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そして今では病気を理由にアレクサンダーに王座を追われて、前国王になっている。
息子へ王位を継承する為の宣言も出来ず、戴冠式に出席する要請もなく、ただ報告を聞くのみだった。
クリスの母親のゾーイはエイダンが病に倒れた時に離婚して国を去っている。
エイダン国王とともに王妃も引退する旨をアレクサンダー通告され、おいぼれじいさんの介護などまっぴらだとばかりに脱兎のごとく逃げ去った。クリスが国王になれない、その資質すらないという事にも気がついていたらしく、クリスさえ置いて国を出たのだった。アレクサンダーやキャサリンがクリスへの扱いが甘かったのもそれを不憫と思ったからでもある。
「お久しぶりですわ、おじ様!」
両手に抱えるほどの花束を用意してエイダンの元に現れたのはオリビアだった。
「ああ……オリビア、美しくなったな」
ベッドに横になってエイダンは弱々しく笑った。
「おじさま、お加減はいかがですの?」
「ああ、まあどうせもう長くない身体さ、かげんなどどうでもいいんだよ」
とエイダンは自虐的に笑った。
「まあそのような、心細い事を仰らないでくださいな。アレクサンダーが国王に就任したからといって、まだまだ不安定ですわ。おじさまの助言も必要ですもの。お元気になって王宮へ帰ってらしてくださいな」
とオリビアが言った。
「こちらの別荘は美しくて静かで静養にはぴったりですけど。おじさまがいらっしゃらない王宮は寂しいですわ。それに……アレクサンダーが国王になった途端に入り込んでくる女性もいらっしゃって……」
「どういう事だね?」
オリビアはエイダンのベッドの横に腰を下ろして、ふうとため息をついた。
「どこかの王族の血をひいてるとは仰ってましたけど……アクアル国の正妃になる女性ですもの、皆様の賛成が必要だと思いますわ。国民にも。育ちの貧しい女性はこの国の王妃には相応しくないと思うんです。やはり生まれて育った場所や環境、教育などがその方の人となりに関係すると私は思うんですのよ」
「オリビア、君の言う通りだ、アレクサンダーは何を考えてそんな娘を?」
皺深い老人の顔に赤味がさした。」
「アレクサンダーは貧しい娘を少しバカンスに連れて来てあげただけかもしれませんわね。その女性がその気になってしまうのも仕方ありませんわね。彼は優しいから。ですから早く王妃を決めてしまった方がよいと思うんです」
「確かに……」
「聞いた話では……クリス皇子が塔に幽閉されているのも、その女性が関係あるそうですわ」
「な、何! クリスが!」
みるみるうちにエイダンの顔が怒りで真っ赤になり、そして歪んだ。
「クリスを幽閉だと!」
「そうですわ。しかもその関わりでゲインおじさまの一家も国外追放、関連会社からも解雇されたそうですわよ。おじさま、ご存じありませんでしたの?」
「そ、そんな話は聞いとらん!!!」
「私にもう少しアレクサンダーに意見を申し入れる権限でもありましたら……もっと忠告して差し上げられたんですけど……おじさまへももっと早く。私、この国の事が心配でたまりませんわ」
「オリビア、よく話してくれたな」
「だっておじさま、私は小さい頃から王宮に遊びに来ていて、我が家のようでしたし、おじさまや正妃様にも可愛がっていただいたし、アレクサンダーのお嫁さんになるのが夢だったんですもの。もう、叶わない夢ですけれどもね」
とオリビアはそう言ってから微笑んだ。
「叶わない事などないぞ。確かにアレクサンダーにはオリビア、お前のような美しく有能な女性が相応しい」
エイダンは毛布をばさっとめくり、ゆっくりだが身体を起こした。
病で痩せた身体には力がなく日頃は車椅子でほんの少しの散歩くらいしかしなかったのだが、怒りはエネルギーの源だ。
エイダンはすぐ手元にあるベルを押した。
慌てて走ってくる、側近の者に怒鳴りつけた。
「今すぐに王都へ戻るぞ! 用意せい!」
息子へ王位を継承する為の宣言も出来ず、戴冠式に出席する要請もなく、ただ報告を聞くのみだった。
クリスの母親のゾーイはエイダンが病に倒れた時に離婚して国を去っている。
エイダン国王とともに王妃も引退する旨をアレクサンダー通告され、おいぼれじいさんの介護などまっぴらだとばかりに脱兎のごとく逃げ去った。クリスが国王になれない、その資質すらないという事にも気がついていたらしく、クリスさえ置いて国を出たのだった。アレクサンダーやキャサリンがクリスへの扱いが甘かったのもそれを不憫と思ったからでもある。
「お久しぶりですわ、おじ様!」
両手に抱えるほどの花束を用意してエイダンの元に現れたのはオリビアだった。
「ああ……オリビア、美しくなったな」
ベッドに横になってエイダンは弱々しく笑った。
「おじさま、お加減はいかがですの?」
「ああ、まあどうせもう長くない身体さ、かげんなどどうでもいいんだよ」
とエイダンは自虐的に笑った。
「まあそのような、心細い事を仰らないでくださいな。アレクサンダーが国王に就任したからといって、まだまだ不安定ですわ。おじさまの助言も必要ですもの。お元気になって王宮へ帰ってらしてくださいな」
とオリビアが言った。
「こちらの別荘は美しくて静かで静養にはぴったりですけど。おじさまがいらっしゃらない王宮は寂しいですわ。それに……アレクサンダーが国王になった途端に入り込んでくる女性もいらっしゃって……」
「どういう事だね?」
オリビアはエイダンのベッドの横に腰を下ろして、ふうとため息をついた。
「どこかの王族の血をひいてるとは仰ってましたけど……アクアル国の正妃になる女性ですもの、皆様の賛成が必要だと思いますわ。国民にも。育ちの貧しい女性はこの国の王妃には相応しくないと思うんです。やはり生まれて育った場所や環境、教育などがその方の人となりに関係すると私は思うんですのよ」
「オリビア、君の言う通りだ、アレクサンダーは何を考えてそんな娘を?」
皺深い老人の顔に赤味がさした。」
「アレクサンダーは貧しい娘を少しバカンスに連れて来てあげただけかもしれませんわね。その女性がその気になってしまうのも仕方ありませんわね。彼は優しいから。ですから早く王妃を決めてしまった方がよいと思うんです」
「確かに……」
「聞いた話では……クリス皇子が塔に幽閉されているのも、その女性が関係あるそうですわ」
「な、何! クリスが!」
みるみるうちにエイダンの顔が怒りで真っ赤になり、そして歪んだ。
「クリスを幽閉だと!」
「そうですわ。しかもその関わりでゲインおじさまの一家も国外追放、関連会社からも解雇されたそうですわよ。おじさま、ご存じありませんでしたの?」
「そ、そんな話は聞いとらん!!!」
「私にもう少しアレクサンダーに意見を申し入れる権限でもありましたら……もっと忠告して差し上げられたんですけど……おじさまへももっと早く。私、この国の事が心配でたまりませんわ」
「オリビア、よく話してくれたな」
「だっておじさま、私は小さい頃から王宮に遊びに来ていて、我が家のようでしたし、おじさまや正妃様にも可愛がっていただいたし、アレクサンダーのお嫁さんになるのが夢だったんですもの。もう、叶わない夢ですけれどもね」
とオリビアはそう言ってから微笑んだ。
「叶わない事などないぞ。確かにアレクサンダーにはオリビア、お前のような美しく有能な女性が相応しい」
エイダンは毛布をばさっとめくり、ゆっくりだが身体を起こした。
病で痩せた身体には力がなく日頃は車椅子でほんの少しの散歩くらいしかしなかったのだが、怒りはエネルギーの源だ。
エイダンはすぐ手元にあるベルを押した。
慌てて走ってくる、側近の者に怒鳴りつけた。
「今すぐに王都へ戻るぞ! 用意せい!」
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