11 / 34
サダ魔法人
しおりを挟む
その時、重くかすれた声が響いてきた。
「何者じゃ。死にたくなければ即刻出てゆくのだ」
ぼうっと辺りが霞み、白い髭に白衣を着た老人が現れた。
キースが丁寧な口調で言った。
「御老人、我らは西方ジユダ国からやってきた者。ここに山賊アレゾの財宝が隠されていると聞いた」
「それがどうした。ジユダ国は山賊の宝を盗まねばならぬほど貧乏なのか」
「わけはいえぬ。財宝の場所を教えてもらいたい。礼はする」
「断る。確かにアレゾと名乗る男に頼まれた物はここにある。しかし、お主らに渡すようには言われておらん」
老人はうるさそうに手を振った。
「ここにいる娘はアレゾの愛娘だ。彼女には受け取る権利がある」
キースはミラルカを指した。
「ほう、似ておらん娘じゃな。その証拠はどこにある」
キースはミラルカを見た。ミラルカは相変わらず不機嫌そうに黙りこんでいた。
「アレゾの身内を語る奴はお前で十人を越えた。そいつらは皆ここで眠っとるよ。そうならに内に帰れ」
困ったキースはファラを見た。
「じいさん。あたしはアレゾの情婦だった女でファラってもんさ。確かにこの子はアレゾの娘さ。あんたに土産がある」
ファラは馬の背から荷物を取り出し、
「そら、これだよ」
と、放り投げた。
それはかなり大きな荷で、頑丈に何重にも梱包されていた。老人は荷をほどいて、顔をほころばせた。
「おお、これは確かにわしがあの男に頼んだ物じゃ。間違いない」
それは魔術や呪いに関する書物であった。
「これで認めるだろ。じいさん」
「分かった。お主らは正しくアレゾの身内の者。宝を引き渡そう」
「それはありがたいんだがね。身内はこの娘とあたしだけさ。この男達はあたし達から宝を横取りする気なのさ」
「何、それはいかん。そんな事は認めん。それではわしは約束を守ったあの男に申し訳がたたん」
老人はかっと瞳を見開いた。キースはとっさに瘴気を感じ老人に向かっていった。
「待て、我らからも土産がある。これを見てもらおう」
いつの間にかキースの手には小さな水晶玉が握られていた。
それはナス魔道師に、もし自分達の手におえない時には出せ、と言われていた物であった。
水晶玉はだんだんと透明から灰色になり、そこに一人の老婆の姿が映った。老婆は醜く、黒衣を着ていたがその隙間からでた肌は岩のようで、蛙のようにしゃがれおしつれた声であった。
「久しぶりよのう、サダ。わしを覚えておるか」
「お前はナス魔道師ではないか。この連中についておるのはお前なのか」
「そうじゃ。のうサダ、お前は悔しくはないのか。ロブ伯爵にこんな砂漠へ追いやられ、何百年もたった一人で話し相手もおらず、魔道の研究さえも禁じられ、哀れよのう」
「何が言いたい」
サダ魔法人はむっとしたように言った。
「そこから出たいとは思わぬか」
「出たい。しかしそれは出来ぬ」
「わしが出してやるといったらどうする」
「たとえお主でもそれは無理じゃろう。もしそれができても、ギルオン妖魔王の怒りをかい、もっとひどい罰を受けるだけじゃ。お主とてただでは済むまい」
サダは悲しそうな顔で言った。
「それは分からん。お前がこのダノン王弟にアレゾの財宝の中の一つ、七色の石を渡してくれれば事は済む」
「七色の石だと。まさかお主らは」
「そうじゃ。七色の石により臨める石を手に入れる。そうして世界はジユダ国が支配するのだ。臨める石を手に入れば、ギルオン妖魔王だとて赤子同然。恐れる事はない。どうじゃサダ」
「しかし、」
「迷うな、忘れたのか。ささいな罪でこのような地に追いやられた屈辱を。それともこれより果てない年月をここで暮らすか。お前はあと何千年の寿命を持っておるのじゃ。砂と風とだけを友とし、朝も夜も獣の咆哮だけを聞き、ただ一人きり暮らすか。もうお前に希望はないのか」
ナスは哀れみと嘲りをもって笑い、サダは気も狂わんばかりに叫んだ。
「やめてくれ。お主の言う通りじゃ。わしはロブ伯爵が憎い。あやつはわしから魔道を取り上げた。西妖魔の第一級魔法人であるわしからじゃ。わしはもう耐えられん。このような土地でただ一人きり生きながらえるのは。いいとも、ダノン王弟よ。お主に七色の石を与えよう。世界の王となるがいい。しかしそのあかつきには、あやつがわしに与えた恥辱よりももっとむごいやり方であやつに制裁を加えてくれような」
サダの瞳はらんらんと輝き、もう先程の貧弱な老人ではなく邪気を漂わせ口元に壮絶な笑みを浮かべた。
「分かった。約束する。お主の屈辱は必ず私が晴らしてやろう」
ダノンは頷き、ファラが叫んだ。
「そんな、約束が違うじゃないか」
「許せ、わしはこの地より出たい。いつとは知れぬ妖魔王の許しを待つよりも、二度と西妖魔へ帰れずとも今、ここを出たい」
ファラとミラルカは茫然となり、ダノンは勝ち誇った顔をした。
「そ、それで、石はどこにある。早く見せてくれ。その石さえあれば臨める石が手に入るのだな」
サダはゆっくりと呪文を唱えると彼らの先にある大岩を動かした。ざざっと音がして岩の向こうから膨大な量の宝石や金、銀、毛皮や薬草などが転げ落ちてきた。ダイヤモンドの王冠、サファイア、ルビ-などの首飾りや指輪、アクアマリンの水剣にザザの国の珍しい吹雪の鎧、これまで彼らが見たこともないような宝ばかりである。ダノンにデニス、従者は歓声をあげて宝の山に走りこみ、財宝を手にし、はしゃぎ始めた。
サダはその中から二つの石を取り出し、キースに渡した。
「これが七色の石の中の二つじゃ」
「それでは七色の石とは七つの石なのか」
「そうだ。あと五つ探さねばならん。しかし石はそれぞれ光を発し、引きつけあう物。いずれお互いを呼ぶであろう」
キースは手渡された黄色とオレンジ色の石を見た。なるほどに二つの石はキースの手の中で鮮明な光を放っている。しかし彼はミラルカの胸の中でもまた真っ赤な光が発しているのを知らなかった。
「あとの五つのありかは分からんか」
「さあな。さて、ナス。石は渡した。約束通りここから出してもらおう」
「分かった。それではここにいる女のどちらかにお前の影を映すのだ。わしとお前の魔力ならそう簡単には破れんだろう。どちらの女がよいかな」
サダはファラとミラルカを見た。彼女らは絶望と驚愕に震えていた。
初めて聞いたダノン王弟の陰謀に恐れおののく。妖魔王を支配し世界を手中にしようなどと考えるなど、彼らは正気ではない。
キースはファラを指さした。
「ほう、何故じゃ」
「こっちの娘は怪我をしている。このままここに残して行けば遠からず死ぬ。ここで生きていてもらわねば困るのだろう」
「そうじゃ。ではこの女にしようか」
サダはファラを見た。
ファラはありったけの悪態をついて、彼を責めたがサダは首を振って言った。
「済まぬ。かならずここから出してやるが、少しの間辛抱してくれ」
サダとナスはお互いを追いかけるように口々に呪文を唱えた。二人の身体からオ-ラが出てファラを包みこみ、そしてファラの姿を消した。代わりに現れたのは少し薄いサダの影であり、それは悲しそうにミラルカを見た。「ファラ、なんて姿に」
ミラルカはあまりのショックに口もきけない。 憎々しげにダノンを見、剣を振り回そうとしたが、ミラルカに向けられたサダの呪文で気が遠くなっていった。体はすべるように地面に倒れ、怪我をした目に激痛がはしる。
体が重くなり、ファラの名前とギルオンの呪いがいつかお前達を滅ぼすぞと、つぶやきながら意識は闇に吸い込まれていった。
「では行くか」
ダノンは満足げに言った。キースは痛々しそうにミラルカを見た。ダノンはそんなキースに不愉快な目を向けた。
「キース、その小娘は殺してしまえ。もう用はないはずだ」
「それは出来ませぬ」
「貴様、主人に刃向かうか。貴様の剣は誰に忠誠を誓ったのだ。その娘か、この私か」
「ダノン王弟殿下に捧げましたる剣に嘘偽りはございませぬ。しかし、何の罪もない娘を殺すのはあまりに」
「罪だと。これは面白い。その娘は世間を騒がし人々を恐怖に陥れる盗賊だぞ。切り殺されても文句は言えん筈。どうした、各国で死神将軍と恐れられ、戦場では幾多もの勝利を治めたあの雄姿はどこへいった。それに貴様はどうやら大事な事を忘れたらしいな。貴様に地位や名声を与えたのは誰だ? 貴様の汚らしいふた親が捨てた赤子を拾い育て、ここまで取り立ててやったの我が兄ではないか。本来なら奴隷の子など一生地にはいつくばっているのが身分相応というものだ。キース伯爵などと言われはしても貴様になど一筋も高貴な血は流れておらぬ」
ダノンはこの美しい戦士の顔が青ざめるのを見ていいようもない喜びを感じた。キースは何も言わずうなだれていた。
「分かったか。私の言うことは絶対だ。ただ黙って言う通りにしていればよいのだ」
哀れなこの王弟は自分の説に酔いしれた。キースの心に今、幾筋の血が流れたか、忘れようとし乾き始めていた傷にまたどれほど痛手を負ったか、気遣う心はなかった。
「もういいでしょう。砂漠じゃこの娘にも助けられたし、帰りにも砂漠を通るこった。また役に立つやもしれませんぜ」
あまりの悪罵にデニスでさえ顔をしかめ口を挟んだ。
サダは夢から覚めたように黙って立っている。
「よし、まあいい。さっさと城に帰るとするか。早くこの汗を流したいものだな」
「何者じゃ。死にたくなければ即刻出てゆくのだ」
ぼうっと辺りが霞み、白い髭に白衣を着た老人が現れた。
キースが丁寧な口調で言った。
「御老人、我らは西方ジユダ国からやってきた者。ここに山賊アレゾの財宝が隠されていると聞いた」
「それがどうした。ジユダ国は山賊の宝を盗まねばならぬほど貧乏なのか」
「わけはいえぬ。財宝の場所を教えてもらいたい。礼はする」
「断る。確かにアレゾと名乗る男に頼まれた物はここにある。しかし、お主らに渡すようには言われておらん」
老人はうるさそうに手を振った。
「ここにいる娘はアレゾの愛娘だ。彼女には受け取る権利がある」
キースはミラルカを指した。
「ほう、似ておらん娘じゃな。その証拠はどこにある」
キースはミラルカを見た。ミラルカは相変わらず不機嫌そうに黙りこんでいた。
「アレゾの身内を語る奴はお前で十人を越えた。そいつらは皆ここで眠っとるよ。そうならに内に帰れ」
困ったキースはファラを見た。
「じいさん。あたしはアレゾの情婦だった女でファラってもんさ。確かにこの子はアレゾの娘さ。あんたに土産がある」
ファラは馬の背から荷物を取り出し、
「そら、これだよ」
と、放り投げた。
それはかなり大きな荷で、頑丈に何重にも梱包されていた。老人は荷をほどいて、顔をほころばせた。
「おお、これは確かにわしがあの男に頼んだ物じゃ。間違いない」
それは魔術や呪いに関する書物であった。
「これで認めるだろ。じいさん」
「分かった。お主らは正しくアレゾの身内の者。宝を引き渡そう」
「それはありがたいんだがね。身内はこの娘とあたしだけさ。この男達はあたし達から宝を横取りする気なのさ」
「何、それはいかん。そんな事は認めん。それではわしは約束を守ったあの男に申し訳がたたん」
老人はかっと瞳を見開いた。キースはとっさに瘴気を感じ老人に向かっていった。
「待て、我らからも土産がある。これを見てもらおう」
いつの間にかキースの手には小さな水晶玉が握られていた。
それはナス魔道師に、もし自分達の手におえない時には出せ、と言われていた物であった。
水晶玉はだんだんと透明から灰色になり、そこに一人の老婆の姿が映った。老婆は醜く、黒衣を着ていたがその隙間からでた肌は岩のようで、蛙のようにしゃがれおしつれた声であった。
「久しぶりよのう、サダ。わしを覚えておるか」
「お前はナス魔道師ではないか。この連中についておるのはお前なのか」
「そうじゃ。のうサダ、お前は悔しくはないのか。ロブ伯爵にこんな砂漠へ追いやられ、何百年もたった一人で話し相手もおらず、魔道の研究さえも禁じられ、哀れよのう」
「何が言いたい」
サダ魔法人はむっとしたように言った。
「そこから出たいとは思わぬか」
「出たい。しかしそれは出来ぬ」
「わしが出してやるといったらどうする」
「たとえお主でもそれは無理じゃろう。もしそれができても、ギルオン妖魔王の怒りをかい、もっとひどい罰を受けるだけじゃ。お主とてただでは済むまい」
サダは悲しそうな顔で言った。
「それは分からん。お前がこのダノン王弟にアレゾの財宝の中の一つ、七色の石を渡してくれれば事は済む」
「七色の石だと。まさかお主らは」
「そうじゃ。七色の石により臨める石を手に入れる。そうして世界はジユダ国が支配するのだ。臨める石を手に入れば、ギルオン妖魔王だとて赤子同然。恐れる事はない。どうじゃサダ」
「しかし、」
「迷うな、忘れたのか。ささいな罪でこのような地に追いやられた屈辱を。それともこれより果てない年月をここで暮らすか。お前はあと何千年の寿命を持っておるのじゃ。砂と風とだけを友とし、朝も夜も獣の咆哮だけを聞き、ただ一人きり暮らすか。もうお前に希望はないのか」
ナスは哀れみと嘲りをもって笑い、サダは気も狂わんばかりに叫んだ。
「やめてくれ。お主の言う通りじゃ。わしはロブ伯爵が憎い。あやつはわしから魔道を取り上げた。西妖魔の第一級魔法人であるわしからじゃ。わしはもう耐えられん。このような土地でただ一人きり生きながらえるのは。いいとも、ダノン王弟よ。お主に七色の石を与えよう。世界の王となるがいい。しかしそのあかつきには、あやつがわしに与えた恥辱よりももっとむごいやり方であやつに制裁を加えてくれような」
サダの瞳はらんらんと輝き、もう先程の貧弱な老人ではなく邪気を漂わせ口元に壮絶な笑みを浮かべた。
「分かった。約束する。お主の屈辱は必ず私が晴らしてやろう」
ダノンは頷き、ファラが叫んだ。
「そんな、約束が違うじゃないか」
「許せ、わしはこの地より出たい。いつとは知れぬ妖魔王の許しを待つよりも、二度と西妖魔へ帰れずとも今、ここを出たい」
ファラとミラルカは茫然となり、ダノンは勝ち誇った顔をした。
「そ、それで、石はどこにある。早く見せてくれ。その石さえあれば臨める石が手に入るのだな」
サダはゆっくりと呪文を唱えると彼らの先にある大岩を動かした。ざざっと音がして岩の向こうから膨大な量の宝石や金、銀、毛皮や薬草などが転げ落ちてきた。ダイヤモンドの王冠、サファイア、ルビ-などの首飾りや指輪、アクアマリンの水剣にザザの国の珍しい吹雪の鎧、これまで彼らが見たこともないような宝ばかりである。ダノンにデニス、従者は歓声をあげて宝の山に走りこみ、財宝を手にし、はしゃぎ始めた。
サダはその中から二つの石を取り出し、キースに渡した。
「これが七色の石の中の二つじゃ」
「それでは七色の石とは七つの石なのか」
「そうだ。あと五つ探さねばならん。しかし石はそれぞれ光を発し、引きつけあう物。いずれお互いを呼ぶであろう」
キースは手渡された黄色とオレンジ色の石を見た。なるほどに二つの石はキースの手の中で鮮明な光を放っている。しかし彼はミラルカの胸の中でもまた真っ赤な光が発しているのを知らなかった。
「あとの五つのありかは分からんか」
「さあな。さて、ナス。石は渡した。約束通りここから出してもらおう」
「分かった。それではここにいる女のどちらかにお前の影を映すのだ。わしとお前の魔力ならそう簡単には破れんだろう。どちらの女がよいかな」
サダはファラとミラルカを見た。彼女らは絶望と驚愕に震えていた。
初めて聞いたダノン王弟の陰謀に恐れおののく。妖魔王を支配し世界を手中にしようなどと考えるなど、彼らは正気ではない。
キースはファラを指さした。
「ほう、何故じゃ」
「こっちの娘は怪我をしている。このままここに残して行けば遠からず死ぬ。ここで生きていてもらわねば困るのだろう」
「そうじゃ。ではこの女にしようか」
サダはファラを見た。
ファラはありったけの悪態をついて、彼を責めたがサダは首を振って言った。
「済まぬ。かならずここから出してやるが、少しの間辛抱してくれ」
サダとナスはお互いを追いかけるように口々に呪文を唱えた。二人の身体からオ-ラが出てファラを包みこみ、そしてファラの姿を消した。代わりに現れたのは少し薄いサダの影であり、それは悲しそうにミラルカを見た。「ファラ、なんて姿に」
ミラルカはあまりのショックに口もきけない。 憎々しげにダノンを見、剣を振り回そうとしたが、ミラルカに向けられたサダの呪文で気が遠くなっていった。体はすべるように地面に倒れ、怪我をした目に激痛がはしる。
体が重くなり、ファラの名前とギルオンの呪いがいつかお前達を滅ぼすぞと、つぶやきながら意識は闇に吸い込まれていった。
「では行くか」
ダノンは満足げに言った。キースは痛々しそうにミラルカを見た。ダノンはそんなキースに不愉快な目を向けた。
「キース、その小娘は殺してしまえ。もう用はないはずだ」
「それは出来ませぬ」
「貴様、主人に刃向かうか。貴様の剣は誰に忠誠を誓ったのだ。その娘か、この私か」
「ダノン王弟殿下に捧げましたる剣に嘘偽りはございませぬ。しかし、何の罪もない娘を殺すのはあまりに」
「罪だと。これは面白い。その娘は世間を騒がし人々を恐怖に陥れる盗賊だぞ。切り殺されても文句は言えん筈。どうした、各国で死神将軍と恐れられ、戦場では幾多もの勝利を治めたあの雄姿はどこへいった。それに貴様はどうやら大事な事を忘れたらしいな。貴様に地位や名声を与えたのは誰だ? 貴様の汚らしいふた親が捨てた赤子を拾い育て、ここまで取り立ててやったの我が兄ではないか。本来なら奴隷の子など一生地にはいつくばっているのが身分相応というものだ。キース伯爵などと言われはしても貴様になど一筋も高貴な血は流れておらぬ」
ダノンはこの美しい戦士の顔が青ざめるのを見ていいようもない喜びを感じた。キースは何も言わずうなだれていた。
「分かったか。私の言うことは絶対だ。ただ黙って言う通りにしていればよいのだ」
哀れなこの王弟は自分の説に酔いしれた。キースの心に今、幾筋の血が流れたか、忘れようとし乾き始めていた傷にまたどれほど痛手を負ったか、気遣う心はなかった。
「もういいでしょう。砂漠じゃこの娘にも助けられたし、帰りにも砂漠を通るこった。また役に立つやもしれませんぜ」
あまりの悪罵にデニスでさえ顔をしかめ口を挟んだ。
サダは夢から覚めたように黙って立っている。
「よし、まあいい。さっさと城に帰るとするか。早くこの汗を流したいものだな」
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
読心令嬢が地の底で吐露する真実
リコピン
恋愛
※改題しました
旧題『【修正版】ダンジョン☆サバイバル【リメイク投稿中】』
転移魔法の暴走で、自身を裏切った元婚約者達と共に地下ダンジョンへと飛ばされてしまったレジーナ。命の危機を救ってくれたのは、訳ありの元英雄クロードだった。
元婚約者や婚約者を奪った相手、その仲間と共に地上を目指す中、それぞれが抱えていた「嘘」が徐々に明らかになり、レジーナの「秘密」も暴かれる。
生まれた関係の変化に、レジーナが選ぶ結末は―
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~
リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。
シリアス―★☆☆☆☆
コメディ―★★★★☆
ラブ♡♡―★★★★☆
ざまぁ∀―★★☆☆☆
※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。
※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。
※四章+後日談+番外編になります。
伯爵令嬢の恋
アズやっこ
恋愛
落ち目の伯爵家の令嬢、それが私。
お兄様が伯爵家を継ぎ、私をどこかへ嫁がせようとお父様は必死になってる。
こんな落ち目伯爵家の令嬢を欲しがる家がどこにあるのよ!
お父様が持ってくる縁談は問題ありの人ばかり…。だから今迄婚約者もいないのよ?分かってる?
私は私で探すから他っておいて!
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる