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三章 争乱の魔女アルクトゥルス

53.対決 餓獣の第三王子 ベオセルク

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荒れた雲々は雨を撒き散らし、大地を濡らす …立ち上るのは風雲か或いは暗雲か

「……むぅ、居ますね…もうあんなところまで移動してるとは、流石の速さですね」

エリスは 一際高い木の頂上に立ち、目を絞る…遠視の魔眼を用いれば この戦場全域を見渡すなど他愛もない、軽く見渡せば彼等は直ぐに見つけられた

特徴的な傷だらけの鎧と幽鬼のような出で立ち、間違いない 餓獣戦士団だ、彼等がいるということはベオセルクさんもリオンさんも彼処にいるのだろう、しかしよりによって彼処に…

「ラグナ、見つけました…ベオセルクさん達です」

「流石エリスだ 直ぐに見つけてくれたな、それで どこにいるんだ?」

「ホーフェン砦です」

目を凝らし それを見る、元々ラクレスさんが占拠していたホーフェン唯一の建造物、しかしそれはベオセルクさんの夜襲によりいとも容易く落とされ 、壁は無残に崩され まるで幽霊城のような姿になり…餓えた獣達の巣窟へと変貌していた

捜索隊も出さずあんなところに陣を敷いているという事は、待ち構えているのだろうラグナとエリスを…ここまで来いと言わんばかりに、油断なく エリス達を撃滅する為に

「ーッよっと!」

小高い木から飛び降り着地すれば、濡れた地面に一瞬足を取られそうになるが そこは魔女の弟子です、問題なく着地できます

これからベオセルクさん達との戦いに挑むのですから、いきなりすっ転んで泥まみれ は格好がつきません

…そう、エリス達はこれからベオセルクさん達との決着をつけに行くのです、リバダビアさんと合流してからエリス達はある程度作戦をまとめ その傷を残り少ないポーションで癒し、間髪置かずにベオセルクさんに戦いを挑むのだ

本当は少し休みたかったが、きっとそれはベオセルクさん達も同じ ラクレスさんと戦いラグナ軍と戦い彼等は疲弊し尽くしている、みんなが頑張ってベオセルクさんにダメージを与えてくれたらしいし、出来れば 相手が休む間も無くこちらから仕掛けたい

「もうホーフェン砦まで移動していたか、まだ数時間しか経ってないだろうに」

「既にエリス達以外に敵はいませんからね、遠慮なく全力移動できるのでしょう…それよりラグナ、どうしますか?例の作戦でいくんですか?」

「ああ、エリス…君の語った作戦で行く」

作戦か、あれは作戦というほどのもんじゃない だって内容の大部分は『頑張って勝つ』なのだから、でも 決めの一手は用意した…後はもう乾坤一擲の大勝負だ

「一番苦労するのアタシじゃなイカ、でもまぁ作戦の可否はアタシの両肩に乗っていると思うのも悪くナイ、アタシに任せておケヨ?」

「はい、お願いしますね リバダビアさん、エリス達がベオセルクさんに勝てるかどうかはリバダビアさんの奮戦にかかってますから」

「ああ、…いや 勝敗は俺たち全員の力にかかっているんだ、一人でも崩れれば勝利はない、みんな準備はいいね?」

「はい!、エリス!準備万全です!」

ラグナの言葉でエリスは身格好を整える、羽織っているコートを腰に巻き ポーチの中には必要な物だけ、これがエリスの決戦フォームだ…うん あんまり変わってないな
これからはもっといろんな物や装備を持ち歩いて戦略の幅を増やすのもいいかもしれないな…そういえば偶に杖を持ってる魔術師を見るけどあれはどういう意味があるんだろう

いけないいけない、思考が傍に逸れた…これからエリスは継承戦の最後の戦いへ挑むんだ、おそらくエリスが今まで経験したどんな戦いよりも苦しく険しいものになる、でも それと同じく今までで一番負けられない戦いでもある

エリス達が負ければアルクカースとデルセクトの戦争はほぼ確定する、この二国が争えばその戦火はきっとデティのいるアジメクにまで及ぶ …エリスの知る全てが戦火に飲まれてしまう

…絶対に負けるわけにはいかない

「じゃあ行くか、決着をつけに」

ラグナの小さな声が雨音の中木霊する、目指すはホーフェン砦 狙うは王子ベオセルク、最終決戦だ

……………………………………………………

「ふぅー…クソ居心地のワリィ砦だな」

第三王子ベオセルクは、兄から力づくで奪った砦 ホーフェン砦の最奥で硬い椅子に座りながら一息つく、ここまで数日間移動と戦闘の連続だ…さしもの餓獣戦士団とベオセルクと言えど疲れる物は疲れる

だが、ラクレスを倒した時点で時計の針は進み始めた この戦いは早く終わらせる必要がある、後はラグナを倒せばそれでいい…

「疲れているな、ベオセルク…お前がそんなに傷つくとは、やはり俺も一緒に戦った方が良かったんじゃないか?」

「リオンか、テメェの有様に比べりゃマシだ」

一息つくベオセルクに声をかけてくるのは、お付きにして世話係のリオンだ…毎日磨いている銀の鎧が自慢の優男だが、今はその鎧もズタボロだ…当たり前か あのカロケリ族の族長と一騎打ちをかましていたんだから

族長に勝つには勝ったが討滅戦士団の彼と言えど無事では済まない、俺もまぁまぁやられたがコイツの場合は普通に負傷している

「ここでラグナ様を迎え撃つんだな」

「ああ、アイツはまた俺の所に来る…必ず、それなら変に追っ手を出すよりここで待ち受けた方が数倍楽だろ」

「そうだな、では彼等の相手は私がしようか?、いくら負傷しているとは言え 子供二人、容易く叩き伏せられるが…」

「いやいい、お前はもう下がれ 継承戦は俺と残った兵士だけで終わらせる」

「なっ!?何言ってるんだ!、この軍は私とお前の二人が主軸なんだぞ、その一方を欠けば流石にお前と言えど…」

「リオン、…俺たちの戦いはこれで終わりじゃねぇ、テメェが折れればその時点で全て終わりだ、それに俺がガキ二人を相手にして負けると思うか?」

不遜にもベオセルクは椅子の上で足を組む、

「ああ、そう思ってるからお前は砦で待ち受けるんだろう?…ラグナに何かを感じているから」

「……チッ、阿呆が 負けると思って戦うやつがいるわけねぇだろ、ただ思い出したんだよ昔魔女がラグナの事を『英雄の気質がある』と宣っていたのをな」

魔女アルクトゥルスは何故か、ラグナのことをよく見ている あの戦い以外に興味がなさそうな怪物が、幼いラグナに話しかけ…時に魔術を教え 時に国を教え、そして剰え継承戦に出てデルセクトとの大戦を止めるよう唆しもした

ったく、魔女アルクトゥルス…何を考えているかわからねぇ奴だ、戦いたいのか戦いたくないのかわからねぇ、わからねぇから俺はアイツが嫌いだ

「英雄の気質?」

「考えるな、魔女ってのはいちいち意味ありげなことを吐くのが好きなんだ、案外意味のねぇ戯言の可能性もある、ただまぁ もしアイツに英雄の気質があるなら試してやろうかなって気まぐれ起こしただけだ」

英雄にも種類がある、だが英雄とは何を為すにしても皆現状を打破してきた者達の総称でもある、もし本当にラグナが英雄足り得る男なら、俺やラクレスという艱難を打破し得る男なら…試すのも面白かろう

「そうか、だが砦の防備は完璧だ…餓獣戦士団も数は減ったがまだ三百近くいる、それらが守りを固めるこの砦を子供二人で抜けるとは到底思えん、蟻一匹通さない堅牢さだ」

「相手はラグナだ 蟻じゃねぇ、それにアイツは俺の弟だ…敵の数や装備で怖じ気づく奴じゃねぇし、何より アイツはやる…俺の部下なぎ倒してここまで、そこは確信してる」

「お前…何だかんだ弟のこと好きだよ」

「はぁ?、バカじゃねぇのかお前 これは……」

リオンの減らず口に反論しようとした瞬間、大地が揺れる 地鳴りだ、それも自然のものじゃねぇ、もはやホーフェンの地には邪魔者はいない…来やがったな、ラグナ

「ほらな、挑んできたぜリオン」

「そのようだな、では俺は離脱させてもらう」

「ああ、俺ぁ 無謀な弟に本当の戦いの厳しさ教えてから向かうとするぜ、アスクに伝言頼んだぜ」

「ああ、とはいえ 言うまでもなくお前の帰りを待っているだろうがな」

そう言い残し立ち去るリオンに目もくれず、砦最奥の部屋で椅子に腰をかけ待つ、決戦の時を 闘争を 弟を…ここで一人、待ち構える


…………………………………………………………

ホーフェン砦、昔ながらの頑健な石造りのその砦は特別な仕掛けや工夫などはない、ただ硬く ただ堅い…単純極まる砦故に、単純な防御力に秀でる

反面 小細工には弱かったりするが、エリス達には細工を弄する余裕はない、だから真正面から攻めることになる

真正面から攻めるとなると、あの硬く積み上げられた分厚い石の壁がエリス達の行方を阻むが…悪いがあの程度の壁では障害物にもなりはしない

「ふぅー…焔を纏い 迸れ俊雷 、我が号に応え飛来し眼前の敵を穿て赫炎 爆ぜよ灼炎…」

ホーフェン砦正面の小高い丘で、エリスは一人構える 全身に魔力を滾らせ指先まで漲らせ その全てを、炎に 雷に 自然界の破壊の権化に変化させていく

「万火八雷 神炎顕現 抜山雷鳴、その威とその意が在る儘に、全てを灰燼とし 焼け付く魔の真髄を示せ 」

未だ嘗てこれ程までに全霊を込めてこの魔術を撃ったことがあったろうか、その真価を発揮するには程遠いが、エリスは一度未熟も未熟な幼少期 同じような砦に大穴を開けたことがある…

あの程度の砦、造作もない

「…『火雷招』ッッ!」

掌に凝縮した熱雷が炎を伴い暴れ狂い膨れ上がり…やがて指向性を持つと一つ筋の熱線となり、一直線に遠方の砦へと飛んでいく、その凄まじい威力は既にエリスの扱える許容範囲を超えており あまりの反動で踏ん張った足が地面へとめり込み大地が砕ける

ようやく暗雲の中に現れた雷が敵意を持って迫っていることに気がついた砦の兵が何か叫び動き始めるが、もう遅い 雷とは即ち光…光と同程度で進む雷を見てから防ぐなど不可能、ましてやこの規模だ

「ッッーー!!」

刹那、爆裂する 砦の壁面があっという間に吹き飛び熱により融解し…降りしきる雨を蒸発させながら大穴をぶち開ける、…ううむ 一撃で消し飛ばすつもりで撃ったのにやはりアルクカースの砦とアジメクの砦では防御力が段違いのようだな

だがいい、突破口は開けた これで防壁はないも同然、砦の防御力はもはや機能しない、正面突破で進行出来るはずだ

「エリス!、上手くいったか?」

「はい、大穴開けてやりました…が 、見てください 蜂の巣突いたみたいに中から戦士が溢れてきますよ、今の一撃でエリス達の居場所がバレたみたいです」

「問題ない、こちらから出向く予定だったんだ!蹴散らしながら進むぞ」

「ウハハハーッ!!、盛り上がってきタナ!やはりコソコソ隠れて不意を突くよりこちらの方がアタシの性にあっている!!」

エリスの後ろで武器を整えるラグナとリバダビアさんは勇ましく立ち上がる、睨むは穴の空いたホーフェン砦、あの穴目掛け正面突破で突っ込みベオセルクさんのところまでいく

ここでどれだけ温存できるかがこの先の決戦の勝敗を分ける

「行くぞ!、『三重付与魔術トリプルエンチャント斬撃属性三連付与スラッシュコンビネーション』」

「ウッハハー!『付与魔術二式・王羅之獄』!、

「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を  『旋風圏跳』」

各々が魔術をその身に纏い三人揃い丘から飛び降りるように 目の前の軍勢へと挑む

対するは餓獣戦士団…目測では二、三百人か 当初の数より減っているのはサイラスさん達の奮戦のおかげと言える、だがそれでもエリス達の百倍の数だ…楽な戦いではない

「………………!!」

「来たタカ!さっきの借りを返しにキタァッ!」

迫る軍勢を前に先鋒として敵軍にぶつかるのは 果敢なりしリバダビア、手に持った槍の如くその身を一振りの切っ先に変え大地に広がり覆う布のような軍勢を真っ向から引き裂いていく

「ッッグァァガァァァッ!」

それは言葉ではない裂帛の叫び、喉の奥を鳴らすような獣の雄叫びをあげるリバダビアさんは槍を振るう、ともすれば粗雑とも取れる原始的な槍を一度震えば敵の剣を 斧を 槍を真っ向から砕き、鎧を 盾を 防御を貫いていく

その強さまさしくさ一騎当千、餓獣戦士団も負けじとリバダビアを包囲し全方位から 死角から彼女に襲いかかるが

「…!?」

「カロケリの意地と誇りを賭けて戦っているンダ!、今のアタシはいつものアタシより百倍ツヨーイ!、つまり貴様らには 絶対に負ケェーン!」

果たして戦士達は彼女を包囲したのか、あるいはリバダビアのテリトリーに入ってしまったのか、後ろからだろうが前からだろうが関係なくリバダビアさんはそれらを斬って倒していく

「相変わらず強いなリバダビアさん、いや…奮戦してくれているのか、俺たちの為に!」

「……!!」

無口な餓獣戦士団はたとえ仲間がやられようとも怯むことなく向かってくる、敵とあらば襲いかかってくる リバダビアの脇を抜けラグナとエリスのところまでで迫り 雨露滴る無骨な剣をラグナに向け振り下ろす

「ッッ!、はぁっ!」

されど相手は王子だ、王子…それはつまりこの力と強さだけが物を言う争乱の国において彼自身の強さを表す言葉でもある

振り下ろされる剣を真っ向から同じく剣で迎え撃つ、煌めく黄金の剣は戦士の剣をまるでバターでも裂くように相手の両断し剣の持ち主ごと斬り伏せる

「そこを退け!俺はお前達の主に!…俺の兄に用があるんだ!」

一瞬 一瞥  一蹴 一撃、ただの一振りで餓獣戦士団を打ち倒すラグナの方向は、まるで鬼神の如く場に響き獣達を迎え撃っていく

強い…二人とも強いのは分かってはいたがこの土壇場にあって普段以上の力を発揮している

ならエリスはどうか、エリスは二人に守られるだけのなのか?否…戦う為に 勝つ為に今日まで修行を積んでいたのだ、こんなところで立ち止まるようならエリスは魔女の弟子など名乗らない!

「さぁ!来なさい!」

両手を広げ構えを取る、エリスの言葉など関係なく餓獣戦士団は次々とエリスに向かってくる、ラグナやリバダビアさんが蹴散らしているから弱く見えるが

彼らこれでいてすごく強い、一人一人がアジメク騎士団を凌駕する程の実力を持ち 彼らと真っ向から斬り結べるのはアジメクではデイビッドさんとクレアさんくらいだろう

そんな化け物集団が次々迫り白刃をエリスめがけ襲い来る、しかしエリスも強くなった アジメクにいる頃より遥かに、この戦いが全ての国はエリスに多大な力を与えてくれた、今更圧倒などされない

「…………!」

「とやっ、あわわ…しかし本当に喋らないんですね、まるで闘争本能以外の全てを切り捨てたみたいな人たちですね、悲鳴一つあげないのはもはや見事の領域です!、ですが!」

踊り狂う刃の嵐の中を縫うようにスルリと避ける避ける、ぬかるんだ大地に気をつけながら剣と剣 闘志と闘志の狭間を征き

「っ!、大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ『風刻槍』」

放つは風の槍 びゆうびゆうと爆音轟かせ風は戦士達の体を突き飛ばす、ただの風と侮り防御姿勢を取る者もいるが その程度で防がれる古式魔術ではない剣も鎧も砕き飛ばし 一発で数人が宙を舞う

「ふぅ、貴方達の闘争心とエリスの覚悟…同列に捉えられては困ります!」

風の強撃により敵の数は減らせたが…、それでも相手は軍勢だ この調子で全滅させていては日が暮れてしまうし、残念ながらこの体力は日暮れまで持ちそうもない

どこで切り上げて突破したい、何も勝利条件の中には戦士の全滅はないのだから 何処かで突破口を開く必要がある…そしてその突破口を開く役割は事前の作戦会議で決めてある


「ヌォォオァァァアアアリャァァァアアア!!!」

リバダビアさんが猿叫と共に槍を振り回し包囲する戦士達をまとめて吹き飛ばす、そろそろか…

「エリス!ラグナ!これだけ減らせれば十分ダ! 突破すルゾ!」

「はい! 」

「了解!」

リバダビアさんの合図を元に、エリスとラグナは彼女の脇へ移動する、この包囲網を突破する方法など考えているに決まっている、ただ事前に相手の注意を引き ある程度数を間引く必要があった

が…その条件は既に達成した、ならあとは

「よっしゃぁぁァァァッ!!二人共!捕まってイロォォォオオオッッ!」

エリスとラグナを小脇に抱え、リバダビアさんが駆け抜ける…敵の海に塞がれたこの場のどこをだ?、言うまでもない足場ならそこにあるじゃないか…敵の頭という数えきれないくらいの足場が

跳躍し敵兵の頭を次々踏んづけ蹴飛ばし戦場を駆け抜ける、これが出来ると聞いた時は度肝抜いたがいざ目にしてみると驚き以上に頼もしさが勝る

リバダビアさんのおかげで砦がみるみる近くなっていく、その壁面にはエリスの開けた大穴が未だに蒸気を放っている、エリス達が注意を引いたおかげか 中にいる戦士は殆ど表に出てきているようだ…

敵はエリス達だけだ、もう防御など考えなくとも良いという判断が裏目に出たな、包囲網を突破さえして仕舞えば 大将のベオセルクさんはガラ空きになる

「行ってコイ!エリス!ラグナ!」

そういうなりひときわ高く跳躍したリバダビアさんはエリスとラグナの体を投げ飛ばす、砦の大穴めがけ二人の体は一直線だ、エリス達を飛ばしてリバダビアさんはどうするのか?、彼女には彼女の仕事がある

「うッシ!、ここからダナ…次はアタシがこの砦を守る番ダ!、誰もあの二人の所へは行かせん行かセーン!」

エリス達の入っていた穴の前で、槍を突き立て 引き返してくる戦士達を睨みつける、足止めだ…ベオセルクさんとの戦いを他の戦士達に邪魔されては勝てるものも勝てない、だからリバダビアさんにはここで一人残って、単騎で軍勢を押しとどめて貰う

可能かは分からない、一応そのために少し数は減らしたが…後はリバダビアさんの頑張りにかかっている

「行きます!、…『エアロック!』」

ここでひと押しと言わんばかりにエリスも魔術を使う、現代魔術だ それもデティから貰った許可証の特権を使いエリスが自らの考えで作り上げたオリジナル魔術

名を『エアロック』、空気と風押し固め作り上げた断層を目の前に作る 謂わば風の防御魔術、矢や剣くらいなら弾き返せるし 押し通ろうとしてもまるで本物の壁があるかのように進めない、これを広範囲に展開してリバダビアさんの背後に張る

リバダビアさんにはこの壁と穴を守ってもらう、その間にエリス達はベオセルクさんを倒す…これが作戦の第一段階!、…ほら 稚拙かつ杜撰な作戦でしょう?、でも上手くいったから良し!

「よっと!、急ぐぞエリス!リバダビアもいつまで持つか分からない」

「はい!、ベオセルクさんはどこにいるんでしょうか」

「一番奥だ!、俺たちを待ち受けているなら きっとそこで待つ!あの人はそういう人だ!」

砦の中に着地した瞬間駆け出す、ここからは時間との戦いでもある リバダビアさんが持ちこたえている間に勝つんだ…!

……………………………………………………………………

ホーフェン砦の中はエリス達の予想通り無人だった、ガランとして薄暗く まるで廃墟のようだが 足を踏み入れた瞬間分かる

『ここに、ベオセルクさんがいる』

そう直感が告げるのだ、間違いなくいる 空気が違う…ビリビリと静電気のような感覚が頬を伝う

砦の中は複雑な構造ではない、一階と二階に分かれており、ラグナ曰く ベオセルクさんなら二階で待つらしい、確証はないが弟である彼がいうなら間違いない そう思い二階への階段を探し 駆け抜ければ


それはすぐに見つかった、最奥へ通ずる扉 恐らくは元は軍議に使われるような厳粛な部屋だったのだろうが、部屋の中にあった机や椅子は全て叩き壊され部屋の外に転がされていた

ここで相手をしてやる まるでそう言っているかのような雰囲気に思わずエリスはたたらを踏み固唾を呑むが、ラグナは違う もう迷い戸惑う段階は通り過ぎている

「……ベオセルク兄様!、来ました!」

寂静とした砦の中に勢いよく開けられる扉の音とラグナの勇ましき声が響き渡る

「…あれだけボコボコにされても、懲りずに来たか…チビラグナ」

しかし部屋の中のそいつは動じない、部屋の奥で椅子に座り エリス達を待ち構えるのはベオセルクさん、彼の声を聞いた瞬間 その身を刎ねあげる程の恐怖感がエリスを包む

やはり怖い、あの目 あの牙の覗く口元 あの風格、そのどれもが恐怖を催し決めた覚悟が揺らいでしまう、い…いやいや怖気付かないぞ!だってラグナは勇ましくもベオセルクさんに向けて歩み寄っているのだ、エリスもそれに続かねば

「…お供はそれだけか?」

「はい、俺と彼女の二人で…貴方を超えます」

「そうかい、表で暴れてるカロケリの戦士が残ってたのは意外だったが、結局のところ、俺に手も足も出なかった二人で再戦とは、能がねぇなテメェら…諦めなければいつか勝てると思ってんのか?」

「いえ、ただ勝つまで挑むだけです」

「勝つまで?、そりゃあ一体いつだよ…やるだけ無駄だぜ、世の中には何やっても越えられねぇ壁ってもんがあんだよ」

近づいてくるラグナを目にして、椅子を蹴飛ばしベオセルクもまた立ち上がる…互いに互いを睨み合う、一触即発の極限の空気の中…ついに二人は相対する

「万策を尽くして…勝てない相手はいません」

「そりゃあ魔女の言葉だな、なら尽くしてみろ 万策も 力も 命も 何もかも燃やし尽くして挑んでみろ!、俺には通用しねぇってことを もう一度その身で分からせてやるよ」

「…エリス、行こう」

「え!?あ…はい!」

ラグナの言葉で弾かれるように構える、びっくりした 完全に蚊帳の外だったからいきなり話が飛んで来ると思わなかった

「死んでも文句言うんじゃねぇぞ ボケがァッ!」

餓獣の王子 最強の候補者ベオセルクは咆哮する、それが 戦いの…継承戦の最終決戦を告げる嚆矢となった


「『三重付与魔術トリプルエンチャント神速属性三連付与フラッシュコンビネーション』!」

「馬鹿の一つ覚えだなぁ!チビラグナァッ!」

ラグナの剣が速さを纏う、通常の何倍もの速度で袈裟気味に何度も振るわれる剣をやはりベオセルクさんは容易くそして全て避けてみせる、ここでエリスもと慌てて接近戦で援護しようとすると前回の二の舞だ

故に観察する 少し離れた位置で、ラグナとベオセルクさんの戦いを…ベオセルクさんはどの角度から打っても避ける、どんな体勢のどの角度でもだ…はっきり言って異常だ、優れた戦士は体捌きで体ごと攻撃を避ける

だか見てみろあのベオセルクの動きを

「何一つ、何一つ変わってねぇじゃねぇか!ラグナ!、達者になったのは口だけか!覚悟改てカッコよく口上決めりゃ善戦出来ると思ったか!」

「ッ…!変わりましたよ、俺はもう!兄様を前に引きません!」

素早く風を切るラグナの剣を上半身だけで避けている、所謂スウェイだけで攻撃を避ける様はまるで風に揺られる木のようだ、常識離れした体の柔軟性が生む縦横無尽の回避は、即ち攻撃にも生かされる

「ぐふぅっ!?」

「クソが、張り続けて勝てるほど甘い相手じゃあねぇんだよ!」

ラグナの連撃の隙をつきあり得ない方向から足が飛んできた、足ってあんな曲がるか?と言えるくらい柔らかく関節を曲げて意識外から蹴りが炸裂する

ベオセルクさんの一撃は力以上のものが加わっているから痛い、…それは何か?しなるのだ鞭のようにあの人の手足は…故に打撃一つ一つが骨まで響く、しかも蛇のようにうねり常識では考えられないところから打ち出される拳にラグナは追い詰められていく

「戦いも用兵も覚悟も信念もなにもかも半端なお前が俺に勝てる道理はねぇ!、刃向かおうなんて夢見てるんじゃねぇよ!」

「ぐほぉあっ!?…ま…まだまだっ!」

おまけにその柔軟性を極限まで生かした獣じみた動き、まるで手で蹴りを打ち 足で突いているかのような攻撃に翻弄されているうちに敵は打ちのめされているのだ

まさしく攻防一体の構えに隙はない…いやあるさ、だからこうしてエリスはラグナにだけ戦わせて観察していたんだから

「く…このぉっ!」

「はっ!苦し紛れの一撃に当たってやるほど甘くねぇ!」

ベオセルクさんの連撃を耐え 横薙ぎに剣を振るうが、ベオセルクさんは簡単に見切り 上半身を大きく反らして剣を避け…今だ!

「…!颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を  『旋風圏跳』!!!」

飛ぶ 飛び込む、ラグナとベオセルクさんの戦いの最中に、二人の戦いに割り込むようにそして身を差し込むように身を出して、捉える ラグナの剣を避ける為身を反らす無防備となった…顎を

「っ!?金髪のガキ…ぐっ!?」

蹴り抜く、風を纏い加速した高速の蹴りはベオセルクさんの顎を打つ、スウェイし避ける時体はこれ以上ないくらい反っている、その状態からさらに反ることは幾ら何でもできない、オマケにスウェイで不安定に立った体を支える為足は地に常についているから咄嗟の回避も不可能

見切った、ベオセルクさんの天衣無縫の戦闘スタイルを… 詰まる所、二段階で攻撃を仕掛ければあのめちゃくちゃな回避はできない

「当たった!?兄様が攻撃を避けられなかった…」

「うるせぇ、かすり傷だこんなもん、何百発当てようが俺は倒せねぇぞ!」

そういうなり倒れもせずに今度はエリスの方へ向かってくる、いや顎を蹴られたんだぞ!普通脳が揺れるなり尻餅なりを…ぐっ!?

「げぶふぅっ!?」

「一撃当ててチョーシ乗ってくれんなよ?」

速い まるで空気の壁をぶち破るかのような轟音と共に放たれた拳は避けるとか避けない以前に反応することさえできずにエリスの顔を撃ち抜き吹き飛ばす、くそっ…見立てではあるがこの人 通常状態で争心解放したホリンさんと同程度の速さと攻撃力だぞ…!

「ぐぅぅ…」

地面でもがきながら必死に痛みこらえ立ち上がる、余りにも速いから極限集中を発動させる暇がない…命の危機を感じる暇がない

と…少し前までのエリスなら、ここで手詰まりになっていただろう…だがまだだ、まだこの10ヶ月で得た最大の武器を披露してない

「ッ…ふしゅぅぅ…」

追撃をしようと腕を振りかぶり矢のようにこちらにすっ飛んでくるベオセルクさんを睨み想起する、師匠から得た極意の一つにしてエリス現状最大の武器

『極限集中の任意発動』

エリスの切り札たる極限集中は発動すれば格上相手にも通用する動体視力と集中力を得ることができるエリス必殺の形態。しかし命の危機に瀕しないと使えないという弱点があった…がそこを師匠に相談したところ

『なるほど、命の危機に瀕すると爆発的な集中力をねぇ…なにも珍しい話ではない、特定の条件下において力が増幅するというのは案外よくあることだ、火事場の馬鹿力という奴さ』

『はい、ですが一々命の危機が来るのを待っていては毎回ズタボロになってしまいますし、何よりこの間のアルミランテさんのように危機を感じる間も無く戦闘不能にされては元も子もありません、…どうにかして 任意で発動させられないでしょうか』

『任意発動?…何を言っているんだエリス、君はには君にしか出来ない特権があるだろう?、それを用いれば どんな時でも自在にその状態に移行出来るはずだ』

『どんな時も自在にって…本当ですか師匠!』

……授けてくれた、任意発動の法を

命の危機を感じた時発動するのなら、方法は単純だ 思い出すのだ今までの修羅場を、そりゃあ普通の想起では意味はないだろうが、エリスは思い出せる 記憶している 当時の危機感と焦り 風の流れや煌めく白刃に至るまで全て、それら全てを高速で脳内に巡らせる

今まで歩んだ 駆け抜けてきた戦いが今身を結び……

(入った!極限集中!)

目を見開き眼前を見やれば緩慢になったベオセルクさんの動き…って極限集中で見ても普通に速いぞ!、ダメだ彼の攻撃も例の如くエリスの動きでは避けきれない!

だが、いやだからこそ使う

(旋風圏跳…!!)

「おっと、目つきが変わりやがった…」

風を纏いその場から全霊で離れることによりベオセルクさんの拳を躱す、大丈夫 旋風圏跳のスピードと極限集中の動体視力があればベオセルクさんにもついていける、回避法も見切った…勝てる、いや

「勝ちます!」

「ハッ!来いよクソガキ!叩き落としてやらぁ!」

旋風圏跳の全速力でベオセルクさんに突っ込むが、彼の反射神経も並外れている 普通にやれば迎撃される、だから旋風圏跳から更にもう一度段階工夫する

「エアロック!」

「あぁ?魔術?…聞いたことのねぇ…、!?空気の壁か!」

風でベオセルクさんの周りを回転するように回りながら周囲にエアロックで小さな空気の壁を張りまくり ベオセルクさんの動きを阻害する、空気の壁は殆ど透明 一瞬見ただけでは分からない …それを四方八方に張り巡らせていく、差し詰め不可視の迷路とでも言わんばかりの迷宮があっという間に完成する

何?透明の壁をやたらめったら作ってしまったら今度はエリスも動けない?、誰にものを言っているのだ、エリスなら自分の張った壁が見えずともどこにあるかぐらい記憶出来る、だから移動が阻害されるどころから寧ろ

「はぁぁぁっっっ!!」

「チッ、小賢しい戦い方をするじゃねぇか!」

透明の壁を足場にして、その場で乱反射し跳弾するように不規則に飛び回りながら何度もベオセルクさんに挑みかかる、空気の壁を用いた急停止 急加速 急旋回 読めない軌道とますます加速していく攻撃

そうだ、ホリンさんがエリス達にやってみせたあの奥義地獄から着想を得た旋風圏跳乱反射地獄、極限集中の動体視力でようやく見えるくらいの加速の中何度もベオセルクさんに体当たりをする

「速い上に動き辛い、こんな戦い方をする魔術師始めてみたぜ…」

蹴り 殴り 体当たりをしてベオセルクさんに攻撃を加える、全方位からの高速攻撃にスウェイでの回避も許さずに連打を加える、だが 決定打にはなり得ない 寧ろ打ち込んだエリスの手の方が行かれそうなくらい彼の体は硬い、本当に怪物みたいな人だな

「……手は悪くねぇが、それだけか?」

応酬する打撃の嵐の中ベオセルクさんが不敵に笑う、…あ ダメだこれなんかしてくる、エリスの直感と第六感が告げる、『離れろ』と…それに従い空気の壁を抜け慌てて離れた瞬間、ベオセルクさんの手元から ジャラリと金属音が鳴り響き

「…『付与魔術エンチャント爆撃属性付与エクスプローシヴ』!」

刹那、エリスの後方が爆ぜ飛んだ、轟音爆音響かせて エリスの作り出した空気の壁が全てまとめて一気に消しとばされたんだ

使ってきた 付与魔術を!、当然だ彼だって使える 寧ろ今まで素手で戦っていたのは加減しているに等しかったんだ、何せ付与魔術は素手では使えない…アルクカース人の最たる武器である付与魔術を封じて今まで戦っていたんだ

その封が今解かれ、彼は今 武器を手にした

しかしどんな武器だ、剣か?槍か?でもそんなものを持っている様子はなかったが…確認するために宙で身を翻し急いで振り返る、すると

「久しぶりだぜ、これを持つのはよ…」

「って鎖ぃっ!?」

ベオセルクの手にはジャラジャラと付与魔術特有の光を放つ長い鎖が巻き付けられていた、え?武器って鎖?確かに鎖なら体に巻いておけばどこでも使えるけどさぁ!、武器じゃないじゃん!

でもきっと武器なんだろう、恐らくあれを一瞬で振り回し全方位の空気の壁を叩き壊したんだ…なんか、意外だ もっと無骨な武器を使うものと思っていたが

「お前 名を聞かせろ、俺に武器を持たせた強者の名は覚えるようにしてるんだ」

「え…エリスはエリスです!、孤独の魔女レグルスが弟子!エリスです!」

「エリスか、いい名だ じゃあ死ね」

傍若無人!、名乗った瞬間ベオセルクさんはその場で腕を軽く振り…え!?

「がはっ!?」

見えないところからいきなり鎖の先端が飛んできてエリスの顔面を打ち据え 直撃と同時に爆裂する、い…いやいや無茶苦茶だ…なんで鎖で殴られたのにベオセルクさんの拳で殴られた時と同じ威力がするんだ

「ぐぅ…げぼっ…」

次いで飛んでくる二撃目はエリスの鳩尾を正確に叩き、エリスの体はあんなに細い鎖によって打ち上げられる

そうだ、…ベオセルクさんの柔軟な腕から繰り出される鞭のような動きを鎖が正確に捉えて、まさにベオセルクさんの拳の延長として動いているんだ、だから鎖の一撃はそのままベオセルクさんのパンチと同程度の威力が出る

反則だ、鎖を持つことによりベオセルクさんのただでさえ強力な攻撃の範囲はほぼこの部屋全域になった、鎖を介したと言え 、その威力は一切衰えず剰え爆裂属性の乗った鎖は着弾と共に破裂する

「オラオラ避けてみろ防いでみろ超えてみろ!、魔女の弟子なんだろテメェは!」

「ぐっ…ぐふぉっ!?げぼぁ…ぉがぁっ!?」

振るわれる振るわれる、息つく間もなく振るわれる鎖はベオセルクさんの拳のようにエリスに叩きつけられ、逃げる間も無く倒れる間も無く攻撃は続く

状況を打破するには近づくしかない、でも鎖を潜り抜けて攻撃しても また避けられ防がれ迎撃される…というか触れただけで爆発する鎖を抜けて突っ込むなんてエリスには無理だ、何より遠心力で音速を超える鎖の先端を正確に見切るなんて極限集中でもできないし

こんなのどう攻略しろっていうんだ…ズルだ、こんなの…

「おいおい!チビエリス!こんなもんか!、たったこれだけか!楽しませてみろよ!超えてみろ!勝つんだろ!勝ってみろよ!オイ!」

「エリス!ぐっ!?こっちにも鎖が…がはっ!?」

「ら…ラグナ…あがっ!?」

付与魔術と武器 この二つを使われただけでエリスの優位はあっという間に崩れ鎖の連撃に飲まれ意識が薄れる、ラグナがこちらに駆けようとしてくれているがそこはベオセルクさん、当然ラグナの方にも鎖を飛ばして牽制しこちらに来れないようにしている

ダメだ、詰んだ もうどうにもできない 手も足も出ない、用意した策もこの攻撃の嵐の中では使えない、抜け出すための行動を使用にも瞬きの間に繰り広げられる

「お前もか!お前もなのか!、テメェも喰われるだけの餌か!逃げ逃げて獣に牙で引き裂かれるだけの餌なのかお前は!!」

悲鳴をあげる間も無く叩き込まれる鎖の連撃に エリスは文字通り何もできない、ベオセルクの語る通りエリスはこのままベオセルクという餓獣に喰われるのだろう、諦めたくない 諦められない 負けられない…のに、意識が…

「ッ…!!、え…エリス!…!エリス!!今助ける…助けるから…ぐぅっ!?」

薄れる意識の中、ラグナの悲痛な声だけが鮮明に響く…悔しそうな 苦しそうな彼の声、彼も必死で鎖を打ちはらいエリスの元へ駆けつけようとするが、出来ない はっきり言ってラグナとエリスじゃあエリスの方がちょっぴり強い、そんなエリスで突破出来ないんだラグナに無理はさせられない

けどじゃあ何が出来るかといえば何にも出来ないんだけどさ、ああ…師匠ごめんなさい エリスはまだ、強くないです

「じゃあ、もう…死ね!」

「エリス!エリィィス!…クソッ…クソッ!!!」

目の前に迫る 鎖を目にし、エリスは意識を手放した……



「ゥゥッッーー…!!グガァァァァッッ!!!」


……かと思えば、獣の呻き声によってすんでのところで意識を取り止める、というかあれ?鎖の攻撃が止んでいる、というかエリス 抱きとめられて…

「ほう、やっとそれ…使う気になったんだな、ラグナ」

「え?、ラグナ?」

目を開け放ち周囲を確認すれば 地面には切り刻まれた鎖の数々が 前方には嬉しそうに笑うベオセルク、そしてエリスを抱きとめるのは…ラグナだ

「グルルルルゥゥ…」

違う、違った ラグナじゃなかった 、いやラグナの姿をしているけどその目は赤…いや更に濃い真紅に染まっており、まるで獣のように喉を鳴らしてベオセルクさんを威嚇している、獣だ…エリスは今獣に抱きとめられている

「争心解放…テメェずっと使うの躊躇ってたもんなぁ?、そんな風に獣同然になるのが嫌だったか?ああ?」

ああそうか、使ったのか…争心解放を、ラグナはなんだか使いたくなさそうだったが …きっとエリスの危機を前に、その禁を破ってまでエリスを助けてくれたんだ

しかし同時に思う、ラグナは自身の争心解放は危険なものだと、使えば見境なく襲いかかる不確定なものだと、使えば…エリスさえも襲いかねないと

「あ…あのぉ、ラグナ?…」

「グルルルルルルゥ……」

ダメだ聞こえてない、けど襲われる様子はないぞ?寧ろエリスは眼中にない様子だ…その目には常にベオセルクを睨みつけている、でも鎖を切り裂いてエリスのことを助けてくれたし、実は意識があるんじゃ…

「グゥゥ…」

「あだっ!?」

と思ったら普通に落とされた、あの温厚なラグナがこんな乱暴をするなんて…いてて、なんてエリスが頭を抱えて悶絶しているうちに、争心解放したラグナは獣のように全身でベオセルクさんに飛びかかり

「ははぁっ!、やっと面白くなりそうだぜ!」

「ガァァァァッッ!!!」

宙で二、三度剣を振るいながらベオセルクさんに襲いかかる、剣速はラグナ本来の物よりも遥かに向上しており もはや音速に迫ろうかと言うほどのスピードで斬りかかっている、がしかし  ベオセルクさんとて負けてはいない

いくら速くなろうが無駄であると言わんばかりに剣を変わらずスウェイで全て避け切る、争心解放しても及ばないのか!どんだけ強いんだあの人!

「グガァァッッ!」

「なっ!?ぐはっ!?」

と思ったらラグナは振るった剣をそのまま地面に突き刺し勢いのまま体を持ち上げスウェイで避けるベオセルクさんに蹴りを加えた、メチャクチャな姿勢の蹴りだがあのベオセルクさんが苦悶の悲鳴を上げてしまう程度には威力があるということだ

「ガガガァッッ!!!」

ラグナの連撃は終わらない、剣を軸足にしたかのような蹴りに続いて今度は空中で体を縦に回転させ斬りかかったり、時には剣を逆手に持ち替え柄で殴りかかったり、果ては大口を開け噛みつきにかかったり…

…ベオセルクさんの戦い方もメチャクチャだがラグナの戦い方もメチャクチャだ、セオリーも何も無い 常識も何もない、ただその場で最善の動きであるなら体の構造も無視して殴りかかる

ベオセルクさんを餓獣と称するなら、今のラグナは狂獣だ …、テオドーラさんも争心解放を使うと膨れ上がった闘争心に影響されてその人格は荒々しいものに変わる、恐らくラグナのこれは争心解放の最たるも…闘いの権化へと彼は変じてしまったのだ

「ゥウガァァァアアアッッッ!!!」

「いいじゃねぇかいいじゃねぇか!、喰い合おうぜ ラグナァッ!」

ぶつかり合う拳と剣、牙を突き立てる餓え喰らう獣と怒り狂う獣の殺し合い…否 共喰い

剣を薙ぎ避けられれば拳や足で追撃しベオセルクさんを仰け反らせる、ベオセルクさんもラグナの剣の隙間を縫い まるで蛇のような不規則な軌道のカウンターが炸裂しラグナを穿つ、されどラグナも退かず剣を振るい ベオセルクさんも拳で迎え撃つ

燃え盛るように戦いは熱く滾り始めていく、戦えば戦うほどラグナの動きはより激しくより素早くより苛烈になり、ベオセルクさんも合わせるように力を高めていき、二人の傷はどんどん酷くなり…

「グガァァァ…ガァッ!」

「どうした?、動きが衰えてきたぜ?もっと力を出せるだろ!」

……違う!違う違う!何を勘違いしているんだエリスは!、戦いが激しくなっていっているんじゃないんだ!、ベオセルクさんがワザとヒートアップさせているんだ

今のラグナに知性はない、故に抑えが全く効かない それをいいことにベオセルクさんはラグナの動きが激しくなるよう少しづつ少しづつ戦いのスピードを上げていき、ラグナのスタミナ切れを狙っていたんだ

ラグナは強くないなったんじゃない、ただ全てを出し切っているんだけなんだ、今は押してるかもしれないがこんな優位直ぐに消え去る、感情の爆発程度で倒せる相手じゃないんだ!

「オラよっ!、ついに動きが止まったな…ラグナ」

「グゴァ…グッ…アガァァッッ!」

遂にベオセルクさんの蹴りがラグナを捉えその胴に深々突き刺さるがラグナは止まらない、もがきながら剣を振り回しているが、先程までの激しさはない…やられる、このままではやられる

「隙だらけだぜラグナ!」

「ぐぶっ!?ガァッ!?うぐぅっ!?」

そこからは一方的だ、一つ数えるまでにベオセルクさんの拳は数度炸裂し、ラグナが悲鳴をあげるまでに蹴りが何度もラグナの体を打つ、反撃しても…いや反撃さえ許さず 殴る 殴る 殴る、青銅でできた魔獣を一撃で叩き割る鋼拳が何度もラグナに襲いかかる

「が…ガァッ!」

「闘争心に体がついてきてねぇな」

必死で剣を持ち上げたラグナの振るう剣を、軽々と手で弾き体重の乗った重い拳がラグナを打ち据え、ついにラグナの動きは止まってしまう

「少しは楽しめたが、ここまでだぜ…」

「グッ…ゴァアァ…」

闘争本能だけではもうどうにもならない段階まで来てしまったか、それでもボロボロの体を起こそうとするラグナを掴み上げトドメを刺そうとするベオセルクさん、ここでラグナがやられれば 全て終わりだ

考えろ、今エリスが取るべき行動…ラグナに加勢するか?ラグナを助けるか?、ラグナに加勢…はダメだ もうラグナは殆ど動けない、もはや剣も振るえるか怪しいラグナに加勢しても何にもならない

ならラグナを助けるか、旋風圏跳でラグナを抱えて離脱して…どうなる それでどうなる、ここで引いてどうなる

残っている手はある、用意した策だ…だがラグナがあんな状態では…、いや…いや違うな、エリスは相変わらず間違えている、エリスは必勝にこだわり過ぎている

確実に勝てる そんな局面を偉そうに見据えようとしている、だからタタラを踏む、確かにこれが失敗すればエリス達は負ける…だがやらなくても負ける、だったら ここはラグナを信じるしかない

一か八かの大勝負に出るべきは今なんじゃないか!、ラグナを信じて 勝利を信じて、賽を投げるが如く エリスはポーチに手を伸ばし

「ラグナッ!ポーションです!受け取ってください!」

投げる、治癒のポーションの小瓶をラグナ目掛けて…ラグナに対して全霊で呼びかけながら、しかし…

「……………………」

「ポーションだあ?」

反応はない、ラグナはエリスの言葉を受けても反応しない…もしかしてもう意識はないのか?勝負に出る場面じゃなかったのか!?、全て遅かったのか!、頼む 頼むから…ラグナ答えてくれ!さもないと負けてしまう!

「ラグナ!強く!強く立ち上がるべきは今です!、だから…負けないでください!!」

「…………ッ」

「そういや軍師が使ってたポーションも似たような容器に入ってたな…」

叫ぶ、宙を舞い ラグナの方に向かって刻々と飛んでいくポーションを眺めながら、…間に合わないか 頼む!意識を取り戻してください…

「ラグナ!…国を守るのが貴方の使命なんでしょう!!、ここで終わるのが貴方の道なんですか!」

「ッッ…!お…れは……ッ!」

動く、ピクリとラグナの指が!、体力尽き 力尽き 全身を打ち据えられ青く膨れ上がった体でも尚、彼の魂が 肉体の限界を超越し真紅の瞳に再び光が灯る、ラグナ…!

「はッ!寸でで我を取り戻したか…だがおせぇよ!何もかも!」

しかし、ラグナの目に光が灯った瞬間 ラグナに向けて飛んでいくポーションの瓶を見据えたベオセルクさんは、それをラグナに届くより前に蹴りで叩き砕いてしまう、ガラスで出来たポーションの瓶は彼の蹴りにより容易く割れ その中身が宙に舞う

「……ッ!エリス!、頼む!」

「なっ!?何を…」

瓶が割れたのを確認した瞬間 ラグナはもはや殆ど動かない体を奮わせ、最後の力を振り絞りベオセルクさんに蹴りを入れその手から離れる、よかった!間に合った!

そうだ、これで…万事作戦通りだ!


「テメェ、まだそんなに動け…わぷっ!?」

ラグナがその手から離れた瞬間 割れた瓶の中身であるポーションがベオセルクさんへと飛んでいき、彼はその中身を頭から被ることとなる…

ポーションは塗っても効果がある、頭から被れば彼の体の傷は全て癒えてしまうだ、せっかくエリス達が頑張って与えたダメージも全て消えて無くなってしまうだろう

その中身が…ポーションなら


「ったくポーション頭からぶっ被っちまった おかげでベトベト…、いや違うな…この匂い まさか…油か?」

古典的だが、効果があったようだ …そう、瓶の中身はポーションじゃない すり潰した森の木の葉を混ぜ色を加えた、松明用の油だ みんなの傷を癒して無くなったポーションの瓶に油を入れておいたのだ

ベオセルクさんはサイラスさんとの戦いでポーションを見ている筈 、そう予想しポーションを見れば反射で叩き割ると読んだのだ、しかし先程までの戦いの中上手くそして違和感なくベオセルクさん目掛けポーションを投げる機会が見つけられなかった

だがラグナがベオセルクさんに捕まったお陰でその条件は満たした あとはラグナが目覚めて油の巻き添えを食らわないことだけが不安だったがそれも上手くいった

お陰でベオセルクさんは頭からつま先まで油まみれだ!

「チッ、俺を油まみれにして…火でもつけようってか!」

「その通りです!大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ『風刻槍』」!!」

ラグナがベオセルクさんから離れたのを確認し詠唱と共に風を作る 渦巻き逆巻き荒れ狂う大風の巻き起こす、風の流れは螺旋を作り出し槍となりベオセルクさんに向かう…風だ、風を生み出したのだ

ああそうとも火をつけるのだ、ベオセルクさんもさぞ面を食らったろう 何せ飛んでくるのが火だと思ったら風…しかも防ぐことも避けることも出来る風の槍だったのだから

当然これではまだまだ終わらない、…左手で風刻槍を放ちながら それに合わせるように右手を翳す、極限集中状態でしか出来ない芸当、詠唱なしでいきなり魔術をぶっ放すエリスもう一つの切り札 跳躍詠唱、…それで撃ち放つのは

(…『火雷招』…!)

炎を纏う雷を詠唱無しで手のひらの中で記憶を元に再現し 風刻槍と共に同時に放つ、同時…同時だ 全く同時に放たれた荒れる風の槍と炎の雷は混ざり合い高め合い融合し、一つの魔術となってベオセルクさんへ向かう

この現象はエリスは見たことがある、個人で放つ合体魔術 本来なら二人の魔術師が息を合わせ放つ魔術同士の合体、単一では発揮し得ない絶大な威力を発現させる大魔術

以前レオナヒルドが苦し紛れに放った炎の竜巻、あれと同じものだ…しかしその精度はエリスの方が上、レオナヒルドは限りなく同時に使うタイミングで撃つことにより再現していたが エリスなら二つの魔術を同時に放ち 魔術同士を合体させられる

個人で二つの魔術を同時に使えるエリスの特権とも言える、エリス最大の奥義!切り札中の切り札!単独合体魔術!

「炎と雷の竜巻だぁ?、欲張りすぎだろが…!」

しかしそんな絶大な奥義を前にしても彼は冷静だ、咄嗟に飛んで避けようとするが…

「チッ…そのための油か…!」

油で滑り足に踏ん張りが利かず本来の機敏な動きができない、とはいえ動けないわけではないのでこのままいけば対処される事に変わりはない、だからさらにこの魔術にもう一段階工夫を加える

ポーチに手を突っ込み 炎の竜巻の中に投げ込むのは一枚の紙切れ、…否 ただ紙切れではない、ああいや紙自体は普通なんだが 紙はただの入れ物なんだ、中に入っているものが特別…!

それは粉塵 それは火薬、エリスが拠点から盗んで…否々!頂戴してきた爆薬の粉塵が中に入っているのだ!、爆薬は紙と共に風に引きちぎられ竜巻全体に行き渡りそして…

「ッッ!?炎の竜巻が膨れ上がって…!?」

やがて爆薬は炎に引火し爆散する、炎の竜巻は内側から大爆発を起こし爆炎の竜巻となってベオセルクさんの体をあっという間に飲み込み吹き飛ばすのだ

これこそエリスがこの決戦のために編み出した即興急造最終奥義、名付けて『爆雷風刻赫熱槍』!色々ごちゃごちゃしている名前だが威力はエリスが今単独で出せる物の中で最強の物だ、何せ二つの魔術を掛け合わせた上で更に爆薬と言う外的要因まで加えたのだから

「グッ!?小賢しい…小賢しいぞエリスァァッッ!!!」

爆薬は炎を爆炎に変え 爆炎は風に煽られ巨大化し、 一点へと流されベオセルクさんへと襲いかかる、その体に塗りたくられた油は彼の体を一つの火の塊へ変え逃すまいとまとわりつく、逃がさない 逃がさず追い詰め焼き尽くす

「グッ…ガァァァァァッッッ!!!!」

爆炎と風炎が燃え盛る地獄の中 ベオセルクさんは苦しみ悶える、…今考えるとこれ普通にやり過ぎたか、常識的に考えれば体に油塗られた人間に火をつけたらそりゃあ死ぬよ…ヤッベェラグナの兄貴殺しちゃった…など…思わない!、だってあの人 人間じゃないもん多分死なない!、そもそもこのくらいやらないと倒れてさえくれない筈だ

「ガッ…ハァ…」

「終わり…ましたか」

エリスの予想通り 炎が消える頃にベオセルクさんは力尽きたのか、がくりと膝をつく…驚くことにまだ生きてる、ホントに化け物だなこの人は…


いや、え?ベオセルクさん今動かなかったか?というか動いたというよりあれは




「ェェエリスゥゥゥァァアア!!!、やってくれたなァァァァァッッ!最高だぜお前ェェェェッッッ!」

「えぇえぇっっ!?!?」

い 生きてるどころか立ち上がってきたぞあの人!?全身を焼かれながら 圧倒的な熱に晒されながら尚立ち上がり 剰え獣の如く方向を轟かせて来た、嘘だろ エリスの作戦が全てうまくいって叩き出した最高火力だぞ!?、それを受け止めて倒れないって…ど どうやって倒せばいいんだよ、この怪物…!

「ここまでいいようにやられたのぁ始めてだぜ…礼と言っちゃあなんだが本気出してやるよ!…俺も!」

すると黒く染まったベオセルクの体の一点、そう 目玉が赤く染まる…あれは 争心解放、アルクカース人の戦闘形態、最強の男の最強の戦闘形態…ただその赤い目で睨まれただけでエリスの体は竦み上がる

ダメだ、…ダメだダメだダメだ!もう向かってくるな…!エリスはもうロクに動けないんだ、もはや魔力も体力も策もない…、ここからさらに強くなったベオセルクさんと第二ラウンドをする余力は何処にもない!

あ…負けた…これは負けた

「ッッ!!、俺は……ッッ!!」

怯え竦むエリスの前に、影が躍り出る エリス以上にズタボロの体を必死に動かし、エリス以上に恐れているであろうその心を必死に抑えながら、ただ心の強さだけで立ち上がり 彼は…ラグナは剣を握り 前へと飛び出す


「この国をッ!愛する臣下を 大切な仲間を守る為に!ここまで来たんだ!、たとえ傷つこうが たとえ打ちのめされようが!、例えアンタがどれだけ強かろうが!、こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだよ!!!」

「来るかッ!ラグナァァァァァッッ」

剣を握り 吠える、力の限り吠える…その構えは確かにいつものような鋭さはない、先程までのような圧倒的強さはない、崩れ今にも倒れそうな彼の姿は弱々しくも見える

だがエリスは見た、確かにこの目で見た…真紅に染まる彼の目を、争心解放による圧倒的に闘争本能の奔流の中にあり、それでも尚 王の道を征くラグナの姿を

「この国を守る為なら!誰に何を言われようが何がどう立ち塞がろうが!、全て…全て俺が…打ち砕く!、退いてくれベオセルク兄様!アンタは…」

「ハハハハハハハハハハッッ!来いよ!来い!!俺を喰ってみろよッッ!ラグナッ!」

「俺の道の …邪魔だッッ!!」

激突する、闘争本能に餓えるベオセルクと 戦いを克服したラグナの影と、二人の拳と剣…そして 二人の心がぶつかり合い

その刹那、ラグナの叫びに呼応するように宝剣ウルスが輝き………

「ッッ『八重付与魔術オクタプルエンチャント破砕属性八連付与ブレイキングメスラムタエア』ッッ!!」

ラグナの黄金の剣が、まさしく 煌めく刃となりベオセルクの拳を力を心を彼を兄を全てを超えて今、その体を捉え…激しい交錯する


「ゥグブォァッ…がっ…ぐぅ…ぁ…」

甲高い音が鳴り響く、…折れたのだ ラグナの過剰とも言える付与魔術を乗せた刃は彼の魔力に耐えきれず、ベオセルクさんの胴にぶつかった瞬間中頃から真っ二つに宝剣ウルスが折れてしまった…

「はぁ…はぁ、う…うぅ」

己の全てを いや全て以上の物を引き出し 愛剣の折れたラグナは 力尽き崩れるようにその場に倒れこむ、対するベオセルクさんはどうだ 胴に大きな傷を作りながらも立っているではないか…

「っふー…今ので、全部か?ラグナ……」

二人の魂を賭けた一撃は、激突し交錯した末…ラグナは倒れ そのラグナを背にベオセルクさんは立っている…その結果が 全てだ

「……チッ、…耐えられる…計算だったんだがな、効いてないつもりでも…やっぱあの軍師の一撃が…想像以上に体に…響いてたか…、ああクソ………」

ベオセルクさんが呟く、…その目にはもはや赤い炎は宿っておらず…光もない…動かない


気絶した、彼は直立したまま意識を失っていた


「…ェ…エリス、…俺 強かったかな…」

拳をあげる、この場で唯一動ける彼は ただ一人拳をあげる、倒れ伏し剣はへし折れ 兄以上に傷だらけになりながらも 勝利を宣言するが如く、拳を…

「ラグナーッ!」

「お…おい、抱きつくなって…身体中が痛いんだ」

「勝ちました…勝ちましたよ!ラグナ!ベオセルクさんに!」

全身に走る痛みを無視して涙を流しながらラグナに飛びつき抱きしめる、勝った…勝てた!最後の最後に ベオセルクさんを心で超え、彼は今 継承戦に…

「勝ったのか…俺が」

「はい!」

遂に…継承戦は幕を閉じる

唯一残った王子は今、ただ一人の勝者…ただ一人の最も強き王となり、長きに渡る戦いは終わった

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スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

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