上 下
217 / 345
七章 閃光の魔女プロキオン

200.孤独の魔女と終幕の戦い

しおりを挟む

美しき国エトワールにおいて五年に一度だけ開かれるエイト・ソーサラーズ候補選、これはコンテストにあってコンテストにあらず、次代のこの国の顔を決める重要な祭典にして街人にとっては大騒ぎ出来る口実でもある

この芸術美術の国のお祭りだ、他の国と違って下品に騒ぎ立てるわけじゃない、この雪降る街を様々な飾りで彩り 美しい国の美しい街をさらに美しく飾り立てるのだ

街のあちこちに飾りがなされ、街路樹ちは星や宝石を模した飾りが引っ掛けられ 徐々に街が綺麗に流麗に輝き始めるのだ

全てはエイト・ソーサラーズ最終審査…別名『聖夜祭』に備える、次期エイト・ソーサラーズと次代のエリス姫が決定する その真夜中を最も美しく迎える為、街や王国は尽くせる努力は全て尽くす

「その飾りは向こうへ!、ああ そこの着色は赤で頼むよ、ちょっと待ってくれ そこには別のものを置く予定なんだ、そこに飾りはしないでくれ被ってしまう」

そして今日がその聖夜祭当日、1ヶ月前から始められた飾りつけはラストスパートに入り、王族である姫騎士ヘレナ・ブオナローティが設計図片手に街中で陣頭指揮を執る

「今日が聖夜祭だ、悔いのないように全力で飾りをつけるんだ、全ては今日 この日まで勝ち残った十五人の女優と次の5年間に祝福を与えるために!」

今日 エイト・ソーサラーズ候補選の最終審査が行われる、街の中央広場に作られた特別野外劇場で十五人の女優率いる十五の劇団がそれぞれ公演を一日かけて行い 、今日 次代のエイト・ソーサラーズとエリス姫を決定するんだ

その大切な日に、ヘレナ姫の顔はあまり明るくない…、それもそのはず

今日、この祝いの日 聖夜祭に二つの魔の手が伸びているからだ、一つは大いなるアルカナという魔女排斥派機関の幹部…、あのエリスでさえ叩きのめしてしまうほどの強者がヘレナのの命を狙っているんだ

そしてもう一つは と懐の中からカードを取り出し…中を見る

(…やはり届いてしまった、エリスの言う通りの内容のものが)

カード…怪盗ルナアールの予告状だ、だが その内容は今までヘレナが目にし耳にしてきたものとは一線を画する程に物々しかった

その内容は『今宵 次期エイト・ソーサラーズの中から選ばれるエリス姫役の人間の命を頂く』と、なんともまぁ 前回の反省を活かしてか、なりふり構わず丁寧に事細かに指定してきたのだ

しかし、おかしい…エリス姫の命を と、ルナアールは人を殺さない筈じゃなかったのか、それとももうそれも守る気はないのか、今回のルナアールはどこかおかしい…、まるでルナアールが必死に守っていたものが崩れてしまったかのような…

今宵起こる出来事を、ヘレナは未だ予測出来ずにいる、だがヘレナとエリス姫の命を狙う悪の手がどれほどの脅威となろうとも、それに屈してはいけないのだ

この国は大国 エトワール、高々他所から来たテロリストとコソ泥が蠢動しているからと、臆してせせこましく逃げ回ってはいけないのだ

そうだ、私はヘレナ!姫騎士ヘレナ・ブオナローティ…!、私にはこの国の尊厳と国民の矜持を守る義務と使命があるんだ

(例え何があろうとも負けてたまるか)

カードを懐に仕舞い込む、…さて 何は無くとも準備だ、敵に臆してそもそもの聖夜祭が不完全では意味がない

「すまない、塗料が足りなくなりそうだ!、誰ぞ行って買い足してきてくれないか!」

「精が出ますね、ヘレナ姫」

「ん?、貴方は…エフェリーネ様 ティアレナ様も」

ふと、陣頭指揮を執る最中に声をかけられ振り向けば、夜のような紫のスリットドレスを着込むミハイル劇団団長の美魔女エフェリーネと、そのエフェリーネと肩を並べる大女優 同じくミハイル劇団所属のティアレナが揃って広場に現れる

「いえ、お二人のような輝きを持つスターという名の絵の具に負けないキャンバスを用意する為なら、皆努力を惜しまぬだけです、もちろん 私も」

「それは嬉しい限りですわ、皆様の努力尽力に応えるよう このエフェリーネも力の限り観客を魅了しましょう」

「アハハハハ!、にしても今年もエフェ婆と私に対抗馬はナシかー!、もう私 天下取っちゃった感じかなぁ?」

「天下を取ったと思うなら 私に挑めば良いものを」

「へへへほっといても引退する婆の相手なんかするかっての」

「ほう…ティアレナ いい台詞を回すようなったではありませんか」

「ちょっ!ちょっと、お二人とも喧嘩は…」

危うく一触即発の雰囲気の二人に割って入る、いやいや勘弁してほしい喧嘩なんて

「別に喧嘩ではありませんわ、では 私達はこれで…、行きますよティアレナ 審査の公演 その順番は順位が上の者から、つまり私が一番その次が貴方です、早く準備しますよ」

「うーい」

「ほっ…」

息を吐く、伝説と呼び声高き二人を前にすれば如何に王族とは言え緊張する、ましてやその二人がバチバチ視線をぶつけ合ってたらなおのことだ

だが、同時に楽しみでもある エフェリーネはその輝きを褪せさせる事なく在り続けている、ティアレナは今年も腕を上げてきた、役者は十分 なら舞台の用意にも力が入るというもの

「よしよし、後は…」

「あ!ヘレナさーん!」

「ヘレナ様!」

「む、今度は…」

続々と集まってくる最終審査候補者達、その中には当然 いる…、この私自ら挑戦権を与え物の見事にチャンスを掴み始めている少年と それを守る彼女、その劇団も

「サトゥルナリア エリス、よく来てくれた」

「そりゃ来ますよ、大切な日ですからね」

「この日の為に僕達物凄い特訓してきたんだから!」

「それは楽しみだ」

エリスとサトゥルナリア そしてクリストキントの面々だ、この間まで旅劇団になんか身をやつしていた理由がさっぱりなくらい実力のある彼らが、なんとも頼もしい顔つきで集っているのだ 

聞いた話ではマリアニールが彼らに託したらしい、ヴァルゴの踊り子を…、脚本も何も公表せず 公演する事すら禁じていた彼女が何故、今になってクリストキントにヴァルゴの踊り子を託したのかは分からない

分からないが、ヘレナは心踊っている、もし 彼らが十全に仕事をすれば、今宵の聖夜祭は記念すべきものとなるだろう

「もう候補者達は待機室で待っている、候補者であるサトゥルナリアはそちらへ 他の面々は別の劇団待機場があるから そこへ」

「分かりました、ありがとうございます」

「じゃあ俺達とは一旦お別れだな、ちゃんと気持ち作っとけよーナリア」

「はい!、任せてください!団長!、僕…なりますから!エリス姫に!」

サトゥルナリアの夢はエリス姫になることか、最初は難しいとさえ思っていたが、こうしてこの場にしてみると 不可能じゃない気さえしてくるんだから、彼は凄い…ただ、それがよりにもよってこの年 こんな時であるとは、ある意味不幸とも言えるか…

クリストキントとサトゥルナリアは別れてそれぞれの待機場所まで進んでいく、最終審査 聖夜祭は夕方頃スタートだ、準備ももうすぐ終わる …そうなれば後はやり抜くしかない

「………………」

皆がそれぞれ別れて待機場所に移動する中、立ち止まり 残る者がいる…、エリスだ

今日この日に備えて魔女様と特訓をしてきたという彼女の顔つきは、いつにも増して頼もしく見える

「ヘレナさん、例のカードは」

何故彼女が残ったか、それは単純…この聖夜祭の裏で蠢く影と対峙するのが彼女の役目だから、この聖夜祭を祝ってばかりもいられないのだ

「予告だろ、届いているよ」

「内容は…」

「君が私に言った通りだった…、ルナアールは次期エリス姫の命を狙ってる」

やはりか と彼女は苦虫を噛み潰す、彼女はどうやってかルナアールの次の予告を言い当てたのだ、出来れば外れてほしい予測ではあるが と言ってはいたが、残念ながら的中してしまったようだ

しかし、本当に彼女は凄い…、我々ではその尻尾にさえ手が届かなかった不可侵の怪盗を相手に、彼女は互角とも言えるほどに渡り合っている、各国の王達が軒並み関係を持つのも分かるほどの人物だ

彼女は間違いなく歴史に名を残す、そんな大人物と私とでは もはや釣り合いさえ取りない気がしてくる…、大国の姫である私でさえ

「予告の件は候補者達には伝えてありますか?」

「…これから候補者達だけに伝えるつもりだ、けど 正直迷っている…、彼女達には十全の演技をしてほしい、だから余分な情報は出来る限り与えたくないが、命に関わることだしな…」

「エリスもナリアさんには伝えられていません、彼が夢を叶えた結果 死んでしまっては意味がないというのに、…この件がナリアさんの夢を阻む理由にはなって欲しくないんです」

それは私も同じだ、サトゥルナリアと言わず全員の夢を応援したい、だが ルナアールはそんな夢さえ奪おうとする、度し難く 許し難い

「エリス、今回は何かないのか?策は…」

「……すみません、そちらに割ける気がなく、何も思いつきませんでした」

仕方ないか、エリスには集中することがある…、大いなるアルカナの撃退はほぼ彼女に一任している、となれば ルナアールはこちらでなんとかするべきか、一応マリアニールも配置しているが…本気で挑んでくる魔女様相手に我々はどこまで抵抗出来るか…

「ともあれ、ルナアールもレーシュ達も、現れるのはきっと夜です…それまで気を抜かず、出来ることをやりましょう ヘレナさん」

「そのつもりだ、それまでエリス 君はどうするんだ?、今回劇には参加しないのだろう?、となると裏方には近寄れないが…」

「観客席からナリアさん達の劇を見ています、もしかしたらまた前回みたいに観客席から奴らが襲撃してくるかもしれませんから」

「そうだね、分かった…では、頼むよ エリス」

「任せてください、…守りますからエリスの友達の夢も命も」

「頼むよ…」

立ち去るエリスの背を見てなんとなく思う、出来れその友達の命というのが 私であったらいいなと、…なんてな 嘘つきの私には過ぎたる願いだ

さ!やる事は多い、準備を進めていこうか!

………………………………………………………………

師匠と魔力覚醒についての修行を進めて 1ヶ月の時が経った

毎日吹雪の中に突っ立ち、吹雪が吹かないときは池の中に飛び込んで、死にかけながら何度も魔力覚醒のトリガー毎日引く という生活を繰り返していたのだ、もう一周回って死ぬのあんまり怖くなくなってきたほどだ

そして、師匠から魔力覚醒についての授業も受けその理解も深めることができた

魔力覚醒には五つの分類に分けられるらしい

一つが『属性同一化型』
世界に存在する元素や事象と身体を同一化する魔力覚醒だ、これを使用すると体から火が出たり 水になったり風を纏ったり石になったりするとの事、使用中はその属性しか使えなくなる代わりにその属性の攻撃能力が大幅に上昇する、同一する事象の種類によっては無敵に近い存在にもなれるらしい

エリスが出会ってきた魔力覚醒者は殆どこれに該当する、グロリアーナさんもコフもレーシュでさえ

師匠曰くレーシュのそれはかなり厄介な属性同一化らしいが、逆に言えばその属性の弱点はそのまま残るため付け入る隙もままあるとのこと

一応レグルス師匠もこれに入るらしい

二つが『肉体進化型』
身体能力が爆裂に強化されたり 体の形状が変化したりする魔力覚醒、小難しいことは出来ないが逆に言えば単純であり、これを発現する者がは大体近接戦が強い為厄介だと言う

エリスが出会った該当者といえ一応ベオセルクさんがこれに入る、というか 師匠曰くアルクカース人が魔力覚醒を行うと大体これらしい

三つが『概念抽出型』
これはよく分からなかった、エリスが今まで出会った魔力覚醒者に該当する人物がいないからだ、師匠曰く 重いと言う概念を抽出したり付与したりするらしい、よく分からない

強いのかと聞いたら物によると言われた、よく分からない

一応例としてあげられた該当者はフォーマルハウト様が魔力覚醒を行うとこれになるらしい、ということはメルクさんもそうなるのかな…?

四つが『世界編纂型』
この世界に対して一定の融通を利かせることが出来るらしい凄まじい力のことを言うらしい、魔術では再現しようとするとかなり難易度が高い領域の話であり、何が出来るかは師匠にもよく分からないとのこと 分からないことだらけだ

ただ、この魔力覚醒を発現する人間はかなりないらしく、百年に一人居ればいい方らしく 更にそこから第二段階に入れる人間となると、…歴史上 その数は恐ろしいほど少なくなる

例としてあげられた該当者はカノープス様、時空魔術の使い手たる彼女なら使えて当然らしい

そして五つ目が『分類不明型』
文字通り上の四つに分類できないものは全部これになる…って!種類五つに分けられてないじゃないですか!、と反論すると 大体は上の四つに当てはまるのだが、偶に特異な才能を持った人間が魔力覚醒を行うと 、稀にどれにも分類出来ない物を発現するらしい

故に、本来四つしかない魔力覚醒に割り込む形で生まれたのがこの五つ目 分類不明型、該当者はエリス…そして 羅睺十悪星のナヴァグラハ、二人とも特異な『識』という才能を持つという共通点がある

どうやらエリスの魔力覚醒はかなり珍しいようだ、まぁ 珍しいだけだ、猛獣と珍獣どっちが強いかって話ですよ、別に強いかどうかは別の話になる

と…こうして魔力覚醒の勉強をして、エリスは理解しました、エリスの魔力覚醒には他の魔力覚醒のような『これ』という使い方は無い、なので自分から魔力覚醒のやり方を縛ってはいけないのだ

重要なのは発想力、何をどう工夫したら何が出来るか、これを探れば探るほど強くなれるってわけだ

「チューーー」

椅子に座りながらこの1ヶ月間の出来事を思い返す、成果はあった 強くなれたかは分からないが、それでも成果はあった 今はその成果を信じようとストローの刺さったコップに注がれたグレープエードを飲む、美味い

「おいエリス、これから劇が始まるんだぞ?そんな勢いで飲んでおしっこ行きたくなっても知らんぞ」

「すみません、ちゅー」

といっても暇な物は暇だ、今エリスと師匠はエイト・ソーサラーズ最終審査会 正式名称を聖夜祭の会場 その観客席に座り一緒に始まるのを待ってる状態にある

聖夜祭…、飾り付けられた雪の街のど真ん中である広場に作られた野外会場で合計十五人の候補者達の公演を観るお祭りだ

審査自体は最善席に座るヘレナ姫やギルバート国王率いる王室組が執り行う為 観客にはエイト・ソーサラーズの決定権はない、だが王室組は観客の受けや歓声も考慮に入れる為全くの無関係ってわけでもない

もしかしたら自分の声が次回のエイト・ソーサラーズを決めるかも!

