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四章 栄光の魔女フォーマルハウト

61.其れは悪を貫く正義、或いは闇を穿つ誇り

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シモンの街を発ち数日、道が分かっていることとエラトス程複雑な地形でなかったことが幸いし、我々はかなり早くデルセクトへと着くことが出来た

眼前に広がる堅牢な壁…魔女大国特有の国境砦の前に、私とエリスは馬車を止めていた

「ここがデルセクトの入り口…」

エリスが馬車の中でふと呟く、目の前には巨大な石の壁 アジメクでもアルクカースでも目にした国境を区切る石の壁だ

名を『クルグア国境大砦』、アルクカース程戦略的な構造はしていないが…特筆すべきはその荘厳さだろうな、なにせ壁には大掛かりな彫刻が果てまで刻まれているんだ…この壁を作るだけでも 一体どれほどの時間と費用がかかったのか 想像するだけで目眩しそうだ

「この先がデルセクト国家同盟群なんですね…でも、ずっと気になっていたんですが国家同盟群ってことは 一つの国家というわけではないんですね」

「ん?、ああそうだな…聞いた話になるが、栄光の魔女フォーマルハウト自身は他の魔女と違いどこか特定の国を治めているわけではないみたいなんだ」

エリスの言葉に答えるように続ける、デルセクトとは国の名前ではない フォーマルハウトが制定した国家間の同盟の名だ

元々この地域には複数の小国が乱立する群雄割拠の地域であった…が、例の災厄でどの国ももはや自立して国家運営が行えないまでに疲弊しきってしまっていた、そこでフォーマルハウトは この地域全てに存在する国々を纏めて 自分の名の下に同盟を帰結させた

それがデルセクト国家同盟群、フォーマルハウトはその同盟群の同盟長ということで他の全ての国に対する命令権を得て 滅びかけている国々を再建して回り、商業を発展させ この地域に眠る大量の金脈を掘り当て国を潤わせた

いまディオスクロア文明圏内で使われている『魔女金貨』を作り広めたのはフォーマルハウトなのだ、その金貨を製造する権利を持っているのもまたフォーマルハウト

このデルセクトという国は フォーマルハウトという人物は、ただ金を持っているだけでなくこと文明圏における経済を丸ごと牛耳っている存在と言っても過言ではない、アルクカースとは別の意味で恐ろしい国だよ ここは

「金貨を…なるほど、このお金という制度を作ったのがフォーマルハウト様なんですね」

「ああ、魔女金貨が出来る以前はそれぞれの国が別々の貨幣を別々の価値で使っていた時代もあったが、魔女の時代になってからは貨幣そのものが統一されたんだ、この魔女通貨も最初は魔女大国内だけでしか使えなかったが 魔女大国と取引しなければ生きていけない非魔女国家達にもだんだんと伝搬し いつのまにか世界全体で使われるようになっていたんだ」

「なるほどぉ…じゃあこの金貨に刻まれている女の人って…」

「ああ、フォーマルハウトだ」

そう言ってエリスは金貨を覗き見る、抽象的で顔立ちはイマイチ把握できないが、この金貨に描かれている女神の如き人物は この金貨という制度を作ったフォーマルハウト自身だ、ちなみに銀貨には抽象的な八個の星が描かれている

「ほぇ…じゃあフォーマルハウトさまって凄い人なんですね」

「スピカもアルクトゥルスもみんな凄いやつだよ、だがフォーマルハウトは我々の思い至らないところをフォローしてくれる頭のいいやつだ」

妙に世話焼きというか 、彼女は己を高貴なる者言い 高貴な者は高貴なる者なりの責任を果たさねばならない、ノブレスオブリージュが口癖の生真面目なやつだった

「高潔で卑劣を嫌う女傑、それがフォーマルハウトさ…昔はそうだったが、まぁ今はどうなっているか分からんな」

「そうですか…でも、アルクトゥルス様みたいに元に戻せればいいんですよね、そうすればきっと高潔なフォーマルハウト様が帰ってきますよ」

「だといいがな」

暴走は別に性格や価値観が変わるわけではない、本当に怖いのはこの八千年という時の中で魔力暴走とは関係なく単に人格が歪んでしまっていたというケースが一番怖い、そうなるともう手の尽くようがないからな

「……それで、まだなんでしょうか」

一通り雑談を終えて 私達は視線を移す、見るのは壁の一点…壁に開いた巨大な門と その下で通行の手続きを進めている関所の兵士達だ

思えばアルクカースの時はラグナという王族がいるからすんなり入れたが、本来なら魔女大国に入国するのには時間がかかるのだ…色々な申請と許可がいる、その為時間がかかるのだ 私達は今その申請許可が下りるのを待ってる…

どれくらい待ったと思う?、我々がこの門に着いたのは七日前…つまり一週間ここで待たされている、次から魔女大国に入る時は入国に時間がかかるものと思って行動したほうがいいな

まぁ馬車の中で寝たり 暇な時間はエリスと修行したりすれば良いから時間はどれだけかかっても良いんだが、そろそろうんざりしてきたぞ

「はぁ、今日もまだ時間がかかりそうだな…じゃあ修行するか?エリス」

「はい師匠!、ここでじっとしてたら体が苔むしてしまいます!」

なんて言いながら馬車から飛び降りると …その瞬間 門の方が騒がしくなったのが見える、この七日で初めて見せたアクションだ、…なんだやっと申請が通ったのか?

なんて思っていると、門の向こうから 誰かがやってくる、他の兵士達と同じように鎧を身に纏った剣士…だが、それを目にした瞬間私とエリスの動きは止まる、だってそいつ 他の兵士達とは明らかに違ったからだ

何が違うか?、まぁ視覚的に言えば…見た目か?その鎧は陽光を跳ね返す金 そして太陽の光さえ遮る漆黒の髪を揺らす女、見た目だけでも他の兵士達とは一線を画す物だが、私達が反応したのはそこではない…反応したのは…

「師匠、こっちに向かってくるあの女の人…」

「ああ、強いな…」

ゆっくりと門を抜けてこちらを見据えて歩いてくる黄金の剣士、その姿から立ち上る圧倒的なまでの闘気 覇気 威圧…そのどれを取っても一級品だ、アジメクのヴェルト アルクカースのデニーロに並ぶ、つまり魔女大国最強格の強者がいきなりこちらに歩いてきているのだ、否が応でも警戒するだろう

「…待てエリス、魔力を落ち着かせろ 変に臨戦態勢を取るな」

「え?…あ、はい」

エリスが何があっても直ぐに動けるように魔力を隆起させたのを感知し止める、流石に相手が悪い 私はともかく、あんな奴に襲われたら今のエリスではひとたまりも無い

なんてやり取りをしている間に剣士は私達の下までやってくるなり…

「お待ちしておりました、孤独の魔女 レグルス様とそのお弟子様」

そう言って我々の前で一例してみせたのだ、…いや 敵意がないのは分かっていたが、いきなりぺこりと頭を下げられてちょっと拍子抜けを食らう、エリスに至ってはキョトンとしている…ああそうだ ここはアルクカースじゃないんだ、いきなり戦いを挑まれたりはしないよな

「私達の正体を知っているか…」

「はい、私は栄光の魔女フォーマルハウト様を守護する無二の剣、デルセクト連合軍総司令官…グロリアーナ・オブシディアンと申す者です、皆さんのことは遠視の魔眼で監視させていただきました」

「え…遠視の魔眼で?一体どころからエリス達を監視していたのですか?」

「アルクカースのビスマルシアを出たあたりから、私の視界に入っておりました」

「そんな遠くから…」

栄光の魔女を守護する剣、グロリアーナはそう名乗った…つまり彼女はフォーマルハウト直々の使いということになるが、しかし遠視の魔眼でか…ここからアルクカースとなるとかなりの距離だ…遠視の魔眼は本人の技量によって視野が変わってくる、とどのつまり魔眼の腕一つ取っても一級品ということになる、果たしてその実力は如何程なのか…

「それで?、その総司令様が態々国境まで出向いて来て 私達に何の用だ?」

「我が主 栄光の魔女フォーマルハウト様より、お二人を歓待するようにとの言葉を受け、国内のご案内をしようかと思いまして」

そういうとグロリアーナは顔を上げ、フッと白い歯を見せて笑う…美しい顔立ちだ、何よりフォーマルハウトが好きそうな顔だ、あいつはこういう如何にも完璧そうな見た目をしておきながら中身まで完璧な奴が男女問わず大好きだ、つまりこいつはフォーマルハウトの趣味ということになる…

しかし案内か、なんだか意外だったが 考えればそりゃあそうだ、アルクトゥルスの時が異常だっただけで普通昔の友が訪ねてきたらこうやって迎えを寄越すのが常識だよな…何を警戒していたんだ私は

