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「ちっ。やわな野郎だぜ。相手にもならない。苺、よく来たな」
 健吾は汗をぬぐうと、歓迎するように両手を広げた。
「健吾、一体どういう理由で暴走族と喧嘩なんかしたの?」
「理由なんてない。ただ、自分の強さを確認したいだけさ。旅をしてるとな、あちこちの街で今の奴らみたいなのにからまれる。その度にぶっとばしてやるのさ」
 苺は頬を両手でおおった。
「そんな事をして何になるの?」
「別に。自分は強いんだなと思える」
 健吾ははっはっはと笑いながら、テントの中から椅子を出して苺にすすめた。
 苺は持ってきたビールを一本健吾に渡した。
「お、サンキュー。運動をした後はのどが渇く」
 苺は小さなパイプ椅子に座ると、自分もビールを飲んだ。
「大抵の奴が最強だとか何だとか言いやがるが、たいした事はない。俺が本気になりゃあ、ちょろいもんだぜ」
 健吾は草むらにあぐらをかいて座った。
「あんた……変わったね」
「そうかい?」
「昔はそんな腕自慢をして喜ぶような男じゃなかったじゃんか」
「そうか? だが、男は強くなけりゃだめだ。俺はそれが分かったのさ。今の俺はおとなしく黙って耐えているような男じゃない。昔とは違う。俺は強いんだからな」
「あんたはいつだって優しくて……」
「そしてよくいじめられていた。図体ばかりでかいくせに、俺はからしき弱虫だったからな。空手を習っていても俺は戦うのが嫌いだったんだ。だけど、今は違う。俺は強い。俺をばかにする奴は皆、ぶっとばしてやれるんだからな!」
 苺はしばらくの間、何と言っていいか分からなかった。
 健吾は変わってしまっていた。
「苺、お前、男はいるのか?」
「え?」
「まあどっちでもいいけど。なあ、やらせろよ。金がないから、女も抱けないんだ」
 健吾が苺の肩に手をおいた。
「健吾!」
 苺は立ち上がった。
「帰るわ。あんたは変わってしまった。あたしは昔のあんたの方が好きだったわ」
「いつも学校でいじめられていた俺がか? 何もしていないのに、ただ体がでかいからというだけで喧嘩を売られて、殴られていた俺がか?」
「そうよ。いつも図書室で静かに本を読んで、あたしに面白い本を紹介してくれてた健吾がね。捨て犬や猫を拾って帰って、おばさんに怒られていた健吾が好きだったわ。あんたは何の為に旅に出たの? 誰もしらない街で暴走族と喧嘩をして、何が楽しいの。言いたい事があるなら、戦いたい相手がいるならどうして自分の街でそれをやらないの? 誰もあんたの事を知らない街で何をしたって、どうにもならないじゃんか!」
「うるさい!」  
 健吾は苺をひっぱたいた。
 椅子に座っていた苺は草の上に吹っ飛んだ。
 苺は口の中にしょっぱさを感じた。切った箇所から血が出たのだろう。
 それをぺっと吐き出すと、
「あんたは変わったよ。もうあたしの知ってる健吾じゃない」
 と言い、起き上がった。
「帰るわ」
 苺がそう言い、健吾に背を向けると、
「苺!」
 健吾が叫んで、苺を後ろから抱きしめた。そのまま、押し倒される。
「やめてよ! 健吾!」
「うるさい。苺、俺が振りほどけるか? お前と俺、どっちが強いかな」
 苺は必死でもがいた。力には自信があるが、到底男の力にかなうはずがなかった。
 苺の首筋に健吾の荒い息がかかる。
 どうしてこんな事になったんだろう。健吾は優しい男だった。いつだって誰かの心配をしているような男だったのに。
 健吾が乱暴に苺のドレスを引き破った。
「け、健吾!」
「苺! お前だけは俺を分かってくれると思ってた!」
「やめて! 健吾! いやああああ」
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