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十章 孤独の魔女レグルス

300.魔女の弟子とこの世界の全て

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「ってわけで、シリウスの側もすげー戦力集めてきて明日の夜にでも攻めてくるそうだ、そこに集まってくれたのが全ての魔女大国の戦士達、その総数は軽く一千万を超えている…この大軍勢を率いて、俺達は明日の夜シリウスとの決戦に臨む」

グッ!と長机の最奥でラグナが改めて状況を説明するように力説する、それを傾聴するのはそんな長机にズラーっと並ぶように座る豪華メンバー

エリスやメルクさん ネレイドさんアマルトさんに加え、魔装による強化を終えたらしいナリアさんとメグさん、そしてややスッキリした顔をしたデティの八人の魔女の弟子

そして各国の軍を率いる代表達にアルクトゥルス様 フォーマルハウト様カノープス様の三人の魔女

今集められる全ての戦力が結集したアジメクの軍議室で、明日に迫るシリウスの侵攻に対する最後の詰めを行なっていた

「なんていうか…私が寝てる間に凄い話が進んでるだけど、本当にこの皇都に一千万人も集まってるの?」

「ああ、と言ってもその大半は街の外や城壁にて防衛の支度をしてくれている、この人数と技術者の多さなら明日の夜と言わず今日の夜にでも万全の支度が出来そうだ」

集まった人手は当初の八十万を大きく超えて一千二百三十万にも膨れ上がった、カノープス様が世界中に大規模な時界門を繋ぎ全員を引き連れて来てくれたんだ

お陰で最初は間に合わないかと思われた準備も容易く整った、何せデルセクトやアガスティヤからも凄まじい数の技術者が集まってくれたんだからね、一瞬にしてこの皇都を世界最高の防御力を持つ城塞都市へと変形させてくれるだろう

「凄い話でございますね、…それにまさか将軍達も来ていただけるとは」

「私が来たのは不服だったか?メグ」

「いえ、ルードヴィヒ将軍が来てくれた事自体は嬉しいです…けど、何故ラグナ様がこの場の総指揮を取り仕切っているので?良いのですか?」

ややメグさんが不思議そうに首を傾げる、確かに何故か普通にラグナがこの場を仕切っている…それは彼が強引に自分の手元に指揮権を置いた、とかではなく本当に自然に彼があの場に収まっていたのだ、まるで水が流れてあるべきものがあるべき場所に収まるように

だが違和感はある、ラグナはよく魔女の弟子達の指揮を執り行う事はある、だが世界各国の実力者が集まるこの場でもそれが起こるとは思いもしなかったんだ、だってラグナよりも経験豊富な指揮官はこの場には沢山いるしラグナ自身若造もいいところだ

…なのになんで誰も文句を言わないのかな

「その件についてだが、特に文句はない…ラグナ大王はアルクカースの国王、ならこの取り留めのない大軍勢を率いるのには慣れているだろう」

「ええ、彼の胆力は英雄そのもの…全ての魔女大国が対等に並び戦うこの場で唯一傑出した英傑の才覚、誰も彼の立ち位置を脅かす事は出来ません」

「まぁあ?、中には文句言う奴もいるだろうが…どうせ戦いは明日なんだ、そう言う問題が表に出る時間もないまま戦いは終わる、ならこのままラグナが総指揮の座に座った方がいいだろ、あたい的には御大将の方がいいけど」

ルードヴィヒさんもグロリアーナさんもラグナのそう言うカリスマ性を買ってくれているようだ、ややベンテシュキメさんだけが不服そうにしているが…彼女が推すネレイドさんが既にラグナに従う姿勢を見せている以上それに従うより他ないのだろう

「ありがとう…、敬愛する先立の皆さんにそう言ってもらえると、嬉しい反面ちょっと歯痒いな」

「いえいえ!何を仰いますやら!先ほどの演説見事でしたぞ!若!」

「そうそう!、若の第一の部下たるウチらも鼻高々ですよ!」

「まぁこの大連合の総指揮を任せてもらった以上身内贔屓はナシだ、お前らも存分にこき使うから安心しろ」

とはいえラグナはその場に立ったからと言ってアルクカースの面々を重用する気は無いようだ、彼の隣には今サイラスさんもテオドーラさんも近づけてはいない、彼らは一応アルクカース側の戦力として切り分けて話しているようだ

「んじゃ、時間もないんで早速話をさせてもらう、敵方の分かっている戦力がを纏めた資料は既に全員に配ってある、もうみんな目を通したよな」

とエリスは机に配られた資料を見る、これはコルスコルピが全面的に協力してくれたおかげでたんまり紙が手に入った為この場にいる全員に配って余りある数の紙を確保出来たのだ

中にはエリスとアマルトさんが見てきた全てが書かれている、シリウスと彼女が連れるスピカ様リゲル様ウルキさんの三人の魔女級戦力と蘇った羅睺十悪星…そして数百万の魔造兵、凄まじい戦力である事は言うまでもない

「すげー戦力、これがマジならヴィスペルティリオの襲撃がお遊戯に見えらぁ」

「ええ、これ程の戦力で攻められたら…今のエトワールなら滅びてしまうでしょう」

流石の戦力にタリアテッレさんもマリアニールさんも青褪める、魔女大国最高戦力さえも戦かせるだけの戦力が、ここには記されているのだ

「オマケに…襲撃まで時間がないと来ましたか、我が国のことながらここまでの危機になるとやや他人事になってしまいますな」

「いいじゃない、神話の戦いって感じで逆に燃える」

冷静に捉えるデズモンドさんと本当に理解してるのか怪しい反応を見せるクレアさん、二人も揃って軍議に参加し資料に目を通している

確かにこれは神話の戦いだ、かつて巻き起こった大いなる厄災の再演でもあるんだ、…負ければその厄災の続きが巻き起こる、これは決して楽な戦いではないのだ

「確かにヤバい戦いである事は言うまでもないと思う、けどなんとか出来るだけの手札はあるんだ、…これを有効活用する!」

するとラグナは立ち上がり、資料を放り投げ…

「まず、敵の最大戦力たるスピカ様 リゲル様 ウルキの三人は、ここにいる三人の魔女で食い止める…でいいんですよね!」

「ああ、任せな…オレ様達がキチッと奴らを抑える」

「そうですわ、若い子達がここまで張り切っているんです…古い世代は邪魔をしませんし、邪魔もさせません」

「その通りだ、それに我はウルキをやるつもりだ…レグルスがつけられなかった決着を、我がこの場でつけ 引導を渡す」

正直一番不安だった相手の魔女達の相手はこれでなんとかなったと言っても過言じゃない、アルクトゥルス様 フォーマルハウト様 カノープス様の三人なら敵の魔女にも負けはしない、こっちは安全なのだが…

「あのー、一つ聞いてもいいですかねー」

「ん?、なんだ?デティ」

そんな中おずおずとデティが手をあげる、質問があるとばかりに…

「いや、今の内容に質問はないんすよ、けど…何故私は今カノープス様の膝の上に座らされているんですかね」

そう、何故かデティはさっきからカノープス様の膝の上に座らされ、何故かその頭をずっとカノープス様に撫でられているのだ、デティが恐れ多いとばかりに退こうとすると時を止めて元に戻したり時界門で引っ張り戻したりして決して逃がさないのだ

何故かって、こっちが聞きたいくらいだ

「そう悲しいことを言ってくれるな魔術導皇、どれ 果物をやろう、飛び切り甘いやつだ」

「わーい!、皇帝陛下大好きー!」

「ふふふ、可愛い奴め」

何処からともなく取り出されたブドウ一房に魔術導皇はあっけなく陥落、…引き続き皇帝にその金の髪を遊ばせる代わりにデティはブドウを手に入れモチャモチャと皇帝の膝の上でブドウを食べ始める

それをすんごい羨ましいそうな顔で見ているメグさんは一旦置いておくとしよう

「おほん、気を取り直してだ…、まずこれだけの大所帯だ 役割分担を最初にしておく、一応総指揮は俺が任されたが戦いが始まったら俺達はシリウスの相手に専念する…とてもじゃないが指揮なんか執れる状況じゃない、だから指令本部は別に作るつもりだ」

あくまでラグナは旗本、命令を出す役割が別に必要だ…それもこの一千万の大群を引っ張れるだけの実力者が、それを選ぶ権利は今ラグナにある

ラグナは一瞬悩んだ後…、口を開き

「指令本部はこの皇都に詳しいデズモンドと戦争の指揮に慣れているサイラス、大軍勢を率いる事が出来る恐らく唯一の人物 ルードヴィヒ将軍、そして…お前に任せられるか?」

そうラグナがチラリと視線を向ける先には、なんとも嬉しそうに目を輝かせている青年がいる、暗黒の参謀と歴戦の策士 そして最強の将軍と肩を並べることを許されたのは、ラグナと拳を交えその強さを示した若き国防の士…

「いいのかい!!!、ラグナ君!!!まだ若輩の僕でも!!」

「う うるさ、…ああいいよガニメデ!、先輩方に学び お前の熱意でみんなを引っ張ってくれ」

コルスコルピの国防大臣の息子 ガニメデ・ニュートンだ、未だ学生ながらに既に父の手伝いをしこの場にもコルスコルピの国防将軍として参陣した彼にラグナは指令を任せる

かつては殴り合った仲だが、だからこそ彼の熱意は知っているし…何より一時は時を共にした学友だ、彼にならエリスも文句はない

「ふむ、任された…と言うわけだ、よろしく頼むよデズモンド君 サイラス君 ガニメデ君、私も僭越ながら尽力するよ」

「ほほう、これはこれは…世界最強の将軍を前に私の浅知恵がどれほど通用するか」

「うう、緊張して来ましたが若の前です、アルクカース随一の軍師(予定)として我輩も全霊で頑張りましょう」

「くぅぅぅ~~!、なんて豪華なメンバーだ!この三人と共に世界を守れるなんて!光栄だァァァアアア!!!!」

「うるせぇよガニメデ、頼むからこれ以上コルスコルピの恥を晒さないでくれ…頼むから、一応アレでも俺には祖国なんだから…」

「ごめんね!!アマルト君!!」

本当ならここにネレイドさんも加わるんだろうが生憎とネレイドさんもエリス達とシリウスと戦う予定だ、とならばこの四人が最適解のメンバーとなるだろう

「そして城壁に大量の魔術陣とデルセクトの兵器と帝国の魔装を配置し、迫り来る魔造兵アンノウンを接近させず迎撃する予定だ、マリアニールさん 魔術陣はどれだけ用意出来そうですか」

「連れてきた魔陣師の数的に…、明日までに七千陣程用意するのが精一杯です」

「七千か、ちょいと少ないな」

かなりの数だとは思う、だが本来魔術陣は何日もかけて用意するものだ、それを一日も時間がない中で用意するのだから大した数だとは思うが、七千程度では広大な皇都をカバーしきれない可能性があるのだ

だが

「しかし、我々は芸術の民エトワール人なので明日までに一万五千は用意できるでしょうね、筆が乗れば更に倍ほどには」

「ど どういう理屈?」

「芸術家という生き物は締め切りにお尻を突かれると通常時の数倍の速度で作品を仕上げられるのです、それに我々は芸術家の国徒エトワール人…その威信にかけて最高傑作を作り上げると約束します」

何故締め切りに追われるとスピードアップするのかは分からないが頼もしい限りだ、芸術家の名を背負うエトワール人として、その誇りと威信にかけてこの皇都の外に大量の魔術陣を用意すると言うのだ

「城壁にはデルセクトが作り上げた大量の遠隔兵器を配置しよう、敵を蜂の巣にする仕事は我らに任せてもらう」

そう自信ありげに語るのはグロリアーナさんだ、メルクさんは学園を卒業した後対魔女排斥組織を意識して大量に兵器を製造していたと言う、それはこの場においても陰る事はなく猛火を奮い敵を撃滅させると豪語させる

「なら地上には帝国の魔装を並べましょう、魔獣を相手にしても引けを取らない大型魔装も大量に持ち寄った、世界最強の座は未だ健在であることを証明する」

アーデルトラウトさんはそれに対抗するように豪語し返す、大型魔装ってのはあれだ…対アルカナ戦で絶大な影響を見せた巨大な魔装だ、あれに乗り込めばどんなひ弱な人間でも魔獣を真っ向からねじ伏せるだけの力を得られるだろう

「ならば我らコルスコルピはアンノウンの身体データを提供しよう!、あれは以前コルスコルピに現れた、よりにもよって学者の国コルスコルピにね!、もう奴らの研究は既に終わっている!何処をどう破壊すれば良いか誰にでも分かるように教授して見せましょう?」

ふふんと学園教授たるリリアーナさんがここぞとばかりにデータを差し出す、以前学園に現れたアンノウンの死骸から既にその研究を済ませていたようで、次現れた時のために強力な対抗策を用意してくれていたようだ

流石はコルスコルピ、学びの国と言われるだけはあるな、アンノウンが以前出現したのがコルスコルピで良かった

「そして白兵戦だが、表に大連合を並べるつもりだ、この戦いは敵を撃滅することにはなく俺達がシリウスを倒すまでの持久戦になる…、だから大量にポーションと治癒術師が必要になる」

「なら安心していいわ、アジメクの人間はみんな大なり小なり治癒魔術が使えるわ、誰も死なせないから安心しなさい」

「ポーションに関しては帝国軍が請け負おう、アジメクのも合わせて在庫が山とある上製造ラインも充実している…それこそ一千万の軍勢を補って余りあるな、持久戦はこちらも望むところだ」

デティの方針により大量に治癒魔術師を育てていたアジメク軍と常に世界を守る戦いを意識して準備を進めて物資を大量に蓄えていた帝国によりその持久性は凄まじいものになっている、白兵戦も無謀な戦いにはならない

何より、エリス達も長引かせるつもりは全くない…速攻で終わらせる

「頼もしい限りだ、…こちらの敗北条件は敵をこの白亜の城に近づける事だ、故に出来る限りこの皇都に近づけさせたくはない、だから死ぬ気で守ってほしい…世界の為に」

「アジメクは私達の国よ!私達の国くらい私達が死ぬ気で守るわ!任せなさい!」

「戦いならアルクカース人として負けられねぇ、この戦いで最大の戦果を上げてやるよ!」

「デルセクトとしてもこの戦いの意味は大きい、この技術力で戦いを勝利の栄光へと導こう」

「いやぁー、アーにゃんもやる気だねぇ、コルスコルピも頑張るけどさ!」

「ええ、我々エトワール軍は他の国と比べれて未だ貧弱、されど蚊帳の外にはなりはしない!大国の誇りは我らにもある!」

「帝国でつけられなかった決着をここでつける」

「うん…私達オライオンから見てもシリウスにはたんまり借りがある…、散々こき使ってくれた礼…私がする」

名乗りをあげるように気炎を上げるは七つの魔女大国とその最高戦力達…

クレアさんやベオセルクさん、グロリアーナさんと言った面々が一堂に会して一つの敵を目掛けて進もうとしている、そこにエリスは言い知れぬ高鳴りを感じる…まさかこの人達が一緒に戦うなんて、そんな人達と一緒に戦えるなんて…光栄だ

「よしっ!、俺達でこの国に作り上げよう、世界を守る最終防衛ラインを!、その為にはなんとしてでも今日中にシリウスと殴り合う為のリングを作り上げる必要がある…というわけで!」

そうラグナは机を叩くように手元の資料を指し示す、この戦いの主軸であるシリウスとの激突…それを実現させる為には乗り越えなきゃいけない障害が山とある、それを乗り越える為に今…そのための準備をするんだと

「まず物資の確認だ!デルセクト・アガスティヤ両国が持ち込んだ兵器!その詳細は!」

「では私とメグが説明をしよう」

「はい、我々も自国の兵器については精通しておりますので」

この戦いの命運を握る兵器とは、小さな人間が巨大な魔獣に対抗することの出来る数少ない兵手段の一つでもある、そしてその兵器製造といえば世界屈指の技術力を持つデルセクトとアガスティヤ…この両国が持ち込んだ兵器に戦いの行く末がかかっているだろう

「まずデルセクトだが単発式の軍銃を七百万丁をアジメクに持ち込むつもりだ、その上で最新式の錬金機構銃百五十万丁 ショットガンタイプの軍銃を五十万丁…駄目押しに連射式の軍銃二百万も乗せておこうか」
 
「凄い数…デルセクトは一体どんだけ兵器作ってるのよ」

思わずクレアさんが青褪める、どう考えてもデルセクト連合軍の総数よりも多い量の銃の数にエリスだって驚いている、まさかそんなに量産していたのか…

「ああ、元より魔女大国限定で売りつける予定だった物をこちらにタダで送るだけだ、こちらの戦力減退には繋がらん、その上で設置式のガトリング銃と大砲をそれぞれ二千門づつ…爆破物は在庫がある限り提供しよう」

デルセクトは元々銃火器の開発に力を入れていた、というより悔しい話ではあるがデルセクトには銃火器製造のスペシャリストであるソニアが居たのだ、彼女が設計した銃の数々はどれも数百年先の構想をそのまま引っ張って来たかのような異次元の領域にあったという

オマケにアルクカースとの戦争を意識していた為国内に大規模な銃火器量産施設や工場を構えていたのだ、その後ソニア逮捕と共に工場の運営権の移動が起こり巡り巡ってその製造権利を手にしたメルクさんによりデルセクトは爆発的に兵器の数が増加した

今のデルセクトはエリスが訪れた際と比較にならない軍事力を誇っている、立派に軍事大国だ…それも元軍人であるメルクリウスさんが治める軍事大国、…こりゃ頼りになるぞ

「あとは…あまり頼りにはしないで欲しいが、一応試験段階の『第三世代型』の兵装も投入するつもりでいる」

「第三世代型?」

「ああ、火薬を用いて鉛玉を射出する原始的な銃を第一世代として、錬金機構を携え錬金術との並行使用を可能にしたのが第二世代…今回投入するのは更にその先の第三世代だ、私の目算になるがコレが実用段階に入れば帝国の魔装に並ぶ物と見ている」
 
「ほう、それは恐ろしい」

思わずルードヴィヒさんも興味深そうに呟き手元の資料を見る、そこにはシオさんが先程躍起になって追加した試験段階の兵装の名前がある…えーと、何々?

『吼雷砲』…『火元弾』…『岩砕王』、何やら聞きなれないワードが立ち並んでいるな、コレが第三世代の武器、これから先はデルセクトが兵器開発の先頭を行くという決意が見て取れるな

「まぁこれを扱えるのは一部のデルセクト特殊兵に限られる、故に設置出来る箇所は非常に限られるだろう、故にラグナ…配置場所はお前に任せる」

「分かったよ、任せてくれ」

「ではお次はアガスティヤより現行最新兵器のご説明を」

ややデルセクトに対抗するようにメグさんが立ち上がる、だが確かに今現在兵器製造の最先端を行くのは帝国だ、対シリウスを意識して八千年前から技術革新を進めてきた帝国の兵器はどれも…エリスから見ても未来のものとしか思えないレベルだ

「まず小型魔装カンピオーネを帝国兵だけでなく他国の兵士の方々にも提供する予定でございます…数はザッと一千万程、扱いも簡単ですのでご自由にお使いください、そして中型魔装も五十万機大型魔装も八千機程今回の戦いに投入する予定でございます」

アガスティヤの兵器の主流は魔力を用いた魔力機構による魔装兵器だ、魔力で動かすのではなく魔力を動力にしそのエネルギーで稼働させるその兵器の馬力の高さは恐らくデルセクト蒸気エネルギーを遥かに上回る

十万人規模で動員された魔女排斥連合との戦いでも凡そ五十機程の中型~大型魔装で圧倒、敵の改造魔獣も物ともせず叩き潰してみせた戦果もある

何より恐ろしいのはこの魔装の源流がカノープス様の設計にあるということ、つまり八千年前にはこの魔装兵器でシリウスと戦っていたという何にも代え難い実績があるのだ、これを追い越すのはデルセクトには当面難しい気もする

「そして、帝国虎の子…戦術級魔装と戦略級魔装の使用許可を魔術導皇デティフローア様より頂きたいのですが、構いませんか?」

「ふぇ!?、…い いいんじゃない?」

いきなり話しかけられぎょっとしながらぶどうを頬張りコクコクと頷くデティ…、だがいいのか?帝国の最大クラスの魔装と言えば

「フッ、大した覚悟だ魔術導皇、皇都周辺を更地にしてまでも防衛に走るとは、流石の判断だ」

「え?、更地?」

カノープス様が評価する、大した決断だと…そうだよデティ?、帝国の魔装はとにかく果てしない威力を持っている、一撃で戦況を左右するほどの物ともなれば山一つ消し飛ばしても不思議はないんだ…

まぁ、今は手段なんか選んでいる暇はないからいいか、皇都が無くならなければ万々歳だ

「何が出てくるのぉ…」

「ともかく兵器面に関して不足はないということが分かった、なら次は情報だ!敵は魔造兵アンノウン!、数も多いし手強いやつだ!、だがコルスコルピ!終わってるよな!解析は!」

「え?あー…俺パス、リリアーナ教授頼む」

「任せたまえ!、次期学園長からの命令ならば吝かでもないね!」

説明を求められたアマルトさんはそのまま受け流すようにリリアーナ教授へと説明を託す、まぁアマルトさん…多分何にも知らないからね

「まず魔造兵アンノウンについてだが、通常魔獣は生命維持に必要な臓器を必要最低限しか積んでいない不思議な生き物だがアンノウンに関してはそれすらない、脳も無ければ心臓もない筋肉と血管の束みたいな生き物だ、故に頭を潰しても胸を貫いても下手したら真っ二つにしても動き続けるでしょう」

「なんと面妖な生き物でしょうか…」

リリアーナ教授の言う通りだ、アンノウンはとにかくしぶとい、内臓がないからどれだけ傷つけても動き続ける、急所や弱点がないからひたすら奴らの体力を削るしかない…厄介な魔獣だ、本来は存在しない魔獣故危険度も存在しないが、エリスの見立てではBからAランク程はある

つまり、アンノウン一匹に訓練された冒険者数十人体制でかかるべき相手なのだ、それだけ恐ろしい相手である事を皆に共有するが…

「だが安心してくれたまえ、内臓と共に骨や際立って頑強な筋繊維もない事が確認されている、つまり急所はないが特段頑丈な部位もないと言うことさ、だから急所狙いの点攻撃よりも一撃で吹き飛ばす面攻撃の方をお勧めするよ」

「なるほどな、確かに奴らのしぶとさはよくよく理解している、ならまずはその知識の共有をコルスコルピ側が率先して頼む」

「任せたまえ、教えることに関してのノウハウはあるからね」

「なら次は地形に関してだ!、アジメク軍全面協力の下 この皇都周辺の地形に関する情報を得た!みんな目を通してくれ!」

アジメク軍にとっても重要な情報である皇都周りの地形情報が書かれた資料を一番表にして描かれた絵を見て、エリスはやや顔を曇らせる、これは…

「地形はなだらか、全方位から近づき易く、平原の真ん中に打ち立てられたような構造ですね」

ややグロリアーナさんが難しそうに呟く、エリスも同じ気持ちだよ…、皇都の建てられている地形はなんとも不用心だ、商人や街人が何処からでも出入りしやすいように全方位に門があり道が伸びている

それは裏を返せば何処からでも攻められるという事、裏を返せば攻め易く守り辛いということ、地形的な優位を選べるのが防衛側の利点だが…皇都にはそういう地形的防衛側利点が一切ない

まぁ仕方ないんだけどね、これで八千年やって来たんだから

「なによ、なんか文句でもあるの?」

「いえ、些か不用心な地形に建てられているな…と」

「仕方ないでしょアジメクは元々巨大砂漠だった地よ、要害となり得る自然はこの国の何処にもないの」

「そう言えばそうでした」

確か師匠も昔言っていたな、この国はスピカ様の加護のおかげで花の生い茂る国になっているだけで元々は巨大な砂漠だったと、だから全体的になだらかな地形なのか…、うん確かにアジメクは起伏のない地形が多いな、大きな川もないし大きな山も一つしかない、目を凝らせばアルクカースまで見えそうな勢いだもんな

「んんぅ、確かにこの地形…歴史から見ても結構なもんだね、むしろ今まで何処からも攻められなかったのが不思議なくらいだよぉ~」

「それだけアジメクが平和ということですね」

タリアテッレさんやマリアニールさんもやや苦言を呈するが、エリスから言わせて貰えばヴィスペルティリオもアルシャラもまぁまぁ不用心なところに建ってますよ、防衛的な利点を持つ中央都市なんてフリードリスとエノシガリオスとマルミドワズくらいなもんだ

「如何しますか、若…これでは全方位からの攻撃を受けてしまいます、如何に数で勝っていようとも攻められる箇所が多ければその分軍を薄く伸ばさねばなりません、ともすれば…何処かが破られるやも…」

「その事についてなんだが…」

ふと、チラリとラグナがエリスの方を見る…なんでエリス?、と思えばすぐにその視線は魔女様達に移り…

「師範、さっき言ってた魔造兵に関してですけど、一つ聞きてもいいですか?」

「あんだよ」

「師範は魔造兵アンノウンを指して、『命令端末が無ければ役に立たない』…そう言いましたよね、魔獣と言えど脳を必要とするのは自律して動くため…だがアンノウンにはそれがない、ってことはどっかの誰かの意思がそのまま反映されてる…違いますか?」

「そうだな、魔造兵は命令端末が無ければただの肉の塊だ…で?、それがどうした」

「ならその命令端末ってのは 今回復活した魔獣王タマオノじゃないですか?」

そう言えば…、エリス達は一度アンノウンと戦っている、あの時奴らは明確に意思を持って動いていた…ということはあれも命令を受けていたという事になるのだろう

なら、そのアンノウンに誰が命令を下していたか、そんなものアインしかいない…正確に言えば魔獣王タマオノの髄液を手に入れ悪魔獣王となったアインソフオウルだが

アインは魔獣達に命令する力を持っていた、それは恐らくアインが魔獣を操る命令端末だったからじゃないか?、魔獣王の血をそのまま引き継ぐ魔獣皇族たるアイン…いやアクロマティックならそれも考えられる、なら同じようにその源流たる魔獣王タマオノも…

「ああ、そうだ…魔獣王タマオノは魔獣の生産プラントでありながら、同時に全ての魔獣に命令を下す権利を与えられた存在、だからアイツは魔獣王と呼ばれてるのさ」

「へぇなるほど、ありがとうございます師範…、なぁエリス?魔獣王タマオノってのはどんな奴だった」

え?エリス?、タマオノの様子ならアルクトゥルス様に聞けばいいのに、うーん…魔獣王タマオノがどんな奴だったってそりゃあ

「なんだか、予想以上に理知的で人に近しい存在に思えました」

魔獣王というくらいだから、もうすんごいでかい龍やツノの生えたクマみたいなのを想像していたが、実際に現れたのはドレスを身に纏った美しい女性だった、パッと見では完全に人と見紛う程にだ

そして理性的な瞳で喋り、エリスの知るどの魔獣よりも高度な知性を持っているようにも見える、というかあれは本当に魔獣だったのだろうか

「つまり、魔獣王タマオノは高い知性を持つ…でいいんだな?」

「え ええ、そうですけど…なんですか?ラグナ、さっきから…これは皇都の守りに関する話ですよね」

なのにいつの間にか魔獣王タマオノの話になってるし、というかそれ以前にその尋問するような口調…やや怖いですよ

「悪いな怖がらせて、でも大切な事だから…」

「魔獣王タマオノはシリウスが直々にその手で作り上げた新人類だ、そも…魔獣という名称も我等が勝手に呼んでいるだけ、タマオノ自体は恐らくこの世で最も人に近い人ならざる者だ、その知性もなんら人と変わらぬ」

そう補填するようにカノープス様が述べてくれる、そういえばアクロマティックもそんなこと言ってたな…魔獣は人より上等な存在だとかなんだとか

しかし、完全に人に近い存在…それも魔女級の怪物を一から作り上げてしまうなんて、シリウスは本当に神様みたいな奴だったんだなぁ

「ありがとうございます、おかげで見つかりましたよ…皇都の守りをどうするか」

「え!?、本当ですか!?ラグナ!」

「ああ、相手が理性を持たない怪物なら力の押し合いになるだろうが…その指揮を執る奴が知性を持っているなら、持ち込めるだろ?騙し合い化かし合いの戦場に」

そう凶暴に笑うラグナは都合がいいとばかりに言うのだ、魔獣を動かす存在が賢いならばやり易いと、…でもそうだ 魔獣が大挙して力のままに暴れるよりも、ある程度の統率を持って動いてきた方がありがたいんだ

だって相手が知性を持って襲ってくるなら、それはもう戦争だ…そして戦争ならば、ラグナは負けない アルクカースは負けない

「俺は皇都の守りに『腐肉の壺』を使うつもりだ」
 
「腐肉の…壺?」

なんだそれ…腐った肉の入った壺をこの戦いに使うというのか?、…そう思い想像するのはぐちゃぐちゃにに腐った肉の入った壺だ、蝿がたかってなんとも薄気味悪い代物、うぇ…気持ち悪い

殆どの人間が同じような想像をする中、一部の人間だけが声を上げる

「なるほど!その手がありましたか!、流石若!」
 
「フッ、そこに気がつくとは…流石はオレ様の弟子だ、正解だぜラグナ…オレ様も同じ意見だ、使えよ腐肉の壺を」

サイラスさんとアルクトゥルス様のアルクカース組が得心が入ったとばかりに手を叩く、見事な意見だと…もしかしてアルクカース人には分かるのかな?と思ったらアルクカース人以外も良い反応をしている

「ほう、腐肉の壺ですか…いやはや、アルクカースの王は大胆不敵ですな」

「腐肉の壺…そうか!聞いたことがある!、流石はラグナ君だ!!確かにそれならこのなだらかな土地もプラスに働く!!」

デズモンドさんやガニメデさんと言った司令部達だ、どうやらその腐肉の壺とは相当効果的な…ってええい!、考えていてもラチがあかない!

「あの、ルードヴィヒさんはその腐肉の壺が何か知ってますか?エリスそれ何かわからなくて…」

「ん?、ああ…アルクカースに古くから伝わる策略の名前さ、歴史上でも名策略家と言われた人物達が軒並み使っている戦法でね、詳細としては…ふむ、そうだな」

するとルードヴィヒさんが分からない人向けに説明しようと地図に指を向け円を描く

「まず、守るべき砦の周辺に兵を置き守りを固める、どこも万全と言えるほどの守りをだ…ただ、その鉄壁の守りの中にあえて 『穴』を作る」

「穴ですか?」

「ああ、言ってみれば守りの穴だ…人員が少なかったり装備が不十分だったり、他と比べて攻め易い環境をこちらが意識的に作るのだ」

「そんなことしたら、相手はそこを攻めるんじゃないんですか?」
 
「そうだ、相手はそこを攻めるだろう…そこに人員を集中させ戦力を集めて守りの薄い箇所を突く、これは砦攻めのセオリーとも言える筈だ、だが…言っただろう?意識的と、相手がそこを攻めるため戦力を集め始めた瞬間…他の守りに回していた兵士たちを展開する、こんな風にな」

砦を囲むように展開していた兵士達が、まるで花開くように広がり一点集中で攻めかかる敵をまるで覆うように囲み…いや違う、これは

「おお、両翼から挟んで敵を閉じ込めている!」

「そうだ、相手を引きつけ戦線の奥深くまで入り込ませ…そこを両翼から叩き拘束し、包囲し潰す…これが『腐肉の壺』と呼ばれる陣形だ」

なるほど、その様はまるで腐った肉に釣られて飛んできた蝿を…壺の中に閉じ込めるような陣形、敵の隙を突いて優位に攻め進んでいると思ったら 敵の壺の中にいる、まさしく思う壺ってやつだ!、そういうことか!

「これならば、相手が疎らに攻めかかってくることもないから戦場をこちらが選べるという利点もあるし、穴を作ることで他に人員を回し他所の防備を強固に出来る、全体的になだらかな土地ならば相手もこちらも高速で移動が出来るから包囲も容易い、まさにこの場にうってつけの策と言えるだろう」

「確かにこれなら…、数で勝るこちらの利点を相手に押し付けることが出来る、凄いですよラグナ…こんな」

「だが問題点もある、穴を担当する箇所にも少ないながらに人員を配置しなければならない、その箇所だけ誰もいなかったら相手も流石に罠を疑うからな…だから、相手に怪しまれない程度にはその場で奮戦する必要があるんだ、オマケに他の兵士達が到着するまで…そこの人員は少ない戦力で持ちこたえる必要もある」

穴を担当する人達は、とても少ない人員と装備で一点集中で攻めてくる敵を援軍が到着するまでなんとか守りきらないといけない、それは凄まじい難易度になるはずだ…なんせそこの人たちがしくじったら相手はその守りを抜けて一気に皇都内部に入り込むことになるんだから

「そこに誰を配置するか…それはまた考える必要がある、まぁ選りすぐりの人員を配置するつもりではあるが、少なくともこの戦いで最大の修羅場になる事は誰にでも容易に想像出来る」

「…………」

「無責任には選べない、そこは…総指揮を預けられた俺が責任を持って厳選するつもりだ」

その『穴』の防御を任される人は、今戦場最大の死地にて世界の命運を分ける役目を担えと命令されるも同然だ…実力もそうだが生半な精神力ではその場に立つことも出来ないだろう

故に選ぶ、この僅かな時間の中でその穴を守る必要最低限の人員を…

「…なんていうかさ、ラグナってこうしてると本当のマジで王様って感じがするよな」

ふと、アマルトさんが小さく囁く…そりゃそうだろと言いたいが、今回ばかりはアマルトさんに同意する

今のラグナはいつも以上に王様だ、さっきも言ったが穴を守る役目を担う人は凄まじい重圧を託されるのだ、それならばこの軍団の一番先頭で旗を振ってみんなを導くラグナの重圧はどれほどだ?

目の前に人はいない、道があるかもわからない、出口が存在するかもわからない暗闇をたった一人で切り裂いてひたすらに進む、その肩には今魔女大連合の一千二百三十万人の命が…いや世界中の人々の未来が乗っているんだ、それなのに彼は迷うことなく進もうとしている

「次は魔術陣の配置についてだが、兵器の配置も含めて穴に誘導するように設置していこうと思う!、その後は人員の配置について話し合っていく 各国の首脳陣は是非とも知恵を貸してくれ!」

各地の最高戦力達を束ねて指揮を執る彼の姿を見て、救世の使命という世界最大の重圧にも負けずに立つ彼を見て、ほんのりと胸に浮かぶ感情…

それは

(彼の助けになりたい…)

助けるだけなら今まで何度も彼を助けてきたし、助けたいと思って助けて来たには助けて来た…なのに、この感情は今までのどれとも違う気がする

言うなれば…支えたい、だろうか…うん

「ラグナ、エリスに手伝えることはありますか?」

「え?」

故にもう一度聞く、先程は特にないと断られたそれをもう一度だ、さっきと同じ問いかけ…だが違う点があるとするなら

「エリスは、貴方のためならなんでもします、エリスの全てを預けますからエリスの全てを使ってください」

胸に手を当て頼み込む、エリスの全能力を使って彼を支えたい、エリスの守りたい物を守ろうとする彼を守りたい、彼の右手に収まり闇を切り裂く松明に 敵を打ち倒す剣に 艱難を防ぐ盾になりたい…、今は心の底からそう思える

「…分かった、ならエリス 俺は今からみんなと会議を進める、その間に君はここにある全ての書類を記憶してくれ」

そう言いながらラグナが指し示すのは膨大な数の書類の山、数千万枚はあろうかと思われる情報は今この場に集まった全軍団員の名前と情報、持ち寄られた兵器や物資、その他諸々が書き込まれているという

「会議が終わり次第俺は前線に出て戦線構築の為 陣頭指揮を執る、その時一々書類を確認している暇もない…だからエリス、君が記憶して俺の隣に立って補佐してくれ、頼めるか?」

「勿論です、貴方のためならエリスは努力を惜しまないです」

「頼もしいな、じゃあ頼む…君にしか任せられないんだ」

「この仕事をですか?」

「俺の隣をだよ、っ…さ!こっちは会議を進めるぞ」

…ラグナの隣を、任せられるのが、エリスだけ……

な 何を言い出すのやら、全く…サイラスさん達が嫉妬しますよもう!、でも 光栄だ

世界の命運を託されたラグナの隣を任せてもらえるなんてとても光栄だよ…、エリスはきっとラグナと同じことが出来ないから、世界を救う英雄にはなれないから、だからせめてその隣くらいは守りたいからね

うん…よし、じゃあ彼の隣を任されるだけの人間になれるよう頑張ろう!


「ラグナ、顔真っ赤じゃね」

「半ば告白に近かったからな」

「もしかしてあの二人学園にいた頃から変わらず進展してない感じ?…」

アマルト メルク デティの三人のボヤきが耳に入らないほどに集中して書類を読み込むエリスとやや頬を赤く染めるラグナの二人によって世界防衛の為の会議は進んでいく

一人の英雄と、その英雄の影が着実に大きくなりつつある、そんな様を魔女達は慈しむように見つめる、古き時代の終わりと今を生きる者の時代の始まりを感じて

………………………………………………………………

軍議によって対シリウス用の防衛戦線の構想は出来上がった、全てが決まり次第後の調整は司令部に任せエリスとラグナは即座に会議室を出て皇都の外部に向かい 防衛戦線構築の為の陣頭指揮に加わることになった

既に街の中に住民はおらず、様々な鎧と軍服を着た兵士達が弾丸や剣を木箱に詰めてえっさほいさとあちこちに運搬し回っている、アマルトさんはこれを見て『まるで祭り前夜だな』なんて呑気な事を言っていたが、空気感的には間違いはないのかもしれませんね

「着々と進んでいるな」

そして、エリスとラグナは皇都の外部に存在する平原に打ち立てられた簡易拠点で地図と目の前の景色を交互に見つめて互いに頷く

会議が終わり、作業が本格化して数時間…、そろそろ空が赤らんで来る頃になってなおとどまる事を知らない作業速度は瞬く間に皇都を城塞都市へと変貌させていく

街を覆う外壁には無数の砲門が取り付けられ、地上では魔装が次々と配置され、あちこちで魔陣師達が地面に魔術陣を書き込んでいる、パッと見ただけでも攻める気が失せるくらいの難攻不落ぶりだな…

「この分なら明日までには終わりそうですね」

「ああ、みんなのおかげだ」

当初はどうしようもないかと思われた戦いも、これならば可能性があるかもしれない、シリウスとの戦いに勝てば…この長く苦しい激闘も終わる、師匠も帰ってきてシリウスは復活する手立てを失いみんな生き残って万々歳…そんなハッピーエンドを手に入れることができるかもしれない

それもこれもラグナの言う通りみんなのおかげだ、感謝しなくては

「とは言え敵は未知数、油断はしないでおこう」

「そうですね、シリウスは本当になんでも出来るようなので、…最後の最後に盤面をひっくり返されないよう守りは強固にしておかないと行けません」

「ああ、その為にも…」


「ぃやほーっ!、やってるかい?ラグナ!」
 
簡易テントの暖簾をバサリと手で払いのけ乱雑な足取りで入り込むそれがやーやーと気安く手を挙げてラグナの呼びかける、なんとも軽薄そうな声じゃあないか…おまけに大王でありこの軍団の総指揮を務めるラグナを呼び捨てになど出来る人間が果たしてこの世に何人いるか

だが良いのだが、それでも彼女はそのこの世で何人かしかいないラグナを呼び捨てで呼べる数少ない存在の一人なのだから

「ホリン姉様、ラクレス兄様、ベオセルク兄様!」

「やっほ!、こんな密室で彼女とイチャイチャなんて羨ましいなこのやろう!」

「ホリンのことは無視してくれ、我々は進捗の報告に来ただけだ」

「チッ、ってか報告だけならこんなゾロゾロ来る必要なかったろうがよ」

現れたその人達にラグナは思わず笑みを綻ばせる、ホリンさん ラクレスさん ベオセルクさんのアルクカース王族兄妹達…つまりラグナのお兄さんお姉さん達が揃い踏みしているのだ

機嫌の良さそうなホリンさん、機嫌の悪そうなラクレスさん、機嫌の悪そうなベオセルクさん、いつも通りの顔ぶれにラグナもまた笑いが溢れる…彼にとっては家族だ、いるだけで気が休まるのだろう

「報告ですか、どんな調子ですか?」

「では私から、…準備の方だがアルクカース側で準備出来るものの80%程は終わっている」

「早いですね…、まだ半日しか経ってないですよ」

「全員久しぶりの戦争だとヨダレを垂らしながら喜んで作業していたからね、みんな気合が入っているのさ」

「へぇ、それは頼もしいな」

いやだいぶヤバいだろ…、戦いを前に興奮してヨダレ垂らしてるって…、どんな国ですかアルクカース…慣れ親しんだつもりですがやっぱり分かりませんね、あの国の人達は

「それにやはり戦支度の経験では我等アルクカースは他の追随を許さない、アジメクやデルセクトなどは経験に欠ける部分もある、ならば我らの方が迅速なのは当たり前さ」

「あー、確かに軍隊に戦争経験がある国なんて、アルクカースと帝国くらいですからね、やはりこの戦いでの両翼を担うのはこの二国になりそうですね」

なーんてエリスがやや気軽に口を開いた瞬間、目の前の三人の瞳がやや鋭くなりこちらに向けられ、ラグナがあちゃーとばかりに顔を叩く

「え?…」

「おいエリス」

「は はい、なんでしょうかベオセルクさん…」

「両翼じゃねぇ一強だ、帝国なんぞに遅れなんかとるわけねぇだろ…口慎めよ」

「は…はい」

こ 怖ぇ~、まぁ…確かに帝国をライバル視しているアルクカース側からすれば面白くない発言だったか…いやけども!、そんなに怒ることないんじゃないんですか?ベオセルクさん、なんかさっきからやけに荒れてますけど…何が

「あー、ごめんねエリスちゃん…ベオセルクの奴今結構荒れててさ」

「荒れてる?…、何かあったんですか?」

「ンまぁね」

とホリンさんがベオセルクさんに向ける視線は、なんというか居た堪れないというか痛々しい物を見る視線で…

「実はさ、ここに来る前にリオスとクレー相手に喧嘩してね」

「え!?リオス君とクレーちゃんとですか!?、あの子達まだ三歳か四歳ですよね!、それ相手に喧嘩したんですか!?ベオセルクさん!?」

リオス君とクレーちゃんと言えばベオセルクさんの双子の子供だ、あの子達とは前アルクカースに帰った時一度会っていたが…多分今頃は三、四歳に当たるだろう幼児相手にベオセルクさんが喧嘩を?、あの手加減出来ないベオセルクさんが喧嘩…まさか叩いたりしてないだろうな!?

「うるせぇな、ちょっと言い合いしただけだよ…」

よかった、言い合いか…でも

「あんなに可愛がってたのに、言い合いでも喧嘩なんて珍しいですね」

「…あいつら、最近口を聞けるようになって…言ったんだよ、俺に向かって『冒険者になりたい』って…」

「へ?冒険者?」

「少し前アスクと一緒に街に買い物に出かけた時、見かけた冒険者に憧れたんだとよ…」

冒険者といえばあれだ、世界を旅して魔獣を狩ったり依頼をこなしたりして生計を立てるあの冒険者だ、あれになりたいのか?あの子達は、でもそれだけで喧嘩なんて…

ってそういえばベオセルクさん、前リオスとクレーには将来王牙戦士団の総隊長になってほしいとか言ってたな

ははーん、読めてきたぞ…多分子供達と父親で意見の食い違いがあったのだろう、大方…

「ねぇ聞いてよエリスちゃん、こいつ子供達が冒険者になりたいって言っただけで『冒険者なんて食い詰めた落伍者が最後に手をつける職だ、なる必要はない』って一刀両断したらしいよ?、子供達がただ将来の夢語っただけなのに…かわいそー」

「事実だろうが姉殿よぉ!、冒険者なんざ士官も出来なかった雑魚どもが取り敢えずなるもんだろうが、あんなもん無職と同じだ!なる必要なんかねぇだろうが!」

「いいんじゃない?、私は夢を追いかけるのはいいと思うけど?」

「収入も安定しねぇ!クソみてぇな依頼人と冒険者協会にこき使われまくる!出世してもたかが知れてる!、下手したら魔獣に食われたり ロクでもない冒険者に騙されるかも知れない!、こんな職になれって言える親がどこにいる!」

「い いやいや、そんなに熱くならないでよ…」

「俺は絶対認めないからな、冒険者なんて…あいつらは王牙戦士団の総隊長になって山程の部下に頭下げさせて生きるんだ、その方がいいに決まってる…!」

まぁ、言い分は分からないでもない…双方のね

冒険者に憧れる気持ちもわかる、リオス君もクレーちゃんも小さい頃からフリードリスで生きてきて街の外を知らない身だ、外の世界を見てみたいと思う気持ちは悪くはないし、何より冒険者協会では『アルクカース人』というだけで重用される

事実冒険者のトップランカーと呼ばれる者達の殆どはアルクカース人だし、アルクカース出身というだけでいきなり字を貰えることもある、アルクカース人であるリオス君とクレーちゃんが冒険者になるのも悪くはない

だけどベオセルクさんの言う通り、収入面ではあまり安定した職とは言えない、毎日魔獣を倒して依頼をこなしてようやく人並みの生活が送れるくらいだ、中には裕福な暮らしをしている奴もいるけどそんなの一握りだ

総隊長になって、安定した地位と収入貰って、しっかり生きて欲しいと思う親心も分からなくはないし、将来の夢を語った瞬間頭ごなしに否定されて怒る子心も分からないでもない…難しい問題だ

「子供の生き方は子供が決める、王族の名を勝手に捨てたお前がどうこう言える問題ではないだろう」

「う…」

そんなラクレスさんの一突きにベオセルクさんも思わず押し黙る、まぁベオセルクさんも一族の中じゃ結構勝手やってた側だからね…、若い頃なんかは特に酷かったし

しかし…なぁ、あの餓獣とまで呼ばれる恐れられた男が 今や子供の将来を気にして一喜一憂するようになるとは、世の中分からないもんだ

「ッ…当たって悪かったな、エリス」

「いえ、子供と言い合いをして気が動転していたと分かったからいいんです」

「有難い、よければまたアルクカースに来てリオスとクレーを説得してくれ、旅と冒険の恐ろしさを知るお前の経験談を語れば、あいつらも考えを変えるだろうから」

「あはは…分かりました」

とはいえあの二人…エリスの事覚えてないんだよなぁ…、命を懸けて守ったのに 悲しいなぁ…

「おほん、雑談はこのくらいにして…次の指示いいですか?」

「む、そうだったな 総指揮官殿」

ここには雑談に来たわけでない、そうラグナがわざとらしく咳き込み話を戻す、ともあれアルクカース側の支度はたもうすぐ終わるそうだ、ならば次の指示を出した方がいいだろう

「アルクカースにの兵士達は支度が終わり次第他の陣営の助けに向かってください」

「わかった、どこに向かえばいい」

「んーと…エリス?」

チラリとラグナがこちらを見る、つまりあれか…意見を求めているんだな、ならば

「はい、デルセクト側が銃弾や砲弾の運び込みに人手が欲しいとの報告がありました、そちらに救援に入ってください、そしてアジメク側も戦の経験がある兵士が絶対的に不足しているので経験ある兵士の助けが欲しいと言っていました、こちらの二つの陣営に助けを向かわせてください」

エリスの仕事は舞い込んだ報告の整理と暗記した資料から来る情報の提供、つまりラグナの補佐だ

今のエリスにはこの戦場の全ての情報がある、故にラグナはいちいち書類を確認する必要はなく迅速に指示を飛ばすことができる、故にエリスが補佐官に選ばれたのだ

「なるほど、分かった…ではデルセクド側には若い兵を、アジメク側にはデニーロさんを派遣しよう」

「え?、デニーロさんも来てるんですか?」

デニーロさんと言えば元アルクカース最強の老戦士だ、老齢から来る衰えで一線を引いて半ば引退状態と聞いていたが…まさか来ていたとは

「デニーロさんは既に現役引退の身、戦いには参加せず指示係として同行している、彼ば我が国で最も経験豊富な戦士だ、彼ならアジメクの指導にも事は欠くまい」

そっか、やっぱり引退してたんだ…あの人は元々あの討滅戦士団の団長をやっていた人だし、戦いに参加してくれるなら頼もしいと思っていたが、年も年だ…仕方ないか

「では、我等はこれで…おっと」

「む、これは…ラクレス殿」

ふと、来た道を戻ろうとした瞬間 入り口から入ってくる別の人間とかち合い足を止めるラクレスさん達、別の陣営が報告に来たのだ

それは…

「メルクさん!!」

「フッ、そうやって立っているとお前も一廉の人間に見えるな、エリス」

デルセクト側の指揮官 メルクリウスさんだ、背後にはシオさんや混成隊アマルガムの面々を引き連れている、どうやらこちらも何かしらの報告に来たらしい

ラクレスさんはメルクさんに軽く会釈をしテントから出ると共に、今度はエリス達の前にメルクさんが陣取り

「どうしたんだ?メルクさん」

「いや、定期報告を…と思ってな、デルセクト製の兵器の配置は凡そ終わったぞ、だが一つ問題が生じた」

「なんですか?」

「いや、軍議で口にした第三世代型の兵器の運び込みにやや手間取っている、人手が欲しいんだ 何処からか人数を割けないか?」

なるほど、例の第三世型の兵器か…メルクさんが作った新しい兵器達だ、それの運搬にやや手間取っているそうなのだ

「すまないな、やはり試験段階故に大規模な移動を想定していなかったのだ…」

「いえ!、メルクリウス様は悪くありません!、私が帝国に乗せられて…あんなことを!」

そんなメルクさんを庇うように声を上げるのはメルクさんの作った部隊 混成隊アマルガムの隊長のシオさんだ

アマルガムについては学園生活の最中で聞いたことがある、なんでもメルクさんが創設したメルクさん直属の部隊で、あの階級社会であるデルセクトで埋もれていた有用な人材を自ら探し出し集めた所謂完全実力主義の特殊部隊…

あのメルクさんが目をつけた人達だ、身分は無くとも実力ある人達なのだろう…、事実シオさんは銃の達人だ、あのソニアにも匹敵すると言われるその腕前は今やグロリアーナさんに次ぐ程だと言うんだから凄い話ですよ

「私の勝手で…、なのに…メルクリウス様が頭を下げることになるなんて…くっ!、自害します!」

そう懐から拳銃を引き抜き頭に当てるシオさんは…コルスコルピで会った時から変わってないな、この人はメルクさんに拾われる前は孤児だったという…そういう経緯もありメルクさんに異常なまでの忠誠心を持っているんだ、どれくらいの忠誠心かと言えば匂いだけでメルクさんの居場所がわかるくらいにだ…はっきり言えば気骨のあるド変態ですね

「私が脳漿ぶちまけるところ見ててください…」

「やめろ、自害を許可した覚えはないぞシオ」

「う…はい」

「第三世代型が今回の戦いに必要な事は変わらないのだ、故に是が非でも運用したい ラグナ、手を貸してくれ」

第三世代型は今のデルセクトにとっても未知数の力、弱いという事はないのなら確かに是が非でも使いたい、しかしそういう話ならば…

「なら安心してください、先程アルクカース兵の皆様にデルセクト側の運搬の手助けをするようにお願いしたので」

「何?本当か?、仕事が早いなエリス!」

「偶然ですよ、少し前から手助けが欲しいとの要請はもらっていたのでそれに答えた形です」

「だとしてもだ、いや 助かった、では私も急いで合流するとしようか、第三世代型はデルセクトの希望だ…出来れば間近で花舞台に上がるところを見ておきたいからな」

「また何かしらの手助けが必要ならこちらに伝令をよこしてください」

「ああわかった…おっと、その前に」

ふと、再びアマルガムを率いて戻ろうとしたメルクさんが立ち止まり…一人でこちらを見ると

「これは私的な話になるが、二人は今日徹夜で働くのか?」

「え?…そうだなぁ…」

ラグナは考える、徹夜で働くのかと…

出来るなら徹夜で準備したほうがいいだろう、そうした方が効率的だ…だが、この準備は飽くまで敵と戦って負けないための準備、勝つ為にはエリス達魔女の弟子達の頑張りが必要だ、となるとその中心にいるラグナが徹夜して消耗するのは頂けないだろう

「ラグナ、エリスは休むべきだと思います、ここには歴戦の戦士や軍人が居ます、彼らに任せて休む事は十分に可能かと…」

「そうだな…うん、わかった じゃあ魔女の弟子達は夜の間休ませてもらおうか、デティに何処か使えそうな宿がないか後で聞いてみるよ」

「ん、場所が決まったら教えてくれ、私も仕事がひと段落したら行くよ」

「あいよー」

そう軽く言葉によるやり取りをした後、二人は再び己の仕事へと戻ることになる…が、なんかすごい自然にみんな同じところに寝泊まりすることになったな、いやまぁいいんですけどね?ただデティから場所を借りるならそれなり大きな場所を借りないとなぁ

その辺の調整もエリスの仕事か、今のエリスはラグナの補佐官ですからね

「と言っても…もうすぐ夕暮れ、仕事をひと段落させる前に軍の動きをある程度纏めておくか」

「そういえば例の穴に行く人は決まったんですか?、エリスその辺まだ聞いてませんが」

穴…ってのは戦いの鍵を握るシリウスを誘い込む意図的に作る守りの穴の事、敢えて手薄にして敵が突破しにかかったところで両翼を展開し包囲する謂わば今回の戦いの決め手

だがその穴は文字通り敵の集中砲火に晒される、それを少ない手勢でなんとかその場に押し留めなければならない…そんな修羅場に配置する人員は決まったのかと聞けば

「まぁ、ある程度はな…」

「誰なんですか?、行けっていうならエリスも行きますが」

「魔女の弟子は別のところに配置するつもりだ、というかそもそも俺たちの目的は如何に消耗せずシリウスに到達できるかにかかっている」

するとラグナは手元の地図を指差し…

「俺たちはこの戦いに参加しない、狙うはシリウスただ一人だ…だから開戦しても俺たちは戦いに与せず、シリウスが何処にいるかを探るところから始まる」

「どうやって探すんですか?」

「白亜の城の最上階で戦場全体を俯瞰で見ながらシリウスを探す、遠視の魔眼の使い手は魔女の弟子の中にも多数いるからな、そこはみんなで総掛かりだ」

「なるほど…、でも見つけられなかったら…、またシリウスが隠れていたらどうするんですか?、この戦いが終わるまで隠れてたら…」

「それはない、奴はどうあれ白亜の城にある肉体を回収しなくてはいけない、だからどれだけ隠れていても最後には姿を現し白亜の城に向かわなくては行けないんだ、それに…もしものことは考えてある」

なるほど、だからエリス達は白亜の城で待機なのか、最悪シリウスを見つけられなかったとしても白亜の城で迎え撃てばそれで良いから…、まぁ白亜の城を戦場にするのは最終手段だろうけどね

「そしてシリウスを見つけ次第護衛をつけてシリウスのところまで八人揃って進む」

「歩いていくんですか?、メグさんなら時界門を使って直行出来ますけど…」

「時界門はダメだ、シリウスが時界門を逆に利用して白亜の城に乗り込んでくる可能性があるからな」

あ、そっか…シリウスならそれくらいやってきそうだ、時界門は両側を繋ぐトンネルだ…白亜の城からシリウスの居場所まで飛ぶ事は出来るが、逆にシリウスが白亜の城まで飛んでくる可能性もある、それが出来るのかは分からないが相手はシリウス…何が出来てもおかしくはない

「だから…護衛をつけてシリウスのところまで向かう必要がある、最悪敵軍を突っ切ってでもな…、正直ここが一番の勝負だ どれだけ消耗せずに向かえるかのな」

「そうですね、出来ればシリウス相手には万全の状態で挑みたいですから」

「ああそうだ、もう何も思い残す事がないレベルの万全の状態で挑んでこそ…初めて戦いになるんだから」

シリウスは文字通り最強の存在だ、師匠の体を使い 上手く力が引き出せずその本来の実力の百分の一も引き出せていない状態にあるが…今のエリス達相手にはそれでも十分なレベルだ

エリス達八人全員でかかってようやく戦いになるかどうかギリギリのライン、まさしくエリスの人生最悪の相手になることは間違いない

「敵は強い…後もない、けど 負けられないし、負ける気もしない」

そんな相手を前にしてもラグナは毅然と立ち続ける、彼が弱みを見せない限りエリス達もまた立ち続けられるだろう、エリス一人じゃまるで敵わなかったけど…みんなとならもしかしてと思わせられるだけのものがある

「さてと、そういう方向で準備を進めてるから その為にも今は…」

「エリス姐!エリス姐!、大変!大変だよ!」

「ん?、あれ?アリナちゃんどうしたの?」

ふと、仕事を再開させようとした瞬間、テントの暖簾を引きちぎるが如く勢いで開いて飛び込んでくる銀髪が飛びかかるようにエリスに抱きついてくるのだ

正体は血相を変えたアリナちゃん、大変大変と仰られながらはしっとしがみつき…

「フンスー!フンスー!スンスン!ハーハー!」

「いや何が大変なのかを先に言いましょうよ!」

何やらエリスに抱きつき胸元に顔を当てフンスフンスと呼吸を繰り返すアリナちゃんに些かながらドン引きを禁じ得ない、どういう事なんだよ…

「ごめん!、エリス姐!大変!喧嘩だよ!」

「喧嘩ぁ?…、何処と何処が」

「それが、…と ともかく!現場に来て!」

言うより見た方が早いと言うことか、何故この軍団の責任者たるラグナではなくエリスなのか分からないが、アリナちゃんがエリスを所望と言うのならエリスが向かうべきか

「分かりました、ラグナ…」

「ああ、行ってきてくれ もし大ごとになりそうなら俺も行く」

「はい、まぁ出来る限りエリスが収めてみますよ」

ラグナは指揮官だ、対応する仕事はもっと大きく軍団全体を左右するものでなければ動かせない、もし個人同士の喧嘩というのなら エリスが対応して事を収めるべきですね

なのでラグナは頼らない、エリスに出来る事ならエリスでやる

「こっち!こっち来て!」

「はい、分かりました」

大慌てでエリスの手を引くアリナちゃんに連れられ、エリスは今一度皇都の内部に戻ることとなる、はてさて…誰と誰が喧嘩していることやら、顔見知りならいいのだが

………………………………………………

誰と誰が喧嘩を、皇都に戻ったエリスはそんな事を考えてアリナちゃんに連れられ喧嘩の現場とやらに向かった

エリスの頭の中にあった景色をそのまま投影するなら、誰かと誰かが言い合いをしている…そんな場面だった

だが、皇都の街角にて繰り広げられるその喧嘩というのは

「思ったより大掛かりですね…」

まず、一対一ではなかった

十数人の集団が二つに分かれて睨み合いをしているんだ、あれはもう喧嘩じゃない 衝突だ、それにその集団を率いる顔がまずい

「テメェ…何生意気に睨みきかせてんだよ…ああ?」

片方は眼帯の女軍人…帝国三十二師団の師団長が一人 トルデリーゼさんだ、あの人の苛烈な性格は知っているし 喧嘩っ早いのも知っているが、まさかこの場で喧嘩をするとは思いもよらなかった

そして相手は

「生意気はどちらだ…」

麗髪のイケメン剣士…アジメク護国六花が一人 エリスの幼馴染のルーカスさんだ、さっきも思ったが異様に人当たりが良くない彼がトルデリーゼさんを相手に一歩も引かずに騎士達を引き連れてトルデリーゼさん達帝国師団達を睨みつけている、何があったんだこれは…

「どういう状況ですかこれ…」

「詳しくは分かんないけどルーカスが取り巻きを引き連れて帝国の人達に食ってかかってて…、私が止めようとしたんだけど全然聞いてくれないの」

ん?、つまりルーカスさんから喧嘩を売ったのか?折角救援に来てくれた相手に対して?、なんじゃそら

「テメェに文句つけられる筋合いはねぇんだよ、こちとらテメェら助けに来てんだぞ!」

「知ったことか、頼んだ覚えはない!」

「ンだとテメェ、それでも騎士かよこの野郎…!」

あ、ダメだ これ殴り合いに発展するやつだ、急いで止めなければ!そう察するとともにエリスは駆け出しぶつかり合いそうな両陣営の間に入り

「ちょっとちょっと!何やってるんですか!」

「ん?お前、エリスか!」

「チッ、邪魔が入った…」

取り敢えず落ち着いて距離を取らせようと割り込んで二人を押しのける、久々の再会に先程までの滾るような怒りを収めキョトンとエリスの顔を見るトルデリーゼさんとは対照的に、この仲裁そのものが気に食わないとばかりに腕を組みそっぽを向いてしまうルーカスさん…、ともかく乱闘騒ぎは防げたと思いたいが?

「おい久しぶりだなエリス、あ?こんな所で何やってんだよおい」

「それはこっちのセリフですよトルデリーゼさん、ルーカスさんも…こんな所で喧嘩なんかして、どういう事かエリスに説明出来ますか?」

「ハッ…、指揮官面をしてるのか?身分も何もない旅人の分際で」

「テメェ…エリスになんて口聞いてやがんだよ!」

どうどう、落ち着いてくれトルデリーゼさん…エリスが割って入ったのはこの喧嘩を仲裁するため、賢い貴方なら分かるだろう…まぁ、ルーカスさんの言わんとすることは分かる、エリスは立場上この二人に口利きできる存在ではないのは確かだ、だが

「ルーカスさん?、確かにエリスは立場も何もない旅人です…ですけど少なくともここにいる誰よりも頭に血が上っていないつもりです、冷静に客観的にこの事態を把握し上に報告するためにも、一度 エリスを相手に事態を纏めてみてはどうでしょうか?」

「…チッ」

嫌われてんなあ…、なんでこんなに嫌われてんだろうか、こんなにも謂れなき嫌悪感を抱かれたのはヴェンデルさん以来だよ、まぁ…ヴェンデルさんに比べてルーカスさんは大人…もう少し分別をつけた物の言い方をしてもらいたいもんだが…

「では、何故喧嘩を?どちらが発端か聞いても?」

「こいつ…ルーカスの奴がいきなり絡んで来たんだよ、取り巻き連れて『俺の街を我が物顔で歩くな』ってよ、別にあたしが外様なのは認めるけどよ…くだらねぇ因縁ふっかけられた上に部下に唾吐きかけられてんだ…黙ってられねぇよな!」

マジか、そんな事したのか?ルーカスさん、トルデリーゼさんが何かをしたのなら喧嘩両成敗が罷り通るが トルデリーゼさんの言い分が正しければ完全にルーカスさんに非がある

俺の街を我が物顔で歩くなって…そんなバカみたいなこと言ってる場合か?

「本当ですか?、ルーカスさん」

「事実だろ、そもそもこの戦いに救援なんて要らない、アジメクの力だけでなんとか出来た、なのに恩着せがましい態度で他国の人間が城に踏み込んで…、それでありがたがれっていうのか?」

「それは……」

「そもそもエリス、お前だってアジメク人だろ!悔しくないのか!アジメクが手を差し伸べられなければ滅びてしまう国だと…他の六大国全てに思われているという事だぞこれは!、下に見られているんだぞ俺たちは!」

何を言っているんだ…、別にトルデリーゼさん達はお情けでここに来てくれたわけじゃないし、そもそもそれをトルデリーゼさんに当たってもなんの意味もないだろ…

「トルデリーゼさん達は別にアジメクが弱いから助けに来たんじゃありません、この世界の危機に団結しているだけです、別にアジメクをどうこうしようとするつもりは彼女達には…」

「帝国の肩を持つのか、やはりお前にはアジメクの誇りがないらしい、今の今までアジメクを放ったらかしてその辺を放浪していたお前はアジメクの英雄でもなんでもない、売国奴だ!」

「論点をずらさないでくださいよ、誰の肩を持つとかそれ以前の問題です、そもそも今は喧嘩をしている暇はないという話です」

「同じだ、俺はこいつらと組む気なんかさらさら無い…だよなお前ら」

ルーカスさんが後ろの取り巻き十数人に問えば、皆が皆険しい顔でエリスを睨みコクコクと頷いている、…まるでガキ大将だな、昔はガタイの大きいクライヴさんの後ろにせせこましく付いていた貴方が 出世したもんですねルーカス

「これがアジメクの総意だ、俺たちの国は俺たちで守る!」

「はぁ?、たった十数人の取り巻きに頷かせてこの国の総意って?、バカバカしいにも程があんだろうがボケ!」

「うるさい帝国!、貴様らの手は借りないと言っているんだ!」

「上等だ!、なら勝手にやって滅びちまえ!!」

「トルデリーゼさん!落ち着いてください!」

何やらまたヒートアップし始めたルーカスさんとトルデリーゼさんをとにかく落ち着かせるため体を壁にして二人の接触を阻む、ともかくルーカスさんの言い分は分かった

彼は自分たちの力だけでなんとかしたかったのに他国の救援という邪魔が入って怒っているんだ、アジメクは助けなんかなくてもなんとかなったと…、剰えこの大連合を束ねているのはラグナだ、アジメクを守る戦いなのにアジメクは大連合の運営にほとんど関われていない

そこに対して怒りを覚えることに否定の言葉は述べないが、だからって喧嘩するのはやめてくれ

「なんだよエリス!止めんのか!」

「はい!止めます!、エリスは帝国の皆さんの力が必要だと考えています…、この国はエリスの故郷なんです、…外から来た脅威に蹂躙されるのは嫌なんです、だからお願いします…トルデリーゼさん」

「うっ、…そう言われると弱いな、確かにここはエリスの故郷だもんなぁ」

「外から来た脅威はそいつら帝国も同じだろ、この機に乗じてアジメクの国家機密でも盗むんじゃ無いのか?」

「あたしはそんなことしねぇよ、おいエリス お前の言い分は分かったけど、取り敢えずこいつ黙らせてくれ、…こいつこのままにしたらいつか誰かとやり合うぞ」

確かに、トルデリーゼさんはこれでも抑えてくれている方だが…もしこのままルーカスさんを返せばいつか帝国の誰かと殴り合いの喧嘩しそうだ、帝国にはまだまだ血気盛んなのもいる…いや、帝国ならまだいい

これがもしアルクカースとかだったりしたらもう仲裁する暇もなく喧嘩だ、アルクカースは売られた喧嘩に言葉で返さない、大体の奴はグーパンチで答える

いや…もっと最悪なのがルーカスさんがオライオンに喧嘩を売った場合だ、テシュタルを彼らの目前で否定しようもんならもう終わりだ 喧嘩にもならない、あっという間に邪教執行官が動いて全身の皮を剥がれ屋根に貼り付けにされるぞ

「ルーカスさん、気持ちはわかりますが今は…」

「アジメクの誇りを無くした人間の言葉に耳を貸すつもりはない、だよな?お前ら」

「ああその通りだ、何がアジメクの英雄だ…、今までアジメクを守ってきたのは俺たちだ」

「いきなり現れてアジメクの代表面しないでもらえるかな」

「旅人なら旅人らしく街の外にいろよ」

これだもんなぁ…、もう取りつく島もないって感じだ、一周回って怒る気も失せるくらいの拒絶っぷり、これエリスに仲裁できるのか?

というかもうこんなに非協力的なら、いっそこいつらボコボコにぶちのめして、戦いが終わるまでその辺の倉庫に簀巻きにして閉じ込めておくか?、それもアリな気がしてきた

「なんだエリス、お前…その目は」

「…………」

「やる気か?この人数を相手に」

「……あのね、ルーカス…エリスが止めてるうちにやめといた方がいいですよ、今アジメクはいっぱいいっぱいなんです、そこを理解してくれませんか?、あんま度が過ぎるとデティの部下でもエリスは過激なことをしないといけなくなる」

「フッ、上等だ…ここで斬り殺してやる」

そう言いながら剣に指をかけるルーカスが、初めてエリスに向かって笑いを見せた…笑った?この場で?まさかこいつ…

そこでようやく悟る、これが茶番であることに…、ルーカスの狙いは初めからこれか?、エリスを煽って喧嘩する大義名分を得るため、今までエリスに突っかかるような素振りを…

だとしたらこの喧嘩は買うべきでは無い、というか喧嘩を仲裁に来てるのになんでエリスが喧嘩しようとしてるんだ、危ない危ない

「やめましょう、そういうのは」

「…お前から喧嘩を売ってきたんだろうが!!!」

しかしもう既に遅く、ルーカスはやる気とばかりに柄を握りしめて…

「ルーカス!何をしている!」

「ッ…チッ」

刹那、響いた言葉にルーカスの動きが止まる、目障りなのが来たと語るような瞳で急いで剣から手を外し、そちらに目が向く…エリスも向く、そこにはアリナちゃんを引き連れ現れる一人の女騎士が…

「なんだよメリディア、今 僕は無礼者を斬ろうとしているところなんだが」

「無礼者?、君がエリスを煽っているように見えたけど、…エリスの扱いは魔術導皇同様魔女の弟子という特別待遇だと、事前に話をしたよね」

「特別待遇…?、こいつが?…ありえないだろ」

「それを決めるのは君じゃ無い、…知らなかったな…いつから君は魔術導皇の意見を覆せる程に偉くなったのかな、護国六花とは言え一介の騎士でしか無い君が…」

「チッ…」

やり辛そうだ、あのルーカスが理詰めでねじ伏せられている、あの女騎士…相当ルーカスの扱いが手慣れている、まるでこんなやりとりが初めてじゃ無いとばかりに……

というか、今…メリディアって

「さぁ、君達には割り振られた仕事があるだろう、そちらを片付けるんだ…抗議はその後で頼む」

「…くそ、俺は認めないからエリス…俺たちは絶対に認めない」

そんな恨み言を一つ置いてルーカスは退散するようにトルデリーゼさん達の元から去っていく、やはり彼は最早この場で暴れるのは得策では無いと考えられるだけの冷静さを残していたか…、エリスを煽ったのは罠だったと考えるべきか

というかぁ、情けないなぁ…仲裁に来たのに危うくエリスがルーカスを叩き粒ところでしたよ、そんなことしたら折角の連携が潰えてしまうところでした、感謝しなくては…彼女に

「ふぅ、失礼しました 帝国師団長…そしてエリス殿」

クッ!と胸に手を当て敬礼を行い、エリスとトルデリーゼさんに頭を下げる女騎士は快活に揃えられたショートカットをやや揺らし対応する、やや余所余所しく…他人のふりをして

でも、エリスはこの人の顔に見覚えがある…名前には聞き覚えがある、ルーカスやケビンと同じ…

「ルーカスの非礼はまた後ほどアジメク側から正式に…」

「あの、貴方メリディアですよね…ムルク村の」

「…………」

メリディアだ、メリディアといえばムルク村で最初に知り合った女の子だ、運動が大好きで勝気な少女…、それが今や立派な女騎士として甲冑を身に纏い豪奢なマントを背にエリスの前に立っている、昔と様変わりしているけれど確かにムルク村のメリディアだ

だが、エリスがその名を呼んでもあまり反応がない…というか相変わらず余所余所しい、ここ最近ムルク村の人間から敵意を向けられてばかりだから ちょっと竦む沈黙度合いだ、もしかしてメリディアもエリスのこと嫌ってるの?…だとしたら小さい頃のエリスどんだけ嫌われ者だったんだよ

「…お、覚えてくれてたの?」

「え?いやそりゃ覚えてますよ、ムルク村で一緒にかけっこしましたよね」

一回だけだけどね、でも…エリスにとってあれは人生で初めて同年代と遊べた良い経験だった、あまりいい終わり方はしなかったがそれでもエリスにとっては大切な記憶そのものだー忘れることはない

なのにメリディアは信じられないとばかりに目をパチクリと見開き…

「そんな昔のこと…、そっか…私みたいな雑魚…遠の昔に忘れられてると思ってたよ」

「ざ 雑魚?、そんな事…」

「実際そうだよ、私はエリスの足元にも及ばないしね…」

「何をいうんですか、エリスとメリディアはともだ…」

「やめて!、情けなくなる!」

な なんだ、なんなんだ一体…みんななんでエリスの事をそんなに、エリスそんなに嫌われてたのか…まぁ、いい人間だとは思ってないけども…

「…ごめん、変なこと言って…ともかく、救援は感謝します、ルーカスにはきつく言っておきます、だから 失礼します」

「ちょちょ!ちょっと!?」

メリディアもまたそれだけを言い残してタッタカ走って何処かへと消えていく、足の速さは健在と言わんばかりの神速ぶりにいささか呆気を取られるが、その間にもエリスはまたも古い友達を逃してしまう

……知らなかった、エリスそんなに嫌われてたのか…

「おいエリス」

「え?あ、すみませんトルデリーゼさん」

「いや別にいいけどよ、お前嫌われてんのな」

「みたいですね…」

「意外だなぁ、世界中に知り合いや友達がいるお前が 祖国じゃこんな扱い受けてるなんてよ」

エリスだって意外ですよ、…エリス…アジメクにあんまり歓迎されてないのかなぁ

「まぁいいや、お前の顔見てなんか苛立ちも吹っ飛んだしさ、なんならまた帝国の陣営にも顔出せよ、みんな会いたがってるぜ?特にマグダレーナさんがな」

「マグダレーナさんが?来てるんですか?」

「ああ、と言ってももう引退してるからお目付役としてだけどな」

マグダレーナさんも引退…、デニーロさんに続いて彼女も…、確かループレヒトさんの件でかなり意気消沈してたし 完全に軍から足を洗うような口ぶりだったけど…本当に引退し切ってしまうとは

なんだか、世代交代を感じるなぁ

「じゃ、そういうわけだからよ またな」

「はい、明日はよろしくお願いします」

ともあれトルデリーゼさんも溜飲を下げてくれたようだし、仲裁は取り敢えずうま行った…って認識でいいのかな、まぁ 別の悩みのタネは出来てしまいましたがね…まさかエリス こんなに嫌われていたとは

「…はぁ」

「どうしたの?エリス姐」

「ん?アリナちゃん…」

思えば、上手く折り合いがつけられているのはデティとこの子だけかもな…、最初はひどいもんだったが…、もしかしたらメリディア達とも一回真剣にぶつかり合う必要があるのかもしれないな

けど、残念ながら今はそんな暇はない、明日の戦いにさしたる支障がでないなら、悪いが今は放置させてもらおう

「アリナちゃんが可愛いなぁと思ってただけですよ」

「え!ええ!?、そ…そうかなぁ、エリス姐に言われると照れちゃうなぁ…でへへ」

「さ、問題も解決できましたし 帰りますかね」

「あ、じゃあ途中まで手を繋いで帰ってもいいですか?」

「いいですよ、…さ どうぞ」

「えへへー!」

小さな手 可愛らしい笑み、されど対照的なエリスの暗い暗い顔…、他の国の人達とは上手く話せるのに 祖国の人とは上手くつけられない折り合い、…エリスの居場所って結局どこなんだろう

そんな曖昧で答えの出ない悩みを抱いたまま、準備期間は幕を閉じ…いよいよ 全てを決める最終決戦の日が訪れる事となった
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