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交差する想い
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あたしが腕組みをしてどうしたもんか、と考えていると大きな木の扉が開いてミス・アンバーがワゴンを押して入ってきた。
「恐れ入りますわ。ヴィンセント様」
とミス・アンバーがピンク色の頬でそう言い、開いた木のドアを押さえて彼女の押すワゴンが通れるようにしているのはヴィンセント皇子だった。
皇子はミス・アンバーへこの上もなく優しい笑顔を見せた。
ミス・アンバーも皇子と同じ黒髪で、長身の皇子に釣り合うほどの背丈。何より知的な瞳と生まれ育った貴族階級の育ちの良さがうかがえる。
教養もあり、美しく装えばきっと皇子に似合いの美しい令嬢に。
ふと視線を避けて壁際のガラスを見た。
映っているのは白薔薇のような綺麗なブロンドでもなく、ミス・アンバーのような魅惑的な黒髪でもない、赤い髪の毛。ごわごわして、しかも天然パーマなんでくるくるしてて、寝起きなんかはぼっさりしてて。 いつも髪の毛を結ってくれるメイドのサリーが「こんなに手強い髪質は初めてですわ!」と毎朝、格闘するのだ。
しかもあたし、背が低くてさ、長身のヴィンセント皇子とはバランスが悪いんだよね。 あれぇ? 何でだろう、ローレンス皇子の時はそんな事思ってもみなかったような気がする。
「マリア様、お茶をお持ちしましたわ。ヴィンセント様もご用でこちらにいらしてましたので、お茶にお誘いしましたのよ」
とミス・アンバーが言いながら、書物や小冊子、羽ペンなどを片付け、カチャカチャとカップやティーポットを机の上に置いた。
「あーそう」
ヴィンセント皇子はミス・アンバーに向ける笑顔とは違う笑顔をあたしに見せた。
それはいつもの事だけど、何と言うか、少し皮肉めいたようなからかうような笑顔。
「勉強は捗っているか?」
とヴィンセント皇子があたしの向かいに腰を下ろしながら言った。
「え、ええ、まあ」
「ヴィンセント様、マリア様はとても優秀ですわ。熱心で真面目でいらっしゃいます」
とミス・アンバーがティーカップにお茶を注ぎながら答えた。
それから皇子とあたしの前にカップを置いてから、あたしの前に座った。
ん?
「そうか、無理はしないように、先は長いのだからな」
と皇子が優しい口調で言い、
「そうですわね。出来ることから少しずつですわ。学ぶべき事はたくさんありますもの」
とミス・アンバーが答えた。
何、この図。
図書館で生徒会長と委員長の前に一人で座らされている落ちこぼれ生徒、みたいな構図。
「この図書館はアンバーの家みたいなものでここに収められている書物は全て読んで終わっているそうだから、何でもアンバーに教えてもらうがいい」
「ヴィンセント様、それは大袈裟ですわ。遠い古の国の書物もありますのよ。まだまだ目を通してない本もありますの。それに毎年、増えてますし」
「それは君が出入りの商人を捕まえては新しい本をねだるからだろう。君の剣幕に恐れをなしてグリンデルに立ち入る商人は書物の十冊も持っていないと、取引不可という噂が流れているからだ」
と言って皇子がさもおかしそうに笑った。
「まあ、そんな」
ミス・アンバーは頬を赤らめた。
「本当に君は書物が好きなのだな」
「ええ、だって、新しい事をたくさん教えてもらえるんですもの! この世には知らない事がまだまだたくさんありますわ。私はもっといろいろな事が知りたいのです。行ってみた事のない国、動物、植物、風土、習慣、言語!」
ミス・アンバーは瞳をきらきらさせて早口でそう言った。
なんだこれ。
何であたしが頬を赤く染めたミス・アンバーに優しい瞳を向けるヴィンセント皇子を机のこっち側から眺めてなくちゃならないんだろう。
いやいやいやいや。
深い意味はないよ。
ミス・アンバーは家庭教師で、皇子はあたしの婚約者で、あたしは皇太子妃候補で。
でもこの三人の中で交差してる想いはヴィンセント皇子とミス・アンバーなだけのような気がしたんだ。
「恐れ入りますわ。ヴィンセント様」
とミス・アンバーがピンク色の頬でそう言い、開いた木のドアを押さえて彼女の押すワゴンが通れるようにしているのはヴィンセント皇子だった。
皇子はミス・アンバーへこの上もなく優しい笑顔を見せた。
ミス・アンバーも皇子と同じ黒髪で、長身の皇子に釣り合うほどの背丈。何より知的な瞳と生まれ育った貴族階級の育ちの良さがうかがえる。
教養もあり、美しく装えばきっと皇子に似合いの美しい令嬢に。
ふと視線を避けて壁際のガラスを見た。
映っているのは白薔薇のような綺麗なブロンドでもなく、ミス・アンバーのような魅惑的な黒髪でもない、赤い髪の毛。ごわごわして、しかも天然パーマなんでくるくるしてて、寝起きなんかはぼっさりしてて。 いつも髪の毛を結ってくれるメイドのサリーが「こんなに手強い髪質は初めてですわ!」と毎朝、格闘するのだ。
しかもあたし、背が低くてさ、長身のヴィンセント皇子とはバランスが悪いんだよね。 あれぇ? 何でだろう、ローレンス皇子の時はそんな事思ってもみなかったような気がする。
「マリア様、お茶をお持ちしましたわ。ヴィンセント様もご用でこちらにいらしてましたので、お茶にお誘いしましたのよ」
とミス・アンバーが言いながら、書物や小冊子、羽ペンなどを片付け、カチャカチャとカップやティーポットを机の上に置いた。
「あーそう」
ヴィンセント皇子はミス・アンバーに向ける笑顔とは違う笑顔をあたしに見せた。
それはいつもの事だけど、何と言うか、少し皮肉めいたようなからかうような笑顔。
「勉強は捗っているか?」
とヴィンセント皇子があたしの向かいに腰を下ろしながら言った。
「え、ええ、まあ」
「ヴィンセント様、マリア様はとても優秀ですわ。熱心で真面目でいらっしゃいます」
とミス・アンバーがティーカップにお茶を注ぎながら答えた。
それから皇子とあたしの前にカップを置いてから、あたしの前に座った。
ん?
「そうか、無理はしないように、先は長いのだからな」
と皇子が優しい口調で言い、
「そうですわね。出来ることから少しずつですわ。学ぶべき事はたくさんありますもの」
とミス・アンバーが答えた。
何、この図。
図書館で生徒会長と委員長の前に一人で座らされている落ちこぼれ生徒、みたいな構図。
「この図書館はアンバーの家みたいなものでここに収められている書物は全て読んで終わっているそうだから、何でもアンバーに教えてもらうがいい」
「ヴィンセント様、それは大袈裟ですわ。遠い古の国の書物もありますのよ。まだまだ目を通してない本もありますの。それに毎年、増えてますし」
「それは君が出入りの商人を捕まえては新しい本をねだるからだろう。君の剣幕に恐れをなしてグリンデルに立ち入る商人は書物の十冊も持っていないと、取引不可という噂が流れているからだ」
と言って皇子がさもおかしそうに笑った。
「まあ、そんな」
ミス・アンバーは頬を赤らめた。
「本当に君は書物が好きなのだな」
「ええ、だって、新しい事をたくさん教えてもらえるんですもの! この世には知らない事がまだまだたくさんありますわ。私はもっといろいろな事が知りたいのです。行ってみた事のない国、動物、植物、風土、習慣、言語!」
ミス・アンバーは瞳をきらきらさせて早口でそう言った。
なんだこれ。
何であたしが頬を赤く染めたミス・アンバーに優しい瞳を向けるヴィンセント皇子を机のこっち側から眺めてなくちゃならないんだろう。
いやいやいやいや。
深い意味はないよ。
ミス・アンバーは家庭教師で、皇子はあたしの婚約者で、あたしは皇太子妃候補で。
でもこの三人の中で交差してる想いはヴィンセント皇子とミス・アンバーなだけのような気がしたんだ。
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