18 / 45
18
しおりを挟む
最近ではふかふかのベッドで目覚める事も慣れたアリシアだが、今日の朝はいつもと違う……ぞ、と目玉をきょろきょろとさせた。
パリのホテルの豪華な一室なのはすぐに分かった。
いつもと違うのは、ちらっと視線を横にやると美しい皇子の顔がすぐ目の前にあるという事だ。しかも自分の身体が皇子の腕にぎゅうっと抱き締められている、という体勢だ。
アリシアの身体はカキン!と固まり、そのままじっと天井を見つめた。
「おはよう、ダーリン」
と耳元で声がした。皇子の息がすぐそばにある。
「おはよう……ございます。あの……私……なにか……」
「酒が弱いとは知らなかった。もう少し軽めにしておけばよかった。すまない」
「いいえ、あまりお酒を飲む機会もなくて……あの、何をなさってるんです?」
「君にキスをしている」
頬に唇に顔中にめいっぱい皇子のキスが降り注ぐ。
それはアリシアには初めての経験であり衝撃だった。
薄い布一枚の身体を力強く抱きしめられる事がこんなに素敵だと初めて知った。
アレクサンダーの引き締まった身体がぴたりとアリシアの身体に寄り添う。
暖かい吐息、引き締まった肉体、そして素晴らしく美しい皇子。
だが、アリシアは身体を反転させてそれから逃れようとした。
「こ、こんなことは恋人役には含まれませんわ」
「恋人役か……では役をやめて恋人ならいいか?」
「え……ご冗談を。アンナから連絡がくれば私は国へ帰ります。そんな……」
一時の恋人なんて嫌、と言いかけて、一時? 一時でなければいいの? と自問した。
目の前の美しい皇子はどんなに惹かれても住む世界の違う人だ。
私はアンナのように一時の快楽と富の為に自分を欺いたりしない。
私は愛して愛される人と結ばれたい。
それはアレクサンダー皇子ではない、と思った瞬間にアリシアの胸がきゅっと痛んだ。
最悪の印象での出会いだったが、アリシアは十分にアレクサンダーの魅力を知っていた。
彼を知るには子供達への優しい瞳だけで十分だ。
あの楽園で彼とたくさんの動物達と子供達と一緒に暮らせたら、どんなに幸せだろう。
けれど、そんなことを考えるのはきっと私だけとアリシアは思う。
だからこの恋は封印しなければ。
一生に一度、おとぎ話の中の王子様に出会っただけだ。
こんな事を考えているだなんてほんの少しでも知られたくない。
「そろそろ起きなくては……今日は観光に連れて行ってくださるのでしょう?」
身体を起こそうとしたアリシアをアレクサンダーの逞しい腕が抱き寄せた。
「きゃっ」
アリシアの華奢な身体は簡単にアレクサンダーに組み敷かれた。
「わ、私はこういうのは無理……です……無理なんです!!」
とアリシアは語気強く言った。
アリシアがそう言った瞬間、アレクサンダーの身体が彼女から離れた。
「すまない。無理強いはしないよ。確かに、君の私への第一印象は最悪だったな」
「……」
いいえ、いいえ、と叫ぶのはアリシアの心の中だけだ。
アリシア自身は石のようになって動けないでいた。
アレクサンダーはベッドから身体を起こすとガウンを羽織り、
「まだ早い、もう一眠りすればいい。私は向こうの部屋で休むよ」
と言って隣続きの部屋へ入って行った。
ベッドに残されたアリシアはしばらく固まったまま動けなかった。
自ら発した拒絶の言葉を遠ざかるアレクサンダーの背中を見ながら後悔していた。
だが、もう言葉は出ない。
例え一夜の恋でも、アレクサンダーの胸に抱かれて眠りたかった、という思いが涙とともに溢れ出る。
アレクサンダーがパタンと隣への扉を閉めるとアリシアは布団の中に潜り込んだ。
柔らかい毛布をぎゅっと握ってひとしきり泣いた。
パリのホテルの豪華な一室なのはすぐに分かった。
いつもと違うのは、ちらっと視線を横にやると美しい皇子の顔がすぐ目の前にあるという事だ。しかも自分の身体が皇子の腕にぎゅうっと抱き締められている、という体勢だ。
アリシアの身体はカキン!と固まり、そのままじっと天井を見つめた。
「おはよう、ダーリン」
と耳元で声がした。皇子の息がすぐそばにある。
「おはよう……ございます。あの……私……なにか……」
「酒が弱いとは知らなかった。もう少し軽めにしておけばよかった。すまない」
「いいえ、あまりお酒を飲む機会もなくて……あの、何をなさってるんです?」
「君にキスをしている」
頬に唇に顔中にめいっぱい皇子のキスが降り注ぐ。
それはアリシアには初めての経験であり衝撃だった。
薄い布一枚の身体を力強く抱きしめられる事がこんなに素敵だと初めて知った。
アレクサンダーの引き締まった身体がぴたりとアリシアの身体に寄り添う。
暖かい吐息、引き締まった肉体、そして素晴らしく美しい皇子。
だが、アリシアは身体を反転させてそれから逃れようとした。
「こ、こんなことは恋人役には含まれませんわ」
「恋人役か……では役をやめて恋人ならいいか?」
「え……ご冗談を。アンナから連絡がくれば私は国へ帰ります。そんな……」
一時の恋人なんて嫌、と言いかけて、一時? 一時でなければいいの? と自問した。
目の前の美しい皇子はどんなに惹かれても住む世界の違う人だ。
私はアンナのように一時の快楽と富の為に自分を欺いたりしない。
私は愛して愛される人と結ばれたい。
それはアレクサンダー皇子ではない、と思った瞬間にアリシアの胸がきゅっと痛んだ。
最悪の印象での出会いだったが、アリシアは十分にアレクサンダーの魅力を知っていた。
彼を知るには子供達への優しい瞳だけで十分だ。
あの楽園で彼とたくさんの動物達と子供達と一緒に暮らせたら、どんなに幸せだろう。
けれど、そんなことを考えるのはきっと私だけとアリシアは思う。
だからこの恋は封印しなければ。
一生に一度、おとぎ話の中の王子様に出会っただけだ。
こんな事を考えているだなんてほんの少しでも知られたくない。
「そろそろ起きなくては……今日は観光に連れて行ってくださるのでしょう?」
身体を起こそうとしたアリシアをアレクサンダーの逞しい腕が抱き寄せた。
「きゃっ」
アリシアの華奢な身体は簡単にアレクサンダーに組み敷かれた。
「わ、私はこういうのは無理……です……無理なんです!!」
とアリシアは語気強く言った。
アリシアがそう言った瞬間、アレクサンダーの身体が彼女から離れた。
「すまない。無理強いはしないよ。確かに、君の私への第一印象は最悪だったな」
「……」
いいえ、いいえ、と叫ぶのはアリシアの心の中だけだ。
アリシア自身は石のようになって動けないでいた。
アレクサンダーはベッドから身体を起こすとガウンを羽織り、
「まだ早い、もう一眠りすればいい。私は向こうの部屋で休むよ」
と言って隣続きの部屋へ入って行った。
ベッドに残されたアリシアはしばらく固まったまま動けなかった。
自ら発した拒絶の言葉を遠ざかるアレクサンダーの背中を見ながら後悔していた。
だが、もう言葉は出ない。
例え一夜の恋でも、アレクサンダーの胸に抱かれて眠りたかった、という思いが涙とともに溢れ出る。
アレクサンダーがパタンと隣への扉を閉めるとアリシアは布団の中に潜り込んだ。
柔らかい毛布をぎゅっと握ってひとしきり泣いた。
0
お気に入りに追加
896
あなたにおすすめの小説
【完結】見染められた令嬢
ユユ
恋愛
婚約時の決まり事である定期茶会で、公爵令息と顔を合わせたレイナの中身は転生した麗奈だった。
レイナを疎む婚約者に段々と遠慮なく日本語で悪態をついていく。
自己満足的なストレス発散をして帰るレイナをいつの間にか婚約者が纏わりつく。
*作り話です
*完結しています
*ほんのちょっとだけ閨表現あり
*合わない方はご退室願います
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました
よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。
そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。
わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。
ちょっと酷くありません?
当然、ざまぁすることになりますわね!
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
【完結】巻き戻りましたので、もれなく復讐致します!
白雨 音
恋愛
学院パーティの最中、一人の女子生徒が毒殺された。
「ルーシーが毒を持っていたのを見たわ!」証言により、ルーシー・ウエストン伯爵令嬢は捕らえられた。
事実、ルーシーは小瓶を隠し持っていた。だが、使ってはいない。
飲み物に入れるよう、公爵令嬢オリヴィアから指示されていたが、恐ろしくて出来なかったのだ。
公爵家からの脅しで、家族を守る為に濡れ衣を着る事を承諾したが、
愛する母の自害を知り、「呪い殺してやる!」と自害を果たした___
だが、目を覚ますと、亡霊にはなっておらず、それ処か時が半年前に戻っていた。
何も無かった事に…なんて、出来ない!
自分を陥れた者たちを、痛い目に遭わせなければ腹の虫が収まらない!
密かに復讐を決めたルーシーだったが、思いの他、復讐は進まない。
標的の一人である第三王子ウイリアムは、何かと近付いて来るし…??
異世界恋愛:長めの短編 (序章2話、本章18話)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
(完結)夫の不倫相手に「彼を解放して!」と押しかけられました。
天歌
恋愛
「立場をわきまえずいつまでここに居座るつもり!?早く彼を解放してあげて!」
私が店番をしていると突然店の扉が開き、一人の女性が私の前につかつかとやってきてそう言い放ったのだった。
彼とは…?私の旦那の事かしら。
居座るつもり…?どういう意味でしょうか?
ここは私の店ですけども…?
毎日19時更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる