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薔薇園
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皇太子殿下に婚約破棄された当初は使えないだの、迷惑をかけるなだの言っていた両親がゼキアス様との婚約で手の平を返した。それはもう、素晴らしくつるっと返った。
「よくやったぞ、エアリス、皇太子だろうが第二皇子だろうが、どちらでも良いぞ。王族に嫁ぐのが問題だからな」
「本当に、美しく賢く産んでよかったわ」
と鼻高々の父親と反っくり返り過ぎて、後ろへひっくりコケそうな母親を見るのは悲しいものがある。
「今日はウエールズ侯爵の新居に招待されているのでしょう?」
「はい、お母様」
そうだった。ウエールズ侯爵様が王都に家を買ったそうで、そのお披露目のパーティだったんだ。
ウエールズ侯爵が今まで様騎士団でいらした時は宿舎で過ごされていたそうだ。
そして結婚してウエールズ領へ戻ったそうだけど、やはり何かとこちらでの役目もあり、何日も領地を離れる事もあるそうだ。かといってリリアン様と離れるのも嫌で王都に新居を買ったそうだ。それのお披露目パーティに呼ばれたんだったわ。
タイミング良くゼキアス様が迎えに来たので、ごまをすりすりする両親を置いて出かける事にした。
「素晴らしい邸宅ですね。ウエールズ侯爵」
とぶすっとした感じで私をエスコートしてきたゼキアス様が笑顔で言った。
「ようこそ、ゼキアス様、エアリス様、どうぞこちらへ」
リリアン様自ら庭の薔薇園まで案内していただき、それは素晴らしい花園だった。
薔薇園の中の四阿に腰を下ろし、紅茶を勧められて私達は茶会を楽しんだ。
「領地からこちらへ来る間に滞在するだけにこれだけの邸宅を購入したのですか?」
ゼキアス様の問いも最もだ。
ウエールズ領のお屋敷も凄かったけれど、新たな邸宅も大きくて豪華で庭も広い。
維持するだけでも大変なお金がかかるだろうに。
「ええ、そうです。妻が気持ち良く過ごせるようにと。我が領地は冬が長く寒さも厳しいのです。ですからこちらでしばらく暖かい季節を過ごそうと思いまして」
とガイラス様が言い、リリアン様は笑った。
「領地改革も力を入れてるのでしょう? 留守にして大丈夫なのですか」
「ええ、幸い弟がとても前向きに領地経営に勤めてくれるのですよ。執事も優秀ですし。私が長期に留守にしても大丈夫なのです」
そこへ執事がやってきて新たな来客を告げたので、ガイラス様は立ち去った。
「本当に信じられないくらいなんですのよ。ガイラス様の弟様のノイル様、この間まではとんでもない怠け者でしたのに、ある時、ガイラス様の代理で教会を訪ねたんですけど、その時に子供達に感謝の言葉を貰ったそうですの。それですっかり心を入れ替えて、領地の問題に力を入れてくれるようになりましたの。子供の笑顔は本当に天使の御魂ですわね、と話をしていますの。ノイル様は本当にあれでしたのよ。どこかの国の皇太子くらいにあれでしたわ」
とガイラス様の背中を見送りながら、リリアン様がそう言って紅茶のカップを手にした。
「ぶっ」
とゼキアス様が笑った。
「侯爵夫人、あまり思った事をそのまま言葉にしない方が良いですよ。不敬罪もありますからね」
「あら、不敬罪ならどこかの皇太子妃候補ではなくて? 私のような田舎者の耳にも入ってますのよ?」
「噂ですか」
「ええ、それに……」
「それに?」
「おほほほ。あら? ご本人がお見えですわよ」
リリアン様の視線の先を追うと、薔薇園の入り口からガイラス様を先頭にアレクサンダー様とルミカ嬢がこちらへ来るのが見えた。
「よくやったぞ、エアリス、皇太子だろうが第二皇子だろうが、どちらでも良いぞ。王族に嫁ぐのが問題だからな」
「本当に、美しく賢く産んでよかったわ」
と鼻高々の父親と反っくり返り過ぎて、後ろへひっくりコケそうな母親を見るのは悲しいものがある。
「今日はウエールズ侯爵の新居に招待されているのでしょう?」
「はい、お母様」
そうだった。ウエールズ侯爵様が王都に家を買ったそうで、そのお披露目のパーティだったんだ。
ウエールズ侯爵が今まで様騎士団でいらした時は宿舎で過ごされていたそうだ。
そして結婚してウエールズ領へ戻ったそうだけど、やはり何かとこちらでの役目もあり、何日も領地を離れる事もあるそうだ。かといってリリアン様と離れるのも嫌で王都に新居を買ったそうだ。それのお披露目パーティに呼ばれたんだったわ。
タイミング良くゼキアス様が迎えに来たので、ごまをすりすりする両親を置いて出かける事にした。
「素晴らしい邸宅ですね。ウエールズ侯爵」
とぶすっとした感じで私をエスコートしてきたゼキアス様が笑顔で言った。
「ようこそ、ゼキアス様、エアリス様、どうぞこちらへ」
リリアン様自ら庭の薔薇園まで案内していただき、それは素晴らしい花園だった。
薔薇園の中の四阿に腰を下ろし、紅茶を勧められて私達は茶会を楽しんだ。
「領地からこちらへ来る間に滞在するだけにこれだけの邸宅を購入したのですか?」
ゼキアス様の問いも最もだ。
ウエールズ領のお屋敷も凄かったけれど、新たな邸宅も大きくて豪華で庭も広い。
維持するだけでも大変なお金がかかるだろうに。
「ええ、そうです。妻が気持ち良く過ごせるようにと。我が領地は冬が長く寒さも厳しいのです。ですからこちらでしばらく暖かい季節を過ごそうと思いまして」
とガイラス様が言い、リリアン様は笑った。
「領地改革も力を入れてるのでしょう? 留守にして大丈夫なのですか」
「ええ、幸い弟がとても前向きに領地経営に勤めてくれるのですよ。執事も優秀ですし。私が長期に留守にしても大丈夫なのです」
そこへ執事がやってきて新たな来客を告げたので、ガイラス様は立ち去った。
「本当に信じられないくらいなんですのよ。ガイラス様の弟様のノイル様、この間まではとんでもない怠け者でしたのに、ある時、ガイラス様の代理で教会を訪ねたんですけど、その時に子供達に感謝の言葉を貰ったそうですの。それですっかり心を入れ替えて、領地の問題に力を入れてくれるようになりましたの。子供の笑顔は本当に天使の御魂ですわね、と話をしていますの。ノイル様は本当にあれでしたのよ。どこかの国の皇太子くらいにあれでしたわ」
とガイラス様の背中を見送りながら、リリアン様がそう言って紅茶のカップを手にした。
「ぶっ」
とゼキアス様が笑った。
「侯爵夫人、あまり思った事をそのまま言葉にしない方が良いですよ。不敬罪もありますからね」
「あら、不敬罪ならどこかの皇太子妃候補ではなくて? 私のような田舎者の耳にも入ってますのよ?」
「噂ですか」
「ええ、それに……」
「それに?」
「おほほほ。あら? ご本人がお見えですわよ」
リリアン様の視線の先を追うと、薔薇園の入り口からガイラス様を先頭にアレクサンダー様とルミカ嬢がこちらへ来るのが見えた。
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