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おっさん視点
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わしの名前はダゴン・A・ウイン。
失礼な事にリリアンはわしらの事を「おっさん」と呼んでいるが、まあそんな事はどうでもええ。
わしらは長い間、ローズデール伯爵家を見守ってきて、そこに生まれる魔術師を導く者として存在してきた。弟が二人いてデゴンとドゴン、今はリリちゃんについてメイドを助けに行っている。わしがそれに参加しなかった理由は、わしがウイン家の嫡男であるからや。
長男は危険に赴くわけにはいかん。そういう場合は弟達がわしの代わりに行くのが常や。 それが一族の定めであるし、わしは残ってこの場をきっちり裁量する責任がある。
リリちゃんらがメイドのサラを救出しに出かけてから数時間後、ようやくガイラス・ウエールズ侯爵が帰還したわけや。
そこでの一幕やけど、兜を外したガイラスに一同、びっくり仰天したわけや。
そう、オークのように不細工で醜いという噂の侯爵やからな。
わしから見たら、オークも人間もそう変わらんように見えるけどな。
頭に胴体、四肢がある。
ガイラスは人間界ではきっと美男子なんやろう、サンドラもクラリスもぽっと頬を赤らめてたわ。ノイルだけは苦虫を噛んだような顔をしてたけどな。
そんでまあガイラスはリリアン不在を問い、さらに屋敷の中の違和感に全ての報告を家令に求めたわけだが、またこの家令がリリちゃんのおらん隙に自分のええように語ったわけや。
「リリアン様は御者と駆け落ちしました」
とぬかした上にリリちゃんへの罵詈雑言、ノイルもサンドラもクラリスも一緒になって自分らの罪をすべてリリちゃんに押しつけて逃れようとしたわけやが、そうはいかん。
わしはダゴン・A・ウイン。
そんな悪事は見逃すわけにはいかんな。
こんなこったろうと思って、わしが残ったわけやから。
広間で侯爵への偽報告が終わった頃合いを見て、わしはその姿を現した。
「わしはダゴン、リリアンを守護する妖精や。ダゴン・A・ウイン。妖精王ウインの直系の者やと言えば分かるな?」
と言うと、ソファに座ったガイラスの目が大きくなって、わしをじっと見た。
「妖精王ウインの直系? あなたが? 信じられない、この目に妖精が見えるなんて」
と愕然とした表情で侯爵はそう言い、周囲の奴らも口がポカンと開いたり、目をこすったりした。
「魔素を持たんお前らにもわしの姿が見えるやろ? それはリリアンにごっつい量の魔素が隠れてて、今、この屋敷にはリリアンの魔力が溢れてるからや。ガイラス・ウエールズ侯爵、今、あんたが聞いた報告は嘘八百。家令からメイド、コック、そんであんたの弟もその婚約者も、みんなリリアンを馬鹿にして、いじめてた。わしは妖精王ウインの名にかけて嘘は言わん」
わしがそう言うと、名前が出たやつらはこぞって後ろへ下がった。
妖精王ウインはこの国では有名で、魔術師の始祖のような存在や。
妖精を守護に持つ魔術師はそうそうおらん。
妖精は気むずかしいからな、よっぽど気に入ったもんでないと姿を見せんのや。
魔力があっても妖精を見える者の方が少ないと思うで。知らんけど、多分な。
リリアンも長い間、魔素が発現せんし身体も弱いし、このままやろなと思うたらある日突然、魂が変わった。本来のリリアンがどうなったかはわしらも分からん。魂の存在は神の領域やからな。
わしらはガッツがあって元気な今のリリアンも気に入ってるから、変わらず守護してやりたいと思ってる。
「ダゴン殿」
とガイラス侯爵が呼びかけてきた。
「あなたの言うことに嘘はないと信じます。そしてリリアンは今どこへ?」
「そこの家令に追い出されたリリアンのメイドが乗ってる馬車が盗賊に襲われたっちゅう報告があってな、リリアンはこの屋敷で唯一の味方のメイドを見殺しに出来ん、と子飼いのドラゴンに乗って行ってしまったわけや。わしの弟が一緒に行ってるし、なんかあったらすぐ知らせてくると思う」
「そうですか……ドラゴン……を眷属に?」
「そうや、えっとまあいろいろあってな」
「もしかして、そのドラゴンは」
と言いかけるガイラスに、
「リリアンが戻る前に、この始末はどうするつもりや? 侯爵の名を騙る弟とその婚約者、あんたの花嫁をないがしろにして不愉快な思いをさせて。リリアンは優しい子や。飢えたドラゴンや妖精に魔力を分け与えたり、盗賊に襲われたメイドを助ける行動が出来る子や」
と言うと、ガイラスは肯いて、
「グレン!」
と大きな声で名を呼んだ。
「は!」
ドアが開いて、ガイラス付きの騎士が入って来ると、
「ノイルにサンドラ、レイモンド、そしてメイドにコックを漆黒の塔の牢へ入れろ!」
と怒鳴った。
「ええ! 待ってくれよ、兄さん! あの女を遠ざけたのは兄さんの為だ。リリアンは酷い噂だらけの女じゃないか! だから!」
とノイルが悲鳴を上げた。
「それでもお前達に彼女をどうこうする資格はない! 噂だけで……」
