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八章 無双の魔女カノープス・後編
253.魔女の弟子と魔女裁判
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ふと己の目が開かれその景色を見ていることに気がつく
天井だ、木目の天井…少し顔を傾けると窓から差し込む陽光が見える
慣れたものだとエリスは笑う、ああそうだ 慣れたものですよ、気がついたらベッドの上で療養しているなんてよくある事だ
今まで多くの敵と戦い その都度死にかけて、ベッドの上に運ばれ 回復して…そして目覚めるんだ、目覚めた後は全ての問題が解決していて…
それで、師匠と一緒に次の国への移動プランを練るんだ、次の旅はどうしようかって 次の国には何があるのかって、それを…
「師匠…」
布を擦れさせ起き上がれば、見たことのない一室にいた、木漏れ日の差す木目の壁と床 、質素な箪笥と椅子が置かれただけの簡素な部屋だ
居ない、師匠が居ない…、もしかしたら目が覚めたら…と思いもしたが、どうやら夢は夢 現実は現実のままらしい
師匠は今 シリウスに肉体を奪われている、その上でエリスはシリウスを取り逃がしてしまった…、故に師匠は戻ってきていない、取り戻せなかった…
「師匠…、すみません」
悔しさは 一周回って己への無力感に繋がる、シリウスを相手に手も足も出なかった リゲル様を前に何も出来なかった、強くなったつもりでも 全く通用しなかった
仕方ないといえば仕方ない、あの領域に至った人間は歴史上を見ても数えるほどしかいない絶対の領域、エリスではまだまだ到達どころか 指の一つもかかってない状態だ
それでも思ってしまうのは、もっと強ければ…もっと力があれば何かが違ったのだろうか、シリウスの言葉はあんまり使いたくないが 奴の言った…『力は全てではないが、全てを守るには力がいる』と言う言葉はまさしくその通りであるとは思う
もっと強ければ…もっともっと強ければ…
「はぁ、なんて考えても仕方ありませんね…、さて これからどうしましょうか」
これからどうしようか、正しく言い換えればこれからどうなるのか…、エリスは帝国と敵対しバチバチにやり合った、皇帝陛下の計画も潰してしまった上にシリウスまで取り逃がした、その責任の一端は間違いなくエリスにある
一応治療はしてくれたみたいだが…、さて どうなるのか、そんな己の行く先を不安に思いながらもベッドから降りようと体を動かし…
「また檻の中にいないだけマシですか…ん?」
「おや?、エリス様」
ふと、扉の開く音に反応し 反射的にそちらを見ると
メグさんがいた、エリスと同じくシリウスにズタボロにされた彼女が傷一つない姿 綺麗なメイド服に身を包んだ状態で濡れたタオルと桶を持って部屋に入ってきていた
…よかった、無事だったんだな
「おやおや、起きてしまわれましたか、残念」
「何故!?」
「いえ、これからエリス様の体を堪能 もとい洗って差し上げようと気合を入れていたので…」
「ああ、そうだったんですね、でも大丈夫ですよ もう動けますから」
メグさんの身からは敵意を感じない、かつての時のように エリスに尽くすその姿に、エリスは真の意味で安堵する、…和解出来たんだな、エリスは
どうやらメグさんはエリスに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたらしい、…けど もうその必要はない、エリスはもう動けますよ?何せ慣れてますからね 怪我するの、寝て起きたら元気いっぱいですよ エリスは
「そうでしたか、一応帝国の最新治癒魔装を使って治療は施しましたが、まだ安静にしていてくださいね」
「そう言うメグさんは大丈夫何ですか?、エリスの記憶じゃ メグさんも相当な重傷でしたが」
「ご安心を、メグ 完全復活済みでございます」
桶を腰に持ち 指を天高く掲げるポーズでキラーンと己の無事をアピールするメグさん見て、ややホッとする
いや、無事ってのもあるがそれ以上に、また メグさんとこんな風に会話出来るようになれたのが嬉しい、あの戦いを引きずりたくはないからね…
「ところでメグさん、エリス 起きぬけで状況が分からないのですが、整理をお願いしても?」
「かしこまりました、では エリス様が眠っていた三日間の事を掻い摘んでお話ししましょう」
どうやらエリスはまた三日も寝ていたらしく、その間色々なことがあったらしい、メグさんが言うに エリスとメグさんが気絶した後、全てが終わり エリス達は帝国に囚われることとなった、一応攻撃を仕掛けたわけだし 当然と言えば当然だった
アーデルトラウトさん及び過激な一派はエリス達を牢に入れ 沙汰を下すべき と声高に宣言したようだが、そこを何とかしてくれたのがラグナだ
ラグナはこちら側の事情を話しつつ攻撃を仕掛けた事を謝罪、そしてこれ以上暴れるつもりも逃げ隠れするつもりもない事を伝えた上で、頭を下げたと言う
『だが、判断を下すのはもう少し待ってほしい、エリスが目覚めて 彼女の話を聞いてから俺たちをどうするか決めてくれ、だから頼む 彼女を治療して欲しい…』
エリスを抱きしめながら彼は頭を下げた、大国アルクカースの大王が 帝国に対して頭を垂れたのだ、この事態には思わず帝国側も息を飲んで絶句したらしい
というのも、エリスはあんまり知らないが アルクカースとアガスティヤの国家間の関係はお世辞にも良好とはいえないらしい、表立って敵対関係にあるわけではないが 互いに面白い相手と見ていないともっぱらの噂であり
帝国と軍事大国の確執はアルクカースの気質に原因である、アルクカース人は強さこそを尊ぶが故に…
『我が祖国アルクカースこそが最強でなくてはいけない、どの国の人間よりもアルクカース人の方が強くなくてはいけない』
そんな感情を誰しもが内に秘めているらしい、確かにアルクカース人はそう言う考えを持つだろう、そして その思想を持つが故に明確にアルクカースよりも強いとされる帝国を敵視しているのだ
だからアルクカース最強の名を背負った人間は歴代全員が帝国最強に挑むのが通例になってさえいると言う、まぁ帝国は一度も負けたことがないのだが…それも相まって両者の関係は最悪
アルクカースはそのプライドから帝国を下したい、帝国は世界秩序の維持のため最強の座を降りるわけにはいかない、両者の主張は平行線…もう数千年は続く確執の中でのこれだ
あのアルクカースの大王が帝国に頭を下げたのだ、もしこれがアルクカース側に伝わればラグナは即座に王座を追われる可能性さえあるほどの一大事
ラグナとてそれを理解している、そしてラグナがそれを理解しているのを帝国も理解している、数千年の確執を放り投げてても頭を下げて頼み込む姿に帝国も受け入れざるを得ない、これを受け入れなければ ラグナが次にどんな手段に出るか想像もできなかったからだ
そんなラグナの行動にルードヴィヒさんとカノープス様が理解を示し、ラグナ達の沙汰は一時見送られることとなった
因みにこの時のアルクトゥルス様の顔は凄まじいものだったとも伝わっている、怒りとも誇らしげとも取れる凄い顔で…、むすっとしてたらしい
まぁそこはいい、それからエリスとメグさんは集中治療室に入れられ その負傷を治してもらったとの事、エリスとメグさんでは メグさんの方が比較的軽傷だったこともあり 彼女の方が先に復帰し 今に至ると…
つまり、今エリスは一応帝国に身柄を保護されている状態にある と、本当なら牢屋に入れられる所をラグナのお陰で回避し、エリスとラグナ達は揃ってメグさんの家にお邪魔になっているのだ
「ここ、メグさんの家だったんですね」
「ええ、我々の屋敷は焼けてしまいましたからね、今日からはここに滞在していただきます、広さと言う点では以前の屋敷よりも広いのでご安心を」
「メグさんそんないい家に住んでたんですね」
「ええ、結構もらってますから お金、皇帝専属メイドなので 私」
そう言いながら呼びで輪っかを作り何故か誇らしげに目を輝かせる、まぁ そりゃもらってますよね、…ここがメグさんの家か、なんて今はどうでもいいか
「さて、ではエリス様 起きて早々悪いのですが、早速お付き合い願えますか?」
「え?いいですけど…、どちらへ?」
「陛下のところです、…今回の一件について お話があるとの事です」
まぁそりゃそうですよね、ラグナはエリスが起きるまで沙汰を先延ばしにしてくれただけ、エリスが起きたなら それは事態を先に進める時が来たという事…
はっきり言って、エリスが帝国と敵対しているという事実は今も変わらない、この一件 どう始末をつけるか、帝国との諍いを解決しない限り エリスは先には進めまい
師匠を助ける以前に、帝国との一件にケリをつけねばなるまい
「…カノープス様は、怒ってますか?エリスの事」
「ええ、はっきり申し上げますとかなり怒っています、あの場は緊急だったので共闘しましたが、クリュタイムネストラの発動を邪魔した件 そしてあれだけの被害を個人の目的で生み出しておきながら結局シリウスに逃げられた件、この二つに対して陛下は強く弁明を求めています」
「うう…ですよねぇ」
エリスがしでかしたことはあまりにもデカイ、帝国の八千年の目的 シリウスの撃滅を真っ向から邪魔した上シリウスを取り逃がす一端を担った、というかシリウスにあれだけ接近して結局逃してしまったんだ
大々々戦犯と言える、しでかしたことの大きさで言えばアルカナ以上だ、何せ世界を救うための帝国の戦いを邪魔し 世界を滅ぼす存在をエリスの身勝手で取り逃したのだから…、裁判にかけられりゃ有罪確定 それにエリスは文句も言えない
覚悟の上とは言え、やはり慄いてしまうな…これは
「ですがエリス様、…貴方は見つけたのですよね?レグルス様を救うための手立てを」
「っ…、はい、確かにこの目で見ました」
「ならそれを陛下に言えば良いですよ、陛下だってレグルス様を殺さずに救う方法を見つけられたなら、きっと許してくれますから」
「そうでしょうか…、でも 折角師匠を助ける為の手段を見つけたんです、こんなところで終われません」
そうだ、エリスとメグさんは何も無為にシリウスを逃したわけじゃない、メグさんが命懸けで足止めをした結果 エリスはしっかりとシリウスの同化魔術の弱点を…それを取り除き師匠の体を取り戻す方法を見つけたんだ
これがあれば殺すしかないと思われた師匠の肉体を、生きたまま取り戻せる、これはカノープス様が八千年間欲した方法、これを差し出せば …そうメグさんは言うのだ
そうですね、それしかないでしょう…まぁこの方法はエリスしか実践出来ませんしね
「では参りましょうか、既に陛下はお待ちです…『時界門』!」
するとメグさんは意気揚々と手を掲げ、目の前に大きな穴を…時空を切り裂く門を作り出す、もうこれでの移動も慣れたなぁ…
ああ、そうだ 向こうに行く前に…
「あの、メグさん?」
「はい?、何ですか?」
言っておくことがある 、彼女を呼び止めればキョトンとした顔がこちらを向く…
その顔に敵意はない、あの時 あの場で見せた悲壮な闘志も見られない、前のメグさんだ 共に過ごした頃のメグさんだ…、これは演技だろうか?それとも本音?、どちらにしても エリスからしてみれば今までのメグさんと変わりはない
「信じてくれてありがとうございます」
「まぁ…」
故に礼を言う、エリスを信じてくれて エリスに賭けてくれてありがとうと、あの場でエリスを信じることは難しかったろう、簡単な事ではなかったろう
それでも彼女は命を懸けてエリスを信じて エリスの為に戦ってくれた、師匠を失ってなお エリスが失意のどん底に落ちないのは、彼女がエリスを今も信じてくれているからだ
救われたよ、メグさんに…、だからお礼を言わせてくださいと頭を下げればメグさんはまぁと目を輝かせ
「あ あの、そのぉ…えっと…」
何やら歯切れ悪く手を開いたり閉じたり、右を見たり左を見たりとガラにもなくワタワタとジタバタし始める、何…?何なのそれ…
「どうしました?」
「い…いえ、ただ こう…スカしたクールな答えを返そうかと思いましたけど、こう…面を向かってお礼を言われると嬉しくて舞い上がってしまいまして、何も言えなくなってしまい…はぁ、これが友達 と言うやつなのですね」
顔が熱うございますと照れて両頬を手で押さえるメグさん見て ホッとする、きっとこれは演技じゃない
エリス達は…、ようやく 本当の意味で友達になれたんだ、嬉しいなぁ
「ふふ、そうですね これが友達です」
「生まれて初めて出来ました…、けど いいものですね」
「ええ、そして これからもきっと増えていきますよ、ラグナ達もいい人達なので きっと気が合う筈です」
「ラグナ様達ですね、ええ 彼等とはまだあまり話せていませんが…、ああ 既に向こうでラグナ様達も待ってると思いますよ、いつエリス様達が目覚めてもいいように 待機してくれているので」
「なら、あんまり待たせるわけにはいきませんね、急ぎましょうか メグさん」
そう 先を急ぐようにメグさんの肩を叩けば、メグさんも微笑み…軽く手をエリスの顔に近づけて
「はい、エリス様」
キュッ と頬を抓った…え?、なんで
「いや何故ぇっ!?、なんでエリス今頬抓られてるんですか!?いい雰囲気だったのに!?」
「え?すみません、友達の感覚に慣れていないもので…、肩を叩かれたので 頬を抓るべきかと」
「喧嘩の売り買いしてんじゃないんですけど!?」
「申し訳ありません、ではやり直して…よろしくお願いします、我が友エリス様」
「むぇー…」
ふふ と微笑みながら彼女は小指でエリスの頬をムリムリと押してくる、これはどう言う…いやいい、彼女は今まで誰かと親しくなる と言う事と無縁の人生を送ってきたんだ、こう言う気安い関係には慣れてないんだろう
慣れてなさが些か独特過ぎるが…、それはこれから慣れていけばいいか
「うふふ、エリス様のほっぺプニプニですね、それ プニプニ」
「そひゃ…どふも…」
これが友達としてのメグさんの顔と思えば可愛いもんじゃないか、うん…
…ラグナ達とうまくやれるか、ちょっと不安だけどね……
……………………………………………………………………
メグさんの摩訶不思議な友達シグナルに困惑しつつもエリスは時界門を潜り、瞬く間に辿り着くのは帝国府の大帝宮殿内部…
大帝宮殿内部は信じられないくらい広大ですから、ここがどこかはエリスにも分かりませんが、荘厳な廊下のど真ん中に放り出されたんです、色々推察してここが大帝宮殿の中であることは容易に推察出来る
すると、エリスが時界門を抜けて大帝宮殿の廊下に出るその先の廊下の壁に、二つの影がもたれかかって居るのが見える
あれは…
「ラグナ!メルクさん!」
「ん?、おお!エリス!目が覚めたか!、はぁ~よかったぁ~」
「三日も眠っていたからな、私もラグナも肝を冷やしたぞ…、だが 目が覚めてよかった」
ラグナとメルクさんだ、二人は何やら暇を潰すように壁にもたれかかりながらも、エリスの姿を見るなり跳ねるようにこちらに向かってきて 手を取り回復を喜んでくれる
話には聞いていたが、それでもこうして姿を見て思う、二人とも無事でよかった
「怪我はもういいのか?、エリス」
「そうだ、三日も寝込むなんて普通じゃない…」
「そこについては私が保証します、ラグナ様 メルク様、エリス様はもう元気いっぱいですよ」
心配そうにエリスの体をあちこち触るラグナと 目で見て異常がないかを探るメルクさんに、エリスはもう元気だよ と伝えてくれるメグさん、そんなメグさんの姿を見て二人は…
「君は、無双の魔女の弟子のメグ…と言ったな」
「ええ、こうしてしっかり話すのは初めてでございますね、ラグナ様」
やや 剣呑な空気が流れる二人の間で、思う
そういえばメグさんがあんまりにも元気だから忘れてたが、この人も少し前まで集中治療室に入っていたんだ、ラグナとはあまり話せていないと言っていたのも その通りなのだろう
…となると、これが初対面といってもいいのか…、仲良く出来るといいんですけど…
「そっか、エリスをありがとうな、なんか色々あったくさいけど そりゃそっちの事情だしな」
「おや寛容、私が敵対していた事も知っていての対応とは、流石は大王の器 御見逸れします」
「ただ、そう言う見え透いた世辞はいいよ、俺達は同じ魔女の弟子…、これから一緒にやってく機会も多いだろうし、俺はメグさんと対等で居たい、ダメかな?」
「それは全然構いませんよ、よろしくねラグちゃん」
「距離の縮め方エグいな…」
「おほほ、冗談でございます、ね?エリス様」
エリスに同意を求めないでくださいよ、けど…メグさんは基本こんな感じだ、適当はノリで後先考えずに絡んでくるタイプだ、よく言えば無駄にフレンドリー 悪く言えば瞬間的な享楽主義だ、偶にタチが悪い
でもよかった、ラグナもメルクさんもメグさんの事を受け入れてくれるみたいだ…、ラグナの言う通りメグさんは魔女の弟子、これから協力する機会も多いだろうし 友としてやっていける方が気楽だろう
「しかし、私はこれでもエリス様と敵対した身、もう少し警戒されるかと思っていましたよ ラグナ様」
「そりゃメグさんが必死にエリスの為 友の為命懸けで戦うところを見たからな、それに 敵対してたってだけで言うなら ウチには二、三年敵対してたのに素知らぬ顔で友達やれてる奴もいるし 問題ねぇよ」
「あらま、そんな厚顔な方もいらっしゃるので…」
二、三年敵対…ああ
「アマルトさんですね、ってアマルトさんは?」
見ればアマルトさんの姿がない、あとナリアさんの姿も…二人揃って何処かに行ってるのだろうかと周囲を見回せばメルクさんが宮殿の外 …窓に目を向けて
「今アマルトはナリアを慰める為には帝国の娯楽エリアに行っている、ナリアが傷ついて居るのを察しての事だろう、直ぐに戻るさ」
「ナリアさんが…傷つく…、っ!!!」
はたと気がつく、まさかナリアさん…リーシャさんの事を聞いたんじゃ…
「あ あの、もしかしてナリアさん リーシャさんの事を聞いたんですか?」
「ん?、リーシャ?誰だそれは…、ナリアはただ 先の戦いで一人ボコボコに負けた事を気に病んでいるだけだが…、ああ そう言えばナリアがそんな名前の女性を探して居るともいっていたな」
「そう…ですか」
まだ 聞いてないんだな、リーシャさんがアルカナとの戦いで殉職した事を、…そうか…言い辛いな、寧ろ本当なら どのツラ下げてナリアさんに会えばいいか分からないくらいだ…
どうしようかと同じく事情を知るメグさんに視線を向けるが、彼女は静かに首を横に振る、それはエリスの仕事であると言わんばかりの顔に…、エリスの気は重くなる
気は重いが、これもエリスの仕事だろう、リーシャさんに託された仕事の一つだろう、ならやり遂げねばなるまいな
「……なんか、訳ありって感じだな、けど 何をするにしてもまずはカノープス陛下と話を済ませてからにしようぜ、正直何をするにしても今はカノープス陛下と話しをつけない限り 事は先に進まねぇ」
そんなエリス達の様子を見て察したラグナは、まず何かをしたいならカノープス様とのお話を済ませてからにしろ と言ってくれる、まさしくその通りだ 何をするにしても今エリス達はカノープス様の温情で自由を許されているだけ
まずは今回の一件のお話を済ませてからにしなければ
「では、私が案内します 皆さま、私の後へ」
「はい、メグさん」
「ああ、頼むよ メグさん」
「しかしメイドが新たな魔女の弟子とは、なんだか 愉快なことになってきたな…」
右手を上げていつものようにスライドするような平行歩法で皇帝陛下が待つと言う部屋へと案内されるエリス達魔女の弟子、ラグナとメルクさんは初めて来るであろう大帝宮殿に息を巻いて居るが…
ふと、エリスは気がつく この道が玉座の間に続いていないことに…、おかしくないか?
だってカノープス様が居るとしたら普通は玉座の間、エリスは玉座の間の場所を知って居るからこそ この先が玉座の間に続いていないことくらいわかる
一体、何処に通されるんだろうか
なんて疑問に思う間も無く、エリス達三人はメグさんに一つの巨大な扉の前に通される
「こ…ここは?」
一目見ただけで只ならぬ場所へ連れてこられたことがわかる、目の前にある扉はあまりに大きく これが室内でなければエリスはこれを門と形容しただろうほどに巨大だ
普通じゃない、この先にある空間も この扉も…
「こちら、我がアガスティヤに存在する最高裁判所でございます、所謂法廷でございますね」
「法廷…?、それが宮殿の中に?」
「ええ、司法も立法も行政も 全て陛下の手の中にあるのでございます」
へぇ、ってことはここは法廷で エリスはその法廷に連れてこられたと言うことか、いや連れてこられたと言うか 連行かぁ…、ん?
「裁判所?」
「ええ、これから行われるのはエリス様の裁判ですので、あ 弁護人はそちらのお二人です」
そうあっけらかんとメグさんはラグナとメルクさんを弁護人だと言うのだ
裁判…裁判、法廷…法廷、いや それは聞いてないよ…、エリスてっきり玉座の間で対談するものばかり思ってましたよ!、そんな 法廷連れてこられるとか!こ 怖くなってきた
「え!?俺とメルクさんの事か!?聞いてないんですけど!?」
「聞かせませんから」
「ま 待ってくれメグ!、今から腕のいい弁護士を雇うから!帝国で一番の奴を!」
「もう遅いです、さぁ 裁判開始です!逆転無罪!勝ち取りましょう!、おー!」
ちょっと待ってください!?流石に裁判ってなると緊張しますよ!、もう少し時間を…
そんなエリス達の言葉を無視してメグさんは目の前の巨大な扉を押し開け、エリス達をその中へと引っ張り込むのだ…
扉の奥に広がるのはまさしく絵に描いたような法廷、比喩ではない まるで一流の画家が書き残したかのような美しさと凛々しさと厳しさを併せ持つ雄々しき大法廷
円形に広がるドーム状のようなその法廷の中心には、天井に取り付けられた天窓から差し込む一条の光に照らされし裁判官が只一人 座っていた
傍聴人もいない 弁護人も何もいない、ただたった一人の裁判官が座り待つ空間、絵面にすればなんとも寂しい場ではあるが…、感覚的には真逆
まるで大軍勢を前にしたかのような 吹き飛ばす突風のような威圧が扉を開けた瞬間エリス達に襲いかかる、こんな威圧を放てるのはこの世に只一人
唯一の裁判官にして、この国の法典そのもの…その名も
「待っていたぞ、レグルスの弟子 エリス」
「か カノープス様…」
八人の魔女最強の存在、無双の魔女カノープス様が メラメラと怒るようにして そこに座っていた
お 怒ってる、カノープス様が怒ってる、より最悪なのはその怒りが明確にエリスに向けられて居る事、怒気の篭った視線がギロリとこちらに向けられればエリスの中のもう一人のエリスが『終わった…』と天へ祈り始める
…おトイレ行っておけば良かった……
「被告人 そこに座れ」
「ひ 被告人って、エリス…ですよねはいすみません、いきまーす!」
軽くトボけただけで視線がより鋭くなった、これはマジのやつだ、おっかない おしっこ漏らさないためにも直ぐにエリスは裁判官の前に被告人として立つこととなる
チラリと助けを求めるように後ろを見れば、既にメグさん達は弁護人の席へと座る…、ああ これ本当に裁判なんだぁ エリス檻に入れられることはたくさんあっても裁判やるのは初めてですよぅ、くすん
「揃ったな、では これより我 無双の魔女カノープスの名において『魔女裁判』を始める!」
ズンッ!とカノープス様が頬杖をついた瞬間 彼女の身の丈が巨人のように大きくなったようにも感じ、エリスの体は溶けたロウソクのように縮むような感覚を覚える、怖ぁ…
「ぬぅっ!、しかもよりにもよって魔女裁判か…!」
「あ?メルクさん知ってるのか?、魔女裁判ってのを…、普通の裁判と何が違うんだ」
「ああ、魔女裁判とはその名の通り魔女様に与えられた十八の絶対権限のうちの一つを行使し開くことが出来る特殊な法廷だ」
すると何やらエリスの後ろでメルクさんが魔女裁判について語り始める
魔女大国には魔女という絶対の存在への敬意を示し、またこの魔女世界を恙無く運営するために大国を統べる七人の魔女に『魔女十八権』と呼ばれる絶対権限が与えられている
例えば王権の授与とか、魔女通貨の発行権限や流通制限とか、魔女大国国際共通法の発布とか、そういうものを魔女様が一人で制定することができる絶対的な十八の権利
分かりやすい例を挙げるなら七つの魔女大国で共通の大罪とされる『魔女偽証罪』がある、あれの発端はアルクトゥルス様が『レグルスの偽物とか紛らわしい!』と口にした事により魔女十八権が行使され、魔女大国に共通の法が生まれたのだ、つまり魔女様は一言で七つの大国に影響を及ぼすだけの権利を保有するということになる
そしてこの魔女裁判もまた魔女十八権の一つ、正式名称を『魔女大国連盟決定裁判施行法』、つまりこの魔女裁判によって決まった判決は七つの魔女大国全ての決定となる、それは例え国外に逃げてもその決定は他の大国にまで付随するのだ
どうやっても逃れることが出来ない絶対の決定、それを下すのが魔女裁判…、あまりの影響力の高さに今まで歴史上十数回しか開かれたことのない魔女裁判が、今 エリスに向けて開かれることとなった
「この裁判でもし エリスの死刑が確定したならば、他の魔女大国もそれに従わなくてはならない…、だから 我等魔女大国の盟主もまたそれに従い エリスを殺さねばならない…!」
「なんだよそれ!、そんなのをカノープス様一人の一存で開いたってのか!?、そんなの一人で決めていいのかよ!?」
「いいんだ…!、それが魔女なんだ!」
最早魔女裁判が開かれた時点でエリスは逃げることが出来なくなってしまった…、逃げても隠れても魔女大国が統べるディオスクロア文明圏に居る限り 七つの大国は総力を挙げてエリスを見つけ出すだろう
流石に…七大国を相手にしたら、エリスには最早どうする事も出来ない…、解決する方法は一つ この裁判でカノープス様の許しを得ることだけ
「被告人は誠意を示し、己の命に掛けて 返答せよ、良いな」
「は…はい」
唯一の裁判官カノープス様はエリスを見下ろしながら、片手で紙の束を掴み そちらに目を移す
「被告人エリス、お前の罪は許しがたいものばかりだ…、我等帝国の秩序維持行動を阻害し、剰え災禍の根源たるシリウスを自らの力で逃した…、そうだな」
「う…」
まるでその言い方じゃエリスがテロリストのようだ、まぁ やったことをそのまま言うならその通りなんだけどさ、しかし、それを許さないのがエリスの弁護人だ
「異議あり!異議あり!、その罪状にはかなりの偏見があるように思える!公平な裁判を!」
メルクさんが手を上げながら立ち上がり必至にエリスを守ろうとしてくれるが…
「黙ってろ」
「は…はい…」
弁護人を一蹴する裁判官の眼光により 異議は叩き潰される、これ裁判じゃないよ…
「オマケに我が手塩にかけて作り上げた極大魔装『ヘレネ・クリュタイムネストラ』の発動を阻害してくれたな、お陰であれはシリウスにより破壊され 我が数千年の建造時間は無駄になったと言える、…本当ならこの賠償金だけでもお前に請求したいくらいだ」
「えぇ、えっと 因みにそれはいくらくらい…」
「建造費だけでも、金貨にするなら凡そ二千五百兆」
「に…二千!?兆!?」
バッ!とメルクさんの方を見る、桁が高すぎて分かりません!これ高いんですか?いや高いんですけども!、どうなんですか!スーパーリッチ!
「な 何という高額だ…」
しかし、この世で一番の大富豪をもってしてもデタラメな数字らしく、首を横に振る、メルクさんでこれなりエリスが永遠に生きたとしても払いきれないな
「私の総資産でも半額しか払えん…!、完済するなら三年はかかるぞ…!」
いや半額は払えるんかい、しかも三年でいけるんかい…
「ともあれ、レグルスの弟子エリスよ、お前の行動のせいで我が帝国は掴んだシリウスの尻尾もそれを確実に消し去る法も失った事になる、お前一人の行動のせいでだ…、これは世界を危機に陥れる未だ嘗てない程の大犯罪、最早司法を以ってしても裁き切れぬ程だ」
「…はい、すみません…」
手元の資料をバッ!と投げるカノープス様の態度からは明確な怒りを感じる、あのカノープス様が苛立って居る、それほどまでに大きなことをしでかしたんだ 当たり前だ
カノープス様は何よりもこの世界の…、魔女世界の秩序に心血を注いでいる、その覚悟に真っ向から泥を塗ってお釈迦にしたんだからね、エリスは
「故に、この罪を鑑みて 我はお前に死刑を求刑したい」
「う……!」
「い 異議あり!、エリスは何も世界を危機に陥れる事を目的としていたわけでは…」
「黙っていろ、志の問題ではない、その結果生み出された事象に罪があるのだ…、それくらい覚悟の上だろう レグルスの弟子エリス」
「…はい」
メルクさんの弁護はありがたいが、カノープス様の言う通り 意思はどうあれ結果は結果、エリスはシリウスを逃してしまった ここは変わらないんだ、それを糾弾される覚悟は出来ている
「…しかし、我はあの共闘の場で お前の覚悟を感じ取った、この事態をなんとかしよう と言う心意気をな」
「…………」
「故に問おう、レグルスの弟子エリスよ お前はあの戦いの場で…何かを掴んだのか、メグが言っていた 識の力を使いレグルスを助ける為のプランを見つけたと、それは本当か?」
カノープス様の瞳に やや光が灯る、希望の光が…いや 希望に縋っているのか、エリスの師匠を助ける為の方法に
そうだ、カノープス様だって本当は師匠を殺したくないんだ、でも助ける方法が何もなかったからこそ 涙を飲んで世界を取ったのだ、それでももし 世界もレグルス師匠も救う方法があるなら と、カノープス様は身を乗り出すように立ち上がる
「だがもし、これが嘘偽り…また不可能であると我が判断したなら、お前を世界への大逆人として、我がここで死刑を執行する…、その覚悟があるならば口にせよ」
脅しか、死刑を執行すると口にした瞬間 大地が、このマルミドワズ全域が鳴動するような殺気がエリスに降りかかる、ただ 殺気を表出させただけで天変地異が巻き起こるとは…
もしここでカノープス様が死刑を執行したら、エリスはなんの抵抗も一歳出来ず、あっという間に消し飛ばされるだろう
だが、さっきまでの恐れはない、この威圧を受けても 怯えることはない、だって
「出来ます、確実に師匠は助けられます」
助けられるから、これは嘘でも偽りでも虚勢でも虚構でもない、識によって得た情報を元に考え エリスが見つけ出したエリスだけにしか出来ない唯一の方法があるから
「ほう…、怖気付かぬか、余程自信があると見える…、して?その方法は」
「それは…」
そもそもシリウスの同化魔術を打ち破る方法は存在しない、これは識を通じて見たから知っている、何をどうすれば同化が解けるということはない それを解除する魔術もシリウスは作ってない
シリウスは一度同化すればもう二度と解けないようにこの魔術を作っている、だから 方法はないんだ
だがエリスは見ている 知っている、シリウスの同化を打ち破る瞬間、その例を三つほど知っている
師匠だ、師匠はシリウスと同化したアンタレス様やプロキオン様を虚空魔術によって救っている、しかしこれは師匠にしか出来ない方法、故に師匠自らに使うことは出来ない
だがもう一つ例がある、それはエリス自身…つまり
「エリスの識確魔術を用いて、シリウスの同化魔術を無効化…いいえ、完全にこの世から消し去る事です」
エリスは一度シリウスに同化されかけ それを自力で解いている、恐らくだがあれは限定的に識の力を使える『超極限集中状態』に入れたおかげだろう、実際師匠もコフとの戦いの時にエリスは超極限集中の時以上に識を使っていたと言っていたし 識の力があれば無効化できるんだ 同化魔術を…いいや?
そもそも同化魔術もシリウスの類い稀な知識によって完成した絶技、ならそれは知識の延長戦上存在する、つまり 識確魔術を使えばシリウスの同化魔術をこの世から完全に消し去れるんだ
それはつまり…
「つまり、そうすればシリウスは師匠と同化する為の手段を失い師匠は解放される上、シリウスはもう二度と同化魔術を使えなくなる…、つまり 師匠がいくらシリウスと同一の肉体を持とうとも シリウスはもう師匠に手出しすることが出来なくなるんです!、師匠はもうシリウスの影に怯えて生きる必要がなくなるんです!…、師匠を 完全に解放することが 出来るんです!」
「っ…!識確を!、…確かに、それがあるなら…レグルスをシリウスの魔の手からも解放できるか」
ふむ とカノープス様は顎に手を当て考えるように一瞬目を伏せるが、直ぐに厳しい視線を伴ってこちらに目をやり
「で?、それを使うにはどうすればいい、今それをしないところを見るに 条件があるのだろう」
「はい、今一度シリウスに接敵し この手でシリウスに識確魔術を使う必要があります、それも…奴からある程度の体力を奪った上で」
識確魔術で同化魔術を消し去るには、識確魔術を同化魔術にぶつける必要がある、しかし平常時のシリウスに使ってもシリウスの莫大な魔力に阻まれ識確魔術は届かない
だから、識確魔術をぶつけるには シリウスからある程度魔力と体力を奪う必要があるんだ…
「だから、エリスはこれからシリウスを見つけ出す旅に出るつもりです、そこで奴を見つけ出して 師匠を解放します」
シリウスは何処かへ消えてしまった、だからそれを見つけるところから始めなければならない、難しいだろうが 道があるならその通りに進んで…
と、その瞬間カノープス様の殺意が膨らみ 爆発する
「消えたシリウスを見つけ出し、そしてもう一度シリウスと戦い 体力を奪その上でようやく魔術を…、言ったよなレグルスの弟子エリス 不可能と判断したら、我はお前を処刑すると」
「うっ…!」
不可能 カノープス様はそれを不可能というのだ、まぁそうだろう シリウスは何処に居るかも分からない上エリスとシリウスは先日戦い その上でエリスは手も足も出ずに敗北した、次やる時は手を触れることも出来ないだろう
それではどうやってもレグルス師匠は救えない、どうやっても救えない、故に不可能と判断したカノープス様はエリスを処刑するためにその身に魔力を滾らせ…
「異議あり!」
「む…?」
その処刑を止めるように立ち上がるのはラグナだ、彼はこの吹き荒ぶ魔力嵐の中立ち上がり、竦むこともなく腕を組み 怒り狂うカノープス様を睨みつけるように仁王立ちする
「…黙っていろ!、これはもう決定だ!」
「黙らねぇ!、アンタは魔女だが同時に魔女大国の皇帝なんだろ?…だったらアルクカースの大王である俺と対等じゃねぇか、黙らされる謂れはねぇよ!」
「貴様…!」
するとラグナは弁護人席から立ち、机を蹴飛ばしエリスの前までやってくると…
「エリスがレグルス様を助けるのが不可能だって、アンタそう言いたいのか?」
「事実だ、その程度の実力では勝負にもならん、そもそも何処にいるかも分からないシリウスを今から探させる悠長な真似をさせる余裕は…」
「本当か?、…アンタ本当はシリウスが何処に居るか 分かってて黙ってるんじゃねぇのか?」
「ッ…」
「フェアじゃねぇだろ、そりゃあよ…、いくらなんでもこれは裁判なんだろ?、だったら 教えてくれたっていい筈だ」
ラグナの言葉にカノープス様は不機嫌そうに顔を歪め…たかと思えば一瞬愉快そうにニッと笑う、すると
「ああ、我は知っている だが教えればいくだろう」
「そう言ってるだろ」
「行けば死ぬぞ、…生半な覚悟と実力で向かえば 我が処刑をせずともエリスは死ぬ、ならここで死ぬも同じだ」
シリウスの実力は凄まじい、完全復活せずともエリス一人瞬く間に消し去ることができる、故にここで処刑されるも シリウスの居場所を教えて向かわせるも一緒だとカノープス様は言うのだ
しかし、 ラグナはそれでも止まることなく
「死なせねぇ!、俺がエリスと一緒にシリウスと戦う!、俺がエリスを守る!」
「お前が…?」
ラグナは言う、俺が守ると 俺がエリスを守る、その為にシリウスと戦うと…
いや、ラグナだけではない
「ああ、私も一緒に行く、いや 私だけじゃないアマルトもナリアも気持ちは同じだ、我等魔女の弟子でエリスと共にシリウスと戦う、それなら 或いは可能性もある筈だ」
メルクさんも立ち上がるのだ、ここにはいないアマルトさんもナリアさんも気持ちは同じだと、魔女の弟子たちでシリウスを倒すと そう宣言してくれるのだ
すると、メグさんはゆったり立ち上がり…
「陛下、命じてください」
「メグ?…、何をだ」
「『孤独の魔女の弟子エリスと共に戦い、レグルス様を救ってこい』と、私は陛下のメイドです 陛下の命令がなければ動けません、だからお願いします 私もエリス様と共に戦わせてください、陛下の為に…陛下の愛する人の為に」
メグさんもまた エリスと共に戦うと、エリスが今までの旅で出会った魔女の弟子たちが 友達が、エリスの為に エリスを守る為に戦ってくれるという言葉を聞いて
熱くなる 目頭が、本当は危険な目にあって欲しくはない みんなを巻き込みたくはないが、エリスは一人じゃどうしようも小さい、でもみんなと一緒なら いける気がしてしまうんだ
みんなと 友達と一緒なら、シリウスにだって…と
「つまり魔女の弟子たちでシリウスと戦うと、そう言うことか」
「ああ、…だよな エリス」
「…はい、エリス独りじゃ確かに敵わないかもしれない、けれど エリスは…今はもう独りじゃないんです」
ラグナがいる メルクさんがいる メグさんがいる アマルトさんもナリアさんもいる、みんながいるなら戦える、みんながいるからやり遂げられる、そう無根拠に感じさせるだけには彼らは頼もしい、彼ら五人と一緒ならば頼りになることこの上ない
「居場所も分かる、戦う算段もある、これでもまだ 不可能だって言いますか、カノープス陛下?」
「ラグナ・アルクカース…、やはりお前は……」
ラグナの不遜な物言いにカノープス様の背後からドス黒い何かが溢れてくる、いやまぁラグナの言い分は正しいよ?、ラグナはアルクカースの大王 カノープス様は魔女だが同時に帝国の皇帝、立場的には二人とも魔女大国の盟主だ 対等ではあろう
だがカノープス様は皇帝であると同時に魔女なのだ、どんなに言ってもそこは変わらない、それをこんなに怒らせて大丈夫ですか?、一応ラグナ達もエリスと同じ糾弾される側なんですよ…?
するとカノープス様はゆっくりと椅子に座り……
「やはり、お前は…我の若い頃に似ている」
フッ と笑いながらため息をつき、先程とは打って変って清々しい面持ち片手を掲げると
「分かった、参った…試すような事を口に済まなかったな」
「た 試す?」
試すような事を言って とそう語るカノープス様は悪戯な笑みで笑うと掲げた手で口元を優美に隠す、つまり…今の怒りは演技と?役者だなぁ
「そう 試したのだお前達をな、エリスがシリウスの同化魔術をなんとかする法を持っているのは分かっていた、だが 奴に近づきそれなりに戦うならば一人では絶対に無理だ、やるならばかつての我等のように友と手を組んで戦わなければ相手にならんだろう、故に…」
「試したのはエリスじゃなくて 俺達か…」
「然り、或いはこの一件 真に収められるは魔女の弟子達を置いて他に無いのではと思うてな、ならばこそ お前達魔女の弟子の覚悟を問うた…、エリスの覚悟に 死すら厭わぬ執念に、ついていくだけの信念があるかをな」
エリスが行くのは死出の道、行けば死ぬかもしれない 死ぬ可能性の方が大きい地獄へエリスは迷う事なく飛び込もうとしている、それについていくならば 生半な覚悟では却って足手まといにもなろう
故にカノープス様はここでラグナ達を試した、エリスが殺されるかもしれないその瞬間 ラグナ達がどう動くかを…
「だが試すまでもなくお前達はエリスの友であったな、でなければそもそも此処にも来ないと言うもの…、だが メグお前まで口を開くとは思わなんだぞ」
「す すみません、陛下…出過ぎた真似を…」
「良い、お前にもそこまでするだけの友が出来たという事、我はそれが素直に喜ばしい…」
するとカノープス様はマントを翻しながら立ち上がると
「ならばこそ言おう!、今シリウスはリゲルを連れ 教国オライオンにて潜伏している!、奴の狙いはオライオンにて完全なる復活を遂げる事!その為に潜伏しているのだ」
「完全なる復活って…、まぁ オライオンしかねぇよな、リゲル様を手駒にしてるんだ そこに隠れない理由がない」
ラグナの呟きになんとなく同意する、エリスも同じことを考えてたから…、一人で探し出すと言っていの一番にオライオンへ行くつもりだった
だって向こうにはリゲル様がいるんだから、オライオンの最高権力者を思うままに出来ると言うことは即ち今シリウスはオライオン全域を支配しているに等しい、なら 使わない手はないだろう
「ああ、だが シリウスがオライオンに向かった理由はただ隠れるためだけではない、復活に必要な物品がある為 それを確保しに向かったのだ」
「え?、必要な物が?…」
それは知らなかった、というかだ シリウスは何かを捜している素振りも何かを確保しようと言う感じも無かった、少なくともさあの戦いの場では…、なのにオライオンに態々何かを取りに行ったと?一体なんだ…
いや、もしかして…、アレを取りに行ったのか?、確かに今のオライオンなら容易にそれを確保出来るものな
「確保しに行ったのは 我ら七大国のそれぞれに分割して封印してあるシリウスの肉片、つまり奴はオライオンに埋葬されている自らの『右腕』を確保しに向かったのだ」
そう 魔女大国にはシリウスの八等分した肉体のうち七つを分割して封印しているんだ、当然この帝国にもあるが 確保難易度という点ではリゲル様を手駒にしているオライオンの方が断然低い
「でもなんで今更右腕なんか…、肉体はもう手に入れている筈ですよね」
「手に入れたいのは右腕…己の肉片に込められた『血液』だ、それを確保し摂取し自らの体内の魔力同調率を高めたいのだろう」
「同調率を…、でもシリウスは時間が経てばその内完全に師匠の体を奪えるんじゃ…」
「どうやらシリウスに誤算が生じたのだろう、…奴はレグルスを侮りすぎた」
「師匠を…?」
「お前達二人を殺そうと魔術を放つその瞬間、シリウスの魔力が空に散って魔術が不成立になったことがあったろう」
ああ、そう言えばそんなこともあった、あの時は本気で終わりかと思ったが 何故かシリウスは魔術の発動をミスしエリス達は結果として助かったのだ、それの原因はついぞ分からないままだったが…、アレが誤算?
「一体アレはなんで…」
「レグルスだ、今のレグルスには意識はないが それでもレグルスが拒絶したのだ 、例え肉体を奪われてもお前を…弟子を傷つけることを、魂レベルの抵抗でだ、これは恐らくシリウスの中で完全にレグルスが混ざり切って居ないのだろう」
「師匠が…」
ということは、アレは あの不可思議な現象は師匠がシリウスの内側で抵抗してエリスを守ってくれたと…、肉体を奪われて居ても 意識を奪われて居ても、エリスの為に…師匠
「………ッ!」
拳を強く強く握りしめる、悔しいな…まさかまた師匠に助けられてしまって居たとは、嬉しいな…まだエリスは師匠の弟子で居られるんだ、師匠もエリスを想ってくれているんだ
「だがあの一件でシリウスもレグルスの魂が完全に同化して居ないことに気がついただろう、故に自らの血を取り込みより一層本来の肉体に近づけるつもりだろう」
「自分の要素を余計に取り込んで その勢いでレグルス様の魂も飲み込もうって算段か、しかしだとすると時間がないんじゃないか?」
「確かに、向こうにはオライオンの魔女リゲル様が居ます、シリウスの左腕を封印した張本人です、確保しようと思えばあっという間に確保出来るのでは…」
「そこに関してはまだ時間があると言える、がそれでも持って三ヶ月程度だろう、逆に言えば三ヶ月は猶予がある…故に、それまでにオライオンに隠れるシリウスを見つけ出し そこで決着をつければレグルスは帰ってくる」
なにやらカノープス様は左腕の封印に関して何か知っているようだな、まぁカノープス様もまたシリウスの肉体の封印を施す張本人の一人、この封印が一筋縄ではいかないものだと理解しているのか、或いはこんな事態さえも想定して何かを用意して居たのか
ともあれ猶予は三ヶ月、魔女大国を隈なく探すにはあまりに少ない時間だが、それでも時間はあるのだ
すると、カノープス様はその身の威圧を収め体を乗り出し 裁判官の席からエリスを見下ろす、今度はその視線は優しく 慈愛に満ちたもので…
「感謝するぞレグルスの弟子…いいや エリス、よくぞ見つけ出してくれた よくぞ我等の制止を振り切ってくれた、お前が同化魔術の解決法を見出してくれなければ我は…、リゲルごとオライオンを消しとばす覚悟を決めていただろう、レグルスのみならず リゲルの命も奪うところであった、本当にありがとう…」
「い いえ、エリスはそんな…」
「よい、我は感謝しているのだ 故に此度の裁判、お前を無罪とすることをここに宣言する、誰にも文句はつけさせん」
するといつの間にかカノープス様の隣に移動して居たメグさんが、その隣で大きな紙をバッと広げ中に書かれた『無罪』のワードを高らかに見せている
無罪ってことは、許されたって事でいいんだよね…、良かった…
いや或いは最初からこのつもりだったのかもしれない、エリス達の覚悟を問う為にこんな場所を用意したのかもしれないな…、まぁ最初の方は結構ガチで怒ってたっぽいが、それでも許された 師匠を…カノープス様の友を助ける手段があるから、許された
あぁー、良かったー、死刑は嫌だし助かったよぅ
「…本当に、本当にありがとう…、エリスよ、お前のおかげで我は愛する者を失わずに済みそうだ、本当に…本当に…、ッ…」
潤む目元を手で隠し嗚咽を威厳にて隠す、それでも尚隠しきれない喜びは頬を伝って地面に落ちる、喜びに震える肩と息は全て友を助けられるかもしれない可能性の為に捧げられる
カノープス様は八千年間思案し続けた、なんとかレグルス師匠を 愛する人をシリウスの魔の手から助けられないものかと、考えて考えて 考え尽くしても見つからず 涙を飲んで最悪の選択をした…
だというのに、今こうしてレグルス師匠を助ける手段が目の前にある、もしかしたら取り戻せるかもしれない その事実にカノープス様は歓喜する、そんな主人の姿を隣で見るメグさんはエリスに視線を向け
カテーシーにて頭を下げる、…ええ メグさんは師を救えたようで良かったです
「じゃ、俺達の次の目的地はオライオン…だな?、エリス」
「はい、付いてきてくれますか?ラグナ メルクさん メグさん」
次の目的地は奇しくもエリスと師匠が最後の目的地と定めた国 オライオンだった、本当なら師匠と共に向かう筈だったそこへと エリスは向かう
今度は師匠と共にではなく、今までの旅で得た仲間達と…、シリウスの計画に決着をつける最終決戦の場として
「おう、当たり前だろ?お前を助ける為 俺はここにいる、相手が何であれそこは変わらねぇ、超えていこうぜ?シリウスも」
「ふふふ、またエリスと冒険出来るとは 心が躍るな、あの時だって魔女様を相手にレグルス殿を取り戻せたんだ、今回だって同じさ」
「はい、しかし敵方にリゲル様がいらっしゃるということは 教国オライオンは間違いなく我等の敵として立ちはだかるでしょう、厳しい戦いになるでしょうが…」
む、そうか 魔女大国に於いて魔女様は絶対、リゲル様がシリウスの味方をせよと言えばオライオンは国を挙げてシリウスの味方をするのか…
となると、オライオンも における戦力が丸々エリス達の敵になると…
つまり…、リゲル様の弟子 闘神将ネイレド…彼女とも戦うことになるかもしれないのか
「まぁ案ずるな、我等帝国もお前達に全てを丸投げするつもりはない、出来得る限りの援護をするつもりだ、差し当たってメグ お前に与えられるだけ権限を与える、軍だろうが開発局だろうが自由に使え」
「かしこまりました陛下、必ずやエリス様をレグルス様の元まで導き 再び陛下の元に連れて参ります、今度は正真正銘 陛下の伴侶として」
「ああ…、頼んだぞ」
帝国もまたエリス達を支援してくれるらしい、だがやるのは飽くまでエリス達 …それはある意味有難い、何せカノープス様はエリス達のことを尊重して任せてくれているのだから
「では、エリス ラグナ大王 メルクリウス首長 そしてメグ、先ずは英気を養い オライオンへの旅路への準備をせよ、其方らの健闘を祈る」
それだけを言い残すとカノープス様はマントを翻すと共に刹那の内に消え去る、後のことはエリスに任せてくれる エリスが師匠を助ける…その可能性に賭けてくれる
つまりここから先はエリス達魔女の弟子達の戦いということになる
エリス ラグナ メルクさん アマルトさん ナリア メグさん、揃って六名…八人いる魔女の弟子達の中の六人が揃い踏みしたんだ、例え魔女大国だろうがシリウスだろうが相手じゃない筈だ
「さて、こっちはなんとかなったな」
ふぅ とラグナは額の汗を拭う、さしものラグナもカノープス様を前にしての啖呵は緊張していたようだ
けど、それでもエリスを守るように立ってくれた彼の背中は…とてもかっこよかった
「話し合いたいことは山とあるが、これからどうする?」
「やらなくちゃいけない事も山ほどありますね、差し当たってオライオンへ発つのはいつ頃にしますか?」
話し合わなきゃいけない事 準備しなくてはいけない物は沢山ある、何せこれからシリウスを目指してオライオンを旅するのだ、しかも三ヶ月というタイムリミット付き…
「ううーん、食料とか旅に必要な道具とかも用意しなきゃだし、それを運ぶ為の馬車も用意しないといけないから…結構時間がかかるな、三ヶ月後にはシリウスを見つけていたいし 出来れば一週間以内には旅に出たいんだが…これじゃあ一週間以内に納めるのは難しいか?」
ラグナは頭を抱える、時間に対して用意しなくてはいけないものが多すぎる、これでは何もかも超特急で終わらせなければ間に合わない、…そう 間に合わない
普段ならね…
「ああ、そこは私にお任せを」
「お?、メグさん?」
メグさんがクルリと回転しながらエリス達のところに戻ってくる、そう 今回の旅にはメグさんがいるんだ…けど、どうやらラグナ達はメグさんの力を知らないようで メグさんが名乗りを上げても首を傾げるばかり
「ふふふ、ラグナ達はメグさんの力を知らないんでしたね」
「あ…ああ、そうだけど…」
「なら度肝抜かないでくださいね、…メグさん」
「はい、食料は常に一個師団を一週間養うだけのストックを用意してあるので用意する必要はありません、物品もいつでも補充出来ますので今から用意する必要もありません、馬車もまぁ必要ないでしょう 転移機構を使えば二秒でオライオンに着くので今からでも行けますよ?」
そう、メグさんには時界門という時空を超えて物を移動させられる魔術がある、その上彼女は皇帝陛下から与えられた膨大な倉庫を保有している、その中には食料も物品もなんでも揃ってる その気になれば家だって取り寄せられるし、最悪旅を中断せず時界門を潜ってマルミドワズに買い出しにも戻れる
旅 という一点で見ればメグさんは万能だ、彼女一人いれば何でも事足りる 正直今回の旅はかなりイージーな物になるだろうな
「転移…そうか、メグさんはカノープス陛下から時空魔術を習っているのだったな、ふふ 頼もしいなこれは」
「はい、いつでもご飯を用意できます 草原のど真ん中にもコテージを用意出来ます、何なら就寝の時だけマルミドワズの屋敷で行うということも出来ます、私の時界門があれば どんな旅も気軽なお散歩になるでしょう」
「マジかよ…そりゃすげぇ!、なら後は俺たちの心と体の準備だけだな…、なら!出発は五日後にする!それでいいな!みんな!
「ええ、問題ありません ラグナ」
「五日後でございますね、ならそれまでの間はどうかごゆるりとマルミドワズでお休みを、寝床は我が屋敷をお使いくださいませ」
出発は三日後、今度の旅は師匠とではなくラグナ達魔女の弟子達と共にオライオンへ、敵はオライオン全域とそこを統べるリゲル様 そしてシリウス…、今回の旅はいつもとまるで勝手が違うものとなるだろう
向かうは敵地 いつものように味方は作れない、オマケに頼りになる師匠もいない、敵も困難も全てエリス達の魔女の弟子達だけで乗り越えなければならない
はっきり言って旅の難易度はどの国よりも高いかもしれない、けれどどうしてだろうな エリスは今とってもワクワクしてる
だって、みんなと一緒に旅が出来るんですよ?
またアルクカースの時のようにラグナと戦える
またデルセクトの時のようにメルクさんと問題解決の為に動ける
またコルスコルピの時のようにアマルトさんと協力出来る
またエトワールの時のようにナリアさんと旅が出来る
またメグさんと…今度はメグさんと一緒に進むことが出来る、正真正銘の友達同士として
今までの旅で培った経験と 今までの旅で作り上げたエリスの友達、この旅で得た全てを総動員して 旅の最後であるオライオンへと旅立てる、オライオンの旅は エリスの長い旅の集大成となる
だからワクワクするんだ、…確かにオライオンに味方はいないが この旅で得た全てがエリスの味方となるんだ!、こんなに嬉しいことはないだろう?
さぁ、行くぞ!いざ 最後の国オライオンへ…!
…………………………………………………………………………………………
「フム…、これがエトワールの文学という奴か、やはりワシが知る時代のものよりも文字使いが洗練されておる、良いものよ」
閉ざされた窓の外で白銀の吹雪が吹き荒び ガラスを叩いて冷気を流し込む、そんな寒々しい景色を他所に 部屋唯一の光源たる暖炉の側で安楽椅子を揺らし本を読み耽る
本をめくる指が悴む、吐く息が白くなる、寒さに体が震える、この魔女大国随一の険しい自然誇る銀世界の中にありながらその存在はまるで寒さを感じないかのように影響を受けない
白い息など吐こう筈もない、世界如きがこの身を震わせることなど出来ようはずもない、何せ彼女は人類が人類として成立したその時より数えて 最も神に近づいたと言われる至高の存在なのだから
「師よ、傷の具合は如何ですか?」
暗い部屋の奥で、虚ろな目で体の加減を問うのは水色の髪を腰まで垂らしたシスター…否、テシュタル教の教皇にしてこのオライオンに於ける魔女…夢見の魔女リゲルである
そんな彼女が首を垂れる相手などこの世には存在しない、存在しない筈なのだが…今リゲルは安楽椅子に座るその存在に従うかのように横に侍る
魔女さえも従わせる絶対存在、それこそが
「良いぞ?、カノープスから受けた傷なんぞツバつけときゃ治るわ、ぬはははは」
原初の魔女シリウス、史上最強と呼ばれる彼女がレグルスの体を使い笑う…
今、シリウスはカノープス及び帝国の追撃を逃れ 洗脳魔術にて操ったリゲルを使いその大国であるオライオンに隠匿しているのである、シリウス自身はヘラヘラ笑っているもののレグルスの肉体にかかった負荷は凄まじく この三日間療養を余儀なくされたのだ
故に今、オライオンの中央都市にしてテシュタル教の総本山 『テシュタル神聖堂』の奥深くにて傷を癒しているのだ、ここならば帝国の手が及ぶこともない
何せ既にリゲルの令にてよりオライオン神聖軍がオライオンが動き始めている、如何に帝国と言えどもオライオン神聖軍を真っ向から相手するのは避けたいだろう
何せぶつかれば史上初めてである魔女大国同士の大戦が始まってしまう、そうなれば結果の如何に問わず 魔女への信頼と畏怖の念は失墜し魔女世界は根底から崩れる
そんなカノープスが恐れる事態を盾にしてシリウスはヌクヌクと傷を癒していたのだ
「ふむ、しかし三日経ったというに…、同調が一向に進まん、やはりレグルスの意志が何処かに残っておるな?これは」
ふむ とシリウスは思考する、恐らくこれはシリウスとレグルスの肉体の親和性が高すぎたが故に起こった不慮の事態だろう
シリウスとレグルスの魂があまりにも同一のもの過ぎて 同化せずにこの肉体の中で二分され同居してしまっているのだ、当然シリウスとてこの事態を想定していなかった訳ではない
だが、それでもこれが発生する確率はあまりに低かった…そんな可能性を引き当てるとは、と シリウスは歯噛みしつつも楽しそうに笑う
「くくく、やはり世は儘ならぬ物よな、どれだけ万全を期すとも思わぬ所に落とし穴がある…、それに足を取られ歯噛みする思いも 挑戦する者にしか得ることは出来ぬ、挫折は挑戦の証!、ワシは今死者蘇生という大業に挑んでいるという証に他ならぬ」
シリウスは楽しんでいる、不慮の事態という経験も 挑むことをしなくては得られることはない、故にレグルスの魂が残り シリウスの目的を阻むという事態さえもシリウスは挑戦の証として楽しんでいるのだ
(やはりいい、挑戦とは生きている者にしか行えぬ、この久しく挑む感覚…、ワシは今 この世を生きておる)
これこそがシリウスの本質…、かつて彼女に付き従った哲学者は口にした
『シリウスは、たまたま人の腹から生まれてしまっただけの神である、神の材料を用いて 人の設計図で形を作られた 神人である』と
神と人の違いは一つ、万能であるか否かなのだ
神は生まれた時より全てを可能とする万能の存在、対して人間は生まれた瞬間は立つことも喋ることも出来ぬ全くの無能…
故に人は挑み、可能としていくことが出来る生き物なのだ、挑み立ち 挑み話す、挑み続けて生まれたのが知識の累積と言う名の人類文明、つまり人とは挑む事を本質としているのだ
なら、神であり人であるシリウスはどうだ?、挑戦する事を本質としながら万能であると言う歪な性質を備え持つ彼女は、常に挑戦に飢えている
話すことも立つことも、あらゆる事が最初から出来る彼女が挑まなければならないものは何もない、故に彼女はそんな自分でも不可能なものを常に欲している
この逆境さえ楽しめるのも挑戦であるならば楽しい、人類の真理を知るのもまた遥かなる挑戦故楽しい
シリウスは挑戦を以ってして生を実感する性質を持つのだ
「ぬはは、ワシは必ずや実現するぞレグルス、挑み続け 前に進み続ける以上物事は必ずや結実する、ワシは挑む事をやめんからな?ぬははは」
悦に入る、この逆境を跳ね除け 不可能をどう可能にしてくれようかと…、この思考する時間さえも生の実感を与え彼女を楽しませる
そうだ、手を伸ばし続ける限り 人は月さえもこの手に収める日が来るだろう……
「師よ」
「あん?、なんじゃあワシ今楽しんでおるのにぃ」
「見舞いの客が来たようです」
「見舞い…?」
ニュッ?とシリウスの眉が釣り上がる、見舞いに来られるような人間ではない事をこの世で一番理解しているのはシリウス自身だ、剰え今シリウスは世間的には追われる人間
だというのに見舞いを通すとか、こいつ実は操られてかねぇんじゃねぇのかのう とリゲルを横目に見るが、リゲルはそれに答えず
「入りなさい」
入れ その言葉に律儀に従うようにコンコンコンと三度ノックをした後 其奴は…いいや?、私は扉をあけてシリウス様の見舞いの為、お部屋へとお邪魔する
「シリウス様~?、復活おめでとうございますぅ~」
「おん?、おお!ウルキぃ!久しいのう久しいのう!、そうかお前が見舞いに来てくれたか!、いやぁ嬉しいのう!」
片手でパフパフラッパを鳴らし、もう片手にどっさり花束を抱えた私を見るなりシリウス様は嬉しそうに本を閉じて椅子から立ち歓迎してくれる
私こと、ウルキ…否 かつてシリウス様の右腕として仕えた羅睺十悪星が一人 終夜穿つ妖天 ウルキ・ヤルダバオトが見舞いに来たと見ればシリウス様とて喜びを隠せないのだ、何せ私はシリウス様が一番信頼する右腕なのだから
「八千年の眠りから覚め 再びこの世に舞い戻った記念にこのウルキ、シリウス様の為お祝いの品をお持ちしましたぁ、あ!どうぞどうぞ 座ったままで結構ですよ?」
「そうか?、ぬはは やはり持つべき物は出来た部下よ、で?何持ってきてくれたんじゃ?」
「はい、こちら帝国の雑貨屋で買った置物でございます」
そう言いながら私は袋からマルミドワズの商業施設で買った鉄製の置物を取り出す、龍がグルグルと畝り 剣を絡めとりながら天に咆哮する勇ましい鉄像だ、かっこいい
おまけに結構サイズもありましてね?、人の頭よりも一回り大きいビックサイズ、高かったんですからね?これ
「ぬほほ!、置く場所ない上使い道もないのう!、こういう時は消え物でいいんじゃよウルキ、貰って困る物を率先として渡してくるではないわい ぬはは」
「お?『渡してくるでないわい』…な『祝い』!、流石シリウス様この祝いの場にふさわしき言葉遊び!、よっ天下一品、史上最強!」
「そー褒めるでないわい!、ないわいないわい!ぬははは!」
片手でポンポン鉄像を暖炉へ放り投げるシリウス様の姿を見て思わず涙がほろり、これは完璧に復活されたな、これでまた八千年前の続きが出来るというものですよ本当
「いやぁ、どうやらレグルスの肉体は完全に掌握されたようで、流石はシリウス様でございますぅ~」
「いや、まだ完全には乗っ取れてはおらん、色々あってのう まだ完璧な復活は程遠い」
「あらまぁ、そうでした?…まぁ、そうでしょうね シリウス様が完全に復活してたら、こんな冗談言っている暇ないですもんね」
ということはまだ肉体を得ただけか、シリウス様が完全復活していれば『アレ』が海底から再び天を目指して伸びていたはずだ、その兆候がない以上 シリウス様の復活はまだとは理解していた
「ということはもう一回復活祝いが出来ますね」
「そうじゃのう!、その時はちゃんと食えるもん用意せえよ?ぬははは!」
「はいぃ!、ところで私に出来ることはありますか?」
「ない、お前が動くと奴らの目を惹く、かえって邪魔じゃ どっか行っとれ、手前の体のことくらい自分でなんとかするわ」
こうして祝いに来て手助けを申し出たのに邪魔だからどっかいけとは何とも理不尽、これでこそシリウス様だ、好調なようで何より…
というか
「…シリウス様、リゲルの掌握の方は」
「完璧じゃ、リゲルはワシの弟子の中でレグルスに次いでワシに従順じゃったし、何より精神的に脆い部分もあった、掌握の完了は最も早く終わっておったわ」
「なるほど…」
そう言いながらリゲルの方へ向かいその顔を見る、私のことを見ながらも敵意も見せないということは完全に洗脳が出来ているということだろう
…こいつには八千年前色々酷い目に遭わされましたからね、仕返しするなら今か
「ふふ、あははは!リゲル!敵に操られるなんて無様ですね!、どうです?悔しいですか?私が目の前にいながら手出しできないなんて!あははは!」
故に思いっきり馬鹿にしてやる、このやろうめと思いを込めて、なんならほっぺた抓ってやろうかな!、どうせ抵抗出来ないし!
「ウルキ?」
「はい?なんです?」
するとリゲルは罵倒されているにも関わらずニッコリと笑い、徐に拳を握り…
「口を慎みなさい」
「ぶげぇっ!?」
おもっくそ殴られた、聖なる拳骨ブローが私の頬を射抜き殴り飛ばすのだ
「い、いやいやいや!?シリウス様!?こいつ殴ってきたんですけど!?、操られてるんじゃ!?従順なのでは!?」
「たわけ、従順なのはワシに対してだけじゃ、そも洗脳といっても完全に下僕にする魔術ではなく価値観を変化させるだけ、今のリゲルはワシに対する価値観が弟子時代に遡行しているだけであってお前の味方になったわけではない」
「そんなぁ…!」
「さぁウルキ、一緒に断頭台に行きましょう 神の裁きを与えます」
まぁ問答無用で襲いかかってこないだけマシか、殺す気満々ではあるんだけども…、それにリゲルは『対処法』さえ心得ておけば殺されることはない、もし本気で襲いかかってこられても痛い目見る程度で済むからいい
これが他の魔女…、特にスピカだったりするとやばい、アイツの魔術は問答無用の即死魔術だ、私でも貰えば確実にあの世行き…、まぁアイツはビビリだからそんな魔術使わないが
「それじゃあ、私はリゲルが怖いのでお暇しますね、また用があったら呼んでくださ…」
「待て、ウルキ…その前に聞きたいことがある、リゲルも控えよ」
「はい、師よ」
ふと、シリウス様に呼び止められて 動きを止める、まだ何かあるのか?、いや あるな
シリウス様は一通りふざけ終えた後真面目な話をするタイプだ、つまりこれから来るのは…
「お前 魔女排斥機関マレウス・マレフィカルムって知っとるじゃろ」
マレフィカルム…、知ってるも何も私はそこの設立に立ち会っている、謂わば私の最たる隠れ蓑、それの話をするとは まさかシリウス様も…
「はい、というかシリウス様も知ってますよね、以前アクロマティックを使ってましたし」
「ああ、彼奴から聞いたのじゃ…、魔女と敵対する組織に入れと言ったら そこに潜り込んでおったからのう、しかし 魔女排斥組織か…、言うてくれる この原初の魔女に向かって排斥とはのう」
まずい、シリウス様が怒っている、怒気が体から漏れて周囲の物体が耐えきれず自壊を始め、空間が軋みこの体が震えている
不興を買った、魔女排斥…魔女とは即ちシリウス様のことだ、マレフィカルムにその意図が無くともシリウス様の琴線に触れた、潰される…マレフィカルムが…!
「し シリウス様?、マレフィカルムは別に貴方をどうこうする気は…」
「わーってるわい、そりゃ最初は『生意気な奴らめ 消しとばしてやる』と思いもしたが、何…聞けば我にとって随分都合の良い組織ではないか」
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「だ ダメですシリウス様!、貴方は今隠匿の身!、表立ってマレフィカルムに接触すれば…」
シリウス様の存在が衆生に露呈する、それは即ち魔女達に尻尾をつかませることになる、それは絶対にダメだ 今マレフィカルムにシリウス様を魔女達から匿うだけの余力は…
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もし相手が身分を弁えずシリウス様に意見したり反対すれば……
「ぬはは 見ない間に随分偉くなったのう、感心感心…じゃがお前忘れとらんか?、誰が主人かを」
「そ そのような事は、決して…」
冷や汗が伝う、レグルス達魔女を相手にしても得なかった明確な死の気配が私の体をぬるりと覆う、八千年前理解させられたシリウス様の恐ろしさを体が思い出して即座に降伏してしまう
許してくれと、震えながら跪く…、その姿を見てシリウス様は
「言え、誰が上だ」
「し シリウス様でございます」
「お前はなんだ」
「シリウス様の下僕、羅睺十悪星でございます」
「それがワシに意見していいと思うか?」
「思いません…」
「よろしい、それだけ覚え取れば後はなーんも言わん、好きにせえ」
ぬはは!といつものように朗らかに笑い跪く私の頭をポンポンと叩いてくれる、怒りは感じない…、許されたのか?
「申し訳ありません…シリウス様」
「やめよ、まるでワシが怒っておったみたいではないか、リゲル ワシは怒っておったか?」
「いいえ師よ、貴方は怒りを口や態度で示す前に行動で示します、貴方の怒りの先には和解はありません、あるのは相手の死のみ」
「そういうことじゃ、…ワシを怒らせることなく 上手い具合に機嫌を取れよウルキ、ワシは身勝手でワガママの気分屋じゃからのう」
ふぅんと再び椅子に座り肘置きに頬杖をつくシリウス様の姿を見ていると思い出す、八千年前を…、そうそうこれこれ シリウス様と言えばこれよこれと何処か嬉しくなる
そうだよな、シリウス様はメチャクチャな人なんだ、私が部下として最後まで随伴出来たのは奇跡に近いくらいの傍若無人なのだ、そんな人に…私はついて行きたい
だってこの人は、果てを見せてくれると約束したから、その約束はまだ果たされていないから…
「しかし、悪かったのう マレフィカルムを今すぐどうこうするつもりはないのじゃ、お前のいう通りワシは隠匿の身、要らぬ行動は極力は削いでおきたいからのう 興味本位では動かん」
「そう…でしたか」
「ああ、じゃが時間が出来たら…ちょいと動かさせてもらうぞ?、なにぶん見ていてやきもきする、マレフィカルムのやり方はあまりに下の下過ぎる」
「下の下?…」
「そうじゃ?、下の下の下じゃ、故に先達としてちょいと手本を見せてやる…、世を覆い 動乱を齎し、厄災たるべくは如何にして…とな、くくくく」
ニタニタと笑うシリウス様の思考は読みきれない、正直次の瞬間何をするかも分からない、だがこの人がやると決めてしまった以上私にはどうすることもできない
だが、シリウス様は気分屋だが愚か者ではない、世界を破壊しようとしているが破滅主義ではない、戦略面では極めてクレバーな一面を持ち合わせるシリウス様のことだ 、より魔女世界にとって都合が悪く、より、魔女に敵対する者達に都合よく動いてくれるだろう
何せこの人はかつて その力と身に滾るカリスマで数多くの大国を手中に収めたお方でもある
悲観することはあるまい
「ま、そういうわけじゃ ワシはこれより復活の為に細々動く、お前はワシのカバーに動くよう心がけよ、差し当たってオライオンから立ち去るのじゃ」
「かしこまりました、では私自身の行動方針には何の変化もなく ということですね」
「ああ、頼むぞ?ウルキ、お前がおらねばワシはこうも堂々とはしていられない、お前の辣腕に期待して ワシは大手を振って復活を目指す」
「勿体ないお言葉」
シリウス様はシリウス様で完全なる復活を、私は私で今までと同じようにマレフィカルムを使って活動を続ける、ちょうどバシレウスも育成期間に入ったし 私としてはそちらの方がありがたいというものだ
「では、私はこれで」
「ああ、…んーと待てよ?まだ何か言い忘れたことは…ああ、エリス…奴はきっとここに来るぞ」
「………………」
エリスちゃんか、それをわざわざ出すということは私とエリスちゃんの話の内容も知っていると…、そう言いたいのだろうか
「エリスはワシからレグルスの肉体を奪い返す為にここに来るじゃろう 彼奴はそういう娘じゃからな」
「申し訳ありません、何を仰りたいやら…」
「会う必要はないのか?」
そうか、問うているのか
ならば答えよう…、真意を問うなら誠意を持って答える、恐れはあれども畏れはあれども、正気ではないのだから
「まだ必要はありませんよ」
止めた足を再び動かし、振り向きながら軽く微笑み、宣う まだ必要はないと…、それを受けたシリウス様はボケッと口を開けて…
「────────ハッ!、ははは…ぬはははは!うはははははは!!」
狂ったように笑う、膝を打ち立ち去るウルキの背中を見て笑う、ウルキの漏らした真意を聞いて大いに笑う、あんまりにもおかしくて顎が外れてしまうそうなほどに腹を抱え笑う
「そうか!そうかそうか!、お前はそう思うか!、やはり面白い女よお前は!部下にして正解であった!、ええぞ?そう思うとれ その甘い考えにもワシは挑もうぞ!」
「ええ、よろしくお願いします」
今度こそ私は扉を閉めてシリウス様への見舞いを終える…
しかし、不思議な心持ちだ、シリウス様と話しているのにこちらを見る目はレグルスのそれだった、当然だ シリウス様はレグルスの肉体を使っているのだから…、そう レグルスの…
「ッッッ……!」
閉めて背を向けた扉に向かって再び飛びつきそうになる手を抑える、落ち着け落ち着け…抑えろ私
危ない危ない、部屋を出て緊張の糸が途切れたからか 危うく『レグルスを殺しに行くところ』だった、それはダメだ シリウス様の邪魔はしちゃいけない
けど…けど
「レグルス…、貴方を殺すのは私の悲願なんですけど…」
ただ呟く、我が悲願の成就はどうやら叶いそうにもないとやや諦めながらも口にする、それとも或いは本当にエリスちゃんがシリウス様の道を阻むか…
もし、エリスちゃんがシリウス様の狙いを跳ね除けたとしたら、…その時は…ふふふふ
ウルキは小さく笑う、小さく小さく笑う、可愛い妹弟子が果たしてどこまでやれるか、凡ゆるを可能とする神が如きシリウス様を相手に…どこまで
そんな祈りにも似た思案を胸に ウルキはオライオンを後にする、私が関与するには まだ時が早すぎる
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