「案内をしてくれるのか、それはありがたいな 私達もフォーマルハウトに用があって来たんだ、そこまで案内してくれるか?」

「ええもちろん、フォーマルハウト様もレグルス様に会いたいと待ち焦がれております、さぁどうぞこちらへ、このグロリアーナが主の名にかけてお二人をご案内いたしましょう」

そうか…そうかそうか、フォーマルハウトの奴 私に会いたがっていたか、それはなんだか嬉しいな…もうアルクトゥルスの時みたいにあからさまな敵意を向けられるのはごめんだ、もしかしたら今回は穏便に済むかもしれないな

「ありがとうございます、グロリアーナさん!」

「いえいえ、我が主の手となり足となり動くことが我が幸せなので」

なんてほくそ笑んでいるとグロリアーナが手を挙げ踵を返しデルセクトへ向かっていく、案内してくれるのだろう…よし、彼女の先導に沿って 取り敢えず進むか

グロリアーナが手を払うと 門の周りで屯していた兵士達がズラリと並んで道を開ける、この国の軍部のトップたるグロリアーナがいれば申請もクソもない ということか、いやありがたい…

彼女が開けてくれた道を馬車を弾きながらカラカラと進めば 岩の壁と巨大な門が頭上を着々と通過していく、だんだんと空気が 周囲を漂う魔力が変わっていき、ホーラック特有の穏やかな気配は消え去り…そして




「っ…この感じ、魔女の加護!」

エリスが声を上げる、ああ この肩に透明な何かがのしかかるような 薄い膜が体を覆うような言い知れない感覚、アルクカースでも味わったものと同じ…魔女の支配する領域へと入り込んだ時の感覚だ

但し、…目の前に広がってくる景色はアルクカースの物とは違う、アジメクとも違う 今まで見たどの景色にも該当しない、そうだ…目に入り込んできた光景は…………



「ま 街?っていうかなんですかこの街!建築法から何から 全部違います!」

門の内側に広がっていたのは見たことのない形の街だった

一言で言うなら絢爛、鉄で出来た柱を中心に作られた岩の外壁には美しい塗装がなされており、何より目を引くのは至る所で音を立て動く鉄の歯車…蒸気をあげあちこちで忙しなく動く歯車はあちこちで様々な機関を人の手を借りずに動かしている…

…なんだこれは、何が何やら見当も付かん…

「デルセクトへ入るのは初めてでしたね、これは我が国の技術…蒸気機関でございます」

「蒸気だと?、あんなもので物が動かせるのか?」

「ええ、らしいですよ 私も詳しいことはわかりかねますが…蒸気で発生する熱のエネルギーをどうたらこうたらと頭のいい学者が語っていた気がします」

「熱を…蒸気を…、ううむ 私の時代からしたら考えられん仕組みだ」

いや、そう言えば蒸気で動くものが全くなかったわけではない…吹き出る蒸気の勢いを利用してくるくる回る歯車を大昔見たことがある、オモチャの域を出ないものでとてもエネルギー利用なんて出来そうもないものだったが…

ああいや、ここで気にするべきはそこではない…重要なのは

「…そんな技術、他国では微塵も見なかったぞ…何故この国だけここまで技術が発展している、何より 何故他の国にはこの技術が伝播していない」

「…魔女は …この世を統治するにあたって 人類の技術発展を抑えていると言う話は聞いたことがありますか?」

「あ…ああ、聞いたことがある」

「この国では…それを抑えられなかったのです」

抑えられなかったって、そんな軽い話があるか…

「デルセクトは兎に角商業が盛んな国でしてね、その商業の発展には技術の発展もまた不可欠、…商業が盛り上がるに連れ魔女フォーマルハウト様の意志に反しこの国はどんどん技術力を発展させていき 曰く気がついたらこうなっていたとか…既に数十年前からこの国はこんな状態です」

数十年も…、確かに言われてみればいくら魔女とは言えたった一人で大国全てをコントロールしきるのは不可能と言っていい、いくら技術の発展抑えたくとも進化するのは人の定め それはいくら魔女でも完全に止めることはできない

それにそもそも我々の時代から既に八千年も経っているのだ…、八千年だぞ八千年!本当だったらこの蒸気機関なんかとっくに卒業して更に別の高度な技術を手に入れていてもおかしくないくらい時間が経っている筈なんだ…

「だが他の国には何故行き渡っていない」

「んー、この技術を売るより この技術で作ったものを売った方が儲かるから…でしょうか?、一応他の国にも蒸気機関は売っているのですよ?、上手く浸透していないのか全く生かされていませんがね…アルクカース人なんかは仕組みが理解できないので触りもしませんし」

なるほど、確かにみんなが作れるよりデルセクトだけが作れる状態の方が儲かるしな、つまりデルセクトの技術の独占状態か…国ごとに技術力にあまり差がつきすぎるのは如何なものかと思うが…

ともあれ、デルセクトはこういう国…ということなのだろう、莫大な金とそれによって作られた圧倒的技術 それがこの国の武器なんだ

「…ふふふ、気に入っていただけましたか?この国は」

「いいや、やはり慣れないものに囲まれると居心地が悪い…なにぶん古い人間なものでな、木と土が見えないと落ち着かんのだ」

「過去を懐かしむご老人のようなことを言われるのですね魔女様は…ですが、魔女様のよく知るかつての世界は徐々に変容しつつあるのです、いずれ放っておいても世界中にこの技術は蔓延し 更なる技術が生まれ、いずれ魔術は廃れてしまうでしょうね」

「魔を極めた者としてはあまり考えたくない未来だな」

…だがあり得る話だ、いくら魔女が抑え込んでもやはり人の進化は止められない、いつかこの技術は魔術を超え…魔女さえも超越する日が来てしまうだろう、魔女を超える それこそ国を一撃で吹き飛ばすような兵器が飛び交う未来か…想像したくないな

いきなり目に飛び込んできた未知の技術に嫌悪感と恐怖を示す私と違い エリスは目をキラキラと輝かせて周りを見ていた、…やはり魔女は時代遅れなのだろうか

「では行きましょうか、ああ 馬車はそこで降りてくださいね …もっと早い乗り物をご用意しておりますので、馬車の方は私が部下に命じてキチンと預からせていただきますのでご安心を」

するとグロリアーナはここで馬車を降りろというのだ、もっと早い乗り物…ああなんとなくわかった アレか、アレに乗るのか…まぁいい グロリアーナが責任を持って馬車を守ると言ってくれているのだ、ならここはお言葉に甘えようじゃないか

「分かった、…エリス 馬車を降りるぞ?、多分だがしばらくは戻ってこれないから 持っていくものはしっかり持って行きなさい」

「へ?…あ!はい!、えっと 紙とペンと筒と…お財布とナイフとハンカチ…えっと、あとは」

この国の見慣れない技術に目を輝かせるエリスに声をかけて出発の準備をさせる、恐らくだがここにはデルセクトでの要件を終えるまで戻っては来れないだろうしな、必要そうな物は事前に持って行くに限る

「準備できました!、師匠!」

「ん、ならいくか…グロリアーナ、頼むよ」

「ええ、では行きましょうか…我らがデルセクトが誇る渾身の技術により作られた最新鋭の乗り物、蒸気機関車へご案内しますよ」

………………………………………………………………

そして我々は馬車をグロリアーナの部下に預け 徒歩で歩き出すこと数十分、彼女の案内であちこちに上記立ち込める鉄の街を進み とある場所に案内される…、それは駅という場所らしく我々の為に『ソイツ』を貸し切ってくれたらしい

ソイツ…とは何かだって?、いやぁ私も事前に見ていたからなんとなく何に乗せられるかは予想できていたが、まさかこんなに早く乗ることになるとは…何?勿体ぶらず言えと?、ならば言おう 我々がグロリアーナの案内で乗せられたのは『汽車』だ

そうだ、あの煙を吐き出しながら猛烈な勢いで進む例の鉄の乗り物 それを丸々一つ貸し切ってくれて用意してくれていたらしく、我々はその荷台へと乗せられたのだ

「ふぉぉーーーっ!、凄いです凄いです!本物です!本物!これが汽車って言うんですね!」

エリスはぴょんぴょこ飛び回りながら汽車の中を走り回る、良質な木で作られた荷台はまるで一級品のログハウスのように出来が良く、設置された椅子もまるで尻に吸い付くかのように柔らかい

「おいおい、エリス あまりはしゃぐな…みっともないぞ」

「はははは、良いではありませんかレグルス様、彼女も子供…新しいものを目の前にした時の興奮は抑えられないものです」

そう言いながら私とグロリアーナは共に共に向かい合うように座る…この荷台 、荷台のくせに個室があり、テーブルまで付いている、まさに動く家だな

「しかし豪華な荷台だな…これで旅をするのは快適そうだ」

「荷台ではなく客室ですよ、如何ですか?レグルス様 我らがデルセクトが誇る最新鋭の汽車『ブラックオニキス号』の乗り心地は」

「ああ、素晴らしいよ こう…技術の発展を肌で感じるとやはりいい気分になるな」

ふかふかのクッションと居心地のいい個室、仄かに漂う木の香りと窓の外を見ながら快適に移動できる 大量の食料もいらない 旅の知識もいらない、汽車があれば着の身着のまま何処へでもいける、こんなものが世界中に普及した暁には国境なんてなくなってしまうんじゃないのか?

「まだこれも作られたばかりの技術なので発展の余地はありますがね、フォーマルハウト様もこれはかなり気に入っているようなので、これからどんどん進化して行くでしょう」

「もうすでにかなり凄い気もするが…む、そろそろ動くか?」

なんて話をしていると、出発の準備が整ったのか例の甲高い音…グロリアーナ曰く汽笛が鳴り響き、ガタゴトと音を立てて汽車は走り出す…なんて言っている間に汽車のスピードは軌道に乗り 瞬く間に風のような速度で移動を始める

「ふぁぁあーーー!師匠みてください見てください外を!凄いスピードで走ってますよ!便利ですね!汽車って!」

「エリス…いくら貸切だからって、騒ぐじゃない グロリアーナだっているのだから」

「いいですよ、我らの国の技術を褒められるのは悪い気はしませんから」

めまぐるしい速度で変わって行く窓の外の景色を見て、エリスは叫び声を上げて興奮する、見慣れないものを見るのはやはり楽しいのか、無邪気に喜ぶエリスを見てグロリアーナもまた思わず微笑んでいる

「さて、いくらこの汽車が速いとはいえ 中央都市のミールニアに着くには七日もかかってしまいますので、それまでどうかごゆるりとお休みください、奥の方にはベッドもございますし 食事もまた最高級の物をご用意していますので、お楽しみください」

七日か…国境から中央都市に着くのにたった三日とは凄まじい速度だ、馬車なら何週間もの時間を覚悟せねばならない道乗りだと言うのに

「いや、何から何まですまないな…君の案内のおかげでいち早くフォーマルハウトに会えそうだ、こんな大層なものまで用意してくれて」

「魔女様は最上級の来賓ですので、全霊を尽くしてご案内するとは当たり前のことですよ」

「そうか、……?」

しかし、なんというかこのグロリアーナという女性、不思議な女性だ…笑ったり真面目な顔をしたり、表情は豊かに変わるというのにまるで心が揺らいでいるようには見えない、まるで心と体を切り離して動いているような…不思議な感覚を得る

「…………」

なんて思っていると、グロリアーナの方も私の顔をじっと見つめてくる、声をかけるわけでもなく 黙って私の顔をジーっと見つめて…

「あ あの、私の顔に何かついてるのか?…ジッと見つめて」

「…美しいですね、レグルス様」

「はぁっ!?」

い いきなり何を言い出すんだこいつは!?、思わず手で顔を隠してしまうが相手は御構い無しに私を見つめてくる、くそ…急にそんなことを言われると…耳まで熱い、いきなりなんだというのだ

「なんだ急に!」

「いえ、遠視の魔眼では顔の細部まではわかりませんでしたが、芸術的だ…これが自然の手によって生み出されたと思えば思うほど驚嘆するばかりです、正に大地から削り出された光輝なる宝石のようだ」

この目鼻立ち 口元 汚れのない肌 全てが美しいと私の頬に触れ呟くグロリアーナ、な なんだ私は今口説かれているのか、この女に私は口説かれているのか!

「その美しい顔で…我が主の心さえも誘惑するのですね、貴方は」

「はぁ?、誘惑?するわけがないだろうが…そんなもの」

「…すみません、私は…我が主が心を砕く存在を前にすると嫉妬を抑えられない醜く愚かな存在でして、ああ 我が主の友を前にこのようなはしたないことを…、我が主の寵愛を受ける者として情けない」

ため息とともに、窓の外へ目を向けるグロリアーナ、その姿は正に深窓の令嬢…いや憂いの女騎士か、なるほどこいつは普段からフォーマルハウトに可愛がられているのだ…そこにかつての友人が来て 大好きな主の目が私に向き、嫉妬してしまったと

なんだ、固くて真面目そうな奴だと思ったら案外可愛らしい奴じゃないか

「お詫びに、と言ってはなんですか 良いものをお見せしましょう、この国随一の宝…フォーマルハウト様がお認めになった至高の美術品をお見せします」

「ほう?、なんだ?至高の宝?面白そうだな」

「はい、所で私の『黒曜』という名の由来なんだと思いますか?」

なんだ急に、その話が至高の宝とどんな関係が?、いや黒曜といえば黒曜石か、はるか古には武器として用いられた事もある石で 、その光を飲み込むような黒は多くの人々を魅了する…そう、例えばグロリアーナの黒く綺麗な髪のような

「黒曜の由来…お前の美しい髪色を黒曜石に擬えたもの…とかか?」

「それもありますが、少し違います…フォーマルハウト様が私を黒曜と呼ぶ理由、それは」

「うんうん、それは…っておいなんで鎧を外してるんだ、おい聞け話を」

パチパチと鎧の金具を外しベルトを抜いていく、ガシャガシャと音を立て床に彼女の黄金の鎧が転がり瞬く間に彼女は内側に消えいたシャツ一枚になる、早い 脱ぐまでの手際が良すぎて止めるタイミングが掴めなかった…というか何故脱いだ

「そう、それではご覧ください…これが至上の黒曜 栄光の魔女も愛した…」

そういうと彼女はワイシャツの襟に手をかけ…っておい!まさか!

「至高の…玉肌ァァァアーーーーッッツ!!!」

「ぬ ぬ ぬ 脱ぐなぁぁーーっっっ!!!????」

勢いよく、服を脱ぎ一糸纏わぬ姿となるグロリアーナ…っていうか何故!何故今!何故今脱いだ!、何を見せられているんだ私は!?

「これがフォーマルハウト様自慢の美術品たる…私です!」

「急に狂うな!、何上半身裸で自慢げなんだお前は!」

「ご覧くださいこの右胸の下にあるホクロを、フォーマルハウト様はこれを指して私を黒曜と…」

「知るか!死ぬほどくだらん理由じゃないか!」

「くだらなくありません!みてください!この光を反射し淡く光る我がホクロ!」

「胸を押し付けるなぁーっ!!」

グロリアーナは生暖かい胸をぐいぐい私に押し付けと押し付けてくる、頭のお固い軍人だと思ったら頭のおかしい変人だった…、なんだ デルセクト人はみんなこんな変な奴なのか!?

「そんなこと仰らずに、こんな美しい肌はなかなか見られませ…あぁぁっっ!?!?なんですかあれは!!??」

するといきなり顔を真っ青にしてグロリアーナは窓の外を指差し叫び声をあげる、なんだ!?何か緊急事態でも起こったのか!?、私も慌てて窓の外へと目を向けるが…

「なっ!?どうした!?…って何もないじゃないか」

「…ああ、すみません なんだか物凄く美しい何かが見えたと思い取り乱しましたが…窓に映った私でした、美しすぎて度肝抜いてしまいましたすみません」

……なんだこいつ、フォーマルハウト何でこんな変な奴側に置いてるんだ…それともフォーマルハウトのそばに居たからこんなおかしくなったのか?…分からん

「ああ、美しい…窓の外の景色と相まって、窓に映る私…美しい…、ああどこを切り取っても…美しい、え?絵画?…ああ私か」

グロリアーナはうっとりとした表情で窓に映る自分を眺めてポーズを取っている、頭が痛くなってきた 、こいつはあれだ 自分の美しさを信じて疑わないタイプ…クレアとは別ベクトルで謎の自信に溢れているタイプだ、それでいて本当にその裸体は美しいのだからなおタチが悪い

「……とりあえず落ち着いたらどうだ?」

「おっと、すみません…私としたことが、己の美しさに少々取り乱しました」

「取り乱したというよりは錯乱だぞ、というか待て 何故ズボンにまで手をかける」

「いえ、第二の黒曜をご覧にいれようかと」

「いれんでいい!服を着ろ!」

「師匠!さっきから大声をあげどうされたんですか?」

「エリス!見るな!教育に悪い!」

音を聞きつけて私達の方に走ってくるエリスの目を押さえあの変態を出来る限り視界に入れないようにする、情操教育に悪影響だ…もしコイツに影響されてエリスが事あるごとに外で脱ぐような女になったらえらい事だ

エリスの目を隠しながらグロリアーナに服を叩きつけ着替えさせる、おいグロリアーナその『照れちゃって…』みたいな顔やめろ!、今さっき会ったばかりの女の乳首見せられる気持ちにもなれお前!

……………………………………………………


…その後、私とエリスとグロリアーナは三日間 同じ汽車の中で生活することとなった…、グロリアーナという女の本質を見たからか当初は不安だったが、その不安とは裏腹にグロリアーナは真面目な人物だった…いやまぁしっかりした人ではあるのは分かってるんだがな?

「おや?、エリスさん修行ですか?」

「はい、汽車の中でも出来ることはやっておかないと気が済まないので、私に何かお手伝いできることはありますか?」

グロリアーナはエリスの面倒をよく見てくれる、私達に不自由がないよう努めて尽くしてくれる、あれが欲しければあれをくれる これが必要ならこれを用意してくれる、口に出す前に動けるあたり 普段からフォーマルハウトの側でアイツに尽くしているという事実が伺える

それに、抜いだのは最初の一回こっきりで それ以降は常に鎧を身に纏っているのだ何故脱がないのかと訳の分からん質問をしてみたところ

『私の裸体は魔女様の為にある至高の芸術、中々お目にかかれないからこそ至高たり得るのです、…あまり見せつけては価値が下がってしまいます故 、申し訳ありません』

謝られた、いやなら最初から脱ぐなよ…と思ったが 彼女はきっと善意十割で裸体を見せてくれたのだろうな、なおタチが悪いわ…

「でしたら…えっと、グロリアーナさんって魔術とか剣術とかって使えますか?」

「魔術 剣術 算術 武術 学術 処世術、凡そ術と付くものは全て極めております」

「凄いですね!、なら…そうだなぁ なんでもできるなら…うん!エリスが魔力球を動かすのでそれを魔力を纏った手で捕まえてください、エリスはそれから必死に逃げるので」

「ほうほう、対人戦闘を想定し敵の動きに合わせ魔力を動かす修行ですね、分かりました やってみましょう」

そしてやはりというかなんというか、かなりの使い手だ…時々見せる所作は達人のそれだ、なんの達人って…多分全てのだ、彼女の言った通り 彼女は剣を使っても魔術を使っても頭を使っても 凡そ全ての人々を凌駕する、…『完全』 あるいは『完璧』と形容すべき存在 魔女大国の頂点たり得る女

エリスのやっている修行を一目でその本質を見抜き、修行を手伝ってくれている 初見の修行 初体験の修行のはずなのに、的確に把握しサポートしている…大した傑物だ、あの若さで魔女大国の頂点に上り詰めるだけはある

「では行きます…はぁっ!」

エリスが空中で十の魔力球を出す、それはエリスの周りを高速でクルクルと回転しグロリアーナから逃げるように動く…が

「素晴らしい速度ですね、その歳でその魔力制御力、流石は魔女の弟子といったところですか」

その全てを二秒程で捉え 手ではたき落とし消し去ってしまう、口では讃えつつもエリスの相手など造作もない と言ったところか、エリスもアルクカースで強くなりはしたが、流石にグロリアーナ級にはまだまだ及ばないな

「あわわ…一瞬で」

「では次はエリス様がギリギリ対応できるスピードで動きますので、エリス様は先程と同じように全力で魔力を動かしてくださいね」

「あ…はい!」

そして一瞬でエリスの力量を把握しそれに合わせて彼女もまた動く、…彼女なら私とさえ張りあえるかもしれんな、脱がなければ完璧な女だ

「くっ…ぅぅ!速い」

「はははは、エリス様は将来有望ですね」

エリスの全力を笑いながら受け止め、エリスが対応できる本当にギリギリのラインで動いている…これはエリスにとってもいい修行になりそうだ

…そして、そんな平和な七日はあっという間に過ぎ去り、我々は目的地であるデルセクト国家同盟群の中心地 アルマース領に存在する中央都市ミールニア 即ち栄光の魔女フォーマルハウトの住まう地に到着することとなった


………………………………………………………………

デルセクト国家同盟群の中には数多の国が存在する 当然だ、アルクカースのように侵略して塗り潰したのではなく飽くまで同盟だからな、内部にも国は存在する

その数多の国の中でもより強大な五つの国があるという…魔女より宝石の名を与えられた五つの国 五つの家 五人の王、それこそが五大王族というらしい…何でこんな話をいきなりしたかだと?

それは今我々がいるここ デルセクト中央都市ミールニアは五大王族の中で最高の力を持つと言われるアルマース王家が統べるアルマース王国の中にあるからだ

いや少し違うな…分かりやすく言うなら アルマース王国 と言う一つの国全体がミールニアと言う街なのだ、つまり中央都市ミールニアは 国家規模のデカさと言うことになる

元々は普通に一つの街程度の大きさだったらしいが、デルセクトの繁栄と共にアルマース王国は力をつけていき、それに伴い中央都市も肥大化…結果国一つが街に飲み込まれると言う異常事態になったらしい

まぁミールニアにはこの同盟の元締めたるフォーマルハウトも住んでいるし 当たり前といえば当たり前か


ミールニアには魔女フォーマルハウトが住んでいる、つまりこの同盟群の中で最も栄えている街ということである、つまり


「ここが、我等がデルセクト国家同盟群最大の都市、ミールニアでございます」

「ここ…が…」

汽車を降り、駅の外で我々を待っていた景色は これまた未知…そして壮観なものであった

ザッと視界に広がる街並みはどれも鉄で出来ており あちこちから歯車が飛び出ている、地面には石レンガ 空には燻る蒸気 そして街の中央にはどデカイ塔が屹立している、そう 言い例えるならばまさしく機械仕掛けの街、技術と財力が溢れる街 それがミールニアなのだ

「凄いな、技術力もそうだが…そこかしこに蒸気機関があるじゃないか」

「ええ、恐らくここは帝国の首都に並んで世界トップクラスの技術力を擁する街ですから」

グロリアーナは自慢げに街並みを私達に見せ微笑む、まぁ確かに蒸気機関は凄いが 少々煙たい、だって所々地面からも湯気が漏れ出ているところがあるんだぞ?、一体地面の下に何があるんだ?

そう思い、足元の石レンガに向け 透視の魔眼を使いその下に何があるのかを視る…いや見てしまったと言うべきか、その地獄を

「なっ…!?」

「師匠?どうされたんですか?地面を見て顔を青くして」

「おや、そういえばレグルス様も透視の魔眼を使えたのでしたね、と言うことは地下を見てしまったのですか…まぁこの件に関しては後程フォーマルハウト様よりお話があると思うので、そちらで…」

足元…地面の下に広がるそれを見て絶句してしまう、なんて街だここは…地上はこんなにも煌びやかなのに…まるで、そう まるで煉獄だこの街は、悪いとは言わんが些か度が過ぎているのではないか?

しかしグロリアーナはこの件に関してはフォーマルハウトに聞けと言う、つまりここで話をするつもりはないのか、…なら 今は『これ』について話すのはやめておこう

「…分かった、ならフォーマルハウトに直接話を聞くとしよう、案内してくれるんだな?」

「はい今直ぐにでも と言いたいところなのですが、我が主フォーマルハウト様は激務に追われておりまして、今日は会えないのです」

ここまで来ておいて待ち惚けか、だがしかしフォーマルハウトはアルクトゥルスと違い真面目な性格だ、目の前に仕事があるならかつての友との再会よりも仕事を優先する奴だ、うん…なら仕方ないか

「わかった、仕事があるなら仕方あるまい …なら我々はどうしたらいい?」

「魔女様を出迎えるためのホテルをご用意してあるので、そちらで一日休んでいただければ 明日にはフォーマルハウト様に会えるかと思われます」

「ホテル…宿だな、分かった 大人しくそこで待つとしよう」

「デルセクトの宿はどんなところなんでしょうか、アジメク アルクカースと色々な宿に泊まりましたが、ここの宿は凄そうですね」

「ええ、とびきりのものを用意してありますよ、ご案内します」

そう言うと彼女はデルセクトの街中を闊歩していくので、我々もそれに続く…しかし凄い街並みだな 歩きながら周囲を見回す、建物の建て方から店構えまで何もかも違う、というか何よりおかしいのがこの街…

「というか、…師匠 なんか…この街、いきなり変じゃありませんか?」

エリスも流石に気がついたから、このミールニアという街 少し歩いただけでも分かる違和感がある、何かって?そりゃあ通行人が…

「グロリアーナ…この街、えらく『従者』が多くないか?」

「え?、そうでしょうか」

街を歩けば通行人とすれ違うのは当たり前のことだ、だが この街を歩く通行人の八割が執事服を着た者やメイド服を着た者 卑しい服を着た従者など 所謂使用人ばかりなのだ、いくらなんでも多すぎるだろ 使用人しか住んでないんじゃないかこの街