新時代のエイト・ソーサラーズの誕生をこの目で見れるかも!

それは無くともこの国最高の劇団達の公演をタダで見れるなんて最高だ!

なんて声から、この街の広場には今全ての街人が集まってるとも言える、規模で言えば廻癒祭や収穫祭を遥かに上回る物だ、街人の一体感がすごい

「ちゅーー」

物販で売られてたグレープエードを飲みながら周りを見る、いやしかし すごいなぁ、たった1ヶ月であんなズタボロだった街を元どおりにするなんて、この国の物を作る技術には脱帽ですよ

「しかし、…来るんですかね、この聖夜祭のど真ん中にルナアール」

「ルナアールの怪盗活動はシリウスが洗脳魔術で行わせているもの、そして今日の盗みが成功すればこれ以上盗みをさせる必要がないからな、最後くらい派手に行くだろう」

そっか、結局ルナアールの活動とは プロキオン様自身に大切な物を壊させることにある

今までの盗みもその布石、プロキオン様にエリス姫関連のものを盗ませることにより プロキオン様の支配を高める意味合いがあった、そして今日 その布石が功を奏しシリウスとルナアールの悪夢の悲劇は終幕へと挑む

これ以上盗みをする必要がない最後の一手、これを逃すとシリウスが自由に出来る魔女の肉体を一つ向こうに与えることになる、それは即ちシリウス復活の兆しとなる、それ以上に師匠は古い友人は一人失うことになる

何が何でも阻止しないと、場合よってはナリアさんが…いや、ナリアさんは必ずエリス姫になる となると失敗するとエリス達は多くのものを失う、なんとしてでも 阻止しないと…

…策はあるしね、ヘレナさんには内緒にしたけど、エリス 実はルナアールの一手 もう見抜いちゃったから、後はそこを迎え撃てばいい そこは、知らせるべき人に知らせてある

だからエリスが警戒すべきはもうレーシュだけしかいない、それ以外を心配してもエリスに出来ることはないのだから

「レーシュが起きるのにまだ時間がありますね」

結局レーシュ達の居場所はエトワール軍の力をもってしても分からなかった、流石はアルカナの大幹部 伊達じゃないな
しかし、来るなら夜 奇しくもルナアールと同じ時間帯、…エリスはハラハラだ、せめて日を改めて欲しいな ルナアール…

「む、そろそろ始まるみたいだぞ エリス」

空が赤く染まり始める頃、ようやく舞台が動き始める

エイト・ソーサラーズを目指す十五人の候補者達、それが ありのままの己を今まで培ってきた磨いてきた己を見せつける為、舞台で全てを披露する…

『それでは、これより次期エイト・ソーサラーズを決定する最終審査会…聖夜祭を始めて行きたいと思います』

壇上に立ち皆に挨拶をするのはこの国の国王ギルバートさんだ、お髭が立派なこの国の王様だ、見た目はまるで絵に描いたような王様

…しかし、ヘレナさんとばかり関わっていたから意識しづらいが 今の王様ってあの人なんだよな、そういえばコルスコルピの王様には会ったことないな…、もうイオさんが王様みたいなもんだと思ってましたし…

って今はそんなことどうでもいいな

『今日 我々は記念すべき日を迎えます、今までの5年間が終わり、新たな五年が幕を開けるのです、新しい代表者達を立てることによって…、その為の舞台に立つ為数多くの劇場が鎬を削り、そして今日この場に立つことを許された十五の劇団達が最後の戦いに挑もうしてます』

ギルバート国王は拡声魔術を使いこの場に集まった国民全員に、海のように果てし無く広がる聴衆達に優しく語りかける、今から舞台に上がる人々の栄光を懇切丁寧に説明するように

『故に我々はそんな彼女達に敬意を示さなくてはいけません、万雷の喝采も敬服も当然ながら、何より公平であること これが大切です』

公平…か、それは前日のマルフレッドの件か、やはり 引きずっているようだ、こんなところで態々宣言するくらいだし

『なので、私は このギルバート・ブオナローティは魔女様よりこの国の統治を任される身として、この場に集まった全ての美を愛する人々に代わり聖夜に誓います、何があろうとも役者である 主役である、彼女達の行動と表現を尊重すると』

手を挙げ 宣誓する、その国王の真摯な姿に観客達は エトワール国民達は拍手を送る、その誓いを肯定し 同調するように、エリスもまた手を打つ

何より公平であること、それは数多の努力を踏み越えてこの場に到達した人々への最大限の敬意だ、故に 何があろうとも尊重する 彼女達女優を

『では、これより始めてまいります、この聖夜の輝きに勝る光の祭典を、これから訪れる五年間の幕開けを、どうか 皆で楽しみ祝おうではありませんか』

ニコリとここからでも分かるくらい優しく微笑むと、ギルバート国王は優雅な所作で舞台を降りて 最前列の審査席 その中央に座る、流石の振る舞いだ 妙練というか熟練というか、あの朗らかな空気はまだ若い王であるラグナには出せない…、いや彼ならいつああいう落ち着いた雰囲気も出せるはずだと信じましょう

「…………」

人のいなくなった舞台に、光明陣の光が照らされる、どうやら始まるようだ…

エイト・ソーサラーズ最終審査、その内容は単純 審査員とこの観客の前で舞台を披露すること、その内容如何によってエイト・ソーサラーズになれるかどうか その全てが決まる

劇を披露する順番とは順位によって決まる、一位から順に最後が十五位といった風に、順番が早ければ早いほど有利になるんだ

だって考えて欲しい、劇は全部で十五個あるんだ つまり15連続公演、見る方も疲れる…故に観客のボルテージがマックスの方が盛り上がり易く、その盛り上がりも加点に入りやすい、一番美味しい時に公演する権利が手に入るのは最上位入賞者だけ

ナリアさんは十一位だから 結構後の方だ…、決して有利とは言えないが…いやここまで来たらみんなを信じるしかあるまい

「最初はエフェリーネさんですか」

「一番最初にど本命か、こりゃ観客の盛り上がりも殆ど持っていかれそうだ」

舞台上に上がるのはこの国 いや世界最高の役者率いる世界最高の大劇団、エフェリーネとミハイル大劇団だ、普段凄まじい高額で貴族や富豪相手に演劇を繰り広げているエフェリーネさんの劇がなんと無料で見れちまうんだと民衆は湧き立つ

ここにいる八割がたがエフェリーネさん目当ての客と言ってもいい盛り上がり具合だ、これは劇を見るまでもなく次期エイト・ソーサラーズは確定だろうな

ドンドンドコドコ太鼓が鳴る、光明陣の光を自在に操り巧みに演出を行い、その光の隙間を縫ってエキストラが配置についていく、見事な手際だ さすが最高の劇団

そして、始まる 聖夜祭が…世界最高の劇が

『姉さん、止めてくれるな…、あたしにはやらなきゃいけないことがある、あたしにはそれを見て見ぬフリなどできようはずも無いんだ、その使命から目を背け ただ漠然と無意味に生き続ける…、そんなあんた達の生き方の真似事なんか あたしには出来よう筈もないんだ』

舞台に現れるはのは旅装に身を包んだエフェリーネさんだ、確かエフェリーネさんが今日演じる劇の名前は『ヴェリタスの十四分裂』とかそんな名前だった筈だ

自分の使命に殉ずる鋼の女が様々な艱難を乗り越えていく悲劇だ、普段カノープス様しか演じないエフェリーネさんが見せる魔女劇以外の劇、これが見れるのは今日この日だけだ

しかし流石圧巻の演技だな…、世界最高はやはり伊達ではない、あれで引退?とんでもない 彼女はまだまだ現役だ、衰えが一切見えてこないんだから

「凄い演技ですねぇ」

「今年も奴は受かるだろうな、対抗馬が現れないほど絶対的とは恐れ行ったよ…む」

と すると、劇の最中であるにも関わらず師匠が眉を顰めて、舞台の脇に目を向ける…

「おいエリス、あそこにいるの…、ほら あの舞台の横で待機している衛兵、動きが変だ」

「え?」

すると指差すのは舞台を警護する衛兵の一人だ、今宵襲撃があることはヘレナさん達も重々承知、その為舞台に衛兵をつけているんだろう、そのうちの一人が変だと師匠は言う…

どれどれ、と遠視の魔眼で見てみると…

「どうだ?、違うか?」

「いいえ、多分あれ ルナアールですね」

ルナアールだ、あれはルナアールの変装 念のため魔視の魔眼で見れば、うん 間違いない…あいつあんな所に紛れ込んでいたか

え?、なんで分かったかって?、そりゃルナアールの変装は完璧だが、見破る手段を得てしまったエリスにはもう効かないのだ、その変装は

「なるほど、…あ!おい!何処かに行くぞあいつ」

「…追いましょうか、師匠」

「しかしいいのか?、ナリアやレーシュは」

「……早めに終わらせましょう」

正直ここで抜けるのはメチャクチャ不安だ、出来ればナリアさん達の劇も見たい 出来ればここを離れてレーシュ達に付け入る隙を与えたくない、だが折角ルナアールを捕捉したんだ、ここで手を打っておきたい

それに、早めに終わらせれば もしかしたら見れるかもしれませんしね、ナリアさんの劇

エリスが想像しているよりも早く事態は動き始めてしまったようだし、こちらも計画を早めるとしよう

「行きましょう、師匠」

「ああ、分かった」

師匠の手を引き観客席を離れる、先ずは現れたルナアールの方を対処するとしよう、大丈夫 レーシュが現れるのは夜になってから、まだギリギリ夕方だ レーシュの活動時間には早い…筈だ

けど、空の色が徐々に暗くなっている、急がないとレーシュまで動き出す、レーシュとルナアール 同時には相手に出来ないと、急ぐようにエリスは変装したルナアールを追う

…………………………………………………………………………

街の人間が皆中央の野外劇場に集まっていることもあり、街は異様なまでの静寂に包まれている…、人っ子一人いない そんな街の中を一人歩く甲冑の騎士がいる

本来、衛兵は持ち場を離れてはいけない だと言うのにどうだ、この騎士は無人の街を堂々と歩き 何処かへと向かっているではないか

そんな命令違反を咎める者はいない、誰も騎士が持ち場を離れ 無人の街を歩いていることを知らない、そうだ…誰も気がついていない と、騎士は甲冑の兜の中でニヤリと笑い……

「待ってください、その騎士様」

「……!?」

違う、気がついた人間がいた 騎士が勝手に護衛対象である舞台を離れていることに気がついた人間がいる

「何処に、行くんですか?」

エリスだ、そして小さな子供へと姿を変えられたレグルス、その二人が 何処かへと歩き去る騎士を呼び止める、…そんな声に騎士はゆっくり振り向き肩越しにその姿を確認すると

「…これは、エリス様ではありませんか、如何されましたか?」

そう、なんでもない声を上げる…、心底疑問に思うように首を傾げて、役者だな

「いえ、貴方が離れていくところが見えて、衛兵である貴方が動いたと言うことは何かあったのかと思いましてね」

「なるほど、いや紛らわしい真似をしてすみません、実はお手洗いに行くつもりでして」

「随分遠くのお手洗いに行くんですね、舞台はあっちですよ?、このまま進んでも舞台裏に回り込むだけ、態々舞台裏でお手洗いするんですか?」

「あまり目立つところで動くのはどうかと思いまして」

「ふーん…」

エリスは目を鋭く煌めかせながら その怪しい騎士に近づく、騎士は動かない 不用意に動けば何を疑われるか分からないから、動かない

「それよりエリス様、よかったのですか?もう劇は始まってますよ」

「ああ、そうですね 早く戻らないといけませんね」

「ええ、なのでどうぞ 師匠様と一緒に観客席へ…」

「分かりました、ではその前に聞いていいですか?」

「…どうぞ?」

その騎士の肩に手を置きながら…聞く

「エリス達、何処かで会いましたか?」

「…いえ、初対面の筈ですが」

「そうですか?エリスは貴方に見覚えがあります、貴方 エリスが一番最初にディオニシアス城を訪れ帰るとき 見張りの兵士と入れ替わりで現れた兵士ですよね」

「そんなことまで覚えているんですね、ですがそこまで詳しくは覚えては…」

「そして、それよりも前に会っている…ギャレットの街で」

「っ……」

エリスはこのエトワールの旅で都度都度、会ったこともない人間に既視感を抱くことがあった

それは、この騎士にも抱いている

「ギャレットの街には立ち寄ってませんが」

「そうですか?、あの時 酒場にいた看板娘…あれ、貴方ですよね」

「娘?何を行ってるんですか、私は男ですよ」

「男?ならそれ 脱いでください」

と言いながらエリスはコツンと兜で覆われた顔を指差す

「…分かりました、これでどうです?」

そして兜の中から現れたのは髭面の男、とても娘には見えない あの時酒場にいた看板娘には…だがな

「違います、その珍妙な被り物を脱げって言ってるです、顔を覆うマスクのような魔力を」

「…………」

「この際はっきり言いましょう、貴方 ルナアールですよね、変装しても無駄ですよ」

「………、何を」

何を何をしぶとい奴だな、もう言い逃れは出来ないんですよ

「エリスに変装はもう効きません、これでも記憶力には自信があるんです…貴方はエリスに変装を見せすぎた、と言っても最初は全然気がつけなかったんですけどね…でも二回三回と見せられれば気がつきます」

そう、エリスはルナアールの変装を何度も見ている、一番最初はフェロニエールでグンタルさんに…そして2回目はさっきも言ったギャレットの酒場娘だ

あの人に対してエリスは既視感を得ていた、どこかで会ったかなぁと

そして3回目もそうだ、見張りの衛兵に対して既視感を持った、それと同時違和感も…どこで見たんだとずーっと悩んでいた

悩んで悩んで、ついに気がついたんだ

「それを証拠に、貴方は師匠を見て 一目でエリスの師匠だと見抜きましたよね」

「そりゃあ…む…」

「ええ、エリスはこの場で師匠の名を呼んでませんし、ましてや姿を変えられた師匠を一目見て魔女レグルスだと見抜くには …一度エリス達に会っていないといけない、ですよね、でもエリスその顔の貴方に会った記憶はありません」

「…………………………」

こいつがルナアールならそれも説明がつく、何せ エリスはあの酒場で師匠の名を呼んでますし、何より師匠をこの姿にしたのはルナアールだ、証拠もありますからねちゃんと!

