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ルナヘロス皇子

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 シドは優雅に城の上空を飛んでいた。珍しがる貴族の子供が石を投げたりするのをまやかしの術で脅かしたりしながら、城の一応は見て終わった。どうしても近づけないのが、ナス魔道師のいる塔である。何度か試みたが彼の術をもってしても、結界を破る事が出来なかった。やはり石はあの塔にあるに違いない。シドの隠し持つ六つ目の石もいずれ発覚するだろう。どうしてもそれより早く、石を取り返さねばならなかった。シドはカ-タのいる魔法人の控え室へと飛んだ。窓から覗くとカ-タは国王のまだ幼い息子、ルナヘロス皇子と遊んでいた。
 ルナヘロスはまだ十歳だが国王に似た、もの静かな知理性のかなった皇子であった。
「皇子様はいずれジユダの国王陛下となるお方なのですね」
「そうだ、私も父上、いや国王のように民に好かれる王となり、民の為の政治を取り行いたいのだ」
 十歳とは思えぬ発言にカ-タははっとした。それならばダノンにこのまま悪辣な陰謀を遂げさせる事は出来ない。僅かの間に仲良しになり、カ-タはこの利発な皇子がすっかり好きになっていた。
 こんこんとシドはくちばしで窓をたたいた。カ-タが急いで窓を開けた。
「何を遊んでるんだ」
「シド、この方は」
「知ってる。ルナヘロス皇子様ですな。私は第一級魔鳥のシドと申します。失礼ですが急いでおりますのでこのような所からの入室をお許し下さい」
 皇子は驚きと興味をもってシドを見た。薔薇色の頬に一層赤味がさし、邪気のない瞳はきらきら輝いている。
「どうしたの」
「うぬ、ミラルカがダノンの虐待を受けて、半死の状態なのだ。幸いキース伯爵が……」 慌ててシドは口を閉じた。子供といえどもうかうか秘密を分かち合うわけにはいかない。 敏感なルナヘロスは自分がこの場にいてはいけないと感じとったが、どうしても仲間入りをしたかった。
「私は秘密をばらす事はしない。お前達の力になれるなら、言ってくれぬか」
「これは大変危険な事でございます。皇子様の身になにかあったら、ジユダの民が悲しみますゆえご勘弁下さい」
 シドとしてはちょっと脅かしてやろうくらいに思ったのだが皇子は身を乗り出してきた。
「しかし、ジユダ国でおこった事は王座に座る者の責。このまま見過ごす事は出来ない。さあ、話しておくれ」 
「ねえ、いっその事皇子様から国王陛下に伝えて貰えばいいんじゃない。そうしたら」
「それは出来ん。そうして西妖魔へ救援を求め、俺達は妖魔地帯最大の恥さらしとなるのか」 
「そんな事言ったって」
 カ-タは途方にくれた。
「先程、ダノンと言っていたが、それは叔父上の事か。また彼は何か良からぬ事を企てているのか」
「また、と申されますと」
「よくある事だ。この前は落ちぶれた貴族達を扇動し、ジユダの民をあやうく飢饉に陥れる所だったのだ。皆、私が子供だと思って油断していろいろしゃべってくれるぞ。私が国王ならいくら弟だといっても彼の所業は死に価すると思うがな」
 カ-タとシドはなにやら薄ら寒い思いがして肩を竦めた。この子はきっと後世に名を残す名君となるであろう。シドは心を決めた。
「ナス魔道師が彼を扇動していると思われまするが、ダノン王弟は七色の石を集め、臨める玉を手にいれようとしております。そして妖魔王ギルオンを支配し、この世の全ての権力を手にいれようと謀っております。七つの石の内、五つまでが彼の手の中、六つ目は私が持っておりますがそれも時間の問題です。石はお互いに呼び合い、仲間のありかを知らせます。いずれ奪われるでしょう」
「そうか、何という恥しらずな。よし父王に知らせるまでもない。私も力を貸すぞ」    シドは思わずほほ笑んだ。齢十にしてなんという正義感、なんという闘志。
「ミラルカという者は仲間ですが、ダノン王弟の処罰を受け、傷ついております。キース伯爵の邸にて鋭気を養っております」
「キース伯爵か。彼はいい奴だろう。父王がいつも言うぞ。彼に忠誠を誓わせる事ができれば頼もしいとな」
 皇子の顔は初めての経験に紅潮し、震えているように見える。
「さて、まずは五つの石を取り戻さねばならんな。ナスの塔に入り、あやつをおびき出そう。それはまかせてくれ」
「いけません」
 カ-タが叫んだ。
「そんな危険な事を皇子様にさせるのはいけません。私がやります」
「いや、まて。皇子様のほうが怪しまれずにすむかもしれん」
 カ-タはキッとシドを睨んだ。
「駄目よ。危険すぎる」
「まあ待て。これくらいの事が出来ずにこの後、ジユダの王としてやってはいけまい。皇子様の器量を見せていただきましょう」
「分かった」
 皇子は力強く頷いた。
「私が失礼ながら、皇子様の懐に忍びましょう。カ-タは皇子様から片時も離れるな。命に代えてもお守りするのだぞ」
「わ、分かったわ」
 カ-タは喉をならした。
「では、まいりましょう」
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