とガイラスはいらいらとした声で言った。
それは自分に向けられた言葉やろな、とわしは思った。
失礼な事にリリアンはわしらの事を「おっさん」と呼んでいるが、まあそんな事はどうでもええ。
わしらは長い間、ローズデール伯爵家を見守ってきて、そこに生まれる魔術師を導く者として存在してきた。弟が二人いてデゴンとドゴン、今はリリちゃんについてメイドを助けに行っている。わしがそれに参加しなかった理由は、わしがウイン家の嫡男であるからや。
長男は危険に赴くわけにはいかん。そういう場合は弟達がわしの代わりに行くのが常や。 それが一族の定めであるし、わしは残ってこの場をきっちり裁量する責任がある。
リリちゃんらがメイドのサラを救出しに出かけてから数時間後、ようやくガイラス・ウエールズ侯爵が帰還したわけや。
そこでの一幕やけど、兜を外したガイラスに一同、びっくり仰天したわけや。
そう、オークのように不細工で醜いという噂の侯爵やからな。
わしから見たら、オークも人間もそう変わらんように見えるけどな。
頭に胴体、四肢がある。
ガイラスは人間界ではきっと美男子なんやろう、サンドラもクラリスもぽっと頬を赤らめてたわ。ノイルだけは苦虫を噛んだような顔をしてたけどな。
そんでまあガイラスはリリアン不在を問い、さらに屋敷の中の違和感に全ての報告を家令に求めたわけだが、またこの家令がリリちゃんのおらん隙に自分のええように語ったわけや。
「リリアン様は御者と駆け落ちしました」
とぬかした上にリリちゃんへの罵詈雑言、ノイルもサンドラもクラリスも一緒になって自分らの罪をすべてリリちゃんに押しつけて逃れようとしたわけやが、そうはいかん。
わしはダゴン・A・ウイン。
そんな悪事は見逃すわけにはいかんな。
こんなこったろうと思って、わしが残ったわけやから。
広間で侯爵への偽報告が終わった頃合いを見て、わしはその姿を現した。
「わしはダゴン、リリアンを守護する妖精や。ダゴン・A・ウイン。妖精王ウインの直系の者やと言えば分かるな?」
と言うと、ソファに座ったガイラスの目が大きくなって、わしをじっと見た。
「妖精王ウインの直系? あなたが? 信じられない、この目に妖精が見えるなんて」
と愕然とした表情で侯爵はそう言い、周囲の奴らも口がポカンと開いたり、目をこすったりした。
「魔素を持たんお前らにもわしの姿が見えるやろ? それはリリアンにごっつい量の魔素が隠れてて、今、この屋敷にはリリアンの魔力が溢れてるからや。ガイラス・ウエールズ侯爵、今、あんたが聞いた報告は嘘八百。家令からメイド、コック、そんであんたの弟もその婚約者も、みんなリリアンを馬鹿にして、いじめてた。わしは妖精王ウインの名にかけて嘘は言わん」
わしがそう言うと、名前が出たやつらはこぞって後ろへ下がった。
妖精王ウインはこの国では有名で、魔術師の始祖のような存在や。
妖精を守護に持つ魔術師はそうそうおらん。
妖精は気むずかしいからな、よっぽど気に入ったもんでないと姿を見せんのや。
魔力があっても妖精を見える者の方が少ないと思うで。知らんけど、多分な。
リリアンも長い間、魔素が発現せんし身体も弱いし、このままやろなと思うたらある日突然、魂が変わった。本来のリリアンがどうなったかはわしらも分からん。魂の存在は神の領域やからな。
わしらはガッツがあって元気な今のリリアンも気に入ってるから、変わらず守護してやりたいと思ってる。
「ダゴン殿」
とガイラス侯爵が呼びかけてきた。
「あなたの言うことに嘘はないと信じます。そしてリリアンは今どこへ?」
「そこの家令に追い出されたリリアンのメイドが乗ってる馬車が盗賊に襲われたっちゅう報告があってな、リリアンはこの屋敷で唯一の味方のメイドを見殺しに出来ん、と子飼いのドラゴンに乗って行ってしまったわけや。わしの弟が一緒に行ってるし、なんかあったらすぐ知らせてくると思う」
「そうですか……ドラゴン……を眷属に?」
「そうや、えっとまあいろいろあってな」
「もしかして、そのドラゴンは」
と言いかけるガイラスに、
「リリアンが戻る前に、この始末はどうするつもりや? 侯爵の名を騙る弟とその婚約者、あんたの花嫁をないがしろにして不愉快な思いをさせて。リリアンは優しい子や。飢えたドラゴンや妖精に魔力を分け与えたり、盗賊に襲われたメイドを助ける行動が出来る子や」
と言うと、ガイラスは肯いて、
「グレン!」
と大きな声で名を呼んだ。
「は!」
ドアが開いて、ガイラス付きの騎士が入って来ると、
「ノイルにサンドラ、レイモンド、そしてメイドにコックを漆黒の塔の牢へ入れろ!」
と怒鳴った。
「ええ! 待ってくれよ、兄さん! あの女を遠ざけたのは兄さんの為だ。リリアンは酷い噂だらけの女じゃないか! だから!」
とノイルが悲鳴を上げた。
「それでもお前達に彼女をどうこうする資格はない! 噂だけで……」
とガイラスはいらいらとした声で言った。
それは自分に向けられた言葉やろな、とわしは思った。
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