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八章 無双の魔女カノープス・前編
221 対決 No.17 星のヘエ
しおりを挟むエリスはこの旅で多くのアルカナと戦ってきました
その中でも幹部と呼ばれる人間の強さはかなりのものだ、幹部と戦う時は いつだって大苦戦を強いられる、エリスにとっても気合を入れなければならない相手達…
その中でも特に記憶に新しく、そして最も苦戦した相手といえば レーシュだろう、そりゃあそうだ 何せ彼女は二十人近くいるアルカナ幹部の中でも五本の指に入る実力を持っているんだから
その名もアリエ…切り札を意味する言葉であり、文字通りアルカナの切り札達…コルスコルピでラグナが戦った 塔のペー、ラグナ曰く今までにないくらい苦戦を強いられた相手だったと語るペーを上回る奴等なんだ
アリエの一人であるレーシュとの戦いも、正直今思い返しても厳しいものだった、再戦してもまず間違いなく勝てないと思えるほどに、奴は強かった
…そんなアリエが、この帝国には四人いる その事実を聞いていたから、いつかそれと接敵することも考えていたんだが……
「おや、見れば無双の魔女の弟子もいるね、弟子同士が二人仲良く何をしてるのかなぁ」
頭に乗せてあるナイトキャップをズレないように固定しながらパジャマのようにだるだるの服を着た白髪の青年は笑う
彼こそNo.17 星のヘエ、突如として家一つ降らせながら現れたアルカナの大幹部、この襲撃にも参加していると思っていたが、やはり来ていたか
「エリス様、気をつけてください」
「勿論ですよ」
抱きかかえたメグさんを下ろしながら二人で構えを取りながら 目の前に現れたヘエに対して、警戒する…いや、違うな
戦闘態勢を取る
魔女排斥連合との連戦やアルテナイとの戦いを終え、そのまま流れるようにこいつとの連戦だ、はっきり言って万全とは言えない…、強いて希望的観測を挙げるなら
こいつはNo.17、エリスが戦ったNo.19 太陽のレーシュ程に強くはない ヘエはアリエの中でも最下位のNo.だ…あれほど苦戦はしない筈だが、アルカナのNo.って実力主義で決まってる割にはあんまり信用できないんだよなぁ
ヘットが下位No.にあるまじき強さを持ってたり、対するNo.9隠者のヨッドが明らかにヘットより弱かったり、コフはコフで力を隠していたりと 信用できない、だから油断もしない
「…ふぅーん、しかし 君がエリスか、シンが恐れレーシュさえ倒した女って」
「ええ、貴方より格上のレーシュを倒した女ですよ、あんまり大きな態度に出ないほうがいいですよ…」
「あっははは、レーシュを倒したのだってなんかのマグレだろ?、それかアイツのマゾヒズムが爆発して勝手に自滅したとかさ、でなきゃアイツが負けるなんて考えられないし」
「………………」
イマイチ反論出来ない、レーシュに勝てたのは実際マグレだし、レーシュのマゾヒズムは爆発してたし
「僕は違うよ、アイツみたいに傷を受けて~とか先手を譲って~とか、そんなくだらない事を言うつもりはない…、油断なく そして反撃の暇さえ与えず君達を殺す」
大口に聞こえるが、事実ヘエの身から溢れる魔力は確実にエリス以上だ…、あんなに修行したのに まだ最下位のアリエさえ超えられないか
「それに、丁度いいね…帝国のメイド、君とも決着をつけたかったところだ」
「…………」
「メグさん一回アイツと戦ってるんですか?」
「ええ、一度奴を撃退しています」
ほぉ!すっごいじゃん!それ!、こりゃ頼りになるなぁ!とエリスの顔が明るくなることはない、何故ならメグさんの顔が余りにも深刻だったからだ、一度撃退した相手を前にしてる人間の顔じゃない
「…すみませんエリス様、私はあまり力になれないかもしれません、以前奴と交戦した時 私の手札を全て奴に見せてしまっています、アルテナイの時のような不意打ちは通用しません」
「な…るほどぉ」
メグさんは良くも悪くも先手必勝スタイルだ、時界門も それから取り出す武器も、強力なようでいて タネがわかると対策も取りやすい、ヘエを打倒するには打倒したが それと引き換えに手札を全て使ってしまったのだろう
まぁいい、メグさんにだけ戦わせるつもりはない、エリスがアイツのことを知らないように アイツもエリスのことは知らない筈だ
「ここで魔女の弟子二人始末しておく方が後々の展開的にも良さそうだね、なら…『アラウンドゼログラビティ』ッッ!!!」
大地に一つ 手をつきながら魔力を高めるヘエ、その口が放つのは詠唱だ…、星のヘエが使う魔術とは如何にと思っていると…
「おお!?」
ボコり ボコりと大地が隆起し、その岩がまるで糸にでも吊られるかのように空中へと浮遊していくではないか、なんじゃそら…そう思う間もなくヘエの周囲にある地面は全て岩塊となり 空中へと浮遊する
いや、近くにあった家や瓦礫 何もかもが宙へと浮き上がる、一際大きな岩の塊に乗り、人工月の光を背に 空へと昇るヘエは 天を覆い尽くす星の如く大量に広がる岩や瓦礫を天へと持ち上げこちらを見下ろす
「な なんですかあれ…」
「『アラウンドゼログラビティ』、対象の重量をゼロに 重力に逆らい天へと浮かばせる魔術、通称反重力魔術…つまり」
「この浮遊都市を浮かせている魔術と同じ魔術の使い手…」
この浮遊都市を浮かべているのは『反重力魔力機構』と呼ばれる機構のおかげだ、機構は常に何かしらの魔術を常に発動させるもの…
つまり 『反重力魔術』自体は存在するのだ、そしてそれの使い手が ヘエ…、重力の化身 星のヘエ
「気をつけてください、奴は重力の魔術の使い手、軽くすることも出来れば…」
「そう!、重くすることも出来るのさ、さぁ押し潰れろ!魔女の弟子!、ぺしゃんこになった君達を瓦礫から掘り出して 足拭きマットとして使ってあげるからさぁ!、『アラウンドグラビティ』ッッ!!」
刹那、空へと浮かび上がった瓦礫が、まるで宙に浮く不自然さに気がつき あるべき場所に戻るが如く、失った重さを取り戻し いや本来のそれより何倍何十倍も重くなり一斉にエリス達に向かって降ってくるのだ、最早流星群…砲弾の雨が可愛く見える
それがただ降ってくるだけならいいが、一切の隙間なく 空を埋め尽くすほどに浮かび上がった瓦礫が一斉にだもんな、逃げ場がない…
「チッ、厄介な…!」
「エリス様!側にいて!」
するとメグさんはエリスを抱き寄せ空に手をかざすと
「超開!『大時界門』」
今までに見たことのない程巨大な時空の扉がエリス達の真上に開き、エリス達に降ってくる予定だった瓦礫達は代わりに穴の中に落ちていく、まるで時空の傘だ こんな使い方も出来…っっ!?!?
「おぉっ!!??」
「チッ、やはりですか…!」
降ってくる瓦礫は防げた、だがエリス達とは別の場所に降ってくる瓦礫が地面に落ちた瞬間、地面が大きく揺れるのだ
大きな物や重い物が落ちた時、地面が揺れるのは普通のとだってのは分かる、けれど揺れ方がおかしい、衝撃で揺れたと言うよりは…、まるで船体が傾くような 嫌な揺れ方
「な 何ですか、この揺れ」
「奴の重力によって重さを得た瓦礫の所為で、このエリアを支える反重力機構で支えられる最大積載量をオーバーし始めているのです」
「それってつまり?」
「浮いてるこの街が、重過ぎで沈みかけているんです、このままじゃ街が墜落します」
「なぁっ!?!?」
顔が真っ青になる、そうだ この街を浮かせている反重力機構とヘエが使う重力魔術は同系統、なら ヘエはこの街の反重力を打ち消すことができるって事で…
「でもこんな揺れ方はおかしい…?、どうして…いや、このエリアの重力が弱まっている?」
「え…」
メグさんの呟きにふと思い出すのは師匠の『動かすものの質量が大きければ大きいほど、その時の消費魔力が大きくなる』という法則
つまりだ、このマルミドワズを浮かす時 それは莫大なエネルギーを要しているはず…、そこに異常が出れば、ここを浮かす力も弱まったりしないか?
「あの、メグさん…もしかして反重力魔力機構に何か…」
「ッッッ!!!!そういうことか!!」
どういうことだ!エリスにもわかるように説明してくれ!
「エリス様、マルミドワズのエリアは地下に数百の小魔力機構と大魔力機構で区分を分けて支えているという話はしましたか?」
「いいえ」
「多くの魔力機構で役割分担することで 必要とする魔力を節約しているのです、要は大きな縄で支えて 複数の紐でバランスを取るようなものです」
信じられないくらいの早口が 事の重大性を語る、なるほど
マルミドワズをハリボテで考えたら分かりやすい、太い一本の縄で天井から吊るし、あちちに張り巡らせた紐で重さを分散しているんだ、そうすることにより 本来は持ち上げられないものを空中に固定しているんだろう
「そして、奴らの狙いは恐らくそこです…、この襲撃は囮!真の狙いは反重力魔力機構です!、恐らく奴ら 地下の反重力魔力機構を破壊にかかっているんだ!」
「や…やばくないですか?」
「やばいですよ、多分ヘエはそんな作戦の駄目押しの役割!、先程の揺れから既に小魔力機構はかなり破壊されていると見えます…、このまま大魔力機構まで壊されたら…、このままヘエが重力を高め続けたら…」
「……マジですか」
マジか?とヘエに問うと彼もニッと笑い答えてくれる、つまり この浮いている街を落とす事、それが奴等の狙い
なるほど、もしそうなら この街のどこに隠れても逃げてもみんな死ぬことになる、流石にカノープス様は死なないだろうが、カノープス様が手塩にかけて作り上げたこの国は心臓を失って死ぬ
つまり 帝国が死ぬのだ、それは この魔女世界の崩壊を意味する…、なんてことはない 奴等にとってこれは王手なのだ、エリス達は今 魔女世界崩壊の瀬戸際にいるんだ
「どどど どうしましょうメグさん!、マルミドワズが落ちたら避難してる人達も諸共…いや、帝国が壊死してしまいます」
「分かっています…、けど 」
どこから手をつけていいかわからない、反重力魔術機構を守りにいけばいいのか?、いや ヘエがこうして動いているということはもうある程度彼は成果を挙げているということ、このままヘエを放置すればこの街は大地に落ちる
それを阻止するためにヘエを倒さないといけない、だが…ヘエは攻撃のついでとばかりに周囲の物体の重量をあげられる、このまま戦い続ければいつかマルミドワズを支える力をオーバーして…
どっちも阻止しなくてはいけない…、いや ここは
「メグさん、ここはエリスが何とかします、メグさんは他の人達に行って反重力機構の防衛に向かってください!」
「ですが…」
「エリス一人でアイツを迅速に倒します、今ある反重力機構を少しでも防衛して落下を阻止しないと!」
今からエリスが他の軍団と合流するのと、メグさんが移動して行動するの、どっちが早いかは言うまでもない、何 メグさんが反重力機構を守り エリスがこいつを倒せば全て片付く話だ
「出来るのぅ?、君にぃ?僕をそんなすぐに倒すなんてさぁ」
「出来ますよ!」
「…分かりました、エリス様 直ぐに向かいます、間に合うかは分かりませんが機構技師も連れて修理に向かいます、ですので…」
「はい!任せてください!」
「では!、やばくなったら『助けてー!メグさーん!』と叫んでくださいね!」
「言いませんよ!」
メグさんは分かる人だ、今この場でダラダラ話しをしている場合じゃないと、方向性が決まったならもう動いた方がいいことを、だから彼女は即座に時界門を展開しどこかへと向かう、あちらはもう任せた、こちらはもう任された
だからエリスの仕事は一刻も早くヘエを倒して、マルミドワズ落下を阻止することだけだ
「あーあ、行っちゃった…あのメイドとも決着をつけたかったんだけど、仕方ないか」
ヘエは瓦礫の一つを星のように漂わせ その上に座りながら頬杖をつき、エリスを見下ろす、まるで全てが無駄であると言わんばかりに
「悪いですが、もう時間がないんです!本気で行きますよ!」
「何言ってるんだか、僕はもう本気だよ…、シンが恐れる君を倒し あの恐れが間違いだったことを証明してやろう!」
そう言いながらだるだるの服を正し、立ち上がると共にヘエは魔力を高める
アリエが一人 星のヘエとの、マルミドワズを賭けたエリスの戦いの火蓋が 切り落とされる
「『旋風圏跳』!!」
「『エルクシ…』」
風を纏い空を飛ぶヘエめがけ飛び立つと共に、ヘエもフワリと空を舞い エリスに狙いを定めると…
「『シューティングスター』ッ!!」
刹那、ヘエの体を捕らえる重力が この目で黒いモヤとして捉えることが出来るほどに急激に上昇すると共に、彼の体が凄まじい勢いでエリスに向かって落下して来る
っていうか 速っ!?
「げぶふぅぁっ!?」
なんて思考する間もなくヘエの足がエリスに突き刺さる、ただ飛び降り 蹴りを見舞っただけとは思えぬ威力、まるで巨大な鉄球に蹴られたような衝撃にエリスの全身骨がミシミシと軋み そのまま地面へと叩きつけられる
「ぐぇ…、くっ!」
「ほら、まだまだ行くよ!」
「やば…!」
地面に叩きつけられ悶えながらも慌ててその場から逃げるように走る、頭上にフワリと浮かび上がるヘエの姿が見えたからだ、ヤバい そんな危機感に促されるままにとにかく早く離脱をする
それと共に、さっきまでエリスが倒れていた場所にヘエが 隕石のように着地する、着地?いや違うな あれは墜落だ、事実彼が足をつけた瞬間 地面は呆気なく崩れ盛り上がり 隆起する
「ぉおおおおお!??」
崩れる地面に足を取られ思わず飛び上がる、いや違う エリスは飛んでない!浮いている!エリスの体が!?
「捕まえた…」
「ちょっ!?何ですかこれ!?」
まるでエリスの体がシャボン玉のようにフワフワと浮いており、手足をジタバタさせても動けない、エリスの抵抗は文字通り空回りしてくるりくるりと体が回る、…まるでエリスの周りの重力がなくなってしまったのようだ
見てみればヘエがこちらに向けて手をかざしており、もしかしなくともこれ ヘエの魔術のせい…
「さあ、こっちに来い!」
「あ、ああ!ちぉぉっ!」
ヘエが手招きすると共にエリスの体は、ヘエの方に向かって 垂直に落ちていく、真横に落ちる 意味のわからない事象に混乱しているうちに、エリスの体はみるみる加速して…、拳を握り待ち構えるヘエに向かって…向かって
「しまっ…」
「『ギガトングラビティ…』」
まずい と思った瞬間にヘエの拳は 真横に落ちるエリスの顔を捉えており…、凄まじい威力の一撃エリスの体にかかる、まるで巨人の一撃だ
ヘエの小さな体から打たれたとは、到底思えぬ一撃…、それもそうだ ヘエは重力を操れる、それは武に於いて最も重要な一因 『重量』を自在に操れることを意味し…
「『インパクト』ッッッ!!!!!!」
「がぁっ!?……」
その拳が振り抜かれ、エリスの体は紙切れのように吹き飛び 瓦礫の山さえ吹き飛ばし 、本来の重力によって地面へと叩きつけられる、殴られた頭が砕けたんじゃないかと思える程の威力に 悲鳴すらあげられずクラクラと倒れる
要は…あれだ、ヘエのパワーの源はあの重量にある、…殴る上で最も必要なのは腕力じゃない 体重だ、その体重を如何にして拳に乗せるか それが威力を決める、当然体重が多ければ多いほど破壊力は増す
ヘエはそれを自在に操れる、あんな細身でありながらこの世の誰よりも重くなれる、その重さのベクトルさえ自在に操り 容易に拳に乗せて放てる、一つも残さエリスに叩きつけられる、だから 巨人に殴られた錯覚さえ見える
…ここまでの勢いで殴られたのは初めてだ、パワーだけならレーシュ以上だ…
「もう終わり?、え?嘘、マグレでも仮にもレーシュに勝った奴がこの程度?、期待外れなんだけれど」
「まだ…ですよ、エリスのガッツ なめないでくださいよ」
崩れた瓦礫が宙へと浮かぶ、その瓦礫達はふわふわと宙を踊り ヘエの周りを浮かび始める、まるで天体だ…、星のヘエか…
「気合いと根性じゃあ勝てないよ」
「気合いと根性だけじゃ確かに勝てませんよ…けど」
だが立ち上がる、ヘエは強い 知っちゃいたがこいつは強い、万全ではないエリスがどこまでやれるか分からない、だが…
レーシュが言っていた、他のアリエはレーシュ程甘くない 敗北は死を意味すると、それに エリスが負ければヘエはマルミドワズ墜落に更なる力を入れる、そうなれば…一体どれだけの命が失われるか
いつもみたいに負けられないんですよ、今回の戦いは常に 負けられないラインを背にして戦わないといけないんですよ
負けられないから勝つ、極めて単純なロジックだ
「気合いも根性ない奴は誰にも勝てませんよ…!」
口元の血を拭い立ち上がる、こいつらの好きにはさせません!
「ふぅん、あ…そう」
なるほどねぇと顎を触るヘエはギロリとエリスを睨み
「勝つつもりなんだ、僕に…でもさ 僕に勝ってどうするの?」
「はぁ?何言ってんですか、勝って倒れる貴方の上で勝鬨上げながらタップダンス踊るに決まってるでしょ」
「野蛮だな」
「どっちが野蛮ですか!、市民の暮らす街に火を放ち!その生活を脅かす貴方達の方が余程野蛮ですよ!」
「はっ、魔女の弟子らしい理論構築だ、だけどさ 因果ってのを忘れちゃいけないよ、結果としてそうなっただけで、その過程は魔女に非があるんじゃないの?」
「……はぁ」
「僕達だって元はその市民だ、それを虐げたのは魔女だろ?、僕の両親は魔女に殺された!ただ魔女に頼らぬ世界の為 啓蒙を広めて居ただけなのに、国家転覆の罪を着せられてね、お蔭で僕も酷い目にあった 分かるかい?、魔女は世の為人の為と言いながら自分達の地位を脅かす人間は容赦なく攻撃する!、彼女達にとって人は自分たちへの賛美歌を歌わせる為の 道具に過ぎないんだよ!」
あはははは!とエリスの全てを否定した気になって ケタケタ笑うヘエを前に頭を掻く、そりゃ 彼の生い立ちには同情するよ、その啓蒙活動がどれほどの物だったか彼の口から聞かされる話だけじゃ判断は出来ないよ、結果として国家転覆の罪を着せられ処刑されて 両親を失ったことには 同情はする
彼らがこれほどまでの行動をする原因は、魔女にあるのかもしれないと、今のエリスなら結論付けることは出来る、けどさ
「魔女は間違ってる、君はそう思わないのか?」
「その結果がこれですか?」
焼けた家 崩れた家を見る、これが 貴方達の出した答えか?と聞けばヘエはニヤニヤと首を縦に振る、やはり アルカナとは相容れないな
「その結果が、多くの市民の家を奪い 住処を奪い この街を奪い、終いにゃ命まで奪おうって…、それは 卑怯って奴ですよ」
「卑怯?…」
「魔女は気にくわない、けど魔女は倒せない、だからそれに追従する人間を殺し 魔女と魔女の信奉者の過ちを示そうとする、それは 抵抗出来ない方を選んで攻撃してるってことですよね、…貴方達の否定の仕方は卑怯です!卑屈です!臆病者のやり方です、気に食わないから破壊し攻撃する、それに対する返答は変革ではなく応報による攻撃だと何故わからないんです!」
「…………」
「貴方達は世の不条理さを嘆き 変えようとするフリをしながら、ただ単に世界に復讐しているだけでしょう、その槍玉に魔女を掲げているだけでしょう!」
「つまり、僕達を否定すると?」
「はい、貴方達のやり方は間違っています」
「…やっぱり分かり合えないなぁ、今わかったよ」
よくいう、わかり合う気なんて最初からない癖に、それにね エリスはそれをヘットの時点で理解してるんですよ!、分かり合えないから 最初から戦ってるんでしょ?
「なら死んでくれよ!、君は邪魔だよ!『アラウンドグラビティ』!!」
「ゔっ!」
刹那、エリスの体が急激重くなる、まるで地面に縫いとめられたみたいだ 、体が重い、動けない…!
「埋もれて死ねよ!」
「ぐっ」
そうこうしている間にヘエが腕を振るえば、ヘエの周囲に浮かぶ岩がエリスに向かって落ちてきて、そんな様を見ていながらエリスは避けることさえ出来ない、ただ漠然と迫ってくる岩がエリスの体を跳ね飛ばす
「げふっ!?」
「ほらほら!、早く死んでくれって!」
上方向へ飛び上がったエリスを追撃するように空を華麗に舞うヘエの鋭い蹴りが、重力により何倍にも重くなった鉄の如き一撃がエリスの腹に突き刺さり、この体は容易に吹き飛…
ばない、少し飛んだあたりで 虚空の手に掴まれたように空中で静止すると、進路を変えて再びヘエに向かって落ちていく
「あははははははは!!!」
「ぐっ!?ぎっ!、ぅぐっ!」
まるでサンドバッグだ、殴られても 再びコフの元に引き寄せられる、引き寄せられれば一撃で昏倒させられるような鉄拳が待っている、まるでヘエと言う名の星の周りを飛ぶ衛星のように エリスは何度も殴られ 空中を振り回される
「くっ!、いつまでも好きにさせますか!『旋風圏跳』!」
だが所詮は重力、エリスはいつも重力に逆らって空を飛んでいるんだ、いつもと違う重力の方向性にやや混乱しつつも、体制を立て直し ヘエに向かって飛ぶ、今度はこっちの番だ
「おっと、『コズミックグラビティ』!」
するとヘエはエリスに向けて詠唱を唱え…、え?
「あれ?」
ヘエが魔術を放った、多分重力魔術だと思う、けれど何をされたか分からない、だが ぐるりぐるりとエリスの感覚が乱れて…
「ぐぅっ!?」
メチャクチャな感覚にエリスは大きく軌道をズラし、自分で地面へと突っ込んでしまう
何が起こった…、いや 多分あれだ、連続で 何度も重力のかかる方向を変えたんだ、上下右左前後、あらゆる方向にかかる重力へとメチャクチャに変えまくったせいでエリスの体が 『どこが前』なのかを見失った、だってエリスの体 いやおおよそ全ての人間の体は 『重力がかかる方が下である』と無意識に認識している
だから、メチャクチャに重力のかかる方向を変えられたら、自律神経が乱れまくって 何が何だか分からなくなってしまうんだ
「厄介な…」
「お?、今何をされたか理解したんだ、早いねぇ分析が、シンの言った通り 君は随分バトルセンスがあるようだ」
「ちっちゃい頃から戦いまくってますからね…」
厄介な魔術だ、近づこうとしても重力に阻まれて 上手く近寄れない、オマケにあのパワーと引き寄せる重力…、どう攻略するか
まぁ、まず一つわかったことがあるなら…
「場数で語るなよ!『アラウンドグラビティ』!」
「場数は力です!踏み越えた数だけ 経験した数だけ人は強くなれるのです!、そしてこれも…踏み越えていきます!」
極限集中、奴の手札は見た 戦闘スタイルも確認した、ここからですよ!エリスの戦いは!
とにかく重力に捕まらないように加速する、奴の重力は『対象を選んで発動するもの』ではなく『場所を選んで発動するもの』だ、つまり とにかく重力に捕まらないように動けばほらこの通り
エリスの通り過ぎた地点に不可視の追が落ちたかのように陥没していく
「うそっ!、もう見切ったの!?」
「エリスの戦闘スタイル聞いてないんですか!、エリスの戦闘スタイルは…」
潜り込む、風を纏い クルリとその場で態勢を反転させ、向ける 足をヘエの顎先に、そして地面に手をつき、バネのように体を縮め 縮め…、開放する
「七顛八起!、何度でも立ち上がり あなたを倒す!」
「ぐっっ!?」
顎先を蹴り上げ叫ぶ、例え100回倒されても 101回起き上がって倒す、例え何度押されても 何度だって押し返す、そうやってここまでやってきたんですよ!エリスは!
「この…『ギガトングラビティ インパクト』!!」
そのまま浮きがった体に重力を与えつつ足をあげるヘエは、振り下ろすかのようにエリス目掛けその足を叩き込んでくる、優男じみた細い足だが、大岩と天秤に乗せれば間違いなく下に傾かせるだけの重量を乗せた一撃 それを
「よっと!」
「っ!?」
クルリと風で受け流し回避する、彼の近接攻撃は凄まじい威力だが、その割に大振りだ
そりゃそうだ、重量を活かすためには大振りに振らなければならない、だが 大振りの攻撃とは何とも回避しやすいものなのだ
だからこそ、武は重量以外の要素も的確に取捨選択して最善を目指すのだ、重さだけで全てが決まるなら この世のファイターはみんなデブちんになる
あまりの重さに地面が耐えきれず陥没し、その足が地面に埋まってしまうヘエは 瞬間動きを止める
「チッ、しまった…」
重力の弱点はまだある、それは彼自身が自分の生み出す重力に抗えないこと、だからこんな風に足が地面に埋まったら 一度魔術を解除しないと抜くことが出来ない、そしてその時間は…
致命となる!
「炎を纏い 迸れ轟雷、我が令に応え燃え盛り眼前の敵を砕け蒼炎 払えよ紫電 、拳火一天!戦神降臨 殻破界征、その威とその意が在るが儘に、全てを叩き砕き 燃え盛る魂の真価を示せ『煌王火雷掌』!!」
「ぐっ…ごふぅっ!?」
咄嗟にガードを固めるそのガードを抜いて、エリスの拳がヘエに突き刺さる 、足が地面に刺さったヤツに一撃加えるなんて、こんなに容易いことはない
エリスの一撃を受けて足は地面から抜けて、ゴロゴロと後ろに転がっていく…
「くっそが!、凡ミスった…」
「案外大したことありませんね、あなたの魔術も」
「あんだとぉ…」
確かに威力と影響力は凄まじいが、手札を見せてくれたなら 攻略方も立てやすい、強いには強いが…レーシュのようにメチャクチャじゃない、いや?エリスが強くなってるのか?
まぁ、さっきの煌王火雷招食らっても平然と起き上がってくる時点で規格外なんだけども
「はぁ、もういいや、バトルごっこ飽きたもう終わらせよっと」
一撃貰ってキレたのか、ヘエはムクリと起き上がりダルそうに首をかくと…
「……『魔力覚醒』」
グンと彼の周りを取り巻く魔力が増加する、まるで今まで閉じてた蓋を一気に引き剥がしたかのように止め処なく溢れる魔力は瞬く間にこの空間を包み込み、魔術が発動していないのにエリスの体が重くなったように感じる
魔力覚醒…、アリエはみんな第二段階に至っていると聞いていたが、こうも躊躇いなく使ってくるか、温存して殴られに来るレーシュがおかしかったんだな…
みるみるうちにヘエの体に黒いモヤが立ち込め、その体が徐々に重くなる…、大地は凹み 陥没し、周囲の瓦礫が瞬く間にぺしゃんこに潰れていく…
「『シュバルツオスミウム』…!」
黒いモヤを纏ったヘエが一歩前に出る、ただそれだけで地面が割れメリメリと崩れていく、一体あの体にどれだけの重量が込められているのか エリスでは到底分からないが、少なくとも 今この世で一番重たいのは…彼だろう
「よっと…」
「あれ?」
するとふと、ヘエはふわりと綿毛のように浮かび上がる、あれだけ重かったのに 今は空気のように軽い、恐らく今の彼は自分の重量を自在に操れる そんな力を得たのだろう、けど…
「えっと、どこに行くんですか?」
フワフワと浮くように背を向けて何処かへ飛んでいくヘエを見て呆気を取られる、え?戦うんじゃないの?、せっかく魔力覚醒したんだし てっきりこれから猛攻が始まるかと思ってたんですが
不可解な彼の行動に首を傾げていると、彼は眠そうにふわぁとあくびをして振り向くと
「ん?、いや もう戦うの飽きたし、とっととこの街落とそうかと思って」
「なっ…!?、さ させませんよ!そんなこと!、エリスを倒してからにしなさいよ!」
「いや別に、君を倒すだけならこの街落とした方が手っ取り早し、この魔力覚醒状態ならば このエリア全体をを重量で押しつぶすこともできる、そのままエリアごと引っ張って 連結した他のエリアも…このマルミドワズ全部落とすこともできる、なら 相手する意味ないじゃん」
そりゃ…そうだけども!、いや 彼にとってさっきまでの戦いはお遊びだったのだろう
最初からこの街を地面に叩きつけられればそれでよかったんだ、ただその前にエリスを見かけたから これ幸いとボコりに来ただけ、それが無理っぽいから本来の目的に戻るだけ…
いや、で でも…!
「ま 待てよ!おい!」
「あん?」
ふと、崩れた瓦礫の中から一人の男が出てくる、あれは…エリスが倒した牛男のムッカ!、ここに来て新手か!と思いきや ムッカはズタボロの体を引きずりながら宙を漂うヘエを睨みつけ
「この街を落とす?、聞いてねぇぞそんな話!ここにはまだ他の奴らがいるんだぞ!、このままじゃ俺達も街ごと地面に落ちて…」
「ああ、言ったなかったけ、そっか…帝国滅ぼせたら 君たち用済みだし別に伝えてなかったんだっけ」
「は…はぁ?、まさかお前!俺達を騙して…」
「当たり前だろぉ?、まさかお前ら そんな雑魚なのにマジで帝国とやりあえると思ってたの?、ウケるんだけどぉ?、囮が精々の芸人集団にちゃんとした仕事を与えてやったんだ、適材適所ってやつ?」
絶句するムッカ、まさかヘエ…いや アルカナは最初から魔女排斥組織を集めて使い潰すつもりだったのか…、この街を落とすことを 誰にも伝えてないのか!?
「ふざけるんじゃねぇ!、テメェ!よくも俺たちを都合よく使いやがったなァッ!!」
するとムッカは近場の巨岩を持ち上げ怒りのままにヘエに向けて投げ飛ばす、…しかし
「そういう関係でしょ、僕たちさ」
迫るに向けてピンっと指を弾く、すると ただそれだけで投げ飛ばされた岩が圧壊する、内側に生まれた重力で粉々に自壊してしまったのだ、しかも壊れて砕けた岩は更に寄り集まり圧縮され、凝縮された砲弾のようになったそれが…
とてつもない速度でムッカ目掛けて落ちていく
「ぐぎゃぁっ!?」
この世で最も効率的な加速法は落下である、しかも通常の何百倍の加速を得た岩の砲弾は一瞬にしてムッカに届き 筋骨隆々の大男さえ吹き飛ばし、尚も地面にめり込み進んでいく
重力の質量が上がっている、 恐らく属性同一型の魔力覚醒だ、重力と一体化するってよくわからないが、あれは単純に魔術の属性が跳ね上がる厄介なタイプ…、っていうか!
「仲間じゃないんですか!?」
「え?仲間じゃないよ、駒だよ駒 、君チェスしないの?あるでしょ?、勝つ為に捨てる事を前提に動かす駒…捨て駒だよ」
「エリス、チェスしたことありません!」
「あっそ、じゃあ死んで」
どういう理屈!?と言うよりも前に、ヘエの手から重力波が飛んでくる、風とはまた違う圧力、体全体が引っ張られるような圧力!、お 押し潰される…!
見ればエリスの周辺の床もまたギリギリと潰れていくではないか…!
「ぐぅっ!」
「骨も肉残さず地面のシミになりなよ、せめて死に際だけは見ててあげるからさ」
「ぅぅぅうううううう!!!」
ダメだこれ!抜け出せない!、風で抜け出そうにもそれさえも潰される!、潰れる!死ぬ!これは死ぬ!
立っていた体は次第に折り畳まれ、膝をつき それでもなお地面に引き寄せられる、逃げられない恐怖と悲鳴をあげる体、巡る思考も答えを出せず、ただ闇雲に時が過ぎて着実に終わりに近づく
終わりだ そんなヘエの声が聞こえた瞬間のことだった
「ぅぅおおおおお!!ドラゴォォォン!!!」
「っ!?」
「は?」
天の彼方より飛来する一条の光は一瞬にして重力の檻を切り裂き突き抜け、中にいるエリスを救出し空を舞う
空を舞いし光芒は、まさしく龍 否…矢である、光を放つ矢の上に器用に立ち エリスの体を掴むは星煌の射手、その名も
「フィリップさん!」
「はい!僕ですよドラゴンです!」
第三十二師団の団長、星煌の射手 フィリップ・パピルサグがエリスの体を捕まえながら空を飛んでいる、エリスを相手にしたように 自らで放った矢の上に乗り天を駆ける
「来てくれたんですか…」
「遅くなってすみません、少々周辺の敵の撃滅に手を取られました、思った以上の混戦だったので」
「他の皆さんは…」
「大丈夫、もうこのエリアに来ています、他のエリアの制圧も終わっていますから 後は彼だけですね」
そう言って眺める先にいるのは漆黒の霧を纏う重力の景色 ヘエ、それはエリス達の話に聞き耳を立てていたのか、くつくつの首を掻いて笑うと
「あっそう、師団長みんなここにいるんだ!なら都合いいや!、ここを落とせば一網打尽じゃん!!」
メラメラと燃えるように魔力が拡大していくヘエが見る先は、地面だ…
「まずいです!フィリップさん!、あいつ マルミドワズを墜落させるつもりなんです!止めないとみんな死んでしまいます!」
「っ…」
「もう遅いさ!諸共落ちろ!『グラビティフォールン』!!」
最早準備は整っていた、そのつもりで攻めてきて そのつもりでヘエは出て来た、後は彼がトリガーを押すだけ そんな状態だったのだ、だからこ止めるとか 阻止するとか、そう言う段階の話では 既になかった
エリス達が何をするまでもなく、ヘエの魔力は重力へと変化し 周辺の物体の重量を極限まで重くしていく、石ころの一つから瓦礫、建造物どころか街ごと、全ての物体が重く重く 地面へとめり込んでいく
当然マルミドワズとて無敵ではない、最初に想定された積載量と重量をオーバーした場合!あえなく地面に落ちる…
普段ならこんな事心配する必要はない、マルミドワズは巨大だ 一つのエリアだけでもかなり大規模だ、動かす物の質量が大きくなればなるほど動かす際の魔力が増加する法則故に 個人の魔術一つ程度では小揺るぎもしない予定だった
しかし、今は違う 彼らは多大な犠牲を払いながらもそれを囮とし、その間に裏でこのエリアを支える反重力魔力機構を破壊していた、中途半端に支えられたこのエリア一つくらいなら、ヘエは落とせる
「あはははははは!落ちろ落ちろ!そして全員死ねぇっ!」
駄目押しとばかりにヘエが魔力を解放し 大地がペシャンコに潰れていく、その勢いのままマルミドワズは落ちて……
「………………」
「…………フィリップさん」
「何?」
「今マルミドワズって、落ちてるんですか?」
周りを見る、すごい轟音は鳴ってはいるが…落ちているかは分からない、ああ!落ちた!と言う感覚は箱の中にいるエリス達には分からないのか…はたまた
「いいや、落ちていないよ エリス、マルミドワズは落ちないさ」
「え?」
フィリップさんがニタリと含むように笑う、落ちない 落ちるわけがないさと…、それがどう言う意味か 問いかける前に答え合わせの方が先に来た
「何故だ!、何故落ち切らない!、もう反重力魔力機構は半分は破壊してあるはず、それなら…もう落ちてもおかしくない筈なのに!」
ヘエが狼狽える、話が違うと 自らの力だけでは落としきれない、本来なら ヘエの力で墜落させられるくらいには魔力機構は破壊され この駄目押しの一撃で落ちる予定だった
なのに、結果はこれ…、いくら重力を増加させても落ちる気配がない、反重力魔力機構の力に ヘエが押し負けている
「どういう…事だ!ぐっ!?」
その瞬間 ヘエの肩がフィリップさんの矢に射抜かれ大きく体が揺らぐ…
「どういうことも何も無いさ、君達の反重力魔力機構を狙ったマルミドワズ墜落作戦、これを見抜いて先に動いていた人間が二人いたのさ…」
「ふ 二人…?」
「ああ、まず一人はフリードリヒ団長、このエリアに点在する反重力魔力機構の防衛に向かったのさ、だから 君達が想定していた数破壊しきれなかった」
フリードリヒさんが?、なんで彼がこの作戦に気がついたかは分からないが あの第二師団を束ねる師団長が反重力魔力機構の防衛に回ったとフィリップさんは語る
本来なら師団長は全員他のエリアの魔女排斥連合を撃破しに向かっている予定だった、しかし フリードリヒさんという師団長だけがそれを見抜き防衛に回ったせいでアルカナの目論見は容易く崩れ去ったのだ
「だが…だがそれでも、僕だって見切り発車でここに来てない…、もう墜落させるに足るだけは破壊できている筈!なのに…こんなの」
「そして二人目は魔女レグルス様さ、彼女は自力で君達の目論見に気がつき…、このエリアの中心に存在する柱である、反重力魔力大機構に向かい そこに魔力を注ぎ込んでいる…、今君は魔女と力比べしているようなもんさ、そりゃ勝てないよ」
師匠か!、さすが師匠!、さっきも言ったが 動かす物体の質量が大きければ大きいほど 動かす際に消費する魔力が増えるという法則がある、だからマルミドワズはいくつもの魔力機構で分散してエリアを支えている…
がしかし、師匠はそんな魔力消費を上回る勢いでこのエリアの中心に魔力を注ぎ込み 一人でマルミドワズを支えているんだ…
デタラメな話だが 師匠なら出来る、孤独の魔女なら 半数の魔力機構を失ったマルミドワズを一人で支えるのも、ヘエの作る重力に抗うのも…出来る
「魔女が…魔女が!、くそ…くそがぁぁぁぁっっっ!!!!」
「残念だったねアルカナ!、君達の目論見は崩れ去った!もう観念するんだね!」
荒れ狂うヘエに矢を番えるフィリップさんは言う、ヘエ達のマルミドワズ崩壊作戦はフリードリヒさんとレグルス師匠の二人により頓挫した、最早彼らに出来ることはない 、起死回生の策は失敗したんだから もう観念しろよ…と
だが…
「ふざけんなよ…、ここまで来て諦められるか、諦めて…たまるかぁぁっっ!!!!」
しかしヘエは諦めない、あれでも第二段階に入った魔力覚醒者、全力で暴れればこのエリアを落とすと言わずとも破壊出来る、全身から魔力を溢れさせ周囲の瓦礫をやたらめったらに飛ばして周り 咆哮する
「おおっと!、マズイねアイツ、本気でイかれちゃったみたいだ、エリス 捕まってて?、離脱するよ」
「離してくださいフィリップさん!、マルミドワズ墜落という手が潰れただけで アイツは独力で街を破壊し尽くすことができます!、止めないと!」
「分かってるさ!でも…」
そんなエリスとフィリップさんの逡巡の隙を見たのか、ヘエは黒い重力を手足のように操り 大地をメリメリと引き剥がし、まるで岩の津波のようにこちらに向けて飛ばしてくる
「うぉっ!あぶなぁー!、でもこんなもんに当たるほど僕弱くないもんね!」
飛んでくる岩や瓦礫をくるりくるりと矢を動かし波に乗るように回避するフィリップさんだが、違う…これは
「フィリップさん!これ目くらましです!、奴の狙いは別にあります!」
「え!?」
そう、今更ヘエがこんな質量攻撃で攻めてくるわけがない、ここまで追い詰められた奴が取る手はいつも決まってる、大規模な攻撃で相手を撹乱し…その隙に
「あ!、居ない!」
岩の津波の隙間から向こう側を見れば、既にヘエが猛スピードでエリアの外へ向かっているのが見える、逃走?違うな…何か手があるぞ、多分だが まだヘエの中にはあるんだ、一発逆転の手が
恐らくそれは奴にとって最も使いたくない手、…考えられるのは 自爆か?、ともあれさせてはいけない、魔力覚醒者の自爆なんて どれだけの被害が出るか分からない!
「フィリップさん!失礼します!」
「え!?ちょっ!?」
フィリップさんの腕から無理矢理逃れ エリスは追う、ヘエが何を企んでいるかはわからないが、阻止しなくては、この世で一番恐ろしいのは 後のなくなった手負いの獣なのだから
「ヘエ!待ちなさい!」
風を纏い、フィリップさんを置き去りにしてエリスは向かう、居住エリアの偽りの夜空ではなく、ヘエが逃げた外の世界…本物の夜空に
…………………………………………………………
「はぁ…はぁ…はぁ!」
飛ぶ、重力を操り前へ落ちるように飛ぶ、肩に突き刺さった魔力矢による傷口を抑えながら、ヘエは飛ぶ
「くっっそ!、クソが!…」
外の世界を目指してとにかく飛ぶ、計画は失敗に終わった 盤石とも思われたマルミドワズ墜落作戦、これは見抜かれ失敗に終わった、もうヘエがどれだけ重力を高めても このマルミドワズを地面に叩きつけることはできない
失敗したんだ、僕はもう終わりだ 終わりなんだ…!、どうしていつも僕ばかり上手くいかない!、どうして僕の邪魔をする奴らばかり上手く行く!、世の中不公平だ 神に嫌われているとしか思えないくらい 不公平だ!
「魔女…魔女め」
ヘエは憎む、魔女を
ただその憎しみだけを糧に彼はここまで進んできた、エリスに語った過去…、親が国家転覆の罪を着せられて処刑されたという話がある
だが、別にヘエはその件に関しては特に気にしていなかった、それが憎しみの根源とは一言も言ってない、ただ周りにアピールした時 効率よく相手を黙らせる文句として使ってるだけ
だから別に、エリスに否定されても さしたるほど腹は立たなかった…
「…………くそ…」
思い返すのは無力だったあの頃…
事実彼の父は啓蒙を高めると言いながら、周囲の人間に魔女の悪性を有る事無い事吹き込んで、あわよくば魔女の治世を崩そうと企んでいたし、まるっきり冤罪ってわけじゃない
だから彼は父に対して哀れみを覚えず…、ただ 『下手なやり方だ』という一種の侮蔑を覚えていた
「くそ…、なんでこんな時に昔のことを思い出すかな…」
その想起は憎しみ故か、或いは矢傷による出血が見せる幻覚か、ともあれ彼は思い返していた、意思と反して記憶は頭から溢れてくる
彼が魔女排斥組織に入った理由は、父の仇を討つためでも 父の意思を継ぐ為でもない、この憎しみはヘエだけのものだったからだ
…ヘエが魔女を憎む理由は一つ 『劣等感と嫉妬心』だ
ヘエは、生まれた瞬間から自らが不幸であることを理解していた
両親は啓蒙に囚われ、毎日のように魔女に対する恨み言を呟き 家には魔女を否定する文献ばかり並んでたし、それを隠そうともせず周囲に言いふらしていた
彼等両親が住んでいたのが非魔女国家ならば 単なる変な奴程度で済んだかもしれないが、彼が済んでいたのは帝国…つまり、彼はかつてこの国に住んでいたのだ
帝国の片田舎とはいえ、世界一魔女信仰が強い国でそんなことをすれば、村八分になるのは目に見えていたし、実際そうだった
『あの家は魔女様の敵だ』『早く帝国兵に突き出してやろう』
『奇人の家だ、近づいてはいけない』『あそこの家の人間と口を聞くな、同類に見られる』
毎日家の外からそんな声が聞こえる日々を過ごした幼少期だ、友達なんか出来るわけないし 毎日孤独に過ごしてきた、そんな孤独さえ両親は勲章だと語った、魔女に洗脳された奴等の関わるなと、だから毎日外に出ないで 寝て過ごしていた…それしかすることがなかったから
夢の中は良かった、夢の中には誰もいなかった、両親も村の人間も魔女も 誰もいない花畑の中で思う存分遊べたから、僕の娯楽は睡眠しかなかったんだ
…僕はただ、普通に生きていたかった、魔女が間違ってるとこの世界の過ちとか、そんなのはどうでも良かった、ただ 窓の外で遊ぶ子供達のように遊んでいたかったと 涙を飲みながら床についていた
そんな日々を過ごした彼の中に生まれた悪意に名をつけるなら それは妬みと嫉みだ、自分の持ち得ない物を持つ者達全てが憎かった
平穏に生きる人間が 成功者が憎かった、平穏の象徴たる村の奴らが憎かった、成功の具現たる魔女が憎かった、そして 平穏を崩す奴らが憎かった 失敗する奴が憎かった…両親が憎かった
…だから、僕が密告した…両親を、…連れて行かれる両親の
『我らの死を喧伝し、魔女の過ちをお前が伝えるのだ!、頼んだぞ我が息子よ』
僕が裏切ったとも知らずに、呑気に語る父の言葉を決別として 僕は両親とは違う心とやり方で、魔女を…世界を否定することにしたんだ…
「その結果がこれか、結局 僕のやろうとしてることは同じか…、やはり僕は彼らの子だよ、畜生」
確かに僕が今やろうとしていることは、両親のしようとした 死をもってして魔女を糾弾する最後の手と同じなのだろう、だが 僕は両親とは違うんだ
別の誰かに後のことなんて託さない、そして 失敗もしない…
「はぁ…はぁ…はぁ」
本物の夜空の下に出る、マルミドワズの空間拡張により作られた偽りの世界から抜け出し、ぐるりと周りを見る
このマルミドワズという街は五つのエリアと帝国府、合計六つのブロックからなる浮遊都市で、お互いがお互いを支えるという意味合いもあってたかそれぞれを円形に配置しそれぞれを橋で連結させているんだ
そう、円形…僕は今、その円形の丁度ど真ん中にいる
「もう、この街を落とすことは叶わない…だけど」
成功者の足を引っ張り、呑気な平穏を壊すことは出来る、それが出来るのなら これまでの生と生まれてきた意味もあるというもの
「はぁー…、『クロノス・グラヴィタス』」
発動させるのはヘエにのみ許された唯一無二の重力魔術、魔力覚醒を行なっている時にのみ使える 所謂彼オリジナルの魔術にして 最強の魔術
作り出すのは重力場、自らに引き寄せる重力を作り 増やし 増加し強化し、只管重力を増やし自らに引き寄せる力を解放していく
…究極の重力とは、時として光さえ内側に留める、光も吸い込み 圧縮する黒穴へと自らを変貌させる 、それこそが彼の最大の奥義にして最後の奥の手
このブラックホールを広げ マルミドワズ全体を全て引き寄せる、そうすれば円形に配置されているエリア達はそれぞれ惹かれ合い、追突し甚大な被害を被ることになる、ともすれば墜落させる以上の成果が得られる可能性がある
だが…
「ぐっ…ぅぐぅっ!」
問題点があるとするなら、この重力は彼を中心に作られるということ、その重力により掛かる負荷は凄まじく 動くことは出来ない、だから マルミドワズが追突する時、その瞬間 その中心にいるのはヘエだ
この作戦がうまく行けば、僕は追突する街に潰されて死ぬのだ…故に命をかけた最後の一手だ、出来れば打ちたくなかった一手なんだ、だが…
死ぬのが怖い、そんな理由は躊躇する理由にはならない
「さぁ!来い!、僕の元へ!そして崩れろ!全て!魔女の!成功者の積み上げた全てよ!」
全霊で重力を引き出せば自らの周りに浮かぶマルミドワズが徐々に近づいてくるのが見える、マルミドワズは浮かび上がる力は強くとも、左右に動かされる力に対しては無力だ、引き寄せること自体はできる
このまま行けば、このままなら…!
僕は死ぬ…
「…………………」
まただ、明確に死を悟り再び想起するは過去の情景…
ヘエが両親と決別し、村の子供達が士官学校に入る頃、ヘエもまた魔女排斥組織と出会い その一員となったんだ、まぁその時入ったのはさ アルカナじゃなくて別の組織だったんだけど…
まぁこいつらときたらヘタレで、おまけに弱い…帝国領土内で活動してるのにせせこましく帝国から逃げ回って何がしたいんだかよく分からん連中だった
どいつもこいつも口だけか、両親と一緒…、口で魔女を否定するばかりで行動しない、でもこんなもんか 誰も魔女には抗えないってことだ、そんな風に諦めていたある日のことだ
僕の所属していた組織は、なんの前触れもなく崩壊した、偶々通りかかった帝国大隊に見つかり、ついでのように潰された
組織ったっても、狡いチンピラや喧嘩師気取りの雑魚しかいないんだ、真っ向から戦えるのなんて僕しかいなかった、孤軍奮闘じゃどうしようもない、足掻く暇もなく僕の所属していた組織は滅び僕もまた倒れる寸前に
彼らは現れた
当時はまだマレウス・マレフィカルムに所属せず 在野で組織として活動していた『大いなるアルカナ』だ、つっても 今ほど名が売れてる訳でもないし 何より構成員なんて酷いもんだ
なんせ、ボスを含めて三人しかいなかったんだから…、だが
『悪いね、彼等は我々を追って来た帝国兵なんだ、巻き込んでしまったね』
ボスとみられる女は手をはたきながら 自らの手で全滅させた帝国大隊を踏み越えながらこちらに現れる、僕でさえ手こずった帝国の兵士を こうも簡単に…
『何者だよ…、あんたら』
ボスも含めたった三人で帝国の大隊を全滅させるなんて普通じゃないし、もっといえばこの帝国兵たちはこの三人を追ってここまで来たというじゃないか、三人だけを捉えるために 帝国が大隊を寄越すなんてありえない
…普通じゃない、こいつら…、そう訝しむ顔でわずかに彼等に期待を寄せる、すると
『我々は大いなるアルカナ、魔女排斥組織だ まぁ、結成されたのはこの間で、構成員もここにいる二人しかいなんだけどさ』
『二人?』
背後にいたのは、黒い肌と金髪が特徴的な男 そして肌も髪も目も白い女、対照的な二人の子供…いや 子供と言えるか若干怪しい年齢の二人、だが分かる 彼等の強さは一級品だ
『こっちの黒い男がタヴ、そしてそっちの白い女の子がシン、二人とも私の愛すべき部下たちさ、さぁタヴ 挨拶を』
『革命』
僕の知らない挨拶だ…
『あはは、悪いね タヴはこれしか言えないんだ』
どういう状態のどんな人だよ…
『シン、挨拶を…』
『……………』
『こっちは口が聞けないのか?』
『まぁね、だが 君には好意的なようだ、…君もまこの世の不条理を嘆く人間、だろう?』
すると女は僕に向けて手を差し出してこういうのだ…
『私はマルクト、このアルカナを率いるボスさ…、どうだろう この地獄を生き残った君の力を私は些かながら評価している、我々と共に来ないかい?』
その後のやり取りはあまり覚えていないけれど、確か二つ返事だった気がする…、だってあんなクズ組織に未練なんか無いし、こいつらはクズ組織や両親と違って 少なくとも行動している、前に進んでいる なら、僕もこいつらと一緒に進もうとその手を取ったんだ
「あれが間違いだったのか、今となっちゃ分からんけれど…アイツらがいなきゃここまで来れなかったのは事実なんだ、だったらやってやろうじゃねぇか!世界最高の成功者の足元掻っ攫って!分からせてやる!、足元にいる人間の慚愧を!!」
引き寄せる 引き寄せる、ヘエの作り出す重力は徐々にマルミドワズを中心へと引き寄せ 加速していく、このままなら…!
そう、ヘエが一瞬気を抜いた瞬間
「っっーーーーーやめなさいっっ!!!」
「なっ…ぐぅっ!?」
突如 彼方より飛んできた雷光にも似た一撃により 蹴り飛ばされ重力を解除してしまう、追っ手か!?いや でもここは空中…それも雲にも近いほどの超高度、ここまで飛んで追ってこれる奴なんて…
いや、いるな…そして多分これは
「孤独の魔女の弟子か…!」
「エリスはエリスです!、孤独の魔女の弟子 エリス…そして、貴方を止める者です!」
風を纏い空を舞うエリスを見れば、先ほどと些かながら姿が変化しているのが分かる、パチパチと煌めく光を頭に漂わせながら コートに不思議な模様を浮かべている…、あれは 魔力覚醒か?
なるほど、レーシュを倒したんだ そりゃこいつも第二段階に入っててもおかしくは無いか、なんでさっきまで使わなかったのかは分からないが
それよりも ああ、憎々しいと歯噛みする…ここまで追って来て、邪魔をするか
「あの弓師はどうした」
「置いて来ました、貴方くらいエリス一人で十分なので」
「よく言う、僕にボコられた癖に」
「そのあとボコり返しましたよ、それに 戦いってのは最後に立って奴の勝ちなんです、過程でどれだけやられようともね」
そうやって 今までアルカナの幹部達も倒して来たのか…、正直に言おう 僕はこいつがそこまで出来る奴とはとても思えない
ヘットは周到な奴だ、頭もいいし人望もある、アルカナ幹部の中で随一の人手も持っている、なのにこいつに負けた
コフは強かな奴だ、恐らくだが隠した真の実力は僕以上、それにアイツはアルカナ最古参であり シンでさえ認める程の男、だがこいつに負けた
アインは底知れない奴だ、何を隠しているかも分からない、僕もアイツと目を合わせるのが嫌なくらい怖い男だ、なのにこいつに負けた
レーシュは恐ろしい奴だ、僕を遥かに上回る実力と内側に秘めた狂気、怪物という言葉奴の為にあるとさえ思う、なのに…こいつ負けた
ありえない、どう考えてもアイツらがエリスに負けたとは思えない、幼かったエリスに負け て消えていったとは思えない、それともみんなこんな風に思いながら負けていったのか?
…何より信じられないのは、シンがこいつを恐れている ということだ、その恐れは日毎に増している、今ではエリスを帝国以上に恐れている
奴は 我々の破滅だと…、だけど 僕には一つ分かることがある
シンがそれを恐れる理由は分からないが、シンがエリスを恐れるのは エリスがかつてのシンと被るからだろう、シンとエリスは似ている…その全てが、まるで鏡合わせのようだ
唯一違う点があるとするなら
シンは間違え
エリスはまだ間違えていない、その一点だけ…そして、その一点が 致命的な差となった
「孤独の魔女の弟子、恐れない 僕は君とは違うからね」
「はぁ?、何言ってんですか?」
何言ってんだろうな、僕は…まぁいい
「それより邪魔しないでくれ、これからマルミドワズをぶっ壊すんだ それを邪魔するなら、君をトマトのように地面に叩きつけることになる」
「構いません、エリスは落ちませんし マルミドワズを壊させません」
「そうかい、なら とっととぶっ殺して…仕事を終えるとしよう」
ゆらりと手を構え、目の前のエリスを殺すために力を使う、恵まれたお前だけは 負けられないんだよ
星空の戦場、遮る物は何も無い虚空の戦場…、ただ二人だけが立つ舞台の、最後の幕が
「ッッーー!!『アラウンドグラビティ』ッッ!!!」
「行きます!」
開かれ ぶつかり合う…!
……………………………………………………
フィリップさんを置いて全速力で進み ヘエが開けた穴を通り居住エリアの外に出る、今のままじゃ勝てませんからね、序でに条件を満たしていた魔力覚醒を行い 奴を追う
どうやらヘエの奴、重力で他のエリアを呼び寄せ エリア同士を激突させるつもりのようだ、そんなことすればその中心にいるヘエだっての命はないだろうに、何か離脱の手段でもあるんだろうか
まぁまぁ、そんなことはどうでもいい、必要なのは奴の思い通りにさせないこと、もしこのままエリア同士が激突すれば どんな被害が出るか分からない、だからエリスは全力で加速し 奴の黒穴に飛び込み ヘエを蹴り飛ばし阻止する
どうやら、あれを展開したままじゃ戦えないみたいだし 少なくともエリスがこうして戦っている間はマルミドワズが引き寄せられることはない
だが、裏を返せばエリスが負ければそれはマルミドワズの崩壊を意味する、ここは空の上 援軍は見込めない、フィリップさんは置いて来てしまったし 直ぐには来れないし
多分だが、フィリップさんが到着するよりも早く決着はつく…
「はぁぁぁぁああああ!!!!」
ヘエは空中へ浮かび上がり、まるで袖でも振るうかのように重力をやたらめったらに変動させエリスを巻き込み吹き飛ばそうとする
「くぅっ!、なんの!」
それを回避しながら飛び回り考える、この空の上という特殊な戦場の事を
ヘエのメインウェポンは重力によって操る瓦礫や岩だ、ある意味ではヘエの磁力魔術に似ているからこそ分かる、近くに物がないとあの手の魔術は攻撃法が激減する、つまこの空の上という戦場は奴にとって戦いづらいステージになる
そして反面、もし奴の重力にエリスが一度でも捕まれば 瞬く間に大地に叩きつけられる、この高さ落ちれば流石に死ぬ、つまりエリスにとってもここは望ましい戦場ではない
「落ちろ!落ちろ落ちろ落ちろ!!!」
「おぉっと!」
それを奴も分かってるから、とにかくエリスを重力で捕まえようと全力を出してくる、…はっきり言おう 攻め手に欠ける
ヘエの重力は範囲が馬鹿みたいに広い、近づけない上に連打もしてくる…、魔術を使う暇がない、何か 奴の動き…そこに穴を開ける必要があるのだが…
「っっだぁぁらぁっっ!!!」
刹那轟く野蛮な怒号に思考を区切り、視線をヘエへ移す しまったと何処か予感しながら見れば、凄まじい重力を纏ったヘエがこちらに突っ込んできていて…
「ぐぶっ!?」
瞬く間に蹴り飛ばされる、この宙ぶらりんの状況でこそ彼の重量スタイルは火を噴くのだ、鉄塊のように重たい彼の爪先と全体重がエリスの胸を居抜き この体はクルクルと錐揉み吹き飛ばされ…
「っ…『旋風圏跳』!」
即座に風を展開してその場から離れる、危なかった そのまま地面に叩きつけられるところだった…、油断した 考えている暇はなかったな…!
「こっちに来いよ!エリス!殺してやるからさ!」
「む…おお…!?」
するとヘエは再びさっきのように周囲の全てを引き寄せる黒穴と化しエリスをぐんぐん引き寄せていく、抵抗しようにも 浮かび上がるマルミドワズさえ引き寄せるその引力には逆らえない、どうやら奴にとっての最強の重力があれらしい
全てを引き寄せ自分に落とす魔術、まるで星だな…!
ですが…
「望むところです!!」
敢えて勝負に出る、奴がエリスを引き寄せて何をするかは分からない、だが ここで勝負に出るしかないんだ!
「はぁぁぁぁ!!!」
「くひひひ…吹き飛ばしてやる」
笑うヘエ、だが 引き寄せられている今だけは奴も隙だらけだ、すぐに動けないのはさっき見ましたからね、…だから一撃だけ 奴に叩き込む隙がある
なら、打ち込む一撃は何がいいか、即座に放てて かつ 威力があるもの…、エリスの持つ魔術の中でも屈指の威力を持つのは火雷招…いや、その火雷招の中でも更に威力の大きい物…となると、一つしかないな
「すぅ…業火を纏い 打ち崩せ震霆」
エリスの使う火雷招には 合計八つのパターンが存在する、元々一つの雷魔術であったそれをシリウスは八つに分解しそれぞれがそれぞれの方向に特化させた、これらはその状況によって自在に使い分ける事が出来る代物であり、その中でも一際威力が高いのが エリスがよく使う火雷招…
そもそも火雷招はこの八つの雷招系魔術の基礎になる魔術だ、威力も折り紙つきなのはエリスもよく知っているし、何より使い勝手が良い…、そう 火雷招は使い勝手に特化した魔術なのだ
なら、使い勝手…つまり、消費魔力や使用者の負担など 諸々を考慮しなければ、この魔術は更に高い威力を発揮する
「我が身が昇るは天の頂き 眼下の敵を押し潰せ真火 荒れ狂え神雷、星火燎原 天地雷鳴 雷火一対、その威とその意が在る儘に」
黒雷招や鳴雷招などを凌駕する、威力特化の土雷招さえも下に敷く 最強の炎 最大の雷
「全てを圧倒し この世に最強の証明を!」
エリスが所有する魔術の中で 単体でなら五本の指に入る大魔術、それを 今ヘエに向けて…
「『大雷招』!!」
放つ…!!!
対するヘエはほくそ笑んでいた、エリスを引き寄せて 彼もまた、最大の奥義を放とうとしていたからだ、最強の技が黒穴を作り出す『クロノスグラヴィタス』だとするなら
これより放つのは まさしく必殺の一撃、如何なる存在さえ殺してきた、黒の鉄槌
「死ね…!魔女の弟子!『グラウンド・ゼロ』…!」
魔力覚醒を行なったヘエが扱う最大の重力魔術、それは他の魔術のように重力による力場を発生させるものではなく、この星の重力そのものを局所的に最大化する 謂わば星の鉄槌
これを受けた者は、大地にめり込みなおも止まらず 大穴を作り骨も残さず磨り潰される、なんせこの世の全てを大地に繫ぎ止める大いなる力をそのまま用いるのだ、その出力は魔術の域を抜きん出ている
唯一弱点があるなら効果範囲が狭すぎる事だろう、だからマルミドワズ墜落には使えないし こんな風にエリスを引き寄せないと当てることもできない
だが 逆に言えばマルミドワズ墜落ではなくエリスを殺すために用いるなら問題はないし、こうやって引き寄せれば当てられるということ
ヘエの手の中で星の重力は渦巻き集約し、叩きつけるように 世界の鉄槌を振り下ろしたのは 奇しくもエリスが大雷招を放った瞬間と ほぼ同時であった
「っっ…!」
交錯する雷と重力、それは互いにぶつかる事なくスルリとすり抜け互いに互いの敵の元へ向かっていく、攻撃が同時に行われた
エリスの大雷招はヘエに、ヘエのグラウンド・ゼロはエリスに 恐らくヘエが放ったのは必殺の一撃だろう、当たれば死ぬ そんな一撃だろう、だってエリスがこの場で放ったのも必殺の一撃だから
なので、ここからはどう相手の必殺の一撃を凌ぐか、そこに焦点が当たるわけだが…ここで一つ問題がある
エリスが今しがた放った大雷招、これは大まかには火雷招と同じ炎の雷を放つ魔術、だがその威力は単純計算なら十倍近い、ただでさえ強力な火雷招の十倍だ、フィニッシャーとしては充分すぎる威力
されど、弱点がある、先ほども言いましたが火雷招は使いやすさに特化している、それは威力が術者に影響が出ない範囲で留められているということ
つまり、大雷招にはそれがない、術者に影響が出る…というか、反動で動けないのだ 5秒ほど…
そう 動けない、ヘエの必殺の一撃を前にしてエリスは…
「ぐっ…ごぶっ…!」
刹那、ヘエの魔術がエリスに届いた瞬間、この身にかかる重力が何倍にも 何百倍にもなる、空中にいるのに自分の重さで弾け飛びそうになり 到底風では抑えきれない重量になった体は一直線に大地へと進んでいく
対するヘエもまた、エリスの雷を前に何も出来ずにいた、というか だ…そもそも、雷とは光速、魔術の発動を予見し咄嗟に避けるならまだしも、エリスの魔術発動と同タイミングで魔術を放った彼に、このあと対応するだけの時間は残されていなかった
(マジかよ…)
エリスの放った大雷招は、見たこともないほど巨大であった…、千年を生きた大木も エリスの放った雷の前では小枝に見える、それ程巨大な雷の到来を前に ヘエは悟る
やはり…、エリスはシンの写し鏡だ、だってこの雷…シンが扱う雷と、同じ色…────
その一瞬の思考の後、ヘエの体は極大の雷の奔流に飲まれていくのであった
…………………………………………
「ぐぅぅーーーっっっ!?」
ヘエが雷に飲まれ マルミドワズ中央に巨大な爆裂が出現するのと同時刻、エリスは星の見えざる手に掴まれ 大地に引き寄せられていた
凄い重力だ、自分の重さで自壊な程だ 抜け出すなんて以ての外、それにエリスは今 大雷招のデメリットで体が動かない、万事休すだ
このまま行けばエリスは確実に地面に落ちて死ぬだろう、これを破るには外部からの助けがいる…、しかし 今この場には誰もいない、フィリップさんも置いてきてしまったし、何より この速度にはフィリップさんも追いつけない…
まぁ、分かってたんですけどね こうなることは、だってヘエの技のレパートリーは大体見た、彼がエリスの見たことのない技を最後に使ったとしても それが地面への叩きつけであることは容易に読めた
読めた上で勝負に出た、結果がこれだ…、このまま死ねば間抜けもいいところだ
けど、予め読んでいた出来事に対して エリスが解答を用意していないわけがないでしょう
ありますよ、抜け出す一発逆転の術がね!
「すぅ…ぅーーーーー!!!」
思い切り息を吸い込む、最初はやるつもりはなかったけど、今となっては有難い申し出だったよ!、ああ 本当に!
故に叫ぶ!約束の言葉を
「ッ助けてメグさぁーーーーん!!!!」
その言葉が天まで轟いた瞬間、世界に異変が起こる…エリスの下 、もはや眼下に迫った冷たい大地がぐにゃりと開き 穴が生まれる、時空を歪め 空間を捻じ曲げ!世の法則を超超したした力…
時界門だ…!、メグさんが約束を守ってくれた証拠だろう!、そして
「っっ!!来た!」
くるりと反転し重力に身を任せながら穴に飛び込む…、そうだ まだ戦いは終わっていない、この重力はヘエが操っているもの、なら エリスが未だ重力に問われているということは、ヘエがまだ健在ということ!
なら、きっとメグさんはそれを把握しているはず!何処かでこれを見ているはず!、なら ならば!、この穴の通じている先はきっと!
「んなっ!?お前は…!?」
地面を通り過ぎた先に見えるのは、穴を潜った先に見えるのは、エリスを見上げるズタボロのヘエの驚愕の顔
時界門が通じている先は、ヘエの真上だ…!
「ヘエ!、貴方の野望は阻止します!、エリスはこの魔女世界を守ります!友の生きる国を!世界を!」
「っ…!」
魔力覚醒によって生まれる魔力を盾にして なんとか先程の一撃を凌いだヘエに向かって落ちる、穴を潜っても 重力はそのまま、エリスの体は数百倍のまま…、だが 相手が下にいるならば、それはまた 武器となる
まだ、体は痺れていて 上手く魔力を扱えないから、魔術は使えない
でも…十分だ!
「その魔術は…あのメイドの!、どこまで僕の邪魔をすれば気が済むんだ…アイツはぁっっっ!」
落ちてくるエリスに向かって、いや あの穴を作ったメイドに向かってヘエは吠える、しかし それまでだ、エリスの大雷招を受け 命辛々耐え抜いた彼に、最早何かをする余力な残っていなかった
「しますとも、貴方がこの平穏を崩そうとする限り、どれだけだって 邪魔してやります!」
足を突き出し 飛び蹴りの姿勢で落下する、何も出来ないヘエ 何も出来ないエリス、両者の違いは ヘエが下にいて エリスが上にいること
ただそれだけ、だが 今この場ではそれが絶対となった
「それが魔女の弟子たるエリスの役目なのですッッ!!」
この世に究極の加速法があるなら それは落下であるという話はしただろう
ならば、百倍もの重力を受け超高速で落下し続けたエリスの体は今 エリス自身にさえ作り出せないほどの速度を得ている事になる
破壊力とは即ち重さであるという話はしただろう
ならば、この重力を片足に乗せたこの蹴りは今、エリスが再現出来ない程の威力を得ているだろう
その全てを一撃に変えて…今、ヘエを
「くそ…くそ…クソがぁぁっっ!!!!!」
その一撃は、星の鉄槌か 或いは天の裁きか、重力を背に乗せたエリスの一撃がが、マルミドワズに滅びを齎す存在を、今 ……射抜き去った
レーシュのバカ、こいつちゃんと始末しとけよ…、そんな恨み言は露と消えた
……………………………………………………
「ッッーー!ごぼはぁっ!?」
ヘエに落下飛び蹴りをぶつけた次の瞬間 エリスが見たのは 『蒼』だった、青もよりもなお青く、どこまで広がる深淵の蒼がエリスの口に入り込み空気を奪う、簡単に言おう 今エリスは水の中にいる
「ゴボゴボ…ぷはぁっ!?なにこれぇっ!?」
慌てて水をかき回し水の外に出ると…、あれ?ここどこ?エリス今空の上にいたよね…、なのにこうして目に広がるのは水平線だ、いや これ湖か?
混乱しながら上を見ると、そこには空にポッカリと穴が開いている、あれは…時界門?
「ご無事ですか?エリス様」
「うわっ!?メグさん!?」
ふと後ろを見ると、例の空中に浮くボードの上に立つメグさんがいて…あれ?
「あの、ここは…」
「ここは居住エリアの貯水池兼 観覧用の湖でございます、エリス様があのままヘエと共に地面に突っ込みそうな勢いでしたので、こちらに転移させ衝撃を和らげました」
「あ…なるほど」
確かにあのままヘエを抱えたまま、地面に落ちていればどの道エリスはヘエと共に死んでた、その辺は考えてなかったな…、助かった
「あ、ヘエは?」
「多分そこに浮いているのがそれかと、生きてはいますが 魔力覚醒が途切れている辺り、意識はないでしょう、引き上げた後拘束します」
プカプカと顔を上にしながら浮いているヘエの目は白く染まっており、辛うじて息はしているが、意識があるようには見えない、どうやらエリスは勝てたようだ…、はぁーよかったぁ
「あぁー、ほんと 死ぬかと思いましたよぉ、にしてもよくエリスの声に反応してくれましたね」
正直、あそこでメグさんの名を呼んだのは ほぼダメ元だった、頼りにはしてたけどまさか…そんな感情だ、だってメグさんとエリスはお互い何処にいるかも分からない状態だったし
「ふふ、実はあの後フィリップ様に状況を聞きまして、急いでエリス様の元へ向かっている最中だったのです、そこにエリス様の声が聞こえて…、貴方が今何を望んでいるか それを慮り、合流よりもそちらを優先しました」
「なるほど、いやぁ 信じて良かったです」
「はい、私も…エリス様に信じられていると実感出来てとても良かったです、さぁエリス様 私の手を、このままでは風邪を引いてしまいますわ」
「ああ、はい…ありがとうございます、メグさん」
差し伸べられる手を掴み エリスはメグさんに引き上げられる…、まだ街にはアルカナ達が残ってはいるが、相手の主要な作戦は潰した、これにて一件落着…だろうな
そう思えば脱力して来て…あぁー、エリス もう一歩も動けませぇん…
…………………………………………………………
「む、重力が止んだか…」
仄暗い闇の中 顔を上げて外の状況を悟る、降りかかっていた重力が止んだということは、師団長の誰かか 或いはエリスが重力使いを倒したのだろう、いや 先んじて行動しておいて良かった
そう、レグルスは一人息を吐く
ここは、マルミドワズ五つのエリアの内の一つ 居住エリア、その地下に存在する立ち入り禁止区画である
草木が生い茂り 太陽の光が差し込む箱庭の楽園、それを下から支え その楽園性を保証する為用意されたこの地下空間は、金属製のパイプが其処彼処に走る無機質極まる場所であり
あの楽園がこの無機質な場所によって支えられている事も、あの楽園の地下にこんなおどろおどろしい空間が広がっている事も、半ば信じられない
「…もうこいつに魔力を送る必要もないか」
そんな無機質な空間の中央にレグルスはいる、そっと手を当て撫でるのは超巨大な紫水晶、こいつがエリアを宙へと浮かせる反重力魔力機構…その親玉らしい
魔力によって物を動かすその質量が大きければ大きいほど必要とする魔力が多くなるという法則がある故に、魔力機構を用いて物の移動や ましてや物体を浮かせるなど不可能に近いと言われて来たそれを 可能にしたのがこいつ…、いやカノープスだ
それぞれのエリアの地下に複数の魔力機構を設置して、それぞれがそれぞれの区画を担当分けして支えることにより質量増加の法則から逃れ上手くこの都市は宙に浮いている
そんな多数の魔力機構を統括して動かしているのが、エリアの中央に存在する大魔力機構 即ちこいつだ、こいつが上手く稼働し続ける限りこのマルミドワズは落ちることはない
…が、どうやらアルカナの目論見はこの魔力機構を潰し、この都市を落とすことにあるらしいと悟った私は、最悪の事態を防ぐ為 この大魔力機構に少しばかり魔力を恵むことにした
最悪他の小魔力機構が潰されても、私が魔力を送る大魔力機構だけ残っていれば最低限の飛行が可能なようにするためにな、私がここにいれば防衛にもなるし…、どうやらその思考は成功だったらしい
「ふっ、私が裏方に回って問題なく問題を解決できるようになったか、エリス…お前はもう一人前だよ」
さて、もうこの都市を落とす為の計画は失敗に終わったようだし、とっとと地上に戻るとしよう、こんな陰気臭い空間 アンタレスでもなければ進んで留まりたいとは思わんだろうしな
「…む?」
そう地上に戻ろうした瞬間、足を止める…闇の向こうに何やら気配を感じたからだ、まさかまだ性懲りも無くこれを破壊に来た奴がいるのか?
というのも、レグルスが大魔力機構に魔力を注入している間も、何人かこれを破壊にやって来た奴らがいたのだ、まぁ全員片手間にぶちのめしたが…、ううむ、まだ破壊を諦めていないのなら ここから離れない方が良いか?
そう考えているうちに、来訪者達は闇からその姿を現わす
「ん?、誰だお前ら…たった二人で来たのか?」
現れたのは二人だ、金髪黒肌の男と 白髪白肌の女…対照的な二人が、コツコツと靴を鳴らして現れる
「っ…!魔女だと!?、何故ここに…」
「ほう、…これはまた 革命的だ」
「…名を名乗れ」
私が見るに、この二人…私が片手間に倒して来た雑魚達とは違う、強さも格も…どうやら大物が現れたようだ
私が二人に名を問うと、女の方は警戒し 男の方は愉快そうに笑うと…
「くくく、…魔女の申し出とあっては断れないな、…私はタヴ、大いなるアルカナ No.21…宇宙のタヴだ、そして、こっちがシン…審判のシンだ」
「ちょっ!!タヴ様!」
「アルカナ?No.…それって確か」
エリスがよく言っていたな、アルカナの幹部がどうたらとかNo.が多ければ強いとか、ああ つまり…
「お前ら アルカナの幹部か」
敵ということだ、まぁそりゃそうだろう、二人揃ってばちばちと敵意を向けて来ているんだから、そんなこいつらがここを訪れた用件なんか 直ぐに見当がつく
「お前ら、この魔力機構を破壊に来たのか?」
「最初はそのつもりだったが、…そうだな 魔女がここにいるのなら、折角だ ここで魔女を殺し…革命を起こすとするか」
タヴがその両手を広げれば、シンもまた追従して構えを取る…、どうやら私の仕事はまだ終わらなさそうだ
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