戻ったら、ノイルをベルモント家への婿にと相談してみよう。
ノイルは金髪で碧眼でぱっと見は美青年だ。
働いてないからか、全体的にはだらしない感じはするがお飾りの当主にはいいと思う。
レオーナが女性の平均的身長をかなりオーバーしノイルよりもゴツい体つきだけど、似合わないこともないし。
多分。
4
お気に入りに追加
1,252
あなたにおすすめの小説
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる