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一章 独りの名も無き少女

番外・クレア最強列伝

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クレア・ウィスクム 

アジメク中央皇都にて大商家バルドール・ウィスクムの一人娘として生を受け、その跡取りとして幼い頃から英才教育を受けながら育つ

商家の娘らしく容量が良く、天賦の商才をもって生まれたと囃される反面、人当たりはあまり良くなく 同年代の友人が一人もおらず 、その幼少期は常に父の仕入れた商品である本に囲まれた物だった


クレアは はっきり言う、誰かと関わって生きていくのが煩わしかった、周りはみんなバカばかり、バカに合わせてバカになるなど真っ平だと…、だけどそれでも 時々思う…本当にバカなのは、周りに合わせられない自分なのではと

だけど、悩みに悩んで時間を重ねるほど 周りに溶け込み辛くなり、周りの子供達は私の存在すら知らないまま成長していき…、いつの間にか私は独り この図書室に取り残されてしまった

その時気がついた、 独りぼっちとはここまで苦しく ここまでどうしようもない物だったのかと、まるで 抜け出せない蟻地獄のようだと…
 

塞ぎ込み他人を遠ざけ本の山の中で過ごし続け、齢を8つ重ねた頃、クレアは 運命的な出会いを果たす事となる、それこそ 人生を変えてしまうような 出会い

なんとなく手に取った本の中に登場した一人の人物に憧れた、一人であることも忘れ そのお方の伝説を読み耽り 読み終わった後本を抱き締め呆然とし、そしてまた読み返した

『孤独の魔女レグルス』


それはクレアにとって希望でありヒーローだった、独りを物ともせずに戦い英雄となり、孤独の名を輝かしい栄華で彩った 伝説の魔女…

いつも本と共に生き、友と呼べる人間など誰もいない 孤独なクレアは、目を輝かせた…クレアにとって呪詛でしかなかった『孤独』の二文字に怯える必要がないと、本の中から魔女レグルス様が語りかけてきているようで、クレアはこの時から一人でいる事が気にならなくなり

ますます、魔女レグルス様に傾倒していくことになる……


「ああ、レグルス様レグルス様…!」

毎日のように魔女レグルス様が載っている本を探し読み耽った、時に絵画を集め 時に物品を集め、とにかく魔女レグルス様を身近に感じたかった、魔女レグルス様を身近に感じている間だけ…私はどんな苦しみも忘れることができたからだ


朝も晩もなく、魔女レグルス様の事だけを考えて生き続けた…、いつしか目を閉じるだけでイマジナリーレグルス様が私に向けて語りかけてくる姿が見えるくらいには、魔女レグルス様を極めに極め極め抜いた…、あ ほら…今も魔女レグルス様の吐息を感じる…




「あああぁぁぁああ!、この絵画すごぉぉぉおお!、がっごいいいよぉぉぉ、魔女レグルス様ぁぁああああ!」

今日もお父様が仕入れてきた美術品の中から拝借した魔女レグルス様の伝説の1幕を描いた絵画を前に、のたうち回る 気が狂ったように見えるが、それもこれも魔女レグルス様がかっこいいのが悪いのだ、あ 嘘です魔女レグルス様は悪くありません

これは『厄災を払う孤独の魔女』という名前の作品らしいのだが、見てくれ ここまで魔女レグルス様の素晴らしさを描いた作品はなかなか見ることができない、魔女レグルス様に対する深い認識と愛がなければこの作品はかけないはずだ

「かっこいい…かっこいいよう魔女レグルス様、こっち見て いや見ないで、私のような矮小な存在を目に入れないで…」

「く クレア?、今日も絵に語りかけているのかい?」

自室で悶えのたうち回るクレアの声を聞きつけ恐る恐る扉を開けるのは、立派なおヒゲと立派なお腹が特徴的な大商人バルドール・ウィスクム…クレアの 私のお父様だ

「…いいえお父様、私が語りかけているのは絵にではなく 孤独の魔女レグルス様にです」

「そ…そうか、いや 実はねクレアが魔女が好きと言っていたから 、同じような歳の魔女好きの子を連れてきたんだが、どうだろう 一緒に話をしてみるのは一人で楽しむよりも楽しいかも知れないぞ」

「……お父様…」

お父様は よく私に友達がいないことを気にして、4~5年ほど前から同年代の子を紹介してくれるようになった…町娘とか田舎から引っ張ってきた子とか騎士の子貴族の子と、選り取り見取りの子達を次々連れてきて クレアの友達に仕立て上げようと頑張ってくれている

だが、無理だ… ここに寄ってくる連中は『大商人バルドールの娘』に会いにきてる、連中はみんな父親か母親に言われて私に取り入るように命令を受けて来ている奴らだと、幼い私でも分かる程にあからさまだった

私の家 ウィスクム家はそれだけ中央皇都で力を持つ商家だ、貴族だってバカに出来ないくらい大きい…だからこそみんな取り入ろうとする、それが嫌だった…

実際、ここに会いに来て 私の名前を覚えて帰って来た奴らは、私の名前すら覚えて帰らない…これでどう親しくなれと

でも、お父様の不甲斐ない娘を案ずる気持ちも分かる、…だから無碍には出来ない、だから今日も会うのだ 

「分かり…ました、会いに 行きますね」

「おお、会ってくれるか!よしよし、こちらにおいでクレア?」

そう言いながらお父様は私の手を引き部屋の外へ連れ出される、広大なウィスクム邸のど真ん中に存在する来賓用の部屋、いつもはお得意様の貴族とかが来るようなお部屋に身なりのいい少女が三人ほど座っている

一目で分かる、気にくわない…綺麗なおべべ着込んで、礼儀正しく座ってる奴がいいやつだった事がないからだ

「あら御機嫌よう、あなたがウィスクム家のご息女様?」

「可愛いですわね、流石ウィスクム家のご息女様」

「ええこんな方とお友達になれるなんて光栄です」

…ほらこれだ、私の名前は『ウィスクム家のご息女様』だと思ってやがる、いやまだ名乗ってないから仕方ないが、名乗っても同じだ みんな私の名前を呼ばない

「…こんにちわ、クレア・ウィスクムです」

立ち振る舞いから見てソコソコの貴族、アジメク中央皇都付近に結構な領地とか持ってたりするような偉いところの娘と見た

貴族は嫌いだ、みんな偉ぶっていて視線のどこかに見下した感情を感じるから、それでもお父様は私に貴族と仲良くなってほしいようだ、…ウィスクム家は貴族ではないが 貴族との強い繋がりで地位を確立して来た商人だ…、お父様だって四方八方の貴族様に取り入り大商人とまで呼ばれるようになったんだ

つまり、私が貴族の友達を作れるかどうかはウィスクム家の未来がかかっていると言ってもいい

「まぁ素敵、ウィスクム家の鋭敏な感性が現れた素晴らしい名前ですね」

何言ってもお前そう返したろう、いや悪いことではないが…こういう目に見えたおべんちゃらはどうにも好きになれん

「それで、お父様のバルドール様からご息女様は なんでも魔女様がお好き と聞き及びまして、我々も同じく魔女様を愛する者として今日はコレクションを持って参りました」

そう言いながら輝かしい笑顔とともに、テーブルの上にコトコトと物品を乗せていく彼女達の顔は 実に楽しそうだ、好き というのはどうやら本当らしいが

やったな…やってくれたな…予想できた結果だがマズいこれは、テーブルに乗せられた物品を見る限りこれは間違いなく

宗派が違う


「私 閃光の魔女様の大ファンでして!、勿論友愛の魔女様も大好きですが、閃光の魔女様自らが執筆したと言われる小説や 脚本を担当したと言われる演劇など、全て3回は見返していますわ!」

「私は争乱の魔女様です、あの強さ 圧倒的なまでの強さ!一撃で砦を粉砕しその余波で後ろの山まで吹き飛ばした逸話とか、派手なものが多いですから!」

「私はやはり友愛の魔女様です、アジメクに住まうものなら誰しもが崇めるべき絶対の存在、一度だけ廻癒祭にて国民の前に姿を現したスピカ様を偶然目にする事ができて…今でもあの美しいお姿が瞼に焼き付いております…ああ幸せ」

お父様は魔女が好きな人間を集めたかも知れないが、魔女と言っても八人いる …だから当然魔女好きにも8種類いる もっと区分を分ければ更に大量に種類がいる、本気で自分と好みが合致する人間など滅多にいない…

まぁ、どの魔女もすごい逸話が沢山残ってるし、憧れる気持ちはわかる だからそれは否定しない、でも、私が好きなのは閃光でも争乱でも友愛でも無い…彼女達が好きなのは分かるが、なんでいいのかは理解出来ないんだ

「ご息女様は 何がお好きなんですか?」

「わ…私は…」

来た、一番嫌な質問…ここで気を利かせて周りに合わせれば この一件は丸く収まる、私もジャンルは違えど魔女様を崇める者、この子達と話せるくらいの知識はある、みんなで和気藹々と話をして帰り際に交換日記の約束を取り付ける事ぐらい容易だろう

だが、私は魔女様に関して 嘘はつけない

「孤独の魔女レグルス様…」

「え……」

空気が止まる、別に魔女レグルス様が嫌われているわけではない、嫌われているのは魔女レグルス様が好きな人間の方だ

言ってしまえば孤独の魔女は八人の中で最もマイナーだ、文献も絵画も他の七人に比べると非常に少なく正確性を欠くものばかり、中には魔女は七人しかいないと思ってる者さえいるくらいには 目立たない、だから『あなたってなんの魔女が好き~?』と聞かれ 通ぶりたくてマイナーな孤独の魔女と答えるニワカが多いこと多いこと

そういうニワカに限って魔女の知識も半端にないから、魔女ファンからは疎まれる事もまた多い

だからこうだ、孤独の魔女が好き と答えるとみんな『ああ、こいつニワカだな』と冷たい目を向けられる、私はそんな半端者じゃないと弁明しても ニワカはみんなそういうと突っぱねられる

そして、それは今回も例に漏れず 

「あ…あぁ~そうでしたか、なるほど 詳しいんですねご息女様は」

「確かにいいわですわよねぇ、孤独の魔女様」

「う うんうん、なんか 魔女に詳しいって感じが出てて」

「…………」

は…腹立つぅ~っ!?、なんで私が恥かいたみたいな空気になっているんだよ!、私の魔女レグルス様への愛は本物なのに…誰も信じてくれない、ここで魔女レグルス様の逸話を全て語りきかせてもいいが そうなると逆にこいつらは引く、いや魔女様にそこまでの感情を抱くのは不敬では?なんて言葉が返ってくるのが思い浮かぶ

もう無理だ、友達になれない…私の方が受け付けない、きっとここにいる全員私と同じことを考えているだろう

「…別に、詳しいわけじゃないし、詳しくなりたいわけじゃない…ただ 愛してるだけ、一目 一目でいいからお会いしたいだけ」

「あ ああそうですか、なら捜索騎士団なんてよろしいんじゃないでしょうか、彼処は魔女レグルス様を探している人達の集まりですし もしかしたら魔女レグルス様に会えるかも知れませんし」

「会える?…」

……多分、嫌味のつもりだったんだろう、魔女オタクを自称するニワカ女に一言辛口な事言って困らせてやろうとか、そんな何も考えていない一言に 私は動かされた

「ええ、捜索騎士団は孤独の魔女様のためにあるような組織ですしお好きならば ぜひ訪ねてみてはどうでしょうか?」

「それがいいですね、もし孤独の魔女様の事が本当に好きならですけど」

「…………!」

席を立つ、そうだ!その手があった!会えるんだ!魔女レグルス様に!、憧れ続けたあの人に 私を救ってくれたあの人に!、そうだ!私の人生はこの為にあったんだ

天啓と言う名の雷に撃たれたクレアは慌てて席を立ち 何も告げずにその場から駆け去る、こうしちゃいられない、やれることは全てやらないと

「ああちょっと!?ご息女様!?、…行ってしまわれたわ なんだったのかしら?」

「どうせ魔女好きって言うのも 半端なものだったんでしょう」

「はぁ、やっぱり無理よ 引きこもりの娘と関係持つって 、あっちの方が最初から敵意ムンムンだったし 友達ができないんじゃなくて、作らないだけでしょ…それでその理由を相手に擦りつけてるだけって言う、最悪のタイプよ あれ」

貴族三人娘の言葉など耳に入らない、もっと彼女達とお話を…と制止する父の言葉など聞きもしない、部屋に戻り息を整える


騎士だ、騎士になるんだ…騎士になりさえすれば魔女レグルス様に会えるかもしれない


上手くいく保証はない、必ず会える保証もない…けど、夢みたいじゃないか 魔女レグルス様を探し続ける仕事なんて まるで私のための仕事のようだ、そうだ 捜索騎士になろう
その為ならば なんだってする

この瞬間、クレア・ウィスクムという少女の一生が定まったと言っても過言ではなかっただろう

……………………………………………………

「ふぅっ!はぁっ!…ちぇぇりおっ!」

その日から2年…10歳になったクレアは、庭で木剣を振るい、鍛錬を積んでいた

そう、あの日 騎士を目指したあの日から クレアはひたすら体を鍛えた 勉学を学んだ

騎士になるのに近道はない、あるのは努力の二文字からなる一本道だけ、なら努力しよう 出来る努力は全部しようと 一日も欠かす事なく鍛錬を続けた

「りょぁぁああ!ちぇぇぇりぉっっ!…はぁはぁ…やっぱり掛け声があると 剣のノリもいいなぁ」

それもこれも騎士になる為、魔女レグルス様に会う為 クレアは8歳から木剣を庭で振るっていた、剣を振り 勉強し 剣を振り 勉強し合間に魔女レグルス様に励ましてもらってからまた剣を振り勉強する、ひたすらストイックに 己を磨き上げる事だけに集中していた

「ふぅ…ふぅ、よしっ 大分 剣を振れるようになってきた…」

ウィスクム邸の庭のど真ん中、風に吹かれながら一休みするクレア…ここしばらくでこの腕も大分引き締まってきた、最初は体ごと振り回されていた木剣も今は まぁ見れる程度には振れている

魔女レグルス様に会うのなら、だらしない姿では会えないし…この程度ではまだ騎士にもなれない

「励んでいるな 、クレア」

「あ!お父様!」

庭の真ん中で休むクレアに、優しげに声をかけてくれるお父様…

クレアが父に騎士になりたいと話した時、驚いた事に父は反対しなかった 『今まで引きこもり世間に馴染めなかったお前が目標を持つのは喜ばしい事だ、ただし 25歳になったら我が家を継ぐか我が家を出るか 選びなさい』 そう言って父は私にこれ以上ないくらい協力してくれた

庭に訓練場を作ってくれた、鉄の重りを仕込んだ鍛錬用の木剣も買ってくれたし剣の型を教える講師も雇ってくれた、勉強だっていくつも教科書を買ってくれたし家庭教師も何人も雇ってくれた

お陰で、今まで引きこもり動いてこなかったクレアも 2年の間に立派な騎士見習いへと成長していった

「例の話だが…上手くいったぞ、士官学園への入学の件だ」

「本当ですか!ありがとうございます!お父様!」

どれだけこの日を待ちわびたか!

騎士になるには、士官学園へ入学しそこで数年学び 卒業試験をクリアし、騎士団側からお声がかかり始めて騎士になれる、友愛騎士団も捜索騎士団も同じだ まず士官学園に入学出来ないと話にならない

「だがいいのか?、入学試験からで…私の知り合いに口を聞けば、入学試験など受けずとも良いのだぞ」

「いいんですお父様、私の願いは学園への入学では無く 騎士になる事、入学試験さえクリア出来ない奴が 卒業試験なんて挑めるはずもありませんから」

「全くお前は真面目な奴だな…、だがいい 夢には誠実であれよ?クレア、夢を叶えても誠実でなければきっと後悔するからね」

「はい!お父様!、っと…体が休まったので また剣の鍛錬をしますね、この程度じゃきっとまだまだな筈ですから」

「ああ、励め励め 流石私の娘だ」

剣を振るい、来たる士官学園入学試験へ備える…今の自分がどの程度の実力か分からない、だからこそ全力を尽くす 

騎士になるんだ!魔女様に会うんだ!、その第一歩で躓いてなんかいられないんだ!



そして…訪れる入学試験当日


中央皇都の象徴 『友愛の白亜城』のお膝元に建てられたアジメク士官候補生訓練学園、年に一度 10歳から19歳までの若者を集め試験を行い合格した者だけが入学出来る、アジメク全土の憧れの的


そう…アジメク全土だ、世界の7分の1の領土を誇る超大国全土からこの日は騎士を志す若者が全て集まるのだ、その数は数万人にも登ると言われており その中から入学できるのはほんの2~30人、狭き門どころか針の穴の如き倍率の低さ

「……凄い人、緊張してくるなぁ」

そんな入学試験会場にクレアの姿もある、いや予想していたよりも人が多い 会場から溢れ街に人の海が広がる程の人間が集まっているのだ、入学希望者相手に商売しようと露店が並んですらいる

どうしよう後悔してきた、カッコつけないでお父様に裏口入学させて貰えばよかったかな、だって人の海の果てが見えないくらいいるこの人間の中から20人30人に選ばれることが出来るだろうか

「い いや不安になってちゃダメだよね、やるんだ 見ていてください魔女レグルス様」

科目は単純、教養を試す筆記試験と腕っ節を試す実技試験の二つ…今日までクレアはこの二つを只管目指して鍛えてきた、いける筈だ…いける…、魔女レグルス様 見ててください





…………………………………………………………

なんて…考えてから もう五年か…あっという間だったな…








「おい見ろよ、あのチビ…」

「ああ、ってあれクレア・ウィスクムか?」

木剣片手に歩けば男達から後ろ指を指される

「なにあれ教科書と木剣抱えて頑張ってますアピールかしら?」

「ねぇ?本当に卑しいわよね、そんなに騎士になりたいのかしら」

士官学校の訓練服を身に纏った女達に小馬鹿にされる

道行く人々が皆、彼女を クレアを指差し…馬鹿にする、いや少し違うな?この言葉は全て…

「でもしょうがないよ、だってクレアだよ?…聞いたでしょ?彼女 五年前の入学試験で……」


そう、五年前の入学試験で クレアが出した結果は…



『筆記・実技 全科目満点 入学試験一位突破者 クレア・ウィスクム』

わずか10歳にして入学試験を一位で通過した怪童、最後のチャンスと死に物狂いで襲いかかる19歳の試験参加者を木剣で13人叩きのめした伝説、史上6人目となる全教科満点突破者の天才、今現在 士官候補生の中で最も騎士 いや騎士団長に近い存在

それがクレア・ウィスクム…、全生徒の憧れと嫉妬の対象にして、このアジメク士官学園の廊下を肩で風を切り歩ける唯一の人物、それこそが彼女 クレアなのだ

「……くだらない」

自分の後ろ指を指す奴らを横目で見てため息をつく、この学園に入学してからずっとこの調子だ…

今思い出しても呆気ない試験だった とため息をつく…、いや これはクレアが逆にストイック過ぎたのだ、限界まで自分を追い込む生活を2年続けたクレアは既に、士官候補生の器にすら収まらない存在へと成長していた

あの日クレアは、自分にやれることは全てやったしやってきた 、その結果としてただ数万人の中から一番になった『だけ』、それなのになんでこんな風に言われなきゃならないのか理解できないのだ

「入学試験なんて所詮通過点じゃない…そこを一位通過だろうが最下位通過だろうが 関係ないのに」

クレアにとって入学試験もこの学園でさえも通過点に過ぎない 、が 彼ら他の生徒ははそんなのことも理解できないらしい

そんな奴ら いちいち取り合っても無駄だと、クレアは無視をして歩みを早める…壮麗な士官学園の廊下を抜けて、向かうのは剣術訓練所…騎士の命は剣術だ、今日はそれを鍛えるため実技訓練を受けに行くのだ、いや少し語弊があったな 今日『は』じゃない 今日『も』だった

「おはようございます」

人型の人形や 実技用の闘技場が完備された剣術訓練所へと足を踏み入れるクレア、入学時点で既に候補生をも上回る実力をつけていたクレアは 、慢心することなくこの士官学園でも己を高め続けていた

それも五年間ずっと、一度も休まずに…だからかクレアが訓練所に顔を出しただけで

「げぇっ!?本当に来たよ クレア・ウィスクムが…」

「これだから剣術訓練受けるのいやなんだよなぁ」

「聞いてる?、入学して早々 騎士を目指してた先輩ぶちのめした上に心を折って、候補生やめさせたらしいぜ?」

「聞いてる聞いてる、御前試合じゃ一人で20人まとめて相手して傷ひとつなかったらしいって…」

「天狗にならないように挑んだ教官も返り討ちにあったって…」

「もう既に騎士団から誘いが来てるとか…」


同じく剣術訓練を受けに来た生徒達が喚いてしまうほど、クレアの噂が四方八方から飛んでくる…いや、噂じゃないな 残念ながら全て事実だ 

いつまでも卒業試験をクリア出来ない先輩を木剣で叩きのめしたし、 城で行われた御前試合は雑魚しか相手がいなかったから結果的に傷ひとつ負わなかったし いきなり襲いかかってきた教官も普通に倒せた

みんな弱すぎる、こんなの努力してれば普通に出来ることなのに…


「今日も実戦訓練よろしくお願いします、私はいつでも準備できているので」

挨拶と共に木剣を抜くクレア、眉一つ動かさず 冷淡に構える彼女を見て恐怖しないものはいない、とはいえ実戦訓練の相手はローテーションで勝手に決まっている、逃げたくても逃げられないのだ

「きょ 今日の相手は俺だ、よろしく頼む」

既に8年士官学園に在籍する男の先輩候補生が、クレアの前で木剣を構える…剣の腕には覚えがある いや覚えがあった、この少女と会う前は 今ではそんな自信粉々に打ち砕かれている

「うむ、両者構えたな…では早速」

クレアの試合を取り仕切る強面の教官、そう 以前クレアにこっ酷くボコされた例の教官だ、ここでは教官として公平を振舞っているが内心はクレアが負けるところを切望している

が今回もそれは無理そうだ

「はじめッ!!」

「ちぇぇぇりおぉぉおぉっ!!!」

「え ちょっ!?」

教官が開始の合図を告げた瞬間…、男が反応するより更に早く行われるクレアの裂帛の踏み込み、…否 踏み込んだと気がついた瞬間には既に剣が振るわれているのだ

「は はえぇぇ!?く 来るな!」

「っっっ!!!!」

彼が防ごうと闇雲に剣を振るおうが、まるで無意味と言わんばかりに彼の剣を叩き落としながら踏み込みで相手の足の行き先を奪う…、ただただ速いだけではない、高速で動き回る敵の獲物を叩き落としながら同時に逃げ場を奪う繊細極まる攻撃…

これだ、これがクレアの強みだ 高速の戦いの中で 一切のミスをすることなく、堅実に敵の手を封じてから必殺の一撃を放つという一連の流れ、これを油断も慢心もなく瞬く間に組み立てる戦闘法、簡単に見えるが これで必勝の二文字を作り出すには血の滲むような鍛錬と実戦が必要だ


「っちぇりおぉっっ!!!」

「ごぶぶぁ!?」

防ぐ手立ても逃げる手も封じられた彼に、もはや抗う手もない、丸出しの腹へクレアの剛剣が叩きつけられる、もし彼の胴体を守る鎧がなければ今頃血反吐を吐いてのたうち回っていた頃だろう、いや手に持ったこれがもし刃のついた剣だったなら…いやこれはよそう

まぁ、鎧の上からでも 人を一人 気絶させるには十分すぎる威力であることに変わりはない

「す すげぇ、今の見えたか?…」

「踏み込んだところまでは、それ以降はさっぱり…」

「まるでクレアが近づいただけで あいつが吹き飛んだように見えた…」

泡を吹き倒れる彼に一瞥もくれぬまま、今の動きを反復するようにもう一度剣を振るうクレア…、ダメだ 今の攻撃は少々幼稚過ぎた…もっと慎重に かつ反撃を許さないよう大胆に行かねば

「…教官、終了の合図を それとも試合を続行して ここで寝ている先輩の頭を、木剣で叩き割ったほうがいいですか?」

「あ いや、そ そこまで!勝者クレア・ウィスクム」

クレアには教官でさえ逆らえない、強さこそが全てのこの学園では クレアこそが正義なのだ、もっともクレア自身はそんなものどうでもいいと思っているのだが


「やっぱり アレが天才って言うのかな」

「私たちとは出来が違うよね」

「…………」

天才か…、みんなすぐその言葉に逃げたがる 、この世になんでも最初から出来る天才なんて便利なものは存在しない、だがそれでも人類は二種類の人間に分けられるだろう

一つは 努力している人間を見てあれは天才だと拗ねる奴

二つ目は 努力している人間を見て自分も頑張れる奴

もし、天才と呼べるのは 少なくとも前者ではないのは明白、そして今私を見てコソコソと言葉を投げ交わしているこいつらはみんなまとめて前者だ…くだらない

「あーあ、あんな小さい頃から強いなんてずるいよなぁ」

コイツが街でナンパしている時私は剣術の訓練をしていた

「才能の壁って言うのはどうしようもないよね、才能のない私たちにはどうしようもないんだ……」

コイツが寮で寝ている時 私は寝る間も惜しんで勉強していた

「俺たちが騎士になる頃にはきっとクレアはとっくの昔に騎士になってすげぇ出世してるんだろうな、今からあんな歳下に顎で使われる未来が待ってると思うと気が重いよ」

コイツが友達と遊んでいる間に戦術と剣の型を学び 己を鍛え抜いていた

結局は数 結局は時間、努力の数 努力の時間が物を言う…この世に生まれてから今日この日まで努力出来ない時間と言うものは1秒たりとも存在しない、なら 努力すれば良い 鍛えればいいなのにそうしない 、だから差がつくのだ

「ふぅ…」

無駄だ、時間の無駄 雑魚弾き飛ばしても何も得られない…これならまだ森で素振りしてた方が有益だろう、そう愛用の木剣をしまい 黙ってその場を立ち去ろうとしたクレアに、けたたましい声が突き刺さる


「クレア・ウィスクム!待ちなさい!」

「んぁ?」


呼び止めたのだ、この私を恐れもせず…それは桃色がかったウェーブの髪を振り 偉そうに胸を張るひとりの少女…いや、少女とは言うが多分クレアと同じ歳くらいの子だ 珍しい、しかし知らない子だな 、なんで私の名前知ってるんだろう

「私の顔を 忘れたわけではないでしょう、次の貴方の訓練相手は私です…」

「いや普通に知らないんだけど、知ってる前提で話さないでもらえる?」

忘れたも何も覚えた記憶もないんだが、なんだろう…思い込みの激しい子なのかな、私に憧れるばかりに妄想の中で私と話してたとか …悲しい奴め

「め メロウリース!、メロウリース・ナーシセスです!貴方の同期の!、貴方の次の第2位として入学した天才騎士候補の!メロウリース!」

「メロウリース?聞いたことないなぁ、私他の生徒にあんまり興味ないし 、というか天才騎士候補って自分で名乗るもんじゃないでしょ」

「べ 別に私から言い出したわけでは…っ!、今日まで私と運良く戦わなかっただけで 随分偉そうですね、ですが 今日でその余裕をぶっ潰してあげるます!」

そう威勢良く吠え 木剣を構えるメロウリース、吠えるだけはありその構えに隙はない…少なくともさっきの先輩、いや この士官学園で戦った誰よりも実力がある事は見て取れる、まだこんなのが残っていたのか 

「別にいいよ、私が相手してあげます」

「偉そうに…!、今日までこの日を待ち続けていましたよ…入学試験で私を唯一超えたあなたに勝つ この瞬間を…」

牙を剥き、剣を構えるその姿は 差し詰め二頭の獣とでも言おうばかりの苛烈さを醸し出す、クレアを小馬鹿にするように噂話をしていた生徒達も押し黙る

分かるからだ 今から目の前で行われる戦いはこの士官学園だけで無い…未来に語られる名騎士同士の、稀代の決闘となるだろう事を


「ほら教官、開始の合図!」

「あ ああ!って勝手に話を進めるな!、ったく…はじめ!」

クレアの怒声が教官を突く、鞭で打たれた馬の如く 教官のその手は振り下ろされ、両者の間に戦いの火蓋が落とされる…

なんて、やることは一緒だ 秒速で踏み込んで神速で潰す 、単純かつ明快であり 必勝にして必殺のルーティン、何千何万と繰り返した疾風の踏み込みは瞬く間にメロウリースとの距離を詰め肉薄し…

「ふふ!来ましたね!」


クレア・ウィスクムの踏み込みは、はっきり言えば候補生クラスでは到底対処できるスピードでは無い、神速で身を屈め突っ込んでくるクレアを前に相手はクレアが消えたような錯覚を覚える程に早い…ならどうするべきかメロウリースは考え続けた

この五年間欠かす事なくクレアの模擬戦を観察し続け至った答えは、待ち伏せだ

「チッ!、口だけじゃないようね!」

「当たり前です!」

歓声が上がる、クレアの一撃を防いだ者を初めて見たからだ

メロウリースの剣撃は見事 、クレア相手に先手を取り 肉薄するクレアを弾き飛ばしたのだ、メロウリースは確かに速度では劣っている そこは覆しようがない、だからこそ策を用いた 、クレアのスピードは候補生クラスには手に余る…それはクレア自身にも言える事なのだから

クレアは一撃必殺に拘るあまり、最初の踏み込みの際 攻撃以外の思考を削ぎ落としている、その為 踏み込んだ先に木剣を挟み込まれればいとも容易くたたらを踏み、自慢の速度は死に絶える、後に残るのは出鼻を挫かれ敵の目の前で無様を晒すクレア・ウィスクムのみ、こうなればペースはメロウリースが握る

「格下相手ばかりで油断しましたか!あははは!貴方が防戦一方とは!いいものが見れましたよ!」

「…確かに、油断があったかもね」

メロウリースの怒涛の連撃に防戦を強いられるクレア、実力でクレアは優っているが 今現在この戦いに限っては勢いは相手にある、どれだけ実力を秘めていても それを発揮できない状況ではこうも動き辛いものかと歯噛みしつつも 、的確に身に降りかかる木剣を打ち払う

メロウリースの技量は悪く無い、一撃一撃を惰性で打っていない どれも必殺の覚悟で打ち据えてくる、正に激浪怒濤の連撃だ、だからこそ、クレアの目も勝機を見据えて輝く

「あと少しなんだ、あと少しでクレアを!なのに…、あと少しが遠い!」

「ッと!」

圧倒的速度で打ち続けられるメロウリースの連撃、この連続攻撃は彼女に勢いがあるからこそのもの、なれば 変調を加え乱せばよいのだ!

「ッッ!?消えた!?」

倒れこむが勢いで身を屈める、最初の踏み込み以上の超低空を這うように体を伏せればメロウリースの木剣は空を切る、行き過ぎた勢いは隙を生む メロウリースの攻撃は速かったが単調過ぎたのだ、あんなもの ただの数撃で見切れる

少し視線を上にやれば、クレアを見失い目を白黒させるメロウリースの無防備な顎先が見える

「消え…い いや!下か!?」

遅い、気づくのが数瞬遅かった、既にクレアの鍛え上げられた腿はバネのようにギリギリと力を込めて…その衝撃を上へ目掛けて打ち放とうとしてる間際なのだから

「ちぇぇぇりおおっっっ!!!」

「っぐぶぅっっ!?」

そして一閃、超低空から打ち上げるように弧を描いたクレアの一撃が的確にメロウリースの顎先を撃ち抜く
 
到底耐えられるものではない、いくら覚悟や気合が十分でも顎先を撃ち抜かれれば脳は揺れるし視界は歪む、足元から突き上げられる一撃に メロウリースの小さな体は容易く宙へ浮かび上がり、一回転し地面に叩きつけられる…今自分は仰向けなのかうつ伏せなのか分からない程に混濁した意識の中、深い敗北感だけが体を内側から蝕むのを感じる

負けた…負けたのか?あれだけ対策をして 訓練して イメージトレーニングを積んだのに、たった一撃で …

「っ、ふぅー…勝負あったわね、顎 砕けてるでしょうから直ぐに保健室行って治癒魔術かけてもらいなさい、それじゃあね」

メロウリースにかけられた言葉はそれだけだ、たったそれだけ メロウリースの五年間を賭けた下克上は、簡単に打ち砕かれ クレアの歩みを止めることさえ出来なかった…

メロウリースにとってこの戦いは一世一代の大勝負であると共に 足掻きだった、ライバルだと思っているのは自分だけではなくクレアもきっと私を見てくれていると 、お互いがお互いを見ているライバルなのだと そう認めたかったし認めさせたかった

なのに現実はこれだ、彼女は私を倒したその事実に目もくれず訓練場を去っていく、悔しい 叫び散らして暴れたいほど悔しいのに、指一本動かず 激情に燃えるこの意識さえ、闇に飲まれ視界が暗くなる…悔しい悔しい

そう、悔しさに塗れてメロウリースは意識を失う、悲しいかな もし彼女がもう少しだけ足掻き意識を保っていたならば

「あんたのおかげで勉強になった、今までで一番いい戦いだったわ、ありがと」

去り際に残したクレアの言葉で、些かながらも救われていただろうに……


数日後、意識を取り戻したメロウリースが聞いた第一報は クレア・ウィスクムが歴代最年少で士官学園を卒業した という報告であり、それを聞き メロウリースは夜まで泣き続けた

置いていかれた事実と やはり自分は眼中に無かったんだという 悲しい現実に


…………………………………………………………


メロウリースが目を覚ます1日前、クレアは士官学園の理事長室へと足を運んでいた、つい先日 歴代最年少で卒業試験をクリアしたクレアは、理事長から呼び出されていたのだ

「ははははは、いやぁクレア君のような優秀な生徒を輩出できて 私も鼻が高いよ」


目の前に座る大男を前に辟易する、理事長…この学園を統べるアルフレッド・デルフィニウム、友愛騎士だったエリート中のエリートだ …まぁ、今では全ての肩書に元がつくおじさんでしかないのだが、今ではクレアのような小娘にもおべっかを使うほどに落ちぶれている

「うっす」

目の前で上機嫌に笑うアルフレッド理事長に適当に言葉を返すクレア、別に目の前の理事長に教えてもらった事など一つもないが、彼にとってはクレアが優秀であればあるほど都合がいい

何せ、優秀な騎士を輩出すればするほど 理事長の手柄になるからだ

自分の教え子が友愛の魔女スピカ様を助ければ助けるほど 自分のアジメクでの立場はより頑強なものになる、それにクレアは史上6人目の全科目満点合格者にして歴代最年少卒業者だ、入学から卒業まで 偉業に塗れているのだ 彼にとってこれほど嬉しいことはないだろう

「いやいや、実はね 以前行った御前試合での一件から 君には友愛騎士団からスカウトが来ていたんだよ」

騎士団からのスカウト、それは全候補生の憧れにして目標だ

士官学園を卒業しても必ずしも騎士になれるわけではない、卒業しても騎士団から声がかからなければ そのまま一般の兵卒になる、兵卒になってからも騎士になるチャンスはあるが…その例はあまり聞かない

どの道、騎士になれるのはほんの一握り いや一つまみと言っていいほど、故にスカウトとは大変光栄なことなのだ、クレア自身それは理解している…だが

「クレア君の実力なら、瞬く間に近衛隊に入れるだろうし 二十歳になるまでには隊長…いやもしかしたら副団長団長まで狙えるかも知れん、学園を去ってからも精進を続けるんだぞ」

「理事長、私友愛騎士団には入りません 私捜索騎士団に入ります、あそこはスカウトなしでも入れましたよね 、そこに行きます」

「君をスカウトしたのはデイビッド副団長だ、副団長から直々に声がかかるなん…て………は?え?…え?」


絶句する、開いた口が塞がらない 一瞬クレアの言った事を理解出来ず 数秒が何を言ったか、やっと飲み込み それと同時に慌てて立ち上がり怒鳴り声をあげる

「な 何を言っているんだクレア・ウィスクム!、そんなもの認められるわけがないだろう!、よりにもよって捜索騎士団だと!?、あそこは落ちこぼれの騎士や戦力外通告を食らった兵卒が行き着く、謂わば左遷先!流刑地と言い換えてもいい!、そんなところに行きたいだと!?ふざけるな!」

「ふざけてません、本気です」

「分かってるのか!、捜索騎士団になれば いるかどうかも分からぬ魔女レグルス捜索に 一生を費やすことになるのだぞ!、市場に潜入せねばならんから騎士と名乗ることも許されんし剣も振るえない、騎士でありながら騎士としての権限全てを剥奪されるに等しいのだぞ!」

唾を撒き散らし怒鳴り散らす理事長に思わずため息を漏らす

概ね教官の語った通りの物だ、魔女レグルス様を警戒させない為騎士と名乗る事は許されず 騎士として受けることができる恩恵 権限も一切無し、おまけに皇都から遥かに離れた辺境に送り込まれ一般人として潜入し、孤独の魔女様の足跡をなんとなく探し 、そして騎士として剣を振るう事なく、誰に名を知られることもなく 一生を終える 、それが捜索騎士団

自分からなりたがる奴はいない、だって 騎士としての権限も恩恵もなく 騎士と名乗ることも許されない、事実上の騎士としての立場剥奪に近いのだから

だとしても…だとしてもだ!


「追放だろうが流刑だろうが関係ありません!私は 公然と魔女レグルス様を探すために力をつけたんです!、護国にも友愛の魔女様にも 興味がありません!、例え一生騎士と名乗ることができなくとも!私は 魔女レグルス様に会える可能性が砂の一粒分でも多い方に進みたいんです!」

「友愛の副団長が お前に期待していると言っているのだぞ!、魔女レグルスなんて御伽噺など どうでもよかろう!」

「魔女レグルス『様』です!様をつけてください!、勝手に期待した顔も知らない奴なんかよりも、魔女レグルス様の方が大切です!、もし 捜索騎士団への入団が許されないのなら!こんな士官学園になんかもう居る意味がありません!、即刻荷物まとめて自力で旅に出ます!」

「お前だって魔女レグルスの顔を知らんだろう!勝手に出て行くなど許さん!お前を育てたのは国の為!私利私欲の為に騎士にならんなど言語道断!」

「あなたに育てられた覚えはありません!、あと!魔女!レグルス『様』!です!次呼び捨てにしたり引き千切りますよ!」

「このぉ!」

言っても聞かぬクレアを相手についに堪忍袋の尾が切れたのか、拳を握りしめて鬼の形相で睨みつけてくる、アルフレッド理事長も元は騎士だった男 士官学園を任される程の実力者だったし、かの英雄バルトフリートと同期だと自慢げによく語っていた、まぁもう10年くらい前の話だがな、相手が拳を握ったなら たとえ相手が誰であれ答えるように拳骨構えるのがクレアの流儀だ

「やりますか?、アルフレッド理事長?喧嘩なら買いますよ…ただ、私はもう士官学園を卒業した身 、謂わばもう候補生じゃありません、もう学園に縛られる理由もありませんよね、あと負けるつもりもありません」

「ぐぬぅ…コイツ、お前ほどの逸材なら 歴史に名を残す大団長になれるのだぞ」

「歴史に名を残す大団長になりたかったのはアルフレッド理事長でしょ、私に押し付けないでください」

青筋を浮かべ 岩のような顔を歪ませる、クレアの言うことは道理に沿っている ただ非合理極まりないだけで、認めるわけにはいかない いかないが

「好きにしろ、もう知らん…」

「最初からするつもりでしたよ、それじゃあ さようなら、もう二度と会うことはないでしょうね!」

最終的にアルフレッドが折れる形で話は終わった、これはクレアなりの礼儀でもあった 何も言わずに捜索騎士団に行っても良かったが、それでは一応世話になった学園に失礼だと思ったからだ

捨て台詞を吐き理事長室を後にし、部屋の外に置いてあった荷物を持つ…この学園に持ってきていたものは魔女レグルス様の本と木剣だけ 、これだけ持って捜索騎士団に直行するつもりだ

学園には悪いが、私の人生は私のもの 夢を追うと決めたのだから、もう誰も私を止められない

私は必ず 魔女レグルス様に会ってみせる!





次の日、アジメク士官学園に衝撃が走った、あのクレア・ウィスクムが歴代最年少で卒業した事と その足で捜索騎士団へ所属し 皇都を去ったと

やはり天才の考えることは分からないと首を振るう者 、これで歳下にコキつかをれることはなくなったと胸を撫で下ろす者、友愛の騎士にならないとは存外馬鹿な奴だったのかなと笑う者 

皆、往々にして様々な憶測が流れるが、皆が皆 『もう二度とクレアと会うことはないだろう』 そんな認識は唯一共通していた


学園を皇都を去ったクレアなど放っておいて、自分達は自分達の道を 友愛の騎士になる道を行こうと、また鍛錬に戻っていくのであった

………………………………………………

…皇都士官学園での一幕、あれからどのくらい経ったかな?もはや懐かしささえ感じるその記憶を読み解きながらクレアは今、馬車に揺られている  皇都から離れて そうだ三週間だ、三週間私は馬車に揺られ続けてて…


「…まだ着かないんですかぁそのムルク村ってのに!、辺境に行くとは聞いてましたけど!もう馬車で二、三週間経ってんですけど!ちょっとぉっ!」

「そう言われてもねぇ、皇都からアニクス領への旅となると これでも近道してる方なんだよ?」

皇都で偶然見つけた行商人の馬車に乗り合わせることでなんとか同行させてもらっているが、遠い!ひたすら遠い!ムルク村!どこまで辺境なんだっ!?


クレアはあれから、捜索騎士団本部へ向かい 正式に捜索騎士として活動することになった…いや、捜索騎士団 思ったより寂れた所だった、全体的に活気がなく『魔女様なんか見つけられるわけない』なんて諦念が全身から滲み出てる連中がウヨウヨいたよ

私が所属しますと言った時は『あの秀才クレア・ウィスクムが?正気か?病院行くか?』なんて五回ぐらい聞かれもしたし、あそこにいる連中は皆 自分が左遷された落ち込み腐ってる連中しかいなかった、あれでは何千年経っても魔女様は見つけられないだろう

そこで捜索騎士団の団長…名前はなんだったかな?『エイがブラジャーでハムがどうたら』みたいな名前だったか、ともあれ やつれて疲れ切った男だったのは覚えてる、それと話した結果私は辺境のムルク村という村へ行くことになった

ムルク村周辺のアニクス領を管理している…えーっと 、領主エドヴィンという人だったか?その人のメイドとしてアニクス領に潜入することになった、ムルク村周辺に魔女レグルス様がいないか 探して回るらしい…潜入期間は未定 もしかしたら一生かも

お父様との約束の25歳までに見つけられなければ …お父様に連絡して約束を守れなさそうな事を伝えないと、なんて思ってたら即日出立 そして今に至るスピード展開だ

「ぁーあ、しかしメイドかぁ いや分かってはいたけど、まさか騎士の勉強した結果メイドになるなんてなぁ…私お茶も淹れた事ないけど大丈夫かな」

正直不安だ、アニクス領の領主様が雇っていた先代メイドが引退したらしく、私はその先代メイドの紹介で代わりにメイドになる という設定らしい、当然フェイクの架空の設定 私は先代メイドに会ったことすらないが、…領主様の方にも嘘がバレると色々マズイらしい

つまり私は本当にメイドとして生きることになりそうなのだ、でも 折角ならどこの誰かも知らないオヤジのメイドになるくらいなら、魔女レグルス様のメイドになりたかったなぁ

『クレア、君の淹れる紅茶はいつも美味しいね』

なんて言われちゃったりしてぇっ!?や やべぇっ!?興奮してきた、ああ!レグルス様!そんな!魔女レグルス様のお洋服を洗濯するなんて!?

「こ こここここ、これは魔女レグルス様の し しし したぎぃっ!?ぐほぉっ!?」

「ど どうしたんだいお嬢ちゃん!」

「いえ、なんでもありません 大丈夫です」

やべぇ、行商人のオッチャンに見られてたか まぁこのおっちゃんとももう会うこともないだろうから、恥ずかしい所見られても別にいいんだけどさ、馬車に寝転がりながら空を見る…

私と同じ空を、魔女レグルス様も見ているはずなんだ…この大地が続く先のどこかに魔女レグルス様もいるはずなんだ、死んでも見つけて会いにいく…つもりだけどさぁ!


「私 ちょっぴり自信なくなってきました、ああ 領主様優しい人だといいなぁ」


強がりだけじゃあ人生なんともなんねぇんだなと 寝返りを打つ、せめて 楽しいメイド生活である事を祈って眠りに…

「おいお嬢ちゃん!見えてきたぞ!ムルク村さ!」

「はぇ?…」

行商人のオッチャンの声で起き上がり、慌てて馬車から乗り出し周囲を確認すれば長閑な農村が見えてくる、規模は…まぁ想像していたより大きいが皇都に比べればまるで原始人の集落と変わりないな

「こんなところでやっていけるのかなぁ、私…」

いや、やっていくしかない!、私頑張るんで 見ててください魔女レグルス様、それで出来たらでいいんで私の前に現れてくださいね!












……………………………………………………



「あの、デイビット副団長…よかったんですか?、クレア・ウィスクムをみすみす逃してしまって」

友愛騎士団本部…友愛の魔女 直々の組織だけあり、建物一つ 調度品一つとっても最上級の品、輝かんばかりの居室の最中、側近の騎士の報告を受け 副団長は浅く笑う

「んん?構わん構わん、寧ろ 俺の誘いに乗ってホイホイ騎士団に来るようじゃ 底が知れたってもんだ、我を通してこそ行ける高みがある…だから騎士団に来ないのはいい、いいにはいいがよ…いやまさかなぁ」

紫髪を後ろで束ねた刃のように鋭い目をしたの伊達男…、騎士に求められる品行方正さは一抹も感じられない、粗暴な笑みと不敵な声と共に 音を立て机に足を乗せる

名は副団長 デイビット・アガパンサス、別名 紫電のデイビット…雷光の如き剣撃と乱れ舞う紫の髪から付けられたその異名に違わぬ強さをアジメクに轟かせる、実力派の騎士として知られる伊達男が今ゆっくりと顔を手で覆い

「よりにもよって捜索騎士団行っちゃったかぁ~そこまで読めなかったなぁ~、何考えてんだよぉクレア・ウィスクム、マジで人生棒に振る気か?そこまでバカな子にゃ見えなかったんだけどな~!」

嘆く…、以前 学園を視察した時一回り年上の先輩を涼しい顔でバタバタと薙ぎ倒しそのままトレーニングに移行したクレアのあの姿に、デイビットは未来を感じた…

いや違う 感じたのは『絶対的な信念』、何があろうと決して折れぬ信念をクレアの目から感じたんだ、信念などと馬鹿にする者もいるが、鋼の如き心とは時に天賦の才さえ凌駕するのを 俺は、いやこの世で強者と呼ばれる者はみんな知っている

だから、俺はクレアを騎士団へ誘った…アイツならきっと デッカい女になってくれると思ってたんだよ!

だけど、その信念が悪い方向に働いた…まさか捜索騎士団に入って 辺境に飛んでしまうとは

「あぁぁぁぁぁ!、デカい種を逃したなぁ!絶対すげぇ奴になると思ってたんだけどぉ!」 

「やはり、辺境から連れ戻しますか? 副団長」

「いやダメだ、ああいう信念だけで動いてる奴はテコでも考えを変えない、連れ戻しても直ぐに俺たちのところから抜け出して、どっかに消えちまうのは目に見えている」

「なら、騎士団長も交え 本格的に勧誘しては…、団長が入れば クレア・ウィスクムも納得するような着地点を引き出せるのでは」

「それもダメだ、いや アイツのことを信用してないわけじゃないけどさ、…ほら 最近魔術導皇様の体調が優れないだろう、幼馴染のアイツとしては気が気じゃないらしくてな…毎日のように見舞いに行って 毎日のように治癒魔術師引っ張ってきて 忙しそうにしてるしよ、今はほっといてやろうぜ」


だから、クレア・ウィスクムが皇都に戻ってくるには 魔女レグルスの発見が大前提だが…無理だろ、いくらクレアが凄いっても流石に八千年行方不明の魔女を見つけるなんて大偉業 、どう考えても無理だ

クレアはもう、皇都に戻ってくることはないだろうな


「おいーすっ!、デイビッド副団長ーっ!元気元気ぃ?」

「お前ほど元気じゃねぇよナタリア」

厳かな副団長室の扉を蹴破り入ってくるのは、騎士団専属の治癒魔術師のナタリアだ…だらけた格好にいい加減な態度、いや これでも腕はとてつもなく良いんだ…俺が知る限りアジメクでも10本の指に入る程の腕前、つまり 世界でもトップクラスの治癒術師を名乗っても良いほどだ

「ほんとだ、顎が全然割れてねえや」

「いや顎は関係ないだろうが!、いつも通りプリティに割れてんだろう?」

「ちなみに私も元気じゃない、…ヴェルト団長が元気じゃないから」

ヴェルト 俺達友愛騎士団を率いる無敵の騎士団長サマにして、今俺達の悩みのタネでもある、いつも咲き誇る花ように笑ってるアイツが 最近ではげっそりとやつれてんだから心配もする

別に体の心配じゃねぇ、あんな具合で騎士団長なんか務まるのかねぇ 、やる気がねぇなら俺に騎士団長の座を譲れば良いのによ

「ヴェルト?…なんかあったのか?」

「…魔術導皇様の容態が本格的にヤバい、もう限界かも知れん…、あと数ヶ月もてば良い方かも」

「マジかよ、まだ若いのに…病気なんだろ?治せないのか?」

「治せりゃとっくに治してるよ、不治の病いってのは 世の中たくさんあるもんでね、少なくともこの医療大国のアジメクでも治療法が見つからないなら 、それはもう…治療法がないってことなのさ」

やるせねぇな…この間、魔術導皇様の奥方も事故で身罷られたばかり…その上魔術導皇様自身も亡くなられるとは、まだ幼いデティ様が不憫でならねぇ

「それで元気が無いってか、まぁ言っちまえばヴェルトにとって魔術導皇様は全てだからな、魔術導皇様を守るために騎士になったのに…病気が相手じゃ守れねぇからな」

「うん、ヴェルト団長 かなり思いつめた顔してたから、近々魔女スピカ様相手に直訴しにいくかも、魔女様の力で治してくださいって」

魔女スピカ様を頼るのか、…微妙な所だな 確かに魔女スピカ様は治癒魔術の開祖であり死んでいなければどんな人間でも治せると言われる伝説の治癒術師だ、アジメクのどの治癒術師よりも スピカ様を頼る方が確実だ…が

「騎士団長とは言え、一介の騎士が魔女様に頼み事など 越権行為も甚だしい、下手をすれば魔女様の機嫌を損ねて処刑もあり得るぞ…」

「それにねぇ、スピカ様だって そこまで残酷な人じゃないと思いますよう?あたし、きっとこの国のどの治癒術師より先に魔術導皇様の治療に当たってたと思う、…いやともすれば彼が今日この日まで生きていられたのは スピカ様のお陰でしょうね」

…その上で、魔術導皇様がこれ以上生きられぬというのなら…それはもうスピカ様でも…、という事なのだろうな

「やるせねぇったらねぇぜ本当に…、ヴェルト 頼むから変な気は起こさないでくれよ」

「変な気って?」

「…わかんねぇけどさ、ヴェルトはここまで信念で上り詰めたやつだ 思い切りだけはいい…ないとは思うがもし、魔術導皇様にもしものことがあった時 その怒りと無念が魔女様の方を向いた時、 何をしでかすか分からん」

もし 、もしヴェルトが不遜にも魔女様に盾突き言い寄る事があれば、俺たちはアイツを斬らなきゃなんねぇ、…ヴェルト お前そんな馬鹿じゃねぇよな

魔術導皇も病に倒れ肝心の騎士団長もあの調子、本当に アジメクはどうなっちまうんだろうか…不安だよ
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