「確かに他の国に比べれば多いでしょうね、ここはミールニアの中心地…世界的な富豪ばかりが住む街です、なので雇われている使用人の数も他の街より多いのですよ」

なるほど、確かに金持ちが態々外に出てパンを買ったりしないもんな、外に出て買い物を済ますのは従者の仕事…なら必然外に出る使用人の数もまた多くなる、ということか あっちを見てもこっちを見ても従者ばかり…私たちが浮いて見えるほどだ

「おまけに、物価もえらい高いな…さっきから視界の端に映る店の値札が、ちょっと考えられないくらい高いんだが?」

店の中に目を向ければ、…服にしろ首飾りにしろ 家が一軒買えるんじゃないか?ってくらいの値段をしている、アリアから物価が高いとは聞いていたが…まさかこれほどとは

「まぁ、住んでいる人達がその分お金持ちばかりなので、その分品質は世界最高クラスですよ…ほら、あそこにあるのはデルセクト随一の味と値段を誇るレストランです、値は張りますが この世の珍味美味を全て味わえる良い店ですよ」

そう言って指差す先には大理石で作られた綺麗なレストランがある、…だが中で食事をしているのは皆見るからに貴族です!って感じのやつらばかりだ、高いんだろうなぁ 物価の高いデルセクトでも値が張ると言われているんだ…

「一食いくらくらいだ?」

「そうですね、大体一食で金貨2枚」

「金貨2枚!?」

アジメクでの一食が銀貨10枚前後、金貨は銀貨100枚分だから…一食アジメクでの食事の20倍のお値段か…頭がクラクラしてきた、確かに我々も金は持っているが こんなところで食事していたら1ヶ月もしないうちに資金が底をついてしまうだろう

「…………」

「ん?、エリス 何をレストランの方を見ているんだ?…た 食べたいのか?あそこで、いや無理とは言わないぞ、ただ出来るなら他のところにしないか?」

例のレストランの方をジッと見ているエリスを見てちょっとワタワタする、いや分かるぞ?高いご飯がどれだけ美味しいのか気になるよな?、でも我々にはあんまり金銭的余裕はないんだ 食べるならまた今度にしよう?な? とエリスを説得していると…

「いいえ師匠違います、あそこ見てください…」

「あそこ?…」

そう言ってエリスが指差すのは、レストランの脇…路地裏のような場所だ、何があるというんだ?、あ いや…人がいる、店から出てきた店員と思わしき者が使い終わったものであろう食材を地面の穴に向けて捨てているのだ、それも大量に…

「あそこで捨てられてる食材はどれもまだ食べられる物ばかりです、もったいないです あれは」

確かに店員の捨てている物は腐った食材とかではなく、まだ瑞々しい野菜や肉ばかりだ…確かにもったいないな

「デルセクトの一流の店ではああやって料理の品質を高めているのです、一度出汁を取ったものはすぐに捨てますし、肉や野菜も美味しいところ以外は決して使いません、そうすることで 一級品とも言える品質を保っているのです」

とグロリアーナは説明してくれる、まぁ…そういうやり方もあるだろうが、一流の料理人ならどんなものでも美味しく出すものではないか?、そう思うのは私が料理などしない素人だからだろうか…

何にしても私は料理に関しては門外漢だ、料理をよく知らない人間が偉そうにレストランのやり口に文句をつけるなんてみっともない真似はしない、が…どうやらエリスはあまり納得していないようだ

「ほらエリス、いつまでも見ているな、行くぞ」

「…はい、師匠」

「ホテルももうすぐですし、そちらの方でお夕食の方も用意してあります、どうぞこちらに」

少し怪訝そうな顔をしているエリスの手を引き、グロリアーナについていく この街にはこの街の価値観がある、郷に入っては郷に従うのが旅の基本だ…デルセクトにはデルセクトのやり方があるのだ そうエリスに言い聞かせながらこの機械仕掛けの街を行く


そして、グロリアーナの案内により我々は彼女のいうホテルに案内された

エリスのいうとおり、我々はアジメクでもアルクカースでも、宿を活動の拠点としていたことから、こう言った場所を活動の拠点にするのは慣れている、がしかしやはりというかなんというか デルセクトは格が違った

…上を見る、輝くシャンデリア

…下を見る、真っ赤なカーペット

…左右を見れば、光を受けて黄金に輝く豪奢な壁

正面を見れば使用人がズラリピシリと部屋の奥に並び我々を出迎えている、え?ここ宿?え?なんかの間違いじゃない?城じゃんもうこの内装は

「如何ですか、魔女様の為に一流も一流 超一流のホテルを貸し切らせていただきましたが、ご満足頂けましたか?」

「…いや…満足とか…」

「はぇ~~…」

エリスも私ももう唖然だ、この国が豪華な国であることは理解していたが、もうここは世界が違う、アジメクやアルクカースの宿だって安宿を使っていたわけじゃないというのに、…こんなこと言うのは悪いが 質そのもののレベルが違う

「こちらのホテルはデルセクトが国賓をもてなす為に作り上げた名をホテル『ブラックオルロフ』、働く使用人は皆護衛も給仕も万全にこなせるよう訓練を積んだプロのみを雇い、シェフも皆 各国の王宮で働いていた者を引き抜き雇っております、部屋も世界中から腕のいい職人だけを集め デザインもあの有名なデザイナーの…」

「な なぁ、こんなこと聞くのはなんなんだが、普通に泊まろうと思ったら…いくらぐらいするんだ?」

「……そうですね、レストラン一食分の値段に度肝を抜かれている方は聞かない方が心臓の為かと…、それにここは特別な方しか泊まれないホテルですし 何より魔女様からお代は頂きませんよ」

ひぇ…おそろしい、そんなホテルを貸し切りって…エリスその辺に飾ってある壺とかには触るなよ、出来る限り指紋とかもつけるな…もし弁償なんてことになったら我々は身包み剥がされて国を追い出されることになる

「では奥で既に晩餐をご用意してありますので、そちらを堪能して頂いたのち…今日はお休みください、それでは」

「それではって お前とはここでお別れなのか?」

「ええ、私はこの後仕事がありますので」

そりゃそうだ、グロリアーナはこの国の軍部の頂点、本来なら道案内などするべき存在ではないんだ、なんかデイビッドやラグナの時みたいにてっきりずっとついていてくれるもんだとばかり思っていたが…そうか、コイツとは一旦ここでお別れか

「まぁ、だがまた明日会うんだろ?ならまた明日頼むよ」

「…はい、また明日 フォーマルハウト様と共にレグルス様に会うその時を 楽しみにしております、では?…お元気で」

グロリアーナはそう言うと、いつものように微笑み 踵を返す、そう いつも通りのなんてことない所作だったのに、何故か…私はその時 グロリアーナの笑みが、とても不気味なものに映ったのだ

ただこの時、私はそれを深く捉えず 気の所為と流してしまった、…それが痛恨のは 判断ミスの始まりであることに、気がつくこともなく…私はスキップしながら奥へ進むエリスの後を、静かに追うのだった


……………………………………………………………………


テーブルの上にズラリと並べられた料理の数々、これが私とエリスの為だけに用意されたものだと思うと壮観である

「凄い種類の料理ですね…、しかも色々な国の料理があります、これはアジメク風 これはアルクカース風ですよね、この魚料理は見たことないですね」

「それはコルスコルピ風だな、あそこは魚料理が名産だからな…いずれ向かうことになるから、楽しみにしておきなさい」

私とエリスは、ホテルの用意した晩餐に舌鼓を打っていた…料理の種類は豊富であり、エリスの言ったようにアジメク風のサラダやアルクカース風の肉焼き料理、まだ言ったことのない国の料理もある コルスコルピの魚料理 オライオンの小麦パン …そしてこれはエトワールの酒か?、あそこの酒は本当に美味いからな 私も満足だ

「師匠、お酒飲んでいるんですか?…エリスも飲みたいです」

「お前には早い、酒とは大人になってから飲むからこと美味いのだ…もう少し大きくなってから飲めばいい」

「むぅ…分かりました、ではエリスは料理を楽しむとします…師匠!これなんでしょうか!この黒い玉みたいなやつ」

「ん?、ああ…それはえーっと、なんたらってキノコ?だったかなんだったか…」

エリスが今フォークで突いているのはなんかトロトロしたソースのかかった丸い玉だ、確かキノコだったかコケだった気がする、…これはデルセクト風の料理だな、デルセクトは珍味や美味が好きらしく 珍しく手に入りにくい物をよく食べる傾向があるらしい

「美味しいんですか?これ」

「さぁな、食ってみればいい」

「……はむ、…むぐむぐ…なんか 変な味です、歯応えも変だし」

だろうな、デルセクトは値段と希少性が好きなだけで味は二の次だ、そして美味いかどうかもわからん物をこの国の人間は珍味美味と呼び それを食うことを贅沢と呼ぶ

アホらしい…真の贅沢とは美味い酒を飲みながら美味い飯を食うことにあると言うのに、そう思いながらもグラスを傾ける 、いやしかし本当にエトワールの酒は美味い、今からエトワールに向かうのが楽しみになるなこれは

「はふぅ、お腹いっぱいです…師匠」

すると、今の一口で遂にエリスの腹が限界を迎えたのか お腹をポンポン押さえながら息を吐くエリス、既にエリスの周りには空の皿がいくつも重ねられており 高い料理を一口たりとも無駄にしまいという強い意志が感じられる

「もう満腹か?エリス」

「はい、…これ以上食べたらさっきまで食べてたご飯がエリスの口からこんばんわしてしまうので、ここらでやめにして…ふぁ、おきますね」

「眠そうだな、エリス…明日はきっと忙しくなる、早いうちに寝てしまいなさい」

ウトウトと目を擦るエリスを見て、思わず吹き出してしまう…この子はいくつになっても可愛いな、いくら立派になっても この子は私の可愛い弟子のままだ、つい守ってやりたくなる

「師匠は…どうするんですか?」

「ん?私はもう少しこの酒を楽しんでから寝るとするよ、一人で寝れるかい?」

「頑張ります…あふぅ」

エリスの眠気は限界なようで大欠伸をしながら席を立ち用意されたさ部屋へ向かっていく、昔は私と一緒でなければ寝ることさえ出来なかったが 最近は一人でもある程度は寝れるようになってきた、成長は嬉しいが こう…自立していくのを見るのは少し寂しいな

いつかエリスは私を必要としなくなるのだろうか、事実既にエリスは私抜きでもやっていけるくらいには立派だしな

「…師匠?、おやすみなさい」

「ああおやすみ、また明日な」

「はい、また…明日」


それだけ言い残すとエリスは先に部屋へ向かっていく、きっと私が向かう頃には可愛らしく私のベッドの中で丸まって寝ていることだろう…、出来れば いつまでもエリスと一緒にゆっくり寝ていたいな

ああダメだな、酒を飲んでも酔わないはずなのに 今日はやけにセンチメンタルになってしまう、やはり昼間見た技術の進歩を見たせいか…

このまま技術が進歩し続ければ、いつか私達は必要とされなくなるだろう…その必要とされなくなるという事実に直面した時、私はなんだか 一抹の寂しさを…

「ん?…なんだ?」

グラスを傾けながら、外に目を向ける…何か気配を感じる それも物々しい敵意を孕んだ気配だ、明確に…我々を狙う気配、なんだ?いきなりこんな…

「エリスはもう寝たか」

エリスはもう部屋に戻って寝ているだろうな、…外で蠢動する何者かが何かは分からん、だが弟子の安眠を守るためだ、軽く外へ出て 叩きのめしてくるか

酒を飲み干し立ち上がり、扉を乱雑に開けながら外へ向かう…、なんだ?あれだけいたホテルの使用人達が一人としていなくなっている、静かだ あまりにも静か過ぎる…やはり妙だ

「………おい、誰かいるのか?」

ホテルの外に出れば、街はもう宵の闇に包まれていた…右を向いても左を向いても暗闇しか見えないが、…居る 確かに何者かいる、数はおよそ数十 結構な数だ

「今 ホテルの中で弟子が寝ているんだ、用があるなら明日にしてもらえないか」

その私の言葉を受けてか、暗闇の奥から何か音が聞こえる…なんだ?聞きなれない音だ、かちゃかちゃとまるで鍵を開けるような、小さな音…

「ッ……!」

その刹那、暗闇の奥が眩い閃光に包まれると同時に 雷鳴のような砲音が響く、そのどちらもが、私に向けて放たれたもので…



「……鉛玉?、こんなものをいきなり飛ばしてくるなんて随分な挨拶じゃないか?、姿を見せろ!」

咄嗟に虚空に手をやり、爆音の正体 を手で掴む…鉛玉だ、手の中に収まるくらいの小さな鉛玉が、爆裂音と共に音速を超える勢いで私に向けて放たれたのだ…魔術じゃない、しかし私の知る武器によるものではない…これは

「まさか、銃弾を素手で受け止めるとはな」

「はぁ…やはり貴様ら、デルセクトの兵士だな」

すると私を囲んでいたであろう不届き者達が一人二人と闇の中から姿を現す、その特徴的な緑の軍服と見たことのない砲筒のような…恐らく先程の『銃弾』と呼ばれる鉛玉を発射したものであろう武器を構えた兵士達が、私を囲んでいた

…ならず者って風体じゃない、間違いなく デルセクト…この国の兵士達だ

「先に聞いておくが、人違いではない…のだな」

「貴方には、ここで消えていただきます」

ガチャリと音を立て砲筒が全て私に向けられる、つまりそういうことただ、私は 私達はハメられたのだ グロリアーナに、いや フォーマルハウトに、ここに誘き寄せ 始末する為に…くそっ!フォーマルハウト!何を考えているんだ…暴走していたとしてもお前には私を襲う理由はない筈だろう!

「……私を始末するだと?、そのようなオモチャでか?」

「っ!構え!錬金砲術式用意!」

「む?、錬金?…」

すると兵士達の手に持つ武器が、淡い輝きを放つ…錬金?錬金と言ったかこいつら?、なんて警戒している間にも奴らはその引き金を引き…

Alchemicアルケミックflameフレイム!!!」

「ほう、そんな使い方を…!」

撃ってきた、砲筒を …!引き金を引き爆裂する勢いと共に鉛玉を放ってきたのだ、原理としては大砲と同じ、しかしそれを超小型で再現したものなのだろう なるほど凄い武器だ、音速を遥かに上回る勢いで放たれた鉛玉は容易に人体を貫く

もしあれを戦場で使ったなら…従来の剣や槍を使う戦士達は瞬く間に蜂の巣にされるだろう、戦争の形さえ変えかねない最新鋭の兵器 それが奴らの使う武器なのだ

そして特筆すべきはそれだけではない、奴らの放った銃弾…音速を超える速度で私に向けて放たれるそれが、空中で赤熱し そして…

爆裂した、ただの鉛玉が 空中でまるで爆薬でも仕込んでいたかのように炸裂し、周囲を炎で満たしたのだ

「ほう!、なるほど!その武器を使って高速で射出する鉛玉を錬金術を使って作り変え、攻撃に転用したか!面白い錬金術の使い方だ!」

腕の一薙で迫る無数の爆炎を消しとばしながら笑う、見たこともない錬金術の使い方をしてきたのだ 笑うしかない

錬金術とは、石を肉に 水を油に 煤を金に、物質を別の物質へと作り変える魔術体系、フォーマルハウトが最も得意とする魔術だ

ただ言ってしまえば物を作り変えるだけの魔術でしかない為攻撃への転用が難しいとも言われていたのだが、なるほど あの砲筒で素材を打ち出しながら錬金術で鉛玉を別の物に変質させて攻撃に使ったのか、最新鋭の武器と組み合わせ作られた差し詰め『現代錬金術』とでも言おう存在か

…私には効かんがな

「ば 爆炎弾がまるで効かない…!、家だって一撃で焼き尽くすのに、それをこれだけの数ぶつけたってのに…くそ、いやになるぜ」

「怯むな!、我々の任務は変わらん!炎が効かんなら効くものを探せば良い!別の錬金弾を用意しろ!」

自慢の爆炎がまるで効かなかった事に驚く兵士達の中に、一人 気合の入ったのを見かける、青色の髪をした切れ目の女軍人 まだ年若いがその目は確かに戦場に立つ戦士の目で…

「次弾装填!AlchemicアルケミックElectricityエレクトリシティ

「むっ…」

ぼーっとしている間に次弾が来たか、今度は鉛玉が空中で輝き…迸る電流へと変じた、鉛玉を電気に変えたのか?そんなことまで出来るのか…、こればかりは払うわけにはいかん、かと言って防御をするにも面倒だし…

なので避ける、迸り虚空で暴れ狂う電撃の雨の間を縫って飛び、その全てを回避する…音速だろうが光速だろうが雷速だろうが、魔女の速度には敵わん 一瞬で電撃の雨を抜け武器を構える兵士へ肉薄する

「なぁっ!?そんな 電撃まで避けるってそんな…がぼぁあ!?」

「まず一人…」

その勢いのまま鳩尾へ一撃叩き込み、地面へと兵士を一人沈める…未知の武器と未知の魔術運用法に呆気を取られはしたが、所詮は一介の兵士の群れ それにやられる魔女はいない

