13 / 56
お茶の時間
しおりを挟む
『レグザム・セイジュ・グリンダ十五世』
と羊皮紙に書く。
二百年前の国王の名前で、なんとか魔女から国を守ったという英雄なんだかどうか微妙な王様だ。
「ミス・アンバー、このレグザム国王ってどんな方だったのかしら? 国を滅ぼされそうになるほど魔女に騙されるなんて」
とあたしの問いにミス・アンバーは、
「レグザム王は賢王と称されたほどの優れた人物ですわ」
と意外な答えを言った。
「は? だったらなんで魔女なんかに? うっかりもいいとこじゃん」
と勢いこんでしゃべってしまって、
「あら、おホホホ」と誤魔化す。
ミス・アンバーはくすっと笑ってから、
「賢王と呼ばわる方を骨抜きにしてしまうほどに魔女が上手だったのでしょう」
と言った。それから分厚い書籍のページをめくり、ある一節を朗読しだした、
『レグザム王は国を大事にし、国民を愛し、常に心は民の元にあった。彼ほどに慈愛に満ちた王は未だかつておらず、彼は正義の心を持ち続けたのだ。かの魔女に会うまでは。魔女はレグザム王の慈愛、優しさ、正義をまぶしく思い己の存在をかけてレグザム王を堕とす事を闇の帝王に誓い、そしてまず国王を愛する事から始めた』
「正義感が強すぎ、愛や優しさを大事にしすぎてしまったというわけ?」
「そうですわね。魔女は正体を隠して王に近づき、まず愛を勝ち取ったわけです。魔女を愛してしまった国王は魔女の正体を見破れなかった。ただ魔女と王の間にはお世継ぎが出来ませんでした。そこを焦った魔女は他の男の子を身ごもって、その子を王の子と偽ったのです」
「ふーん、どこの世界にも性悪な女はいるもんよね。人間同士でも欺し欺されあるのに、相手が魔女じゃあねぇ」
「レグザム王は愛が強すぎました。愛した者を疑うなど到底出来なかったのです。もしや、と思う事があっても、国王はそれを押し殺してしまったのです。魔女への愛ゆえに」
「で、結局、托卵されてりゃ世話ない……あ、あらおホホホ」
ゲフンゲフンと咳をして誤魔化す。
どうもダメだな、素の自分が出ちゃうよ。
「お茶でもお持ちしますわ。少し休憩なさったらいかがでしょう。マリア様は本当に真面目に学んでくださるので私も嬉しゅうございます。ヴィンセント様もさぞかしマリア様を誉れにお思いになられるでしょう」
ミス・アンバーは席を立って勉強室から出て行った。
王立図書館は王宮に隣接した五階建ての立派な建造物だ。古今東西の古書や外国の珍しい本まで収集してある。
ただし滅多に人は来ないとても静かな場所だ。
何代か以前の王の趣味で建てられたけど、どうも本を読むのは少数派らしい。
貴族の娘は本なんか読んで余計な知恵をつける事を好まれず、使うのはもっぱら学者や数学者などの変わり者。
そこで館長補佐なんかやってるミス・アンバーはよっぽどの変わり者。
だけど、真面目で一生懸命教えてくれるミス・アンバーの事はいいやつだと思っている。 あたしのつたない外国語や外交に関するぺらっぺらな浅い考えを叱るでもなく、真面目な態度で教えてくれる。
なんだか委員長みたい。
その、委員長……いや、ミス・アンバーを連れて来たのはヴィンセント皇子だった。
珍しく上機嫌な顔を隠さず、ミス・アンバーを褒めあげてあたしの教育係だと仰ったのだ。
その時のミス・アンバーの上気した頬の具合といい、ヴィンセント皇子を見つめるうっとりとした瞳といい。
ううーん。
と羊皮紙に書く。
二百年前の国王の名前で、なんとか魔女から国を守ったという英雄なんだかどうか微妙な王様だ。
「ミス・アンバー、このレグザム国王ってどんな方だったのかしら? 国を滅ぼされそうになるほど魔女に騙されるなんて」
とあたしの問いにミス・アンバーは、
「レグザム王は賢王と称されたほどの優れた人物ですわ」
と意外な答えを言った。
「は? だったらなんで魔女なんかに? うっかりもいいとこじゃん」
と勢いこんでしゃべってしまって、
「あら、おホホホ」と誤魔化す。
ミス・アンバーはくすっと笑ってから、
「賢王と呼ばわる方を骨抜きにしてしまうほどに魔女が上手だったのでしょう」
と言った。それから分厚い書籍のページをめくり、ある一節を朗読しだした、
『レグザム王は国を大事にし、国民を愛し、常に心は民の元にあった。彼ほどに慈愛に満ちた王は未だかつておらず、彼は正義の心を持ち続けたのだ。かの魔女に会うまでは。魔女はレグザム王の慈愛、優しさ、正義をまぶしく思い己の存在をかけてレグザム王を堕とす事を闇の帝王に誓い、そしてまず国王を愛する事から始めた』
「正義感が強すぎ、愛や優しさを大事にしすぎてしまったというわけ?」
「そうですわね。魔女は正体を隠して王に近づき、まず愛を勝ち取ったわけです。魔女を愛してしまった国王は魔女の正体を見破れなかった。ただ魔女と王の間にはお世継ぎが出来ませんでした。そこを焦った魔女は他の男の子を身ごもって、その子を王の子と偽ったのです」
「ふーん、どこの世界にも性悪な女はいるもんよね。人間同士でも欺し欺されあるのに、相手が魔女じゃあねぇ」
「レグザム王は愛が強すぎました。愛した者を疑うなど到底出来なかったのです。もしや、と思う事があっても、国王はそれを押し殺してしまったのです。魔女への愛ゆえに」
「で、結局、托卵されてりゃ世話ない……あ、あらおホホホ」
ゲフンゲフンと咳をして誤魔化す。
どうもダメだな、素の自分が出ちゃうよ。
「お茶でもお持ちしますわ。少し休憩なさったらいかがでしょう。マリア様は本当に真面目に学んでくださるので私も嬉しゅうございます。ヴィンセント様もさぞかしマリア様を誉れにお思いになられるでしょう」
ミス・アンバーは席を立って勉強室から出て行った。
王立図書館は王宮に隣接した五階建ての立派な建造物だ。古今東西の古書や外国の珍しい本まで収集してある。
ただし滅多に人は来ないとても静かな場所だ。
何代か以前の王の趣味で建てられたけど、どうも本を読むのは少数派らしい。
貴族の娘は本なんか読んで余計な知恵をつける事を好まれず、使うのはもっぱら学者や数学者などの変わり者。
そこで館長補佐なんかやってるミス・アンバーはよっぽどの変わり者。
だけど、真面目で一生懸命教えてくれるミス・アンバーの事はいいやつだと思っている。 あたしのつたない外国語や外交に関するぺらっぺらな浅い考えを叱るでもなく、真面目な態度で教えてくれる。
なんだか委員長みたい。
その、委員長……いや、ミス・アンバーを連れて来たのはヴィンセント皇子だった。
珍しく上機嫌な顔を隠さず、ミス・アンバーを褒めあげてあたしの教育係だと仰ったのだ。
その時のミス・アンバーの上気した頬の具合といい、ヴィンセント皇子を見つめるうっとりとした瞳といい。
ううーん。
10
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)
藤原 柚月
恋愛
(週一更新になります。楽しみにしてくださる方々、申し訳ありません。)
この物語の主人公、ソフィアは五歳の時にデメトリアス公爵家の養女として迎えられた。
両親の不幸で令嬢になったソフィアは、両親が亡くなった時の記憶と引き替えに前世の記憶を思い出してしまった。
この世界が乙女ゲームの世界だと気付くのに時間がかからなかった。
自分が悪役令嬢と知ったソフィア。
婚約者となるのはアレン・ミットライト王太子殿下。なんとしても婚約破棄、もしくは婚約しないように計画していた矢先、突然の訪問が!
驚いたソフィアは何も考えず、「婚約破棄したい!」と、言ってしまう。
死亡フラグが立ってしまったーー!!?
早速フラグを回収してしまって内心穏やかではいられなかった。
そんなソフィアに殿下から「婚約破棄はしない」と衝撃な言葉が……。
しかも、正式に求婚されてしまう!?
これはどういうこと!?
ソフィアは混乱しつつもストーリーは進んでいく。
なんとしてても、ゲーム本作の学園入学までには婚約を破棄したい。
攻略対象者ともできるなら関わりたくない。そう思っているのになぜか関わってしまう。
中世ヨーロッパのような世界。だけど、中世ヨーロッパとはわずかに違う。
ファンタジーのふんわりとした世界で、彼女は婚約破棄、そして死亡フラグを回避出来るのか!?
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体などに一切関係ありません。
誤字脱字、感想を受け付けております。
HOT ランキング 4位にランクイン
第1回 一二三書房WEB小説大賞 一次選考通過作品
この作品は、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる