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「ふわ~~」
アリシアはバスタブの中で大きな伸びをした。
王宮にも負けないほどの豪華なホテルのバスルーム、上等のソープに薔薇の香りの入浴剤で気分もリラックス……というほどでもない。
何もかもが違いすぎて、この素晴らしいバスタイムを楽しむ事もアリシアには難しい。
パーティも楽しめる物ではなくただ目を丸くしているだけだったし、明日は買い物や観光に出かけましょうとキャサリンに言われているが考えるだけで胃が痛い。
アリシアが自分の給料を貯めて憧れのパリに来たならば、ガイドブック片手に時間を惜しんで観光に走り回るだろうが、アレクサンダーやキャサリンのようなセレブと一緒では贅沢だと言われるかもしれないが神経をすり減らすだけだった。
アリシアはバスタブの中から泡だらけの手を出して見た。
ここ数日でかなり潤っており、荒れていた手はつるつるすべすべしている。
その手に大ファンのダニエル・マーラーがキスをしたなんて!
と感激していたのだがアレクサンダーがその後とても不機嫌になった。
「どうしたのかしら? 私が何か気に障る事をしたのかしら……ああいう方の考えは少しも分からないわ」
アリシアはバスタブから出た。
待っていました、とばかりにメイドがアリシアの身体をふかふかのタオルで包み、どこもかしこも綺麗に拭き取ってくれる。それから夜着を来て、部屋に戻る。
広々としたソファにアレクサンダーが座っていた。
恋人という触れ込みなのだから、同じ部屋なのは仕方がなかった。
慣れない生活の上に、慣れない富豪の恋人役。
アンナなら大喜びできちんと演じて見せただろうとアリシアは思った。
アレクサンダーはワインを飲んでいたがアリシアに気付くと、
「飲むかい?」
と言った。
「え、ええ、いただきますわ」
アリシアがソファの端の方へちょこんと座ると、アレクサンダーが笑った。
「ずいぶんと嫌われたようだ」
「い、いいえ、そんな」
アレクサンダーが手ずからグラスにワインを注ぎ、アリシアの方へ差し出した。
それを受け取るにはもっと近くに寄らなければならない。
薄い夜着一枚の自分を心細く思ったが、鎧を着て皇子の側に座るわけにもいかない。
更に皇子が自分をどうこうしようなんてそれこそ自惚れに過ぎない、アレクサンダー皇子ならきっと世界中の美女から求愛されるに違いないのだから、とアリシアは思った。
そしてアリシアは皇子の近くへ移動した。
「明日には世界中に君の事が知れ渡るだろう。私は今まで女性をパーティに同伴した事がないんだ」
「何故ですか?」
アリシアは手渡されたグラスのワインを少しだけ口にした。
芳醇な香りとまろやかな酸味が口の中に広がった。
さわやかで甘くてアリシアはごくごくとそれを飲んだ。
「女性を伴うとすぐに結婚か、と言われるからな。相手の女性もその気になる。そのつもりはないと言えば、冷酷で女の敵のプレイボーイと書かれる」
「あなたが愛せて尊敬できるような女性ときちんと真面目におつきあいをすればいいだけじゃないんですか?」
少しばかり顔の赤くなったアリシアが言った。
「そういう女性とはどこで知り合えるのかぜひ教えてくれないか」
「婚活サイトなら条件を入れれば紹介してもらえますよ。ヒッ……あ、あら、すみません」
「ワイン一杯で酔ってるのか?」
「いいえ! ぜんぜん、酔ってなんかいませんわ!」
顔を真っ赤にしたアリシアにアレクサンダーが笑った。
「君、婚活サイトなんか使ってるのかい?」
「使ってません! そ、そういう話を同僚から聞いただけです。そんな暇なんかありません! 学校でも家でも忙しくて、給湯器は壊れてお湯は出ないし、アンナはちっとも連絡してこないし、で? 皇子様はどんな女性が好みなんでしょうか? きっと爪が長くて綺麗でお料理なんかしないんでしょうね。それに足も長くて細くて、肌もすべすべで……綺麗に着飾ってウインドウの中にしまっておけるような……女性なんでしょうね……私は……私は……中庭の管理人でいいです……あの楽園で暮らしたいですぅ……」
アレクサンダーがアリシアの手からグラスを取り上げると、アリシアはこてんとソファにひっくり返ってしまった。
アレクサンダーはアリシアの身体を抱き上げると、ベッドルームへと運んだ。
「まいったな」
キングサイズのベッドにそっとアリシアを寝かすと、すうすうと寝息を立てるアリシアの頬にそっとキスをした。
アリシアはバスタブの中で大きな伸びをした。
王宮にも負けないほどの豪華なホテルのバスルーム、上等のソープに薔薇の香りの入浴剤で気分もリラックス……というほどでもない。
何もかもが違いすぎて、この素晴らしいバスタイムを楽しむ事もアリシアには難しい。
パーティも楽しめる物ではなくただ目を丸くしているだけだったし、明日は買い物や観光に出かけましょうとキャサリンに言われているが考えるだけで胃が痛い。
アリシアが自分の給料を貯めて憧れのパリに来たならば、ガイドブック片手に時間を惜しんで観光に走り回るだろうが、アレクサンダーやキャサリンのようなセレブと一緒では贅沢だと言われるかもしれないが神経をすり減らすだけだった。
アリシアはバスタブの中から泡だらけの手を出して見た。
ここ数日でかなり潤っており、荒れていた手はつるつるすべすべしている。
その手に大ファンのダニエル・マーラーがキスをしたなんて!
と感激していたのだがアレクサンダーがその後とても不機嫌になった。
「どうしたのかしら? 私が何か気に障る事をしたのかしら……ああいう方の考えは少しも分からないわ」
アリシアはバスタブから出た。
待っていました、とばかりにメイドがアリシアの身体をふかふかのタオルで包み、どこもかしこも綺麗に拭き取ってくれる。それから夜着を来て、部屋に戻る。
広々としたソファにアレクサンダーが座っていた。
恋人という触れ込みなのだから、同じ部屋なのは仕方がなかった。
慣れない生活の上に、慣れない富豪の恋人役。
アンナなら大喜びできちんと演じて見せただろうとアリシアは思った。
アレクサンダーはワインを飲んでいたがアリシアに気付くと、
「飲むかい?」
と言った。
「え、ええ、いただきますわ」
アリシアがソファの端の方へちょこんと座ると、アレクサンダーが笑った。
「ずいぶんと嫌われたようだ」
「い、いいえ、そんな」
アレクサンダーが手ずからグラスにワインを注ぎ、アリシアの方へ差し出した。
それを受け取るにはもっと近くに寄らなければならない。
薄い夜着一枚の自分を心細く思ったが、鎧を着て皇子の側に座るわけにもいかない。
更に皇子が自分をどうこうしようなんてそれこそ自惚れに過ぎない、アレクサンダー皇子ならきっと世界中の美女から求愛されるに違いないのだから、とアリシアは思った。
そしてアリシアは皇子の近くへ移動した。
「明日には世界中に君の事が知れ渡るだろう。私は今まで女性をパーティに同伴した事がないんだ」
「何故ですか?」
アリシアは手渡されたグラスのワインを少しだけ口にした。
芳醇な香りとまろやかな酸味が口の中に広がった。
さわやかで甘くてアリシアはごくごくとそれを飲んだ。
「女性を伴うとすぐに結婚か、と言われるからな。相手の女性もその気になる。そのつもりはないと言えば、冷酷で女の敵のプレイボーイと書かれる」
「あなたが愛せて尊敬できるような女性ときちんと真面目におつきあいをすればいいだけじゃないんですか?」
少しばかり顔の赤くなったアリシアが言った。
「そういう女性とはどこで知り合えるのかぜひ教えてくれないか」
「婚活サイトなら条件を入れれば紹介してもらえますよ。ヒッ……あ、あら、すみません」
「ワイン一杯で酔ってるのか?」
「いいえ! ぜんぜん、酔ってなんかいませんわ!」
顔を真っ赤にしたアリシアにアレクサンダーが笑った。
「君、婚活サイトなんか使ってるのかい?」
「使ってません! そ、そういう話を同僚から聞いただけです。そんな暇なんかありません! 学校でも家でも忙しくて、給湯器は壊れてお湯は出ないし、アンナはちっとも連絡してこないし、で? 皇子様はどんな女性が好みなんでしょうか? きっと爪が長くて綺麗でお料理なんかしないんでしょうね。それに足も長くて細くて、肌もすべすべで……綺麗に着飾ってウインドウの中にしまっておけるような……女性なんでしょうね……私は……私は……中庭の管理人でいいです……あの楽園で暮らしたいですぅ……」
アレクサンダーがアリシアの手からグラスを取り上げると、アリシアはこてんとソファにひっくり返ってしまった。
アレクサンダーはアリシアの身体を抱き上げると、ベッドルームへと運んだ。
「まいったな」
キングサイズのベッドにそっとアリシアを寝かすと、すうすうと寝息を立てるアリシアの頬にそっとキスをした。
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