「くっ!、瞬きの間に距離を詰められたか…散れ!散って奴に銃弾の雨を浴びせろ!、まとまれば一気に持っていかれるぞ!」

しかし青髪の女軍人の判断は早い 接近されたと見るや否や他の兵士に指示を飛ばし散開し始め ここに次々と錬金術の銃弾をあびせかけてくる、判断はいい…だがそれなら魔女に喧嘩を売ると言う愚行そのものを止めるべきだったな

「ヒッ!?もうここまで…がばぁっ!?」

「お おい!今誰がやられ…ぐぶっ!?」

「ダメだ!分が悪すぎる!撤退を…ぎゃばぁっ!?」

彼らは威勢良く闇の中の私を探そうと奮戦する、しかし残念かな 私が奴らに接近した時点でこの戦いは圧倒的に私の優位に傾いた、実力云々じゃない …闇の中 高速で動く相手 どこにいるか連携のとれない味方、撃てるか?さっきの武器を、無理だ 誤射を恐れるあまり如実に射撃頻度が減っている

散開したのは負けない判断としてはいい だが勝つための判断としては悪手だったな


闇の中を飛び回り拳を足を振るい 、こめかみや鳩尾といった急所を打ち抜き 一人…また一人と確実に沈めていく、闇の中で一人づつ仲間が消えていく恐怖はいかに軍人といえど耐えられるものではあるまい、この混乱に乗じてこのまま…

「ッッでりゃあぁぁあああっっ!」

「ん?、さっきの女軍人か?威勢がいいな」

すると私が振り返った瞬間、腰の剣を抜いて突っ込んでくる影が闇に走る…先程の青髪の女軍人か、私の動きを見切り咄嗟に飛んできたのか…思い切りのいい奴め、だがその程度の剣で仕留められるほど私は甘くない…こんなもの軽く防いで、いや…違う!これは!

「剣は囮かっ!?」

腕を上げ振り下ろされる剣を防げば剣はポキリと根元から折れる、が既に女軍人は剣を手放し身を屈ませていた…罠だ、剣での斬撃は防がれることが目的の囮の一撃、
剣を防ぐために手をあげれば必然、私の胴はガラ空きになる…そこを狙っていたのだ

「…Alchemicアルケミックflameフレイム

手を挙げ無防備となった私の腹に グリグリと砲筒の口を零距離で押し付け…そのまま炸裂させれば、零距離で膨れ上がる爆炎に私の体は瞬く間に包まれ…爆ぜる、見事だ 一見捨て身にも見え その実計算づくの一撃、圧倒的なまでの度胸と担力がなせる戦略だ

「ぐぅっ!、…どうだ!デルセクトの軍人の魂を なめんじゃない!」

「すげぇ!メルク!あの化け物を吹っ飛ばしちまいやがった!」

「流石はこの国で実力だけでのし上がった叩き上げは違うな…!」

自らも吹き飛ばされながらも女軍人は吠える、凄まじい気迫だ 何が何でも任務を遂行する、 覚悟が目から滲み出ている…アイツだけ他の軍人達と気合が違う、だが

「いい一撃だったぞ、筋がいい…だが些か火力が足りていないようだな」

効かないものは効かないんだ、魔力で風を作り出し一瞬で我が身を焼く炎を消し去り、彼ら軍人を睨みつける さぁ次はどうするんだと問い詰めるように、悪いが何をしてもお前達の技では私は殺し得ないぞ

「い…今のでも効かないなんて、銃が効かないんじゃもうどうしようも…」

「このままじゃ全滅だ、ど…どうする!」

残った軍人達は慌てふためく、彼らとて素人ではない 素人ではないからこそ分かるのだろう、この戦いが無茶であると…もはや彼らの目には戦意はない、ああいや 一人を除いてだな…例の女軍人 メルクと呼ばれた彼女だけは未だ諦めず私を睨んでいる

「狼狽えるな!、我らは誇り高きデルセクトの軍人だ!、敵がいくら強くとも責務は放り投げない!」

武器を掲げながら周りを鼓舞する、だがなメルクよ お前は今自分がやっていることと言っていることが乖離していることに気がついていないのか?

「誇りか、…おいお前達 この戦いのどこに誇りがある?」

「…なんだと」

「騙し謀り 寝込みを襲い 闇夜に紛れて不意を突き、大勢で囲んで罪も犯していない民間人一人を殺そうとする…この戦いのどこに誇りがあるかと聞いているのだ!」

「っ…私とて望んでやっているわけでは…」

私の言葉を受け、メルクは言い淀む…彼女自身今自分がやっていることが軍人のやることではないと理解しているのだろう、これじゃあまるで殺し屋だ そこを突かれて苦虫を噛み潰したように顔を歪める

「お前達の主は栄光の魔女フォーマルハウトだろう、誇りも栄光もなく戦って…それでも貴様らはまだデルセクトの軍人を名乗れるのか?、恥を知れ」

「私は…私は、…ぐっ…」

何かを言い返そうとするも言葉が出てこず 瞑目して武器を下げてしまうメルク…彼女はきっと、高潔な人物なのだろう 栄光も誇りも捨てて非道に走れる人物ではないのだ、それでもその感情を押し殺してまで任務に殉ずる…そう、どこまでも真面目なんだろうな この子は

「もし、自分の行いを恥じるのなら 、誇りを口にするのなら…誰よりも高潔であれ、非道になんぞ手を染めるな、例えそれが任務でもな」

「……非道…この私が…」

己の行いを再認識し遂に戦意を喪失したメルクを見て、ホッと一息つく …いきなり奇襲を食らった時は何事かと慌てたものだがなんとかこの場は収められたか?、もはや周りの兵士達も戦う気は無いみたいだし

後はこの一件の黒幕、いや恐らく黒幕はグロリアーナだろうな…彼女を見つけ問い詰めるだけだ 何を企み我々を騙し、刺客を差し向けるなんて真似をしたのかを……

そこまで考えて、少し違和感を感じる…グロリアーナは完璧な女傑だ、その知略もまた一級品のはず、私達を騙し寝込みを襲わせる手練手管は見事だが…その始末を任せるのが一介の軍人ってのは少しおかしくないか?

私が魔女であることはアイツもわかってるはず、この程度の戦力で私を倒せないことも含めて…なんだ、何が狙いなんだ…?

まぁいい それもこれもコイツらに聞く、口を閉ざすなら魔術を使ってでも無理矢理聞いて…

「おい、お前たち…」

そう思い、メルクの方に目を向けた瞬間 気がつく

「…しまっ!?」

あまりの驚愕に 声をあげ、目を見開いてしまう、それを…絶対に見てはいけないそれを 目にしてしまう

それは 赤だ、闇の中でなお輝く赤い紅い双つの輝き、まさしく怪物の双眸の如き輝きが煌めき…その光を見た私の瞳を真っ直ぐ射抜く

この輝きには見覚えがある、この魔術には覚えがある…これは これを使えるのは、この世でただ一人…!

「フォー…マル…ハウト…ッッ!!」

「フフフフ…アハハハ」

闇の中から紅い目を輝かせて現れたのは、この国を統べる存在にして この世を管理する絶対者の一人…私の古き友、栄光の魔女フォーマルハウトであった、全く到来を予期していなかった魔女の出現に思わず不意を突かれた

やってしまった、…一番やってはいけないことを…『フォーマルハウトの目を見て』しまった…!

「何故…貴様が…こ…ここに…」

「貴方を迎えに来たのですよ、レグルス?」

ゆったりと 近づいてくるフォーマルハウトを前に私は何も出来ない、動こうとしても体が動かないのだ、まるで私の体が石にでもなってしまったかのように動きが緩慢になる、いや違う…私は今…

「くっ…」

チラリと指先を見れば、指先がパキパキと音を立て凍りつくように石に変わっていく、…フォーマルハウトの目を見てしまった所為で 今私は 石化しているんだ

栄光の魔女フォーマルハウトは卓越した錬金術の使い手であると同時に、超絶した魔眼の使い手でもある、その魔眼は目で見ただけで魔術を 錬金術を発動させられる…

そうだ、錬金術だ 石を肉に 水を油に 煤を金に変える錬金術、逆説的に言えばそれは金を煤に変えられ 油を水に変えられ…肉を…石にすることができる

「ぐっ!…くそっ…体が動かん…!」

そうだ、コイツは目で見ただけで相手を石塊に変えることが出来る…故にフォーマルハウトは初見殺し 一撃必殺の名を持つのだ、そして私はその一撃必殺をこの目で受け止めてしまった…もはや逃れる術も防ぐ術もない、完全なる詰みだ

体が、石に変えられていく…私自身の体の石化を止めることが出来ない、いくら魔力を放ってもまるで意味などなく、やがて手は石になり腕が灰色に染まり…足が…

「無駄ですわよレグルス、一度発動してしまった錬金は 例え貴方でも抗うことは出来ない、わたくしと目を合わせた時点で 貴方の運命は決まりました」

「何故…だ、フォーマルハウト…何故…私を…」

「先程も仰ったじゃないありませんの、わたくしは貴方を迎えに来た…彫像に変え 我がコレクションに加える為に」

何を馬鹿な事を そう言いかけた気がつく、フォーマルハウトの瞳が アルクトゥルスのように いやそれ以上の狂気に包まれていることに、やはりフォーマルハウトも暴走している

「わた…しを…コレクションだ…と…」

「ええ、魔女はこの世でも随一の美しさを持つ生命体、それを材料に作った彫像など 贅沢の極みと言えるでしょう?…ああ、わたくしは欲しくて欲しくて堪らないのです、この世の全てが…!国も 金も 魔女さえも!、わたくしはこの手中に収めねば気が済まないのですわ!」

アルクトゥルス同様…己を失うほどに 栄光も誇りも失うほどに、フォーマルハウトは狂っていた、何を得ても飽きたらぬ 渇望…多くのものを求め続けたが故に欲の箍が外れ、国全体を覆うほどに肥大化した欲望が…遂にかつて友さえも求め始めたのだ 歪な形で

「手始めは貴方からです、そして次はアルクトゥルス…スピカ…アンタレスと続いて、プロキオンもリゲルもカノープスも、皆石にして我が寝室に飾ってあげますわ、八人がまた揃いますわねぇレグルス」

「フォーマル…ハウト…、貴様は…これでいいのか…それでいいのか、お前の中の栄光はどこへ行った…誇りは捨てたのか、…闇討ちなど …お前が最も忌避する行為だったじゃないか」

コイツは…栄光の魔女は、栄光を重んじる性格だったはずだ、戦い時は正面から 挑む時は堂々と、非道を嫌い正道を行く…そんな女が 囮で使って不意を突くなど…

「これもわたくしの栄光の為ですわ、わたくし一人が輝き讃えられる栄光の為の…」

「やはり貴様…暴走…して、あぐぅっ!?」

「何を言ってももう無駄、レグルス…貴方はもうわたくしのコレクションなのですから」

もう…首の下まで石になってしまった、動く事は当然、魔術も使えない…私は今只の石になりつつあるのだ、魔女ではなくただの石…石に魔術は使えないからな、マズいことになった 本当にどうしようもない

すまん…エリス…、お前だけでも何とか逃げてくれ…

「ああ、苦悶の顔で石になんてならないでくださいませ…かつてのように微笑みかけて…レグルス」

「ぁ…っ…ぅ………………」


フォーマルハウトに顔を撫でられ口が石に 鼻が石に…耳が 髪が…そして、軈てこの目さえも石となり、私は…魔女レグルスという存在は 魂も含め完全に石化し、その意識と魂は固い石像へと変わって…その動きを止めた……………………



「やっと石になりましたわね、ああ…なんと美しい彫像なのでしょう 一流の彫刻家を呼んでも決して作り得ぬ至高の芸術 究極の美術、この栄光の魔女の手元にあるにふさわしき美しさ!、この胸の渇きが満たされるのを感じますわ」

灰色に染まり 動かなくなったレグルスの頬を撫でフォーマルハウトは狂笑する、完全に石化し美しい石像になってしまったレグルスは何も言わず 何も言えず、ただ在るが儘に在る…魔女の錬金術を持って石化したのだ 魔の深淵と呼ばれたかの孤独の魔女といえど抗うことはできない

「ああ…早く宮殿に運んで愛でたいですわ…、お前達 これを翡翠の塔へ運びなさい、毛先の一欠片でも傷つけたら炭に変えますのでご注意を?」

「は…はっ!、かしこまりました!!」

「おい!早く持ちあげろ!」

「ば…ばか!もっと慎重に、傷つけたらどうなるか…っと重ッ!?」

フォーマルハウトの言葉を受けて周りの兵士達が動き出す、事前に用意しておいた台車にレグルスの石像を慎重に持ち上げ移動させていく、もうこの時点でこの石像はフォーマルハウト様の持ち物だ、それを傷つけたとあればどんな極刑を言い渡されても文句は言えない

ただそんな中動かぬ兵士がただ一人、青い髪を揺らす レグルスと最後まで対峙していた女軍人 メルクと呼ばれる者だ

「……貴方、名はなんと申しますの?」

「ハッ!、連合軍銃士隊所属 メルクリウスと申します」

「貴方が最後まで粘ってその注意を引きつけてくれたおかげでレグルスを手に入れることができましたわ、…囮の任務を果たしたとして褒賞は弾みましょう、まずは …ほら賞与です受け取りなさい」

そう言いながらフォーマルハウトはメルクの足元に麻袋を投げつける、すると中から金貨が溢れ 月光を跳ね返しキラキラとメルクの頬を照らす

「グッ…うぅ……ありがとう…ございます」

膝をつき、泣き崩れながら金貨を拾うメルク、それは喜びの感涙ではない 賞与への感謝の言葉ではない、ただ…ただただ今の己の姿が、あまりにも…

「このホテルの中には、魔女レグルスの弟子がいるようですが、如何にしますか」

「わたくしが興味があるのはレグルスだけ、好きになさい 任せますわ」

運ばれていき 闇の中へ消えたレグルスの石像を見てフォーマルハウトはそう事もなしげにそう言い放つと、メルクを置いて立ち去っていき…後には、ただただ呆然と膝をつくメルクだけが残された

「好きに…任せる…か、…っ!」

決意を秘めた表情で 金貨を握りしめ、立ち上がる…その背には確かに、決意と激しい怒りを燻らせていた


そして、一夜の動乱は静寂に飲まれ消え、この日…この夜 魔女レグルスという存在 その全ては、栄光の魔女フォーマルハウトによって収集されることとなり、一人の魔女が闇へと消えた…


……………………………………………………

エリスは最初 デルセクトをとても楽しい国だと思いました、見たことのない技術 見たことのない物に溢れていて、師匠と一緒にこの国を回れるなんて 楽しいことなのでしょうと思いワクワクしていました

でもその印象は直ぐに変わります、なんだか 息苦しい国ですこの国は…道行く人は皆従者で 騒がしくも活気がなく、店の人達もお客ではなくエリス達の財布を見ていましたし、アルクカースとは別の意味でギラギラした国 それがデルセクトなのだと感じました

…この国で エリスと師匠は、アルクカースとの戦争を止めるために戦わなくてはならない、けれどそれはきっと今までの戦いとは毛色の違うものになるだろうとどこかで察し

そう、昨日は…ホテルでご飯をしこたま食べて…それで部屋に戻ってから直ぐに…

「……きろ、…おい…お……ぃろ」

…声が聞こえる、ああ 師匠か…しまった あれから眠りすぎてしまったようだ、着替えもしないでそのままベッドに飛び込んだからなぁ 師匠怒ってるかな

「起きろ…おいいつまで寝てるんだ!起きろ!」

なんだ…凄く怒ってるな、…というか体が痛い あんなにフカフカのベッドで寝たというのに関節がバキバキ…ん?あれ? 動けないぞ……

「起きろというのが分からんか!」

「ふぇっ!?」

怒号によって、エリスの目はパチクリと開かれる あれ?なんだ?何が起きて…

見開かれ覚醒したエリスの目に飛び込んできたのは、夜眠りについたホテルの部屋などではなく

「あれ?、ここ…どこですか?」

小汚い部屋だった、床は埃まみれ 壁はあちこちにシミがつきボロボロで薄暗い…こんなところ知らないぞ、今エリスはどこにいるんだ?あれ?、そう混乱しキョロキョロしていると…

「やっと起きたな、朝は弱いほうか?」

エリスの目の前に、見たことのない女の人が立っていた、軍服を着た 青い髪の…女の人?

「あの、どちら様ですか?」

「…私は、メルクリウス・ヒュドラルギュルム 、デルセクトの軍人だ」

メルクリウス…?、デルセクトの …軍人?何故そんな人がエリスの前に、というか!あれ!?今エリス 手を縛られてる!?、なんだこれ!どう言う状況だ!?師匠は!?あれ!?

混乱の極地にあるエリスを更にどん底へと叩き込む言葉を、彼女は口にし…


「孤独の魔女の弟子だな、お前は今より 私の奴隷となった、貴様にはもう一抹の自由もない」

「は……?」

エリスは、再び奴隷の身へと逆戻りするのであった
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