「確かに貴方は演技の天才で、見た目も完璧に変えられます、けど…変えられない場所はいくつもある、体格 呼吸のリズム 瞬きの癖、つまり 動きがみんな奇妙なくらい同じなんですよ 貴方の変装は」

同じだ、前々回も前回も今回もルナアール自身も、みんな動きが同じなんだ、と言ってもパッと見ただけでは気がつけないほど細やかなものだ、少なくともエリスがその場で気がつけないくらいには細かい

だが、脳内で記憶映像を重ねて 何度も何度も見返してようやく気がつけた、ルナアール自身に染み付いた動き …コソ泥の匂いは隠せない

エリスはヘレナさんに策はないと言ったが、策はないが対策はある…この情報がある限り エリスは一目見ただけでルナアールかどうか判別出来る、もうこいつに翻弄されることはない

「うーむ、と言われましても 困りましたね、私は本当にルナアールではなく…」

「とぼけても無駄ですよ、ともかく貴方にはこちらに来てもらい…ぷえっ!?」

刹那、掴んだ肩を払われ掌底で顔を叩かれ怯む、って しまった!

「エリス!あいつが逃げるぞ!」

「チッ、くっそ あのヤロウ…!」

エリスを叩いてその隙に逃げ去る後ろ姿に思わず汚い言葉が出る、しかもその後ろ姿に視線を向けると既に甲冑姿の騎士ではなく、マントはためかせる怪人の姿に変わっており

「ははははは!、流石は我が宿敵!よくぞ見抜いた!、だがもう既に仕込みは終わっているのだ!、さらばだ!魔女の弟子!」

「さらばも何も!、こっからですよ!ルナアール!」

走って逃げていくルナアールの背を追いかける、師匠を腕で抱き上げ風を纏い走る、しかし仕込み?何をしていたんだ…

確かに考えてみれば態々衛兵としてなんで舞台に忍び込んでいたんだ?、こんな早くから…、まだエリス姫の決定には時間があるのに、こいつは活動を開始している、なんだ 何をしようと言うんだ!

分からないがやらせてはいけない、今回は人の命がかかってるんだから!

「アイツ…舞台裏に回るつもりか…!、まさかエリス姫候補全員皆殺しにしてエリス姫殺しました的な超絶ぶっ飛び理論展開するつもりじゃ…」

「それはないから安心しろ、奴がしたいのはあくまでエリス姫の殺害だ、候補の状態を殺しても何にもならん、あくまでエリス姫が狙いだからな!、奴が殺害するのは決定した後だ」

「でもこのまま好きにさせたら…」

「ああ、今回の審査で選ばれたエリス姫をプロキオンは殺し シリウスの目的が達される!、エリス!急げ!」

「アイアイ!」

走る、風を切って風を纏って、飛ぶ 跳ぶ 翔ぶ!、神速のスピードで走り抜けるルナアールの背がぐんぐんと近づき…よし、追いつける!

と その刹那、エリスの直感が煌めく…いやこれは危機察知の直感!?

「師匠すみません!あと頼みます!」

「何?…ぬぉっ!?」

投げ飛ばす、師匠をルナアールに向けて、本当は師匠を投げなくはないが…巻き込みたくないんだ、この…炎に!

「『イグニッションバースト』ォォッッ!!!」

「ぐっ!?」

刹那、横道からすっ飛んできた火炎の飛翔体に突き飛ばされ無人の家屋に叩き込まれる、くっそ…!、このクソ忙しい時に!もう出てきやがった…最悪のタイミングで!

「エリス!無事か!!!」

「無事です!、師匠は先にルナアールを追ってください!、後のことは頼みます!」

「だが…っ、分かった!上手く乗り切れよ!!」

ガラガラと瓦礫を押し退けながら叫ぶ、もうこうなってはルナアールを追いかけることはできない、せめて 後のことは師匠にお願いするより他ない、大丈夫 師匠ならなんとかしてくれる

今はそう信じて、その小さな体で必死になってルナアールを追いかける師匠の背を見送り…そして

「アハハハハハハハハ!、サイッコー!まさかこんなところで会えるなんてねぇっ!エリス!」

「チッ、イグニス…また貴方ですか」

ゲタゲタと笑う炎を纏う灰色の髪 褐色の体の女、レーシュの部下にしてアグニスの妹、イグニスが現れたのだ…、そりゃそうか こいつは別に夜行性じゃない、この夕方から動き出してもなんらおかしくはないんだ

「…あれ?、今日はアグニスは一緒じゃないんですか?」

「うん!、アグ兄は別行動だよ!」

マジか、アグニスは別の場所で動いているのか…、何処にいるんだ、観客席で暴れてるとかじゃないよな、もうヘレナさんのところにいるとかじゃないよな、楽観視するなよ こいつらは本気でヘレナさんを殺すつもりなんだ、魔女大国一国相手にしても構わないとばかりに 手段は選ばないんだ

「本当はさ!私が観客席で暴れる陽動の役目だったんだけど、あんたがここにいるんならもう陽動の必要ないよね!」

「なんですか、作戦内容をポロポロと零して…またレーシュに怒られますよ」

「大丈夫!、あんた…ここで死ぬからぁっ!!!、『イグニッションバースト』!!」

その声と共にイグニスの手足から生える火柱がゴウと燃え盛り周囲の雪を一気に溶かし、炎の勢いがそのまま推進力に変わる

「 『火流直撃』!!」

「っ!」

突っ込んでくる、炎を纏って!…こいつの攻撃は苛烈だ あまりに苛烈、炎の勢いで高速で攻めてくる上 避けても熱波で追い討ちを仕掛けてくる、恐ろしい相手だ…だが!

「ふっ!」

「あれ!?」

風を纏いヒョイと頭から突っ込んでくるイグニスの攻撃を避け 

「意味を持ち形を現し影を這い意義を為せ『蛇鞭戒鎖』 」

避けながらその首に魔術の縄を括り付け、勢いを止める…

「ぐぇっ!!!」

「その攻撃は見飽きましたよ!」

イグニスの首に括り付けられた縄がイグニスに引っ張られ そしてその動きを止め、ピィーンと絃のように張り詰めた瞬間、その反動が イグニスが前に進もうとする勢いが反転し逆方向へと弾き返されるようにすっ飛んでいく

確かに恐ろしい相手だが、こいつの戦い方はもう前回で学習済みだ…、今更苦戦しない それに

「ごぇ…がはっ…」

「…アグニスもレーシュも居ない貴方で、エリスに勝てますか?」

「ぐっ…、てぇぇぇぇぇ…めぇぇぇぇぇ…っっ!!」

反対側の家屋に吹き飛び瓦礫の中から現れるイグニスの顔は真っ赤だな、こいつが恐ろしかったのはアグニスの援護があればこそだ、エリスが負けたのはこいつじゃなくてレーシュだ、その二人抜きで エリスに勝てるか?

なんて事実を突きつければイグニスはますます怒り狂う、図星か…

「テメェなんかアグ兄もレーシュ様も居なくても倒せるんだよぉっ!、バカにすんじゃねぇぇぇ!!!」

「さて、それはどうでしょうか!」

その瞬間 凄まじい速度ですっ飛んでくるイグニスの猛烈火炎の火拳と迎え撃つエリスの疾風怒涛の風拳が、ぶつかり合い 何度も交錯する

火の蹴り 炎の拳、風の蹴り 嵐の拳、超至近距離からの綿密かつ濃厚な攻めと攻めが激突する

「オラオラオラオラぁぁぁあ!!早く死ねぇぇ!!!」

「っ…ふっ!!はぁっ!」

イグニスの無闇矢鱈な拳の連撃を避けながら考える、それでもこいつは雑魚じゃない…前回も完全撃破まで至っていない、…出来るなら早く倒してルナアールに追いつきたい レーシュが動き出す前に、アグニスが何かする前に!

「炎を纏い 迸れ轟雷、我が令に応え燃え盛り眼前の敵を砕け蒼炎 払えよ紫電 、拳火一天!戦神降臨 殻破界征、その威とその意が在るが儘に、全てを叩き砕き 燃え盛る魂の真価を示せ!!!」

「なっ、ぐぼぅっ!?」

イグニスの拳を払い、突き込む拳 それがイグニスの鼻頭を捉え怯んだ隙に更に追い討つように右から左から、体全体を使って勢いをつけた拳を側頭に叩き込み 歌うように詠唱を続け…

「『煌王火雷掌』!!!」

「ごほはぁっっ!?」

吹き飛ばす、炎雷の拳の一撃をイグニスの胸に叩き込み 爆裂さえ叩き飛ばす…

もう、戦いは始まってしまっているんだ!、あとは時間との勝負!、エリス自身の限界との戦いだ!

さぁ始めるぞ!、このエトワールにおける 最後の戦いを!、ナリアさんの夢も!ヘレナさんの命も!この国の平和も!何もかも!エリスは守ります、こいつらに勝って!!

レーシュ達全員に勝って!エリスは …守りますから!!!

………………………………………………………………………………

パチパチと拍手喝采が巻き起こる、舞台の向こうで観客が劇を絶賛しているのが聞こえる…着々と僕たちの番が近づいているのが分かる

近づいているんだ、僕の夢が叶うかどうかの 決着の舞台が…

「はぁー、緊張するぅ…」

サトゥルナリアはエイト・ソーサラーズ待機場にて椅子に座るバクバクと早鐘を打つ心臓を抑える、緊張する 緊張するんだ、さっきチラリと観客席の方を見たら見たことないくらいお客さんがいた

そりゃそうだ、エトワールで最も人口の多い街の住人が全員集まってるんだ、数万どころじゃない 数十万人集まってると言ってもいい、そんな人たちの前で劇をやるのは初めてだし

何より、次の舞台で決まるんだ…、エイト・ソーサラーズになれるかどうか、エリス姫になれるかどうかが…

「…うう」

チラリと待機場の外を見れば もう夕日は沈み、空は暗くなっている…着々と近づいているんだ、運命の時が…

今さっき八番目の公演が終わった、次は九番目の劇…僕は十一番目だから…もう直ぐだ、ああー 緊張するよう…、クンラートさん達は大丈夫かなぁ きちんと準備出来てるかな…

ちょっと様子見に行こうかな、で でも僕の番が始まった時 この待機場に居ないと問答無用で失格扱いだ、それは怖いから僕おしっこにも行けてないんだよなぁ…はぁ、緊張する

「はぁあぁぁあ…」

「どったの、口震わせて」

「へ?、あ…て ティアレナさん!?」

よっす と軽く挨拶しながら現れるのは何度もエイト・ソーサラーズの座を勝ち取ってきた大女優 ティアレナさんだ、あのエフェリーネさんにも匹敵すると言われる女優が軽く声をかけてきたことに驚いて心臓を跳ね上げる

「ど どど どうされましたか」

「んにゃ、緊張してるみたいだしねぇ、それともその格好が寒いのかな?」

そう近場の椅子に座りながら指差すのは僕の格好だ、…僕は今 踊り子の格好をしている、大胆にも肌を晒すスタイルのドレス、寒いかと聞かれれば寒いんだろうけど 今は寒さを感じる余裕がない、それに

「これがあるので寒くないです」

「ん?、それは…」

「暖房陣を書いた紙です、握ってるとあったかいんですよ」

紙に書かれた暖房陣、それを折りたたんだ物を広げて見せる、僕が編み出した寒さ対策だ、これをポッケに入れておくだけであら不思議、瞬く間に寒さが紛れるのだ、まぁ それでも寒いには寒いが、ないよりマシです

「じゃあなんで震えてんの?」

「すみません、緊張してて…」

「緊張かぁ、初々しいねぇ 私もうそんな感情も湧いてこないや」

「そりゃ、ティアレナ様は最終審査になれてますから…」

「んふふふふそうじゃあねぇんだよなぁ」

そう言うなりティアレナさんは椅子の上で胡座をかいて頬杖をつき、ニタリと余裕そうに笑うと

「演劇とかさ 舞台とかさ、所詮 人間の短い生をせめて彩ろうって暇つぶしでしょう?、そこに緊張しても意味なんかないって言うかさぁ」

「え、…演劇は別に暇つぶしじゃ…」

「ああごめんごめん、別に他の人のソレを否定するわけじゃないんだよ、ただ 私からしたらそうってだけでさ、演劇なんざ 暇つぶしなのさ、私にはねぇ」

暇つぶし…か、そっか…この人にとってはそうなのか、多分演技とか嘘は言ってない、この人は心底そう思ってるだけだ

「怒るかなぁ君も、だって悔しいよねぇ 情熱も何もない人間が君達の夢の舞台に土足で入り込んで周りを蹴散らしてんだからさ、怒るよねぇ?」

「いえ別に…」

「あれ?、怒らないの?」

まぁ面白い話ではないが、怒るかと言われれば別にそうでもない、この人が演劇を軽視した結果 その演劇がぶち壊しになればそれは許せないが、この人の場合は違う、この人の演技は素晴らしい…だから

「怒りません、例えティアレナ様自身がどう思っても、観客席にいる皆様に夢と希望を与えている事自体に変わりはありませんし、何より僕も好きですから そう言う役者自身の価値観はあんまり関係ないです」

「へぇ、面白い女…いや男か、いや君面白いよ そこまできちんと言い切れるのは素晴らしい、私 君みたいな芯の通った子は好きだな、それが善であれ悪であれね」

「あはは、ありがとうございます」

「ふふふ…、好きだから 虐めたくなるなぁ」

ペロリと親指を舐めながら加虐的な目を向けるティアレナさん、いやいや い 虐めたくなるって、というかこの人なんで僕に話しかけてきたんだ…?、もうこの人の出番終わったよな、相変わらず大好評で来期もエイト・ソーサラーズ確実の大活躍だった

「あの、…僕に何か用でしょうか」

「いや別に、興味があったから話しかけただけさ、男の身でエリス姫を目指す、いいチャレンジだ 応援するよ」

「あ ありがとうございます!」

「でも、私を抑えエリス姫になれると思ってんなら…それは面白くないか」

そこではたと気がつく、そうだった 僕はエリス姫になりたい、それはつまりこの女優たちの中で エイト・ソーサラーズ達もティアレナ様もエフェリーネ様も抑えて頂点に立つってことじゃないか

僕は 宣戦布告しているんだ、エフェリーネ様やティアレナ様達に…

「すみません…気分を害したようなら…その」

「あはははは、謝る割にはその目標は取り下げないのか、ますます気に入った 期待してるよ」

そう笑いながら椅子を立ち上がるティアレナ様…、よかった 怒られずに済んだ、あの人の器が大きくて助かった

しかし、ティアレナ様もミハイル大劇団所属なんだよなぁ…、ってことは昔のクンラート団長や僕の父さんや母さんの事も知ってるのかな…、ん?あれ?でもクンラート団長の口からティアレナ様の名前が出たことないな

というか僕 彼女がいつから役者をやってるのか知らないぞ?、一体いつからミハイル劇団に居たんだろう

「諸君、準備はいいかな?」

そう言いながら今度は待機場に入ってくるのはヘレナ姫だ、この人はお姫様でありながら今回の聖夜祭に精力的に取り組み、進行役を買って出てくれている、お陰で聖夜祭と最終審査が恙無く進んでくれるんだ、有難い

「次の候補者は早く舞台に向かい 劇団と合流するように…、その次はタチアナ殿で その次がサトゥルナリア …君だ」

「あ、 ひゃ ひゃい!」

「ふふふ、緊張しすぎだ」

いきなり声をかけられ思わず声が裏返り 周りの候補者達からもクスクスと笑われる、うう…恥ずかしい…

「しかしサトゥルナリア、準備は万端のようだね、そろそろだから君も表に出られるよう心を整えておきなさい」

「はい、…あ そうだ」

ふと、ヘレナ様の顔を見ていて思い出した事があり、特に 思う事もなく口を開く…

「ルナアールってどうなりました?、予告ってもう出てるんですか?」

なんとなく、雑談の空気でヘレナ様に聞く、だって ルナアールが予告を出してくる時期はそろそろだ、何かしら予告とか出てるのかなぁ と気になって聞いたんだ、すると

「あ…いや…その…」

みるみる顔が青くなる、この顔は見たことあるな…エリスさんに自分は魔女の弟子だって嘘をついていた時の顔だ、何かを隠してる?となると何を隠してるか…想像は簡単にできる

「…出てるんですか?予告」

「う……」

この人は予告のことなんか何も言ってない、まぁ候補者達にいう必要ないのかもしれないけれど、でも その顔色は気になる、この人は突かれたくないことを突かれると顔にでる

…ってなると、もしかして今回ルナアールが盗むと予告したのは前回取り逃がしたエリス姫の原典ではなく…、もしかして 僕達に関わること?

「ヘレナ様、…あの もしかしてルナアールが予告に書いた 今回のターゲットって」

刹那、ヘレナ様の背後の扉が開く…キィ と不気味な音を立てて、それは…

「ん?、ああすまないここは関係者以外立ち入り禁止で…」

そうヘレナ様が注意するため振り向く、僕もまた扉を開けた人物を見る、そして 

「っっ!?!?」

双方顔を青くする、扉を開けた人物の顔に見覚えがあったから、その人は灰色の髪と褐色の肌をした男の人で…確か、名前は…

「ここにいたか、閃光の魔女の弟子 ヘレナ」

アグニス!?こいつ…!1ヶ月前広場を強襲した大いなるアルカナの…ヘレナ様の命を狙う…、どうしてここに…って やばい!

「な な な!?お前はあの時の!?どうやってここに!?」

「どうでも良かろう!死ね『フレイムアロー』」

「ひっ…」

「ぐぅっ!」

手をかざし、ヘレナ様めがけ炎の矢を放つアグニス、対するヘレナ様は動けない 動く事ができない、このままでは殺される 

そう咄嗟に感じ、ヘレナ様の体を抱きしめ横へすっ飛び攻撃を回避する、僕とヘレナ様が射線場から外れ 炎の矢は真っ直ぐすっ飛び 待機場を横断し壁を突き破り外へと消えていく

…あ 危なかった…、危うく死んでた…ヘレナ様が

「チッ、邪魔されたか…役者風情が邪魔をしてくれるな、俺も早く仕事を終わらせたいんだ」

「ふ ふざけないでください!、人の命を奪うのが仕事なんて よくもまぁ抜け抜けと言えますね!」

「何を…?、吠えるじゃないか」

確かに!僕よく吠えたな、相手はあのエリスさんでさえ顔色を変えるほどの相手、アルザス達なんかとは比べ物にならない猛者、それ相手に啖呵なんて…僕にできることなんかないのに

でも、でも引き下がるわけにはいかない、腕の中で震えるヘレナ様をこのままこいつらの好きにさせていいわけがないから

「なんだ?、俺からヘレナを守る気か?」

「ええ、まぁ その手立てはキチンと用意してありますから」

なんていけしゃあしゃあと嘘を言う、嘘を言いながら考える この場を切り抜ける手段を

エリスさんはどうしたんだ?、何故ここに来ない、もしかしてもう別の場所で戦ってるのか?、だとしたら救援はマリアニールさん頼みになる、けど 今の炎の矢に気がついてこちらに向かうにしても時間がかかる…

…周りには武器はない、頼りになる人は

「きゃぁぁぁ!!!、な なんなの!?」

「嘘…襲撃!?」

いない、ここにいるのは女優だけ 戦える人間は僕を含めていない、エフェリーネ様やティアレナ様は落ち着いてはいるが…、どうしよう

「ほう、なんとか…出来るようには見えないが?」

となると、マリアニールさんが来るまで時間を稼げばいい、時間を稼ぐくらいなら…

「…ふふ、あははは、聞いてますよ 貴方達が今日ここに来る事くらい、それを聞いて なんの対策もしてないと思いましたか?」

「何?…、一体…」

「おっと!、それ以上前に踏み出さない方がいいですよ」

「っ…」

僕の演技につられてアグニスは足を止める、その間に頭の中で色々言葉を考どういう風に話を持っていくかを考える、高速で台本を書き上げるようなもの、そして台本があれそのように演じられる

「この国には魔術陣…と言うものがあるのはご存知ですよね」

「…なるほど、対策とは その魔術陣か」

「ええ、この部屋の各地には既に攻撃用魔術陣が多数用意してあります、そして それを起動させる陣は…ここに!」

バッ!とカッコよく取り出すのは魔術陣の書かれた紙…、僕がカイロ代わりに使っていた暖房陣の書かれた紙をアグニスによく見えるように出す、それを攻撃起動用の陣だと言い張り演技をする…

さて、ここから運だ、こいつが暖房陣を一度でも見た事あったら簡単に見抜かれる、お願い!あんまり魔術陣に詳しありませんように!

「…………」

するとアグニスはジッと暖房陣の書かれた紙を見て…

「まさか、魔術陣にはそんな種類のものが…」

よし!、詳しくない!いける!この嘘で押し通せる!

「なので、ここで交戦するのはあまり得策とは言えません、大人しく引き下がるなら 我々も見逃します」

「……対策済みか…」

とアグニスは苦虫を噛み潰したように顔を歪め…、たかと思えばはたと何かに気がつき

「待て、なんでそんなものをお前が持っている、衛兵や騎士が持ってるならまだしも、お前は役者だろう?、何故防衛用の魔術陣の軌道を一任されている」

「………………」

い 痛い所を突かれたぁ~、そうだよね!おかしいよね!ただの参加者が!役者が!、この舞台の防衛用の魔術陣を起動させられる そんな権利を任されてる事自体おかしいよね

けど、それはおくびにも出さない、もしここでしまった!と言う顔をすればこいつは瞬く間に嘘に気がつく、だから 寧ろ笑う、ニヤリと

「僕が誰か、まだわからないんですか?…」

「何?、何者だ…お前は」

誰だ 僕は誰なんだ、何者なんだ僕は!一体!、考えろ…考えろ、こいつらが警戒しそうな相手は…、魔術陣を起動させられてもおかしくないような人は…そうだ!

「…帝国軍 第十師団所属の 帝国軍人ですよ」

「何!?、帝国の全三十六師団の中でも当代最強と謳われる師団の人間が、何故ここに…!」

え?そうなの?、帝国には師団が沢山あるって聞いてたから適当に言ったのに、そっか 最強なんだ、当たり引いたな、よし!

「大いなるアルカナがこの国で暗躍しているとの情報を受けたのでね、なので魔女の弟子エリスとヘレナ様と共に 貴方達を迎え撃つ支度を潜入し用意していたんですよ、其方から来ていただけるならむしろ好都合というもの」

「なっ…くそっ、我らの到来が帝国に読まれていただと」

「あんまり帝国を甘く見ない方がいいですよ、…でも今日は祝いの日 出来れば血を流したくない、退いてはくれませんか?、でないと僕は他に潜入している帝国の仲間達を呼ばないといけません、第十師団のみんなを」

「くっ…これは想定外だ、まさか帝国に包囲されていたなど…、イグニスも危ないやもしれんな」

そうだそうだ!危ないから!僕達が!、だからお願い!今は帰って!…

「だが、こうなってはもはや逃げることも叶うまい、こうなったら 死なば諸共、我が命と引き換えに 魔女排斥の覚悟を示さん」

そう言いながらアグニスはゆっくりの構えを取り…おいおいおいおい、やめてよそんなの!

「死ぬ気ですか?」

「無論!、魔女と戦う決めた時から この命捨てている!、誇りに戦って散るなら 本望だ!」

ぐぅっ!、見事な覚悟!敵ながら天晴れ!、僕的には最悪だ!、うぅ 敵を追い詰めすぎたか…!

実際の僕は帝国軍人でもないし最強でもない、魔術陣もハッタリ…打てる手はもうない…もう

「さぁ、始めようか!帝国の犬!貴様の喉元を喰いちぎって!ヘレナの命も貰っていく!」

「愚かな、賢明とは言えませんね」

おまけに僕悪役みたいになってるし、どうしよう もうこれ以上引き延ばせない、今から嘘でしたごめんなさいって命乞いして時間稼ごうかな、戦うよりも時間稼げそうだよね…うん、そうしようかな

なんて 僕が謝るよりも前にアグニスはメラメラと炎を沸き立たせ…

「死ぬがいい…『カリエンテ…』」

やばい!あの広場でぶちかまされた凄い炎が来る!どどどと どうしよう!、と目をチカチカさせていると…

次の瞬間

「『エス…』ぐぇっ!?」

「へ!?」

アグニスが炎を放とうとした瞬間、突如飛来した小さな何かが横からアグニスの頭を蹴り飛ばし吹き飛ばして…

「無事か!」

「レグルスちゃん!?」

レグルスちゃんだ、あの小さな子供がアグニスを蹴り飛ばしたんだ…つ 強いなレグルスちゃん、っていうかレグルスちゃんがいるなら…

「あの、エリスさんは!」

「敵と交戦中だ…!、それよりルナアールを見つけた!、が すまん!見失った!、気をつけろよ!奴はもう動き始めている!」

「え?、ルナアール?」

「なんですと!?」

すると僕の腕の中のヘレナさんが声を上げる、ルナアールが動き出している?気をつけろ?、やはりルナアールの今回の狙いって…

「それよりレグルスちゃんはどうするの!?」

「あの炎の男も敵だろう?、わたしがなんとする…」

「なんとかって 危ないよ!」

「だがわたしがやらねばなるまい!、それよりも避難しろ!もう戦闘は始まっている!」

そういうなりレグルスちゃんはアグニスを蹴り飛ばした方へと向かっていく、避難しろって…

…いや、ここはいう通りにすべきか

「ヘレナ様、…もうここは危ないみたいです、ここは一時避難を」

「そ、そうだね!、すまない候補者の諸君!緊急事態だ!ここは急いで避難を!」

慌てふためく候補者達にヘレナ様は号令を出す、敵が攻めてきた以上もうここは安全ではない、一旦事態が収まるまで避難するしかない

「そ そうね、あんな危ない奴がいるんじゃもう劇は…」

「でも観客席には私達を楽しみにしてくれている人達が何十万人もいるのよ?、その人達を置いてなんて…」

「そんなこと言ってる場合!?死んだら元も子もないのよ!」

「ちょ ちょっとみんな…」

ダメだ、みんなパニックになってる…、これを収められるのはエフェリーネ様くらいしか居ないのに、当のエフェリーネ様は静観してるし…

「ええい!、とにかく避難だよ!さぁ!私に続いて…」

とヘレナ様が待機場から出ようとした瞬間…

「ぐぇっ!!」

見えない何かに阻まれまるで壁にぶつかったように弾き返される、な なんだこれ…、なんで もしかして、外に出られないのか!?

「嘘、これ 入り口に見えない壁が張ってある…なにこれ」

入り口に手を当てれば、まるで石の壁のような頑丈な感触が返ってくる…、こんなもの さっきまで無かったのに、なんなんだ 理解が追いつかない…!

「閉じ込め…られた?、一体誰が…」

「魔術式…『障壁陣』、この待機場は私の陣によって取り囲まれている、障壁陣がある限り外には私が選んだ人間しか出られない、逃げ場はない」

「っ!?」

すると、待機場の外、雪の降り積もる夜道を歩き 闇の向こうから誰かが現れる…、誰かなんて 言うまでもない

「ルナアール!?」

「お待たせしたね諸君、予告通り貰いに来たよ…エリス姫の命を」

細剣を手に持ちながら、現れるのは夜空の怪人、マスクをつけた怪盗が ニタリと笑い、現れながらこういうのだ

「さぁ、今すぐここで君達で選び給え、次期エリス姫を…そして、私の劇をその血と命を以ってして終幕させる生贄を、選び給え」

そう…言うのだ…、エリス姫の命を ここでルナアールによって殺される人間を選べと…
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

決して戻らない記憶

菜花
ファンタジー
恋人だった二人が事故によって引き離され、その間に起こった出来事によって片方は愛情が消えうせてしまう。カクヨム様でも公開しています。

